5.5 - 人気コンテンツ
今日は日向ぼっこ日和だ。それなのに、最高の日向ぼっこ席はガランとしていた。いつもならここは彼女の特等席だ。ラッキーと思いながら腰掛けて、空を見上げた。
月の国第一隊隊舎の中庭にある桜の木は、第一隊隊舎の象徴的な場所だ。何でも創設者だが何だかが好きで植えたらしい。それ以来中庭は憩いの場として愛されてきた。
そんな桜の根元に白いアイアンベンチが置かれたのは、数年前だという。話によると、配属されたある女性隊員が桜の木の根元を定位置としたらしい。それを見た男性隊員たちが似合いそうだと工作したのが、このベンチだという。それ以来、彼女の定位置はこのベンチになった。第一隊は求められる実力もさることながら、任務の危険度なんかも相まって女性隊員が少ない。そんな事情もあって、彼女を狙う男性隊員は多かったと聞く。
ある男性隊員の定位置がベンチの上の幹になったのは、彼女とほぼ同時期だったと聞く。彼は幹に腰を落ち着けると、決まってベンチに座る彼女をこっそり眺めていた。時には花を降らせた。そして彼女にいつも怒られるのだ。花の花言葉は、決まっていつも愛だなんだと謳うものばかりだった。気づいていないのは、花を浴びせられている彼女くらいだった。彼女はそういった類には疎いらしい。
その男性隊員の恋人の座を狙う者は、守護隊員にも民間人にも多かった。その女性隊員の恋人の座だってもちろんそうだ。しかし特に守護隊員はそれを早々に諦めた。傍目に見ても、二人の間に入る隙などなかったからだ。やがて二人は守護隊の人気癒しコンテンツになった。
数年経った今でも、定位置を先に決めたのはどちらなのかという討論が定期的に開催される。もちろん決着は着かず、隊員たちはただ穏やかな空気を纏う二人を見て癒されて、たまに焦ったくて早く進展しないもんかと気を揉んだ。
そんな二人が定位置に現れなくなって、約二ヶ月が過ぎた。季節は絶賛梅雨だ。今日は梅雨の晴れ間で日向ぼっこ日和なのだ。だから僕が座ってやろうとやって来たわけだ。なんて思いながら空を見上げて、思わず吹き出した。
「本当に真上だな……。」
定位置を決めたのはどちらが先かという討論において、僕はずっと女性隊員派だった。
彼女の男性隊員を見る目といったら、気持ちがダダ漏れすぎてこちらが恥ずかしくなるくらいなのだ。それに対して男性隊員の方は、いつも飄々としていて普段から感情が読み取りづらい。それもあって好意は分かるものの、逆に言えばそれが限界だった。
だから僕はずっと女性隊員派だったのだが……、これは僕の中でも五分五分になった。
「おーい、沙良ー!」
不意に名前を呼ばれて正面に視線を向けると、声の主は同期の夏未だった。
「お前、真白さんが最近座らねぇからって……。先輩たちに睨まれても知らねぇぞ!」
「夏未。君はどっち派だ? 真白さんと八雲さん、どちらが先に定位置を決めたのか。」
「俺はずっと真白さん派だ!」
「なぜだ?」
「何においても真白さんを選びたい! それだけだ!」
一瞬眉間に物凄い勢いで皺を寄せてしまった。訊く相手を間違えた。こいつは単に彼女が推しなんだった。こいつはより推しが可愛いと思える方を選ぶという。非常に謎な理論だ。
「沙良も真白さん派だろ?」
「……なぁ夏未。このベンチが設置されてから、僕の他にここに座った者がいると思うかい?」
「少なくとも俺はそんな命知らずは知らない!」
「ははっ、そうだろうね。」
皆の憩いの場なのだ。本来は誰が座ったってかまわないはずなのに、このベンチも、あの枝も、彼ら以外は座ったことがない。そこに一石投じよう。
「僕はね、ここに座って気づいたことがある。まず、このベンチは女性一人で持つにはかなり無理がある重さだ。」
「そうなのか!」
「あぁ。そうすると、八雲さんの位置に合わせて真白さんがベンチを移動した線は消える。」
「何だと……!?」
このベンチ、もっと残念な作りかと思ったが……思ったより遥かに出来が良い。ここに座らなければなかった発見だ。
「僕は断然真白さん派を貫いてきたが、五分五分であるとの考えに至った。よって、僕は次回以降は八雲さん派の陣営にも参加しよう。」
「ずるいぞ沙良!」
「まぁ待て夏未。今二人はなぜか距離を置いている。そこが解決しないことには、残念ながらこの議題はお預けだ。」
「だー、そうだよなぁ。早く仲直りして、そのままくっつかねぇかな!」
「どうだろうね。」
「あんなの見たって楽しくねぇよ!」
それもそうだ。人の不幸は蜜の味と言うが、あんな二人を見たって何も楽しくない。
「早く仲直りするといいな!」
「そうだな。」
恐らく議題はどうしたら二人を仲直りさせられるかに移行するだろう。効果があるかは分からないが……、期待する余地はありそうだ。なんせ、隊員の多くが癒しコンテンツの復活を今か今かと待ち侘びているのだから。




