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第11話 老師の弔い

 老師の凶報を聞いても、ユイルはすぐには信じなかった。つい昨日まで、自分を叱咤してくれていたじゃないか!

 けれども、駆けつけた老師の屋敷で、ベッドに横たえられた亡骸と対面すると、ユイルは最悪の事態を受け入れざるを得なかった。

「一体誰が!」

 湧き上がる怒りを、ユイルは犯人に向けた。

「覆面をした痩せた男だ。追いかけたが逃げられた。すまない」

 アレクが謝罪する。俊足のアレクが追って捕捉できなかったのなら、自分にも不可能だったろう。兄弟子を責める気持ちにはなれなかった。

 残されたのは、老師の命を奪った毒矢だった。矢のこしらえや、毒の種類を洗えば、出所が分かるかもしれない。

「それからな、ユイル」

 言いにくそうに、アレクは切り出した。

「死の間際、老師は俺にデュランダルを託した。俺を後継者に指名したんだ」

 衝撃ではあったけれど、ユイルは納得した。

 まさかアレクが嘘をついているなどとは、露ほども疑わない。

 その後は慌ただしかった。司祭を呼んで葬送の儀式を行い、遺体を荼毘に付した。白い煙となって、老師は天に帰って行った。

 アレクとユイルは、屋敷の敷地内に老師の墓を建立した。

 老師が残した邸宅は、後継者たるアレクが相続した。金銀宝石などの財産は、アレク、ユイル、レオン、リィナの四人に均等に分割された。

 そして、ユイルは大きな失望感の中、十五歳の誕生日を迎えたのだった。

 皆で喪に服していたため、お祝いらしいことは何一つせずに。

 

 老師の葬儀からの数日間、ユイルは呆然と日々を過ごした。

 言葉では言い尽くせない喪失感がある。胸に、ぽっかりと大きな穴が開いたようだった。

 ユイルは、村からルーマ市内に赴き、街の中心部にある法皇宮殿に隣接する、聖シモン大聖堂に足を運んだ。

 その建物は巨大で、一度に数千人を超す信徒が祈りを捧げることができる。入り口の上部には、天使たちの姿を描いた見事なステンドグラスがはめられている。

 聖堂内に足を踏み入れると、神聖で静謐な空間が広がっていた。天井と側壁にはガラス窓のスリットがあり、そこからの光が明るく祭壇を照らし出している。その中央には、ルーマン正教の聖なるシンボル、金色の十字架が鎮座していた。

 朝早い時間だったこともあり、信徒の姿はまばらだった。

 ユイルは中央の通路を前方へと歩み、十字架の目前、最前列で跪いた。

 胸の前で両手を組み、老師の冥福を神に祈る。

 深い祈りの後、立ち上がったユイルは、横合いから声をかけられた。

「ユイル? ユイルよね?」

 耳に心地良い声だった。

 声の主を認識すると、ユイルの胸は人知れず高鳴った。

 慌てて視線を向ける。

 そこには、真っ白な修道衣をまとったカテリーナが立っていた。

「カテリーナ様」

「やっぱりユイルだった」

 カテリーナは嬉しそうだった。

「森で助けてもらって以来ね。あのときは、本当にありがとう」

 親しみをあらわにして、カテリーナは微笑んだ。その青い瞳は、和やかな光を湛えている。

「何を熱心に祈っていたの? あ、差し支えなければ、教えて」

「剣技を習っていた師匠が、亡くなったんです。その冥福を・・・」

 ユイルの答えに、カテリーナは表情を曇らせた。

「・・・そうだったの。謹んで、お悔やみを申し上げるわ」

 視線を伏せて、カテリーナは十字を切る。

「師匠は暗殺されたんです。犯人には逃げられてしまって」

 カテリーナは絶句した。

「そんな・・・」

 宮殿や修道院で、悪意とは無縁の安全な生活を送っているカテリーナにとって、衝撃的な出来事だった。

「何て言ったら良いか、わからないけれど・・・。どうか気を落とさないで、ユイル」

 カテリーナの優しい言葉に、ユイルの傷心は少し癒された。

「ありがとうございます、カテリーナ様」

 一礼して、ユイルは大聖堂を後にした。

 少年の後ろ姿が消えるまで、カテリーナはその場に立ち尽くしていた。

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