第97話 ミーシャの焦り
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東京丸の内
その中心に位置するエンペラーホテル。
その地下3階、食料品倉庫。
デーモン系と思われるモンスターは、けだるそうな表情で背広のポケットから紙たばこの箱を取り出す。
すでにはこの箱は開封されており、デーモンは手慣れた手つきで箱をトントンと叩くと、反動で飛び出してきた紙たばこをつまみ出し、口にくわえる。
同時にポケットから取り出した、所々擦り切れて薄汚れた年代物のジッポーの低い金属音が響いた。
シュッ、ジュッ!という擦り切れた音が数回した後、火がともったジッポーを口にくわえた煙草に近づけた。
「フゥーッッッ。なあ、姉さんよお。いつまでここに隠れてなきゃいけねえのさあ?」
めんどくさそうな表情で天井を仰ぎ見ながら質問するデーモンに対し、ミーシャは疲労の色が濃い顔をひきつる。
「私にも分からないわよ。依頼主の指示があるまでここで人質を監視していなさいって言う命令だったんだから」
近くにはドレスを着た耳の長い金髪碧眼のエルフの少女が、布でさるぐつわをはめられ、両手両足を縛られた状態で眠らされていた。
ツンとするニオイのキツイ紙たばこをふかすデーモンは、冷静な口調ではあるが、内心落ち着きのない雰囲気でいた。
「俺らはアンタに金で雇われたわけだから文句はないけどよ、まさかホワイトエルフ族の本拠地を襲撃するなんて正直引いちまったぜ。あんな高等魔術と、独自の武装組織を持つ種族の中枢を襲撃して族長の娘を攫って来いって、一体誰なんだよ?こんなバカげた作戦依頼してきたのは?目的がさっぱりわからねえ」
「もう説明したでしょ!依頼主の身元と目的は契約により明かせないって!何度言えば分かるのよ!あなたたちは雇われの身でしょう!」
「確かにもらうもんはもらっているし、ブラッドさん直々の頼みってことで俺らがかき集められたのはわかってる。ンパッ、フゥゥゥッッッッッッ!」
デーモンは盛大にタバコをふかすと、ややにらみつけるような視線を天井からミーシャの顔に向けた。
「でもよ、ホワイトエルフみたいな新世界でも有数の武力を温存してるって言われている組織を襲撃なんざ、事前に連中の隙をリサーチするだけでも相当手間がかかったんだぜ。おまけに今回の依頼は新世界と地球の2つで同時に任務を遂行するハードな作戦。すでに腕の立つ仲間が何名も殺られてる」
「正直、今回の案件は体感的に炎上案件だ。報酬は高額でも実質赤字だぜ」
「それだけじゃない!」
壁にもたれかかってリンゴをかじるゴブリン系の男が話に割って入る。
「問題はそれだけじゃない!この超人族支配領、お前らが言う地球とかいう土地で、普通の人間の小娘一匹を俺らに抹殺せよだと!?最初は冗談でも金はまあまあくれるから楽勝だと引き受けたが、ふたを開ければビックリ、その娘はあの超人族の中でもガチで危険な葦國のトップの仲間だった!!俺たちはとんだジョーカーを引かされたんだ!!!」
「途中で通信魔法が途絶えたからまさかと思って、こっちに来てからテレパシーで思念波の痕跡を調べたが、結果は言うまでもなく全滅」
「しかも、別班の奴が禁じ手の特攻アイテムを駆使して葦國を道連れにしようとしたら、なんとただの人間のはずの小娘が時空転移の魔法を駆使して脱出したみたいだしな!」
「ミーシャ!!俺らはプロだ!だから依頼されたことは確実にこなすのがポリシーだが、作戦の意図がはっきりしない中で、今回みたいな規格外の連中の相手をするのは割に合わなすぎる!!!」
リンゴを乱暴にかじりながら、床にリンゴの破片をまき散らしてゴブリンは疑問の目をミーシャに向ける。
「聞きたいことはまだある!地球に転移してから俺たちの魔力をゼロに抑えるようにしろ。そして、お前が合図したときに魔力を解除しろとかぬかしていたな?何を考えている?」
「人間どもに万が一気づかれないように隠密行動で魔力を抑えるのは分かる。だが、お前が合図したら一斉に魔力を解放しろだと!?何を考えているのかさっぱりわからねえ!まるでタイミングが来たら俺らの位置を誰かに知らせようとでもしているんじゃねえのか、ええ!?」
「分かっているわよ!!私に考えがあるからもう少し黙っていなさい!!!さもなくばプロとして使えないバカとしてブラッドさんに申し立てるわよ!!!」
ミーシャの怒鳴り声にゴブリンは悪態をついた。
「ケッ!!超人族とつるんで多少儲けてるからってなめやがって!あまり天狗になるなよ雑種!!プッッッ!!」
ゴブリンはリンゴの種を床に吐き捨てると、変身魔法で人間の姿になり、倉庫から出ていった。
「小便に行ってくる!」
「早くしろよ!」
タクティカル系装備に身を包んだ男が叫ぶ。
覆面をしたままで顔は見えない。
“秀樹様、連絡はまだなの?”
ミーシャは焦りの表情を隠せない。
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数日前。
「あのクソガキに位置を知らせろ、ですって!?」
「その通り、タイミングが来たら僕がテレパシーで知らせる。その時、君を含めた仲間全員で一斉に魔力を解放するんだ」
「でっ、でも、そんなことをすればあのガキに感づかれてしまうのでは・・・・・?」
「それでいい。彼を君たちの潜伏先に誘導するのが目的なんだからね」
「そして、君たちはそこで彼と戦うんだ」
「ですが、あそこでは当日、小笠原様のパーティーが開かれる場所。もしかして・・・」
「そう。彼にはそこに行ってもらう。君は彼をそこにおびき寄せるんだ」
「・・・いったいなぜあのガキをそこに?」」
「詳しくは知る必要はない。君は言う通りにするんだ。あと、当然仲間の傭兵たちには僕のことは言わないように。僕の部下も独自に新世界で傭兵を雇って彼を誘導するから」
「・・・・・・」
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“あの時は秀樹様の指示に従ったけど、ハイエナどもの言う通り、確かにこんなやばい感じのヤマは初めてだわ・・・。本当に何を意図しているの?秀樹様?”
ミーシャは天井の蛍光灯を仰ぎ見ながら自問自答する。




