↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/56

20.5 - 人気コンテンツの未来

 僕はその日、真白さんの家を出て真っ直ぐ夏未の部屋へ向かった。夏未は僕が来るのを分かっていたように、僕の好物のシロップを用意していた。果実を乾燥させた月桂樹の葉と一緒に煮詰めたシロップだ。これを水や炭酸水で割って飲む。未成年でまだ酒を飲めない子どもにとって定番のジュースだ。今日は炭酸水のようだ。



「やけに用意がいいんだな。」

「何年お前と友達をやってると思ってるんだ! これくらい朝飯前だ。」

「ふっ。そのせいで拘束対象にまでなったっていうのに、君も本当にお人好しだな。」

「それは沙良の落ち度じゃないだろう!」



 憤然としてくれる友の反応が嬉しくて、僕は少し調子に乗って我が儘を言う。



「ジュースじゃなくて、パンケーキなんかに付けて食べたかったところだ。あぁ、ヨーグルトもいいな。」



 そう言うと、夏未は驚いた顔をする。



「真白さんの手料理じゃ足りなかったって言うのか!? どうしたんだ、腹でも痛かったのか!?」



 それを聞いて僕はガックリと肩を落とした。この友は変なところで鈍い。だがそれもまた彼の良さだ。



「で、どうだった。楽しかったか!?」

「あぁ……、楽しかったよ。」

「発言とテンションが噛み合ってなくないか!? 本当に楽しかったんだよな?」

「あぁ……。」



 楽しかったのは本当だ。真白さんの料理だって美味しかったし、真雪ちゃんも可愛かった。だからこそ、なのだ。



「幸せな家庭を見せつけられた気分だ。」



 ジュースを一気に煽ると炭酸が喉を刺激した。夏未は肩を竦めて苦笑した。



「なるほどな。真白さんが幸せそうで何よりだ! ……が、俺も鬼じゃない。今日はお前の愚痴に付き合ってやろう。」

「それはどうもありがとう。」



 夏未は僕が持っていたグラスに二杯目のジュースを注いで、自分が持っていたグラスをぶつけた。ガラスの涼しげな音が響く。



「……本当に、幸せな家庭そのものだったよ。」

「ほう?」

「真雪ちゃんはすっかり真白さんに懐いている。それを見つめる真白さんの目は母親そのものだった。八雲さんは、さながら父親だ。」

「そうか。」



 真雪ちゃんを保護してから一週間。過ごした時間は短くとも、それだけ真摯に、真白さんが真雪ちゃんに向き合った証拠だ。そしてそれを側で支えていたのが八雲さんだったのだろう。



「真白さんが幸せならそれでいいんだ。」

「うむ!」

「……とはいえ、敗北宣言なんて僕の柄じゃないな。」



 情けない笑いが口から漏れた。



「無理もないな。 今まで見てきた中で、お前が二人の間に入り込む隙なんてあったか? なかっただろう!」

「うっ……。いやそうなんだが……、正論パンチは効くな……。」

「沙良が真白さんを想っていたように、真白さんは八雲さんを想っていたし、八雲さんもまた真白さんを想っていた。それだけだろう?」

「……ああ。」



 ただそれだけなのだ。だが純粋な想いの交錯ほど厄介なものもない。



「……二人は婚約したと思うか?」



 僕はついに気になっていたことを口にした。真白さんの誕生日以降、距離がよりぐっと近づいたような気がするが、確証がない。わざわざ訊くのは癪だ。

 とはいえ、例え婚約していなくとももう既成事実があるようなものだ。あそこにはもう幸せな家庭が築かれ始めている。



「俺が仕入れた情報だと、婚約はしてないらしいぞ!」

「!?」



 俺は勢い良く顔を上げた。



「詳しいことは分からんが、とにかくまだだ!」

「……君は意外といい情報網を持っているよな……。」

「まぁな! 俺も光属性魔法の件、決着が付くまではないだろうと予想している!」

「そうか……。いや、いいんだ。形式的なことは。もう彼らは事実上夫婦みたいなものだ。僕もきっと……そろそろ潮時なんだ。」



 僕は二杯目のジュースを一気に煽った。 底に溜まったシロップが一気に流れ込んできて、口いっぱいに果実の甘みと月桂樹の葉の香りが広がった。



「はは、そうかもしれないな!」



 そう笑って、夏未は三杯目のジュースを淹れてくれた。



「沙良の失恋記念日に乾杯!」

「なんて不名誉なことを言うんだ君は! 新しい門出を祝うくらいにしてくれないか。」

「ははは、すまん!」



 こうして僕と夏未はノンアルコールのお子ちゃま向けジュースで夜を明かした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご一読ありがとうございます! 毎週火・金曜20時10分更新予定です☺︎
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。