第16話 カテリーナと共に
ガリア村を襲った盗賊たちの内、数人を斬り伏せ、ルーマンの防衛兵が残敵を駆逐した後、ユイルは自分の家に走った。
ユイルが身を案じていた、 地下貯蔵庫に隠れさせたレオンとリィナは無事だった。
「ユイル兄、顔に血がついてる」
心配そうに、リィナが言う。
「返り血だ。何人か、盗賊を倒した」
リィナは洋服のポケットからハンカチを取り出すと、ユイルの頬を拭ってくれた。
「ユイル兄さん、ご無事で何よりです。僕も、魔法で応戦すれば良かった」
レオンが後悔を口にする。ユイルは首を横に振った。
「無理はするな、レオン。急な襲撃だったからな。魔法を使うためには、心構えが必要だろう? 平常心が」
ユイルはレオンをいさめた。
そして、リィナに向き直る。
「リィナ、残念な知らせがある」
「何? ユイル兄」
「シェリルさんが亡くなった。盗賊に襲われて」
「嘘──!」
両手を口に当てて、リィナは絶句した。
「認めたくないけれど、事実なんだ。広場にご遺体がある。荼毘に付して葬りたい。レオン、手を貸してくれ」
沈痛なユイルの声を聞いていたリィナの赤い瞳から、涙が溢れた。
盗賊たちは、放火は行わなかったので、建物等に損害は少なかったが、人的被害は甚大だった。
ユイルとレオンは、シェリルの亡骸を広場から村はずれに運び、村の司祭に祈りを捧げてもらった後、火葬を行なった。リィナは強いショックを受け、シェリルの死に顔を見ることができなかった。
ユイルたち三人は、村の共同墓地にシェリルの遺骨を埋葬した。リィナが摘んできた赤い花を墓に手向ける。血を思わせる色だけれど、シェリルに最も相応しい色彩だと思ったから。
今回の襲撃をきっかけとして、辛く長い戦いの日々が、少しずつ、だが確実に、ユイルたち三人に忍び寄ろうとしていた。
村に平安が戻り、一先ず事件は終わったかに見えたが、現実は新たな展開を用意していた。
生け捕りにされた盗賊の一人が、ルーマから数日離れた場所にある山に、自分たちのアジトがあることを白状したのである。
報告を受けたレオ三世は、勅命を発した。
「問題の山に赴き、盗賊一味を討伐せよ」
ルーマンの正規軍の他に、恩賞目当ての義勇兵が何十人か参戦を表明した。
ユイルとレオンも、シェリルの仇を討つため、討伐軍に参加することを決めた。
剣士とウィザード、あと一人、回復役がいれば一人前のパーティーと言えるのに、と、ユイルが考えていると、意外な人物が彼の前に現れた。
白い修道服を着て、胸部の急所を煮固めた皮の胸当てで防護した一人の可憐な少女が、驚きを隠せないユイルに近づいてきた。その右手には金属製のメイス(戦棍)を、左手にはシールド(盾)を装備している。
「カテリーナ様、その格好は?」
「私も戦うわ。ユイル、貴方のパーティーに、私を加えて」
ユイルは、唖然としてカテリーナを見つめた。
「どれだけ危険な冒険か、分かっているんですか?」
「修道院で、私はプリーステスとしての訓練を受けてきたわ。近接戦闘もできるし、回復・支援魔法も使える。貴方たちの足手まといにはならないから」
行動的な一面のある女性だとは知っていたけれど、戦いに挑む姿勢は、とても法皇の妹、貴族階級の令嬢とは思えなかった。
「役に立つわよ、私」
カテリーナは愛らしく片目を閉じて見せた。
ユイルは根負けして、カテリーナの希望を聞き入れることにした。
「・・・わかりました。よろしくお願いします」
カテリーナを危険に晒すのは不本意だったけれど、彼女と一緒に冒険をすること自体は、ユイルにとって心躍る状況だった。
「それからユイル、私のことはカテリーナと呼び捨てにして。敬語も不要よ。私たちはパーティー、仲間なんだから」
カテリーナはきっぱりと言明した。長い金色の髪を揺らして、その青い瞳をレオンに向ける。
「貴方がユイルの弟のレオンね、よろしく」
「は、はい、カテリーナさん」
ウィザードであるレオンの装備は、右手のスタッフと、青いローブという軽装だ。
ユイル自身は防御力を上げるために、ベアー(熊)の厚い皮を使ったハイド・アーマー(獣皮鎧)を装着していた。
右手には亡父の形見の剣、左手には老師から受け継いだデュランダルを手にしている。
敵地に遠征する以上、移動手段も必要だ。
ユイルは、彼の髪と瞳の色と同じ、黒馬を買い求めた。レオンは、小柄な栗毛の馬を購入する。カテリーナは、彼女の愛馬である白馬に騎乗した。
盗賊一味に討伐軍の進撃を悟られぬよう、戦力は何組かに分けられ、進軍のルートも複数、用意された。
そして、ユイルたち三人は先陣を務めることになったのである。




