第93話 脳への不正操作と地獄の番犬
「すべてはご主人様のために!!!!!!!」
淫猥なコスチュームに身を包んだ少女“”は、両手にそれぞれ凝縮した魔力を殿上人の少女に向かって放つ!
「はあああああっっっっっっ!!!!!!!」
グワッッアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!!
炎とも何かのエネルギー体とも分からない光が殿上人・葦國公子に迫る!!!!
「姑息!」
ギィィッッッ!!!!!!!!
公子は己に向けられた殺意を左手のみではじき返した。
左手の先には青白い魔法陣。
公子は何らかの防御系魔法を発動し、欲望に忠実な少女から放たれた光線のような魔法をはじき返した。
光線のような攻撃魔法は、難なくはじき返されて近くのビルの壁へと直撃し、壁には室内が丸見えになるほどの穴が開いた。
幸い誰もいなかったようだが、中のパソコンや事務机、書類などが焼けこげて散乱しており、その破壊具合は魔法に明らかな殺意が込められて放たれたことを物語っていた。
殿上人にとってこの程度の魔法はたやすく防げるはず。
だが、公子はやや険しい表情を浮かべていた。
「っっ!!!ずいぶん厄介な手品を使ってくれるわね、軍事魔導士の傀儡!!!!!」
「これほどの衝撃は間違いなく私たちが使うクラスの魔法。普通の人間にはできる性質ではないはず。さては禁忌レベルの精神操作をしたわね!」
“手がしびれるほどの衝撃!私にこれだけ衝撃のくる魔法を使うとは、かなり無茶な精神改造をされているわね、この子!!!”
公子の叫び声に魔女は得意げな口調で口を開く。
「イエス!!!!!!カノジョは私のオトモダチが特別にチューンナップしたオモチャなのデス!!!!カノジョのブレインにはスペシャルなセッティングをして、結果、カノジョは新世界の磁場を超克することに成功したのデース!!!!」
「・・・・・・」
公子の後方で事態を見守っていた律子は、彼女たちのやり取りを聞いていて思うことがあった。
公子さんは黙っている。
あの変な子は何か特異な洗脳のようなものを受けているのだろう。
新世界のことがあるから、殿上人という人たちは何か私のような一般人には言ってはいけないことがあるのかもしれない・・・・・・・。
前にも公子さんは私にだんまりを決めたこともあった・・・・・・・。
何か殿上人と呼ばれる人たちにとって都合の悪いことがあるのだろうか・・・・・。
あまり知りたくない・・・・・・・。
現実の世界でも、私の目の前の光景はおおよそ常識外れ・・・。
一体どう反応すればいいの・・・?
「ん~、殿上人様はワタシのドールちゃんにお任せシテ・・・」
律子が困惑していると、彼女の目の前に突如、公子の間に付近にいた魔女が瞬間移動して立ちふさがった。
「さ~て~、この可憐なお嬢さんはいったいだれなのデショウ~♬」
「律子!!!危ない!!!逃げて!!!!!!!」
公子は律子の元へ行こうとしたが、その前に少女が立ちふさがる。
「私を無視したら死にますよ。殿上人様」
「くっ!!やけに生意気な態度をするじゃない、木偶人形の分際で!!!!!」
公子は少女に対し、攻撃魔法と格闘戦を混ぜた攻撃を加える。
それに少女はそれを互角に受ける。
人間らしからぬ完璧な、不自然とさえ言えそうな体さばきで。
転移魔法を使おうにも、この少女の攻撃はほとんど休みがなく、転移できる隙がない。
まるで人造人間とでも言わんばかりの呼吸すらろくにせず打撃や魔法を繰り出していく異常さ。
正直、公子もこのような戦闘マシーンのような人間がいることは把握していなかった。
公子が少女と戦闘を交えて足止めを喰らっているのを尻目に、魔女は両掌を律子に向けて複雑怪奇な呪文を唱え始める。
両掌の前に赤い魔法陣が浮かび上がり、その中心に素人にもわかるほど激しい熱を帯びた光が凝縮されていく。
「ユーにはきれいに死んでもらいマスネ!なんかユーはデンジャーなナニカを感じるのデース!!」
「危険すぎるって!?私はただの女子中学生です!!何も悪いことはしていませんよ!!」
「ノープロブレム!!ワタシたちはジャパンのローを守る義務アリマセン。ユーは将来ワタシたちの地位のすべてをマズくする可能性がありマス!!フューチャーの禍根は全部発見次第カットしておくのがワタシのポリシーネ!!!」
「律子!!!逃げて!!!!!!その魔女の魔法は殿上人に準ずるクラスの攻撃呪文!!!!!!いくらあなたでもそれほどの魔法は正面から受けると危険よ!!!!!!」
“魔法!!かなり巨大な火炎!!とても逃げられそうにない!!”
“どうしよう!!このままじゃ私・・・”
“・・・・・・・”
“逃げない!”
“今までの私は魔法の類を無効化できてきた。なら、自分を信じるしかない!!!”
律子は両腕を伸ばし、両手の手のひらを今まさに放たれようとする火球に向けて身構えた
「来い!!!!!!!」
「ワオ!!!!エスケープしないなんてリアルにスチューピッドデスネ!!!!予定より早くユーを消せそうで何よりデース!!!!!!!!!!」
魔女は限界まで収束させた攻撃魔法を放つ!
巨大な火球が律子に向けて襲い掛かった!!!!!!!
迫りくる熱はすさまじく、皮膚から伝わる高温は本能的な死の恐怖を感じとるのに十分すぎるほどだ。
その攻撃はハッタリではない。
自分をこの世から本気で消すために放たれたものだと律子はすぐに悟った。
「律子ッッッッッッ!!!!!!!!!!」
公子の叫びがこだました。
ボボボッブフフッッッッッッ!!!!!!!
高温と大気までもが焼けると言わんばかりの巨大な火球が律子を正面から直撃した。
すべてを呑み込む巨大火球。
火球は喰らったらどのような生物も骨すら残らないだろうと言わんばかりの勢いで、周囲のビルの壁や花壇、ゴミ箱なども消し炭にしていく。
だが。
律子に巨大火球が直撃した直後、それは徐々に小さく縮んでいき、まるで掃除機のように最終的に律子の両掌に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「・・・・・・・・、ワイッ!??ワタシのマジックはドコ!!?マジックが消滅シタ!?」
「ッッ!!!やっ、やった!!前と同じように魔法を消せた!!」
「ウワイッッッッッ!!!!!!!?????ナンでワタシのマジックが消えちゃうんでスカー!!!!!!!!!」
「ンーーーーーーーーーーーー!!!!!!!さっきから何となく気にはなってマシタガ、ユーの目は何か嫌デス!!!!!!ユーの意識する周囲に近づくとワタシのパワーが減っていく気がシマース!!!!!!ユー!!!!!何か変なモノでも隠しテマスネ!!!!!!」
「魔法がない状態なら、私だって戦えます!」
律子は叫ぶと、左腕を前、右腕を後ろ、それぞれ手を顎のあたりまで上げるオーソドックスの構えになり、床を蹴って魔女との間合いを一気に詰める。
「ナマイキネ!!マーシャルアーツならワタシも得意とするところデス!!!!」
魔女は律子に対し、同じくオーソドックスの構えをとった。
構えは左腕を下に、右腕を顔の横付近に上げるボクシングのデトロイトスタイルの構えか!?
「これぞバアル様直伝の構えデス!!」
魔女は左ジャブから右ストレート、さらには間髪入れない右下段まわし蹴りを放つ!
それに高速の左ジャブの連打が行きつく暇なく放たれる!
律子はそれらを横に移動して手際よくかわしていく。
“ひさしの大きい帽子をかぶりながら、この動きは速い!”
律子は思い切って間合いを詰めると、勢いがやや遅くなった右ストレートを自らの右手で相手の肘付近を払い、さらに左手で回し受けをして払いのけた。
二重に払うことで強烈な突きも払うことができる技である。
そして、魔女が体軸を崩したのと同時に、腰の回転と腕の回転を合わせた右正拳突きを魔女の腹めがけて放った。
「!!!!ッッ!!ブウゥゥゥッッッッッ!!!!!ミゴトなコークスクリューブローデスネェェ!!!!・・・・・・んげブゥゥゥッッッッッッ!!!」
一瞬の動きで魔女には何が起こったのかすぐには分からなかった。
が、律子のひねりの加わった右正拳突きが水月に直撃した魔女は、少し我慢した後、内臓に耐えがたい衝撃が走り、左足を地に付けて悶絶した。
突きと同時にやや膝を動かし、相手の体にインパクトした直後にやや腕の力を抜く沖縄空手の妙を加えた正拳突きは、衝撃を直接内臓にまで響かせる重さがあるのだ。
「!!ッッッッッッ!!いっ、痛いのが・・・、ずっと響きマ~ス!!!」
“私に代わりなさい”
“ワイ!?エレン!今いいところなのにナンでユーが出てくる必要ワ―!?”
“この少女はあなたでは役不足。変わるわよ!”
“モー!!!!カワイイジャパンバージンガールとイチャイチャできるとこだったのニイィィィ!!!!”
どうしたんだろう?
あの魔女っぽい人、先ほどから独り言を言っている。
まるであの人の中にもう一人の人格でもいるかのような騒ぎっぷりだ。
すると、左足を地面につけていた魔女の表情に生気が急に戻り、まるで何事もなかったかのようにスッと立ち上がった。
「・・・分かりましたわ。新世界で選別石に触れて自我を失わなかったイレギュラーとはあなたの事ですね!!!」
とぼけた感じが急に変わった。
日本語も私たちと同じくらい違和感のないしゃべり方になった・・・。
さっきまでの態度はとぼけていたの!?
「私の母国でもニューワールドで起きた事件のことは有名なのですよ」
「ニューワールドにおいて、日本の殿上人の召使を叩きのめした女子中学生がいるという話は我が母国においてもすでに把握されております」
「最も、あなたがそうだったとはどうゆうわけか把握できておりませんでした」
「本来、殿上人様方を除いて、地球上の人間はニューワールドの磁場を克服することはほとんど不可能なはず。今の戦いぶり、磁場を克服した少女とはあなたですね?」
「いったい何を言っているのですか?あなた、さっきとはまるで性格が変わったような感じがします。話し方もまるで違うし・・・」
「ああ、申し遅れました。私の名はエレン。先ほどまであなたたちとお話しをしていたのはアンジェリーナの方です」
「・・・???どういうことですか?まさか・・・」
魔女は金髪の髪を触りながら、胸に右手をあてた。
「ご想像の通り、この肉体は私を含めて数人が共有しております。あなたたちの常識の中ではそれを多重人格といいます」
「多重人格って・・・。それじゃあ、あなたやさっきの人以外にも誰かがあなたの体の中にいるっていうことなのですか?」
「その通り。先ほど話していたアンジェリーナは細かい資料とかにはめんどくさがって目を通そうとしない人格の方です。でも、私は新世界で起きた事件など、細かい分野を把握している人格です」
「一体どうしてそうなったのですか?」
「・・・、いいでしょう。あなたもどのみちもう一般人の生活に戻れないからお教えいたしましょう。私はアメリカ陸軍フォートデトリックにて計画された超人兵士生産計画で生まれた者です」
「超人兵士・・・???」
「簡単に言うと、薬物や催眠術による認識の改変と言った従来の兵士のためのチューニングに加えて、ニューワールドの磁場を通常の人間が適合できるようにするために計画された脳の神経改造の過程で偶然適合した結果、誕生したのが私たちです」
「オリジナルはアメリカの大学に通っていたごく普通の女子大生です。被験者となったおかげで、彼女はニューワールドの磁場に適合できて相当な超人能力と頭脳を得られました」
「けれど、いろいろとそれで私のような人造人格が複数できて、オリジナルは・・・まあ、お話はこれくらいにしておきましょう。ああっ!!私ったらダメねえ!!いろいろ余計なことほのめかすクセがあるわ!!!」
「なぜ私がここまで丁寧に機密に関わることを説明するかお分かりですか?」
「・・・わかりません・・・」
「あなたを確実不可逆的に消すためよ!!!!」
「全くまともな話をする気がありませんね!!」
律子の困惑に魔女は落ち着き払いながらも内心は荒波が立っていた。
表情は相変わらず穏やか。
だが、魔女の心中はプライドを傷つけられたことへの怒りで煮えくり返っていた。
魔法も格闘技も随一の実力と自負していたのが、たかが素人の人間ごときにダメージを負わされたのだ。
“目の前にいるのは殿上人でもないタダの人間”
“多少新世界で磁場を克服したのか知らないが、生半可な小娘ごときが世界最高の人造超人たる私たちに痛手を負わせるなどバレようものなら恥さらしもいいところよ!!!!”
“鳩崎秀樹め!!新世界に不法侵入した女がいることは私たちもわかっていたけど、上位魔法まで無効化できるとか聞いてないわよ!?しかも、素人とは思えぬこの格闘センス!?いつもあいつらは肝心なデータを開示しないんだから!!”
“まあ、あいつらもこの少女を始末したがっていたし、消しても文句はあるまい!!”
“・・・いや、普通の人間の分際で私に痛みを感じさせたのが許せない!!!!!”
“ここは跡形もなく消えてもらわないと腹の虫が収まらないわ!!!!!!!”
“あまり使いたくないけれど、やらないと後悔するわ!!!!!!!”
「闇の深淵よりいでし黒の支配者よ。目の前の処女の生き血を喰らいなさい!!!!」
魔女は不気味な呪文を詠唱する。
途中、なぜかわずかに魔女は吐血した。
そしてその血を指に付け、目の前に出現した青い魔法陣へとその血をつけた。
直後、魔法陣は血のように赤く染まり、魔女の全身を透過して背後付近にある彼女の影へと吸い込まれるように消えていった。
そして、暗い中でうっすらと見える彼女の影がうごめき始めた。
まるで何か生き物が池から飛び出そうとしているような、寒気がする何か。
“何かが来る!!!!!!“
「痛っ!!!」
“何かが目にもとまらぬ速さで飛びかかってきた!!”
“私は少し爪のような攻撃で手を切ってしまった”
“何か得体の知れないものがいる!”
“動物!?”
“違う!”
“何か実態があるのかないのか分からない何かが、何!?”
黒い影は魔女の脇に戻ると、頭が3つもある凶暴な狼のような化け物へと姿を変えた。
その姿は真っ黒で、黒い炎が全身からメラメラと燃えているかのような、凡そ現実世界のものではない異形がそこにいた。
「我が召喚獣・シャドウケルベルスの餌として、冥界へ生きたまま逝ってもらいます!!」
「この召喚獣は新世界の磁場、その中の純粋な闇の力を凝縮して召喚した魔獣。魔力を無効化できようと、通常の無効化能力の類をも呑み込む闇の力、あなたと言えども防げまい!!!!」
律子の前にかつてない闇の化身が、もやもやとした黒い深淵を燃やしながら立ちはだかった。
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