第18話 二人の美少女
ユイルの黒馬、カテリーナの白馬、レオンの栗毛の馬が、馬首を並べて行軍を急ぐ。その後ろに、右肩にアズライルを乗せ、チャンドラに跨ったラームが続いた。
やがて、太陽が西の空に没し、夜が足早に近づいてきた。
「今日は、ここで野営にしよう」
皆で荷物を降ろす。
ユイルは昼間に射止めた鹿を、ナイフで器用にさばいた。レオンが魔法で起こした火で、しっかりと焼く。鹿の肉から油がしたたり、香ばしい匂いが辺りに広がった。
カテリーナが持参してくれた塩と胡椒で味付けをする。
四人と二頭は、鹿肉を美味しく頂いた。
アズライルとチャンドラは、分け前をぺろりと平らげる。
急に扶養家族が増えたような気分だった。
こんなことなら、もう一頭くらい仕留めるべきだったな、と、ユイルは少し悔いた。
「しかし、カテリーナとラームが、おない年とはな。色んな十四歳がいるんだな」
「ユイルハ、何歳?」
ラームが尋ねる。
「十五歳だ。ラームたちより、一歳年上」
「ユイル、十五歳。ラーム、十四歳。オ似合イ」
ラームが嬉しそうに笑う。
食後の談笑のあと、パーティーのリーダーとして、ユイルは話を切り出した。
「明日には目標の山、盗賊のアジトに着く。いよいよ実戦だ。
見張りがいるだろうから、オレが矢で倒す。それから、火矢をアジトに撃ち込む。敵が出て来たところを、各個撃破する。敵の絶対数を減らした上で、アジトに突入。賊の頭目を倒す」
作戦のあらましを、ユイルは披露した。
「前衛は、ユイルとラームね。私とレオンは、後方から援護するわ」
カテリーナが身を乗り出し、
「もし前衛を突破されたら、私がメイスで迎え討つから」
戦うプリーステスとして、戦意を口にする。
ユイルたちが先制攻撃を仕掛けるタイミングと前後して、ルーマン正規軍や他の志願兵も戦場に到着し、戦いに加わるだろう。危険はあるが、勝利は疑いなかった。
一行は明日に備え、早めに休むことにした。
今夜も見張りを、と考えたけれど、音や気配に敏感な野獣が二頭もいる以上、その必要はなさそうだった。
戦い前の夜は、瞬く間に明けた。
日の出と共に起きたユイルは、野営した場所の周囲をぐるりと散策した。自分の気持ちが落ち着いていることを確認するための、儀式のような行動だった。
朝のさわやかな空気を肺いっぱいに吸い込んでいると、起きてきたレオンがユイルの傍らに立った。
「起きたかレオン。いよいよ初陣だな」
「ええ、兄さん」
「初めての戦場で平常心を保ち、集中して魔法を発動するためには、時間がかかるかもしれない。お前のことは必ず守るから、安心して呪文を唱えろ」
「分かりました」
レオンの口調には、義兄に対する絶対の信頼感が溢れていた。
命のやり取りをしに行くというのに、ユイルに迷いはなかった。剣士として段々と、人を殺すことに慣れてきてしまっているのかもしれなかった。
深刻な表情をユイルが見せたとき。
「ユーイールー!」
横合いから、声と共にやわらかいものがユイルに飛びついてきた。
少女の体の、とてもやわらかい感触。
ユイルの首に両腕を巻きつけて、ラームがささやく。
「オハヨウ!」
ラームは全く屈託がない。天真爛漫の塊だった。
「ラーム、むやみに男に抱きつくな」
ユイルはラームの腕を振り解く。
「ラーム、ユイルニシカ、シナイヨ?」
そんなことを、照れることなく言う。
ふと背後を振り向くと、カテリーナが今まで見たことのない怖い顔をして立っていた。
「あ、おはよう、カテリーナ」
ユイルが恐る恐る言うと、
「・・・おはよう。朝から仲がいいのね」
笑顔を見せず、カテリーナが言い放つ。
これから当分、この二人の美少女の間で、ユイルは苦労することになりそうだった。




