第92話 鳩崎秀樹のつぶやきは霞が関の闇に鳴り響く
東京霞が関、内務省国家公安局地下中央指令室。
薄暗い部屋には複数のモニターがあり、東京都内の主要な場所が映し出されている。
そのモニターの中の一つが新世界から帰還した一人の勇者の姿を映し出していた。
「“ガンマ”!現状を報告せよ!」
背広姿の中年男が無線機に向かって厳しい口調で言う。
「こちら“ガンマ”。“社員”がもう1名死亡。しかし、“CLOWN”は予定通りエンペラーホテルに向かっている模様。どうぞ」
「予定通りに行っているんだな。それならいい。大方、新世界の“傭兵豚”が“CLOWN”にゲロッたんだろう」
「はい、予定通り」
「よろしい。お前たちは引き続き“CLOWN”の監視を続けろ」
背広姿の男の後ろから、その話を聞いていたであろう若い男が飄々とした態度をしていた。
「素晴らしい。彼はどうやら我々の想像以上に進化を果たしてくれたようだ」
「最も、今は勇者というよりただの中学生の格好だけど・・・。いつの間に着替えたんだろうねえ」
「衛星と、“ガンマ”から送られてきた映像データを解析した限り、もう彼を単なるニート君ということはできなさそうだねえ・・・。多分、並のモンスターとかだったら即倒されちゃうよ。君ら公安局もなめてかかると危ないよ。まあ、僕らにはまだまだ及ばないけどねえ~」
「しかし・・・、秀樹様・・・。あのような危険分子を現実世界に帰還させてしまって本当によろしいのですか?それに加えて、あの特殊生物部隊もこの現実においては絶対に口外してはならない存在。間違って無知蒙昧の愚民どもが周知する事態になるとまずいのでは・・・・・・」
「心配ご無用。警察もマスコミもすでに我々の傘下だし、ブーズギ君の遺体も即座に回収させたよ。最もバラバラの肉片だからばれてもそれほど大事には至らなかったけどね」
「あの“傭兵豚”には最初から“CLOWN”に小笠原の居所を吐くようにシナリオを描いていたんだ。戦闘力はあるし、見かけによらず知能もあって特殊作戦をこなせるタイプ」
「けれど、それは圧倒的に優位な立場にある人間相手の時のみ。自分自身が危機に陥ると意外と早く口を割っちゃうタイプ。そんな彼は腕を上げた“CLOWN”にいい具合に役者としてセリフを言ってくれると思っていたんだ」
落ち着き払った若い男は淡々と話す。
その男、ブランド物のスーツを着こなす鳩崎秀樹は近くに置いてあった紅茶のカップを手に取りながらそれを口に含んだ。
「彼は順調に小笠原のところへ向かってくれている。豚にわざと小笠原の居所を教えておいて正解だった。彼に追い詰められればまず居所を吐くと踏んでいたからね。単純な豚さんはシナリオ通りのことをしてくれるから助かるよ。もっと長生きする役を与えといた方がよかったかなあ~」
背広の中年男はやや困惑した表情を浮かべている。
「鳩崎様・・・。あの豚もそうですが、先に“CLOWN”相手に自爆した者。あれもモンスターだと聞いておりますが、よくもまあ捨て石のような役をする化け物がいるのですね・・・」
「ああ、あれはアンデット系のモンスターだよ。彼らは仲間の魔法を駆使すると生き返れるし、たとえ死んでも次の世界へ生まれ変わってより良いステージへ行けると“信仰”しているから、命知らずで我々に協力してくれる奴が多くて役に立つんだ」
「・・・・・・」
背広男は黙ってしまった。
モニター前に陣取るオペレーターの女性が通信をキャッチした。
「鳩崎様、“ベータ”が葦國様とコンタクト、交戦状態に入ったとのことです」
「いいねえ~、それでちゃんと足止めできそう?」
「は、それが例の2名が少々出しゃばったマネをしたようで・・・。自分たちだけで葦國様を足止めすると申して現在、2名のみで交戦中とのことです。例の被験体“”の試験も兼ねてとのことで・・・・・」
「へえ~、結構あの魔導士ちゃんも自信たっぷりでいいねえ~。一緒にいるパパ活やってた悪い子は本来六本木のお偉いさん方のおもちゃにする予定だったけど、お薬と魔法の混合実験で実力が部分開花したから別のおもちゃとして働いてもらうことになったから丁度いいか~」
「けど、危なくなったら防御に徹底して可能な限り時間を稼いでと伝えて。いくら脳を特殊改造してあるとはいえ、無理して磁場を克服させてあるから色々負荷がかかりすぎるとまずいからね。防御は攻撃よりも強力な戦闘様式だから、殿上人相手でもそれに徹すれば時間稼ぎくらいはまあできるでしょう♬」
「承知いたしました!」
「あと、“CLOWN”には被験体番号P9613・“REINCAR”を用意しておく手はずは整っているよね?」
「抜かりなくいつでも出撃できます」
「それから肝心なことを。ミーシャは例のホワイトエルフの娘を無事拉致できたようだね」
「はっ!現在ミーシャ様は小笠原冥様のいるエンペラーホテルの一室にてその娘を監禁中とのことです」
「順調順調。このまま“CLOWN”がエンペラーホテルへ向かってくれればそれでいい・・・。彼にはちょっと華やかな大立回りをしてもらおうじゃないか」
「被験体番号C5621・“CLOWN”、いや、サトシ君・・・。黄泉の磁場を克服して、挙句モンスターまで味方につけて、この現世に帰ってくるとは・・・。君には素直に敬意を示そうじゃないか」
「“役に立つ白痴”として!」
鳩崎秀樹はそう叫ぶと、モニターの画面のブルーライトで照らされた無機質な部屋からそそくさと出ていった。
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