表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/46

第17話 ラームとの出会い

 ルーマから目標の山までは、鬱蒼とした森が延々と続いていた。

 ユイルたちを乗せた三頭の馬は、森の中を軽快に進んだ。

 旅程の半分を踏破し、夜になった。火を起こし、乾し肉とパンの食事を済ませ、野営する。念のため、三交代で見張りに立った。

 この日は、野獣やモンスターの襲撃はなく、無事に朝を迎えることができた。

 朝食を取ると、馬首を並べて先を急ぐ。

 やがて、一行は大きな川の岸辺に出た。

 事前に調べ上げた地理環境で、この川の水源が目標の山の頂上部だと判明している。川沿いに上流へ向かえば、道に迷うことはない。行程は順調と言えた。

 ユイルは双剣を鞘に収めて背負い、馬の鞍には弓矢を一式積んでいた。

 少し上流に川の水を飲みに来た鹿の姿を認めると、ユイルは馬上で弓を構え、矢を放った。剣ほどではないけれども、ユイルの弓の腕は確かだった。

 ユイルが射た矢は見事に獲物を捕らえ、鹿は川の浅瀬に倒れた。馬で駆け寄り、足を掴んで鞍に引き上げる。

 ユイルはカテリーナのほうへ振り向いた。

「今日の夕食は、鹿の焼肉だ」

「見事な腕ね、ユイル」

「さすが兄さん」

 カテリーナが笑い、レオンも笑みを見せたとき、突然の叫び声が和んでいた空気を引き裂いた。

「助ケテ、誰カ!」

 声の主を、ユイルは捜した。川の中ほどで水面を上下している緑色の髪を発見する。褐色の腕が、もがくように水の中から突き出され、すぐにまた水中に没する。

 人が溺れているのだ。

「助ケテ! ラーム、泳ゲナイ!」

 若い少女の声だった。

「カテリーナ、馬を頼む!」

 ユイルは馬から飛び降り、助走をつけて頭から川に飛び込んだ。泳ぎにも自信のあるユイルだった。

「落ち着け! 暴れるな! 絶対に助けるから!」

 泳ぎながら声をかける。

 ユイルの頼もしい声に、少女は安心したのか、もがくのを止めた。

 ユイルは少女を右手で抱え、左手で水を掻いて浅瀬を目指した。

 足が届く所まで泳ぎきると、少女を背負い、川から岸辺に上がる。

 少女は激しくせきこみ、口から水を吐いた。

 吐き切ると、肩を上下させて息を整える。

 水から上がった少女の姿を見て、ユイルたちは面食らっていた。

 珍しい緑色の髪に、同色の明るい瞳。良く日に焼けた褐色の肌。一目で異国人、いや異民族だと知れる。何より変わっていたのは、その服装だった。体の上下に、水着のような豹の毛皮を身につけている。長い手足は、完全に素肌があらわになっている。

 それは、かなりの異装だった。

 厳格な、ルーマン正教の風習からすると、「はしたない」と言われかねない格好だ。

 少女は一息つくと、じっとユイルを見つめた。

 その瞳は、なんだかキラキラしている。

「貴方、ラームノ、命ノ恩人。ラーム、カナヅチ、泳ゲナイ」

「君は、ラームっていうのか」

「ソウ。貴方、名前ハ?」

「オレの名は、ユイル」

「ユイル、ユイル、アリガトウ!」

 ラームという名の少女は、いきなりユイルに抱きついた。初めての経験に、ユイルは顔を真っ赤にして叫んだ。

「ちょっとちょっと! そんなにくっつかないでくれ!」

 慌ててラームの抱擁から逃れる。

 そんな二人の横では、カテリーナがとても面白くなさそうな顔をしていた。

「ラーム、貴女、どこから来たの?」

 カテリーナが問うと、

「ラーム、南カラ来タ。ラーム、十四歳。モウ一人前ダカラ、旅ニ出タ」

ラームが答える。

「女の子一人でか? 無茶だな」

 ユイルが指摘すると、

「ラーム、一人違ウ。友ダチ、一緒。川ニ落チテ、ハグレタ」

ラームが否定する。

「友だち?」

「近クニイルハズ。呼ンデミル」

 ラームは両手を空に掲げ、叫んだ。

「アズライル!」

 少女の高い声が、天空に放たれる。

 すると、彼方の空に一つの黒点が浮かび、物凄いスピードでこちらに接近してきた。

「ラーム、友だちって!?」

 驚くユイルたちの前に、一羽の鷲が舞い降り、ラームの肩に飛び乗った。

 険しい二つの目に、鋭く尖ったくちばし。力強い翼を持つ猛禽だった。

「鷲ノ、アズライル。友ダチ・ソノ一」

 ラームがアズライルと呼ぶ鷲は、彼女に良く懐いているようだった。

「凄い友達だな・・・。ん? 今、その一って言った?」

 ユイルが確認すると、ラームはうなずいた。

「ウン。モウ一頭」

「一頭?」

 一体何が、と不安になったユイルたちの耳に、何かが大地を駆けて来る地響きが聞こえた。川岸を、黄と黒の毛皮の大きな獣が疾駆して来る。

「虎ぁ!?」

 動物としては、この地上で最強の強さを誇る猛獣だった。

 思わず、ユイルは背中の双剣を抜いて身構えていた。

「チャンドラ!」

 そんなユイルたちには構わず、ラームは虎に駆け寄ると、ペットをあやすように、その首に抱きついた。

 チャンドラと呼ばれた虎は、ラームの顔に頬ずりして、猫のような甘い声で鳴いた。

「コノ子、チャンドラ。ラームノ友ダチ」

 ラームは無邪気に紹介した。

 チャンドラは、尖った牙と、前足に鋭い爪を持つ畏怖すべき大型動物だったが、ラームには忠実で大人しかった。

「鷲と虎が一緒か・・・。それなら、女の子一人でも旅ができそうだな」

 ユイルは額の汗を拭きつつ納得した。

「ユイル、ユイル」

「何だ、ラーム」

「ユイルタチ、コレカラ、何処ヘ?」

 ラームがニコニコしながら聞いてくる。

「この川の上流の山に行って、そこをアジトにしてる盗賊を退治するんだ」

「盗賊退治。ラームモ、一緒ニ行ク」

 当然のように、ラームが言い出す。

「何だって?」

 思わず、ユイルは聞き返した。

「ユイル、ラームノ恩人。ラーム、恩返シスル」

 ユイルは、相談するようにカテリーナとレオンに視線を向けた。

 仕方ないわね、という、カテリーナの表情。

 仕方ないですね、という、レオンの表情。

 ユイルも覚悟を決めた。

 これから挑む戦いで、この鷲と虎を御す少女が大きな戦力になることは、明らかだったからだ。

「・・・分かったよ。ラーム、よろしく頼む」

「ウン!」

 ラームは大きくうなずいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ