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月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第二章

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11.5 - 人気コンテンツの復活

 隊舎の二階の廊下からは中庭がよく見える。隣を歩いていた先輩がニヤリと笑って言った。



「見ろよ沙良、待望の人気コンテンツの復活だぞ。」



 先輩の肩越しに中庭を覗き込むと、秋空の下、ベンチに並んで腰掛けて歓談する二人がいた。まだ八雲さんの足は治っていない。当分は真白さんの隣を定位置とすることにしたんだろう。



「皆が待ち望んでいましたからね。どこもかしこもその話題で持ちきりですよ。」



 八雲さんの生還後、あんなに気まずそうだった二人は以前のように再び隣にいるようになった。だが元通りにはならなかった。



「そりゃお前、あんだけ好き好きやってたら嫌でも話題になるだろ!」



 そう、元凶は八雲さん本人だ。真白さんの方は正直あまり変わらなかった。というか元々好意がダダ漏れだったし、強いて言うなら今はとても幸せそうだ。

 それに対して八雲さんは何と言うか、デレデレだ。元々好意があるのは見て取れた。すごく大切にしているのも分かっていた。そこからさらに気持ちを隠すつもりがなくなったのか、もう目が甘くて甘くて胃もたれしそうだ。こちらが気まずい。独占欲も嫉妬もその目に丸出しにするものだから、大変驚いた。誰だ、目は口ほどに物を言うなんて言い出したのは。八雲さんはまさしくそのタイプだ。



「先輩たちが考えた嫉妬作戦は大失敗でしたけどね。あれ以来、八雲さんに睨まれる僕の身にもなってくださいよ。」

「悪かったって〜! でも年が一番近いのはお前らだし、夏未はそういうの明らかに下手クソだろ!?」

「まぁ、それは否定しませんけどね。」



 そもそもの作戦内容が残念だったのだ。だがあれはあれで、先輩たち相手でも残念な作戦であれば毅然とした態度で出なければならないといういい学びになった。それに収穫もあった。



「あの二人、正式にくっついたと思います?」

「いんや。この前由楽隊長から光属性魔法の話あったろ。なんでそんな話が急に出てきたのかと思ったけど、どうやらあの二人はしっかり巻き込まれてる。俺らには光属性の概要と、使い手の捜索するって話くらいしかされなかったけどな。平穏が揺らいでるっつーのに、そこに現を抜かすような奴らじゃないだろ。」



 突然の真面目な物言いに、思わず面食らってしまった。全くもって同感だ。僕はほぼ無意識に先輩に質問を投げかけた。



「……先輩はどう思います? この件。」

「どうもこうも、深入りしない方が身のためだぞ。」

「それは少し無責任では?」

「今回の件、第一隊と第二隊にしか共有されてないって言ってただろ。この手の話は首を突っ込みすぎるとマジで危ねー。」



 先輩は眼光を鋭く光らせて続けた。



「死ぬぞ。」



 あまりの迫力に、背筋にゾクリと悪寒が走った。普段適当なくせに、こういうときにこんな迫力を出すなんて。伊達に長く第一隊に所属しているわけではないということか。先輩はふと眼光を緩めると、いつもの調子を取り戻してヘラリと笑って肩をすくめた。



「俺はまだ死にたくねーからな。お前も程々にしろよ〜。」



 呆然とする僕を置いて、先輩はさっさと歩いて行ってしまった。その背中が見えなくなってようやく肩の力が抜けた。溜め息を吐きながら前髪をかき上げて気がついた。額に汗をかいている。あの一瞬でこんなに緊張していたのか。僕もまだまだだ。

 再び中庭に目を向けると、休憩を終えたらしい二人がちょうど立ち上がったところだった。真白さんが八雲さんを気遣ってその体を支えているのが見えた。



「やれやれ。」



 支えなんていらないだろうに。あれは恐らく牽制だ。僕がここにいることに気がついてか、はたまた見えやすい場所にいることを利用した隊全体へのものなのかは分からないが、あの人も回りくどいことをする。そのとき、夏未が廊下の角を曲がってやって来た。



「楽しそうだな、沙良!」



 夏未は僕の顔を見て開口一番にそう言った。



「そう見えるかい?」

「ああ!」



 夏未は僕の隣に立つと、僕と同じように中庭を見下ろしたて納得した。



「なるほどな!」

「なぁ夏未。」

「なんだ?」

「君、僕の気持ちに気づいているんだろう?」

「お前が真白さんに少し本気になり始めていることか?」

「はは、さすがに鋭いな。」



 愛らしくて健気で、どこか影がある。それでいて愛情深い。どうしたって目が離せなくなってしまう。



「止めはしないが、協力はしかねる! 今の真白さんが幸せそうすぎるからな!」

「ああ、それは求めないから安心してくれ。でも、つけ入る隙はあると思わないかい?」

「……ゼロじゃないだろうな。口だけでよければ応援するぞ。」

「はは、ありがとう。」



 恐らくこれから大きな波がやってくる。そのとき、八雲さんがきちんと真白さんを支えられる確証はない。そのときは僕がしゃしゃり出たって、誰も文句はないはずだ。



「僕らも行こう。午後の仕事が待ってる。」

「ああ!」



 僕たちは中庭を横目に執務室へと向かった。


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