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月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第二章

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18.5 - はる

 はる(・・)が来た。春ではない。青だ。



「やあ、元気? 皆。」

「青!」



 真白は嬉しそうに青に飛びついた。青もそれを受け止めて嬉しそうに笑った。ハグをしに来ない私を見て、青は寂しそうに笑った。しょうがないなと肩を竦めて、私も大袈裟にそこに混ざりに行った。

 再会の喜びも一段落したところで私たちは腰を落ち着けた。ここは月桂樹の丘、飛鳥の墓標が見える場所にある喫茶店だ。さすがに雪が積もる中、何時に来るか分からない青を待つのはいただけなかった。



「聖は?」

「任務よ。詳細は私たちも知らせてもらえていないのだけど。」

「そっか……。二人は今日は休み?」

「私はね! 真白は非番!」

「それで隊服なんだ、大変だね……。」



 青は分かりやすく眉尻を垂れた。



「大変だけど苦じゃないわ。守りたいものが沢山あるし、これが私にできることだもの。」



 青は息を飲んで目を見開いた。かと思うとふと目元を緩めた。



「……真白、変わったね。」

「え? そう……かしら。」

「うん。僕、とっても嬉しいや。」



 青はそう言って本当に嬉しそうに笑った。真白は不思議そうに首を傾げていた。そんな二人のやり取りが微笑ましくて、つられて私も笑った。

 食事を楽しんでいたときだった。八雲さんが店に急足で入って来た。隊服を着込んでいる。店内を見回す彼は私たちを見つけると、大股でこちらに歩いて来た。



「真白、出動だ。五分後に隊舎前集合。」

「はい!」



 真白はサッと席を立つと自分の分の支払いをするために財布から金を出した。その間に八雲さんは私たちに目配せした。



「楽しんでるところ悪いね、百音と……、青くんだっけ、久しぶり。」



 八雲さんは青を見て少し驚いた後、嬉しそうに笑った。



「ご無沙汰してます。」

「ゆっくりしてってね。じゃあ真白、後で。」

「はい。」



 八雲さんは先に店を後にした。他の非番の人も探しに行くんだろう。



「ごめんね、この埋め合わせは必ずするわ……!」

「気にしないで行っておいで。今年は冬の間はこっちにいるから。」

「え……。」

「話は後。いってらっしゃい。」



 無理矢理やり込められた真白は、疑問符を大量に浮かべつつ店から駆け出て行った。真白の後ろ姿を見送ってから、青は優しく笑った。



「あの二人、関係は進展したの?」

「んー、進展はしてるのかなぁ。上司と部下のままではあるんだけど、両想いなのは分かってるっぽい? みたいな……。」

「ふふ、なるほどね。焦ったいね。」

「そうなの! 超焦ったいの! もう早くくっつけばいいのに!」



 青は少し考える素振りを見せた。かと思うと、飛鳥の墓に目線を向けて言った。



「何か事情があるんだろうね。」

「事情?」

「例えば、この局面を乗り切るまでは……とかね。」

「ええ、なんで!?」

「さぁね。でもほら……、あの二人は大切な人を失くす痛みを知りすぎてるんだよ。」



 私は思わず口を噤んだ。そんなの……。



「失くす痛みもあれば、得る悦びもあるはずじゃない……。」



 ふっと苦笑した青は私の頭をポンポンと撫でた。



「なんで百音がそんな顔してるの。」

「だって、そんなの悲しすぎるじゃん……っ。」

「ふふ。きっと二人とも、悦びさえも怖くなっちゃってるんだよ。僕らはただ見守ろう。」

「っ、うん。」



 青は相変わらず大人だ。でも青がずるくて弱い人であることを、私たちは知っている。青は守護隊には入らなかった。大切な人を失うのが怖くて、戦うことを放棄したんだ。私たちはそれを責めるつもりは毛頭ない。それは個人の自由だから。それに、そんな青を一番責めているのは青自身だから。しっかりと鍛えられた身体と、隠しきれていない目の下のクマ。チグハグな姿が青なりの戦いを物語っている。



「そういえば、冬の間はこっちにいるの?」

「あぁ……、うん。僕の実家って国境にかなり近いから、総隊長から首都に避難するよう命令が出されてね……。」

「え!?」

「可能であれば一年は戻るなって言われてる。」



 表情を曇らせた私を見て、青は頷いた。



「戦いに備えているんだと思う。」



 分かっていた。遅かれ早かれこうなっていたんだ。けれどいざ目の当たりにするとやはり怖い。青は再び私の頭をポンポンと撫でて笑った。



「真白のさっきの顔見た? 迷いも恐れもどこかに置いてきたみたいだった。……いつでも助けになるって、頼ってって言った僕がこんなんじゃダメだ。僕も覚悟を決めるよ。」

「青……。……うん、私も頑張る!」

「それでこそ百音! とりあえずご飯食べちゃおっか。」

「うん! デザートも頼もう!」

「ふふ、いいよ。」



 窓の外では雪がしんしんと降り続いていた。


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