17.5 - 次の世代
夜風がずいぶん冷たくなった。蛍の墓前に花を供えていると、 背後に人の気配がした。
「総隊長。」
「豪か。子どもが生まれたばかりだっちゅーのに悪いのぅ。」
「いえ。」
豪は隊服を着込んでおり、ローブで口元をキッチリと隠していた。何か重要な連絡のようだ。
「脱獄者の追跡ですが、かなり難航しています。」
「国外へ出た形跡は?」
「今のところはありません。」
「うむ……。」
彼奴が侵入者として捕まったのは正直痛手だった。想定外であったことはもちろん、隊員たちへの精神的ショックも相当なものだろう。もう繰り返すわけにはいかないというのに……。
「他に怪しい者は。」
「協力者と思しき者もいません。……というか、もはや全員怪しく見えてくる始末で……。」
足心と豪は揃って溜め息を吐いた。疑心暗鬼になるのも無理はない。互いを信じるしかない。けれどそれも限界がある。こちらで気を張っておくしかないか……。
「総隊長から見て怪しい人物は……?」
「同じじゃ。全員怪しく見えるわい。」
強いて言うなれば、どうかそうであってくれるなという人物はいる。頼むから、この安寧の中で絆を育み、そして死んでいってくれと願わずにはいられない。
足心は、最近やっと互いに手を伸ばすことができるようになった愚義息と少女のことを思い浮かべた。今では多くの隊員が彼らを見守っている。恐らく次世代を背負って立つのは彼ら……特に八雲だ。あれには人を惹きつける力、そして導く力がある。隣に真白がいてくれれば、八雲はまさに百人力なのだ。ようやっと守りたいものを、守れるものを得た彼奴は強い。それは足心にもよく分かっていた。
「月の国は儂が守ってみせる。例え、この命と引き換えてものぅ……。」
先日の謁見で得られたもの。それは残念ながらこの命を捨てる覚悟だった。後ろに控えていた豪が力強く頷いた。
「そのときはお供しましょう。」
「ふっ、いらんわ小童が。子どもが生まれたばかりじゃろーて。せめて別嬪な嬢ちゃんでも連れて来んかい。」
「あれ、僕の女装ご覧になったことないですか?」
「戯け。」
足心と豪はそのまましばし歓談した。月光が優しい月夜の晩だった。




