第27話 法皇の依頼
その日、屋敷にいたユイルは、急ぎ参内するよう使者から促され、騎士の礼服を着て法皇宮殿に向かった。背中には、二つの剣がある。ユイルは特権として、御前での帯刀を許されているのである。
大理石の列柱の間を抜け、ユイルは謁見の間に入った。
玉座は空だったが、背後のルーマンの国旗がユイルを出迎えた。
跪いて待っていると、法皇レオ三世が豪奢な衣装を揺らして登場し、玉座に腰をおろした。
「よく来たな、ユイル。息災か」
「法皇猊下のご厚情を持ちまして」
「実はな、ユイル。そなたに頼みたいことがあるのだ」
「何なりと」
そしてレオ三世は奇妙な依頼をした。
・・・ルーマ市外、およそ馬で三日の距離に、古代に築かれた地下迷宮がある。
その迷宮の主は、牛頭人身の化け物で、ミノタウロスと呼ばれている。
ミノタウロスは人間を喰らって生きている。
ミノタウロスを異形の神と奉じる邪教の一団が、密かに生贄を地下迷宮に送り届けているのだ。
これらのことが、邪教のアジトが偶然摘発されたことから判明した。
ルーマン正教の正義からして、こんな化け物を放置しておくわけにはいかない。
ミノタウロスを退治し、その巨体は難しいであろうから、牛頭に生える二本の角を持ち帰れ。
レオ三世の依頼を要約すると、以上であった。
依頼とは言っているが、法皇の命令である以上、これは勅命だった。オカルトめいているので、表立って勅命とは言い出せず、言葉を選んでいるに過ぎない。
ユイルがただ一人、呼びつけられたというのも、話のややこしさを物語っていた。
法皇が言葉を選ぶ以上、ユイルも気を使った。
「ご依頼、確かに承りました」
深く一礼して、拝命する。
どうやら、ほぼ一年ぶりに、パーティーを編成することになりそうだった。
自宅に戻ると、ユイルは新たな冒険の準備に着手した。
まずは、パーティーの構成を検討する。。
前衛は、ユイル(ナイト)とラーム(アニマル・マスター)+猛獣二頭。
中衛は、カテリーナ(プリーステス)。
後衛は、レオンハルト(ウィザード)、そして──。
ユイルは、腰に手を当てて胸を反らせ、自己主張しているリィナに聞いた。
「リィナ、お前、本当についてくる気か?」
「当然でしょ。レオン兄やラームさんが良くて、あたしが駄目だなんてずるいじゃない」
「ずるいとか、そういう問題じゃないんだがなあ・・・」
ユイルはぼやいた。
冒険には大きな危険が伴う。できれば、リィナは連れて行きたくない。しかし、彼女がバードになるべく努力してきたことを、ユイルは知っている。何より、リィナ本人が行く気満々だった。
バードが加わることで、パーティーの厚みが増すのも事実だ。今回の敵はモンスター。前回の盗賊より手強いことが予想される。味方の層を厚くしたいのは山々だった。
「・・・仕方ない。できるだけ、後ろにいるんだぞ。絶対に前線に出てくるなよ」
「やったー! ありがとう、ユイル兄!」
リィナは喜色満面でユイルに抱きついた。昔から、義妹には甘いユイルだった。
リィナの参戦が決まると、ユイルは市場で彼女の馬を探した。リィナが乗るのにちょうどいい大きさの芦毛の馬が見つかった。
新たに得た愛馬にまたがってはしゃぐリィナを見て、ユイルも嬉しい気持ちになっていた。
屋敷に戻り、水筒、乾パンや乾し肉などの保存食、毛布など携帯用寝具を揃えたところで、愛用の白馬に乗ったカテリーナが来訪した。メイスにシールド、プリーステスとしての完全装備である。更に今回は飛び道具として、ショートボウ(短弓)を持参していた。これならば、敵と近接して戦うことなく、中衛から前線の敵を攻撃することができる。
カテリーナはこの日ユイル邸に宿泊し、明朝、ユイルたちと一緒に冒険の旅に出立することになった。
ユイルたちは屋敷の居間で暖炉を囲み、夜遅くまで今回の冒険の計画を語り合ったのだった。




