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第26話 若者たち

 コロッセオでの死闘を機に、黒髪の騎士・ユイルの名は、ルーマ市内に轟き渡った。

 盗賊の頭目を斬り伏せ、連勝の大男を殴り倒した、十五歳の若き英雄。

 少し長めの黒髪と、意志的な黒い瞳。端整と言って良い顔立ちで、上は貴族の令嬢から、下は小間使いの少女まで、多くの女性がその魅力の虜になった。

 ユイルは、父の形見の剣と、騎士への復位と共に返却されたデュランダルを背に、宮殿警護の任務に復帰した。

 彼が律動的な歩調で宮殿内を闊歩すると、そこここの木陰や物陰で、若い女性たちが嘆息と共に彼の噂話をした。

 自分が噂の渦中にいることを、ユイル自身は知らなかった。そういった男女の機微に関して、全く疎いユイルなのである。

 今まで生きるのに精一杯で、恋をする暇などなかったのだ。

 そんな彼が、恋に近い感情を持っている女性が、宮殿内にいた。法皇の妹君、カテリーナである。

 流れるような金色の髪、サファイアのような青い瞳、名工の彫像よりも美しいその容姿は、見る者の目を惹きつけてやまない。美しいだけでなく、心根も優しい十四歳の少女だった。

 ユイルにとって、日課であるパトロールでの最大の楽しみは、カテリーナの寝室の下で、バルコニーから上半身を覗かせる彼女と、他愛のない会話を交わすことだった。

 ユイルは、亡き父母のことを主に語った。

 カテリーナも三歳の時に母親を病気で亡くしていた。その女性はレオ二世の二番目の妃で、レオ三世とカテリーナは母親違いの兄妹なのだった。

 ある日、カテリーナはレオ三世の五歳の嫡男、レオ四世のことを話題にした。

「私の甥になるんだけれど、すごく良い子なの。私より、ルーマン正教を深く信奉していて、父である法皇のことが大好きで」

「四世がかわいいかい?」

「ええ。もし子どもを持つなら、あんな子がいいわ」

「一度、会ってみたいな」

「宮殿に出入りしていれば、いずれ会えるわよ。兄上の教育方針で、宮殿の奥深くで大切に育てられているけれど」

 深窓の後継者か。レオ家が法皇位を世襲するようになって久しいが、恐らく次も四世が継ぐことになるのだろうな、と、ユイルは思った。

 

 時は瞬く間に過ぎていく。

 ユイルは、目を瞑っても歩き回れるほど、宮殿内の地理に精通した。

 カテリーナは、修道女として徳を積み、女性司祭の資格を獲得した。

 レオンは、ウィザードとして野良パーティーに何度か加わり、経験を得て魔法の腕を上げた。

 リィナは、何度か街の大広場でライブを行い、親衛隊を名乗る熱烈なファンを得た。興行としても盛況で、客の入りによっては、ユイルやレオンが稼いでくる報酬よりも多くの金銭を手にした。バードとしても、「戦意高揚」「治癒」「慰撫」などの曲目を体得し、いつでも実戦に出られるだけの力量を育んだ。

 ラームは、チャンドラ、アズライルを連れて、ルーマ市外の森に何度も狩りに出かけては、猪や鹿を獲物として持ち帰り、ユイル邸の夕食を豪勢なものにした。

 それぞれが青春を生き、季節は一年が過ぎ、ユイルは十六歳、カテリーナとラームは十五歳、レオンは十四歳、リィナは十三歳の春を迎えたのだった。

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