第90話 現実世界への自問自答
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“さて、あの豚野郎も爆散したとこだし、野次馬が来る前にさっさとここを離れないと!”
俺は急いでこの公園を離れることにする。
幸い今日は人がまばらだったせいか、人が集まる前に離れられそうだ。
俺の長巻直しも急いで鞘を拾って納刀し、袋にしまい込む。
そして、そそくさと公園を小走りに離れる。
ホントこれ便利だよ。
もし量産してこっちの世界で売れば億万長者にまじめになれんじゃないか?
もっとも例のクソ女神からのもらい物であることを思い出すと嬉しさがマイナス50パーセントにまで一気に下がる。
やけに木々が生い茂った広いとこだからもしかしたらと思ったが、やはり上野公園だった。久しぶりで薄暗かったし、あの変な連中に気を取られていた。
先ほどの戦闘の緊張感が少し解けてきたからか、俺はあることに気づいた。
パトカーのサイレンが頻繁にそこら中から聞こえるのだ。
さっきのオークが爆発したり、その前には妙な野郎が自爆したりと爆発が相次いだから、それらの現場に向かっているのも当然あるだろうが、それだけじゃない。
木陰から大通りを見ると、警察の車列が頻繁に行きかっているのが見える。
数が不自然に多すぎる。
それに警察車両はオークやタクティカル自爆野郎の爆発現場とはあきらかに反対方向に向かっていく車両も多く見える。
俺の件以外に大事件でもあったのか?
・・・まさか!さっきの連中といい、俺は殿上人の連中にはめられたとか・・・!?
いや、まだわからない。
そう決めつけるのは早計だ。
とにかく慎重に小笠原のところへ行かないと。
さっきスローの魔法をまがいなりにも発動できたからよかったが、結構魔法力を食った。
ダークゴブリンのおっさんとこで修行していて実感したが、魔法にも簡単なものから難しいものまでバラエティに富んでいた。
ロープレでは単純にレベルを上げるだけで取得できるが、実際に置き換えると現実のスポーツとか武道と大して変わらないんじゃないかと思う。
まあ、某有名友情バトル系少年誌にはそこらへんが結構リアルに描写されている作品があったから俺も全く予想できていなかったわけではないのだが・・・。
単純に攻撃したりする魔法とかは取得が意外と簡単だった。
意外と難しかったのが防御や補助系の呪文。
敵の神経とか思考に干渉するのはかなり練度がいるということが分かった。
敵も無意識レベルで外部からの干渉に抵抗するから術者はそれを上回る実力を持っていないと失敗する確率が高いと魔導書には解説されていた。
ネットで昔のロープレの復刻版を昔の攻略本と一緒に買って読みながらプレイしていた時、僧侶とかがインテリっぽいイラストで攻略本に描いてあったのはそのためか、とふと思う。
その割に女僧侶がやたらフェテッシュな格好で攻略本を初めて見たときなんか結構ドキッとしたのは恥ずかしながら良い思い出だ。
もっとも、女戦士や女性キャラ専用のアイテムの中に結構過激なのがあって、今思うと結構あれで妙な扉を開いた小中学生は多いのではないか、などとふと思う。
そして、最も難しい部類だったのが“スロー”をはじめとする自然の摂理に干渉する呪文だった。
時間とか自然界の摂理に干渉するのは一番魔法力が奪われるのだ。
人智を超えた存在に干渉するからなのだろうか・・・。
しばらくしてから公園を離れて車道をごく平静に、それでいて前後左右上下へ常に警戒心をひそかに持ちながら歩く。
バス停が見えてきたので少しベンチに座る。
そして、さっきの袋から魔法回復用聖水入り米軍水筒を取り出し、少し口にする。
“うまい!”
聖水自体には特に味はない。
だが、魔法力を結構持っていかれたせいか、とてもうまく感じる。
全部飲んでしまうとまずいから、考えながら飲んで口を閉める。
バス停はいつもの雰囲気のままといった感じ。
このバス停に来たのは今回が初めて。
ここのいつものというのを俺は知らない。
けど、戦いの後、日常のにおいが残るバス停の掲示版はひと時の安らぎを与えてくれる気がした。
ベンチに座りながら頭の中で現在の状況を整理する。
あの黒ずくめの連中、あいつらの内少なくとも1名はモンスターだった。自爆した奴は知らん。
一体なぜこんなところに?
あのオークのデカブツはこの現実世界で殿上人どもの仕事を請け負っていたと確かに言っていた。
ミーシャの野郎は新世界で同じことをしていたらしいが、新世界に住むモンスターがこの現実で何の仕事を?
それもあんな戦に長けた、血肉に飢えた凶暴なモンスターを・・・。
どっちにしろ、きな臭いことありゃしないな・・・・。
まあ・・・、大体は想像がつく。
殿上人の表にできない政治がらみの案件を超法規的に処理するためだろう・・・。
この感覚は慣れないな・・・。
新世界で現実のマズイ実態を直視させられた俺は、それを知るたびに言いようのない不安と怒りが混ざったような感覚に襲われる。
今もそれを感じる。
これ以上こんなことに本当は関わりたくない、ごく普通の中学生として人生を本当は過ごしたいと、内心自分でも気づかないどこかで思っているからなのかもしれない。
いずれにせよ、あんな新世界の化け物を傭っているとはこれまた厄介だぜ・・・。
俺は荒れた学校の雰囲気と両親の無理解になじめずに引きこもりニートにならざるを得なかった。
そして、連日パソコンだけが外の世界との窓口だった。
だが、一日中ネットに張り付いていると、テレビや新聞と言った表のメディアにはまず出てこないほど現実に対して漠然と批判をするコメントとかをよく見かけた。
つまり、新世界に飛ばされる前からなんとなく現実に不満を抱えた人間は多いことには俺なりに気がついていた。
閉塞感に満ちた今の世の中を何とかしたいと思う人間は今の時代にも確実にいる。
でも、日本ではそれを表現すると異常者扱いされるのだ。
完成された目に見えない全体主義システムができている。
そうとしか思えない。
俺は新世界や現実世界をどうしたいのか、自分なりに考え続けてきた。
結論は、誰でも自由気ままに自分らしく生きれる世界にしたい、というものである。
俺に政治のことは何にもわからない。
でも、ヒステリックに政治運動をする変なのを見ると無意識に嫌悪感を感じていたのを覚えている。
左だろうと右だろうとだ。
ダークゴブリンのおっさんのところには戦後日本や世界に関する歴史書や記録も国会図書館並みにそろっていた。
最高だったのは新世界でも魔法の力でインターネットへアクセスできたことだ。
水晶ガラスでできた画面上の板に通信系の魔法の技術を応用すれば、現実世界の通信網にハッキングすることも比較的容易に行えた。
ダークゴブリンのおっさんによると、かつては現実世界の通信にアクセスするのはかなり困難だったが、現実世界との巨大な出入り口ができてから飛躍的にアクセスしやすくなったらしい。
おかげで俺は動画投稿サイトでこれまで興味のかけらもなかった社会情勢とか過去の政治とかの記録映像とかを視聴し続けながら、それら資料を読み込んだ。
俺なりの結論。
“左右の対立など存在しない。大衆をどちらかに丸め込んで買い殺しにして管理誘導する全体主義体制でしかない。それも、大衆にとってそうとは気づきにくい、完成された社会システムが俺たちの人生を息苦しくしている”
だから、この現実世界で不満を持つ人間は多いと思い、俺はインターネット上で現実の政府などが新世界へ棄民する政策をとっていることを告発する内容のことを書いている。
だが、その際に気を付けていることは、左右どちらの勢力にもくみしない、取り込まれないようにするということだ。
歴史や政治とかの本を読み進めながら、動画投稿サイトで昔の政治関連のことを見て思ったことがある。
それは正当な権利主張をする人、苦しい状態から解放されたい人の味方を装ってそれらの人に近づき、取り込んで訳の分からないイデオロギーやカルト宗教的教義の宣伝のダシに使う組織が日本には不自然なまでに多いという事実だ。
いつの間にか味方を装ったそいつらに取り込まれて正当な権利主張や自由の主張が骨抜きにされてしまう。
それは残業代の支払いや、パワハラでの精神疾患を患った人の労災訴訟などから、純粋に歴史的な価値観を守りたいという人までがターゲットにされている。
より具体的には、前者のような人には左翼系の組織が、後者には右翼系・保守系の組織がいつの間にか味方を装って近づいてくるのだ。
それらの組織は最初のみ一見よくはしてくれるそぶりをみせるが、実際は人生と金銭両面を巧妙にだまし取り搾取されるカルト体質を剥ぎだしにして被害者を陥れるという。
しかし、それらの組織やグループ、個人いずれもが、被害者を生かさず殺さずなあなあで買い殺しにし、決してそれらの人の苦しみを解決することはしない。
それどころかその苦しみを自分たちの政治運動のダシにするのだ。
要は、犠牲者はいつまでも犠牲者であり続けねばならず、決して犠牲者が回復したり、自立したり、事件が解決するなどして立ち直ることがあってはならないと連中は考えている節があるのだ。
まるで他人を常に生贄に捧げ続けなければならない呪術をやっているかのような精神構造を感じる。
中には、問題のある組織や個人を批判することでいかにもまともな人を装いつつ、権力から理不尽な弾圧を受けている人に近づき、うわべだけ権力批判をしてその人を取り込み陥れる詐欺師もいるという。
当然その詐欺師は権力筋とグルであり、うわべだけの権力批判をすることで集まってくる不満分子を権力筋へ密告・弾圧するスパイの役割も兼ねているというのだ。
しかも、それらいかにも対立しているかのように見える左右の勢力は、いずれも権力筋と裏でつながっていて、大衆を取り込んで無力化し、権力の都合のいい落としどころに人々を陥れるのが任務なのだ。
そして、殿上人の中には左右の政治勢力、さらには全業界の主要な人物や組織をつなぐ黒幕的な人物が存在するという。
おまけに、現実世界を太古から一貫して支配している要素がある。
黒魔術だ。
人間のどす黒い俗の欲望をすべて叶えてくれる部類の魔法である黒魔術は、殿上人層が一貫してその極意を独占し、世界中を支配するツールとして使っているらしい。
もしかして、俺らが言いたいことをはっきり主張できないのは、黒魔術による呪いも関係しているのかもしれない。
結果、日本では正当な権利主張をすること、自由な人間としての人生を謳歌するごく当たり前なことですらわがままとか左翼活動家の集団が主張する異常なことと認識されてしまい、ほとんどのサラリーマンなども権利主張すらできなくなっている。日本でブラック企業が猖獗を極めている原因だ。
片や歴史的な素朴な価値観を守ろうとすると、今度は右翼活動家のようなレッテル張りをされて一般から危険視されてしまう。
それでいて、どこかの組織に所属しておかないと、あらゆる組織からストーキングなどの人権侵害の被害を受けてしまうため、一般人はそれに耐えられずどこかの組織に服従せざるを得なくなるというのだ。
要は、よくよく日本社会を観察すると、驚くことに左右のイデオロギーから自由な中立的立場でものを言える場所がまったくないのだ。
ダークゴブリンのおっさんのところで読んだダークゴブリン軍諜報部隊の記録に書かれていたこの報告書を読んだとき、俺は今まで感じていた息苦しさの原因が中学生ながらに分かった。
この左右どちらに転んでも権力のエゴに取り込まれてしまうシステムの外に行かなきゃだめだ。
そいつらは一つの例外なく権力の飼い犬に過ぎない。
絶対にそいつらに取り込まれてはならない。
そうするにはどうすれば?
俺はせっかく新世界の磁場に適合できるチャンスを得た。
新世界までは今のところ現実世界の影響が届きにくいメリットがまだある。
どうすればいいんだ?
おっと!
今はそんなことを考えている場合じゃない。
エンペラーホテルにいるという小笠原とかいう殿上人。
そいつに会って事の事実を聞き出さないと!
そして、ホワイトエルフの族長の娘を取り返して、とりあえずまずは新世界で俺の領土を確立するんだ!
“自由を求めて!!!!!!!!!!!”
俺は心の中でそう叫び、周囲の警察などに怪しまれぬよう平静を装いながら、小笠原がいるという丸の内エンペラーホテルへと急いだ。




