第89話 死闘。そして殿上人の手がかり
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ブンッッッ!!!
ヒュンッッ!!!!
3メートル近くはあろうかという筋骨隆々のオークがカットラス風の豪刀を軽々と振り回す!!
俺は左右に素早く移動しながらそれをかわすが、このオーク、とにかく斬撃が速い。
刃渡り190センチはあろうかという豪刀を片手のみで軽々と振り回す。
それだけでなく踏み込みも早く、でかいガタイから想像しがたいほど体の動きがしなやかだ。
このデカブツオーク、ただの筋肉バカではなくそれ相当の剣術の腕を持つ奴だ。
素早く斬撃をかわす俺に対し、顔に刀傷を持つ巨体のオークが怒鳴り声をあげる。
「ちょこまか動いてんじゃねえよ!!ガキンチョがあぁぁぁ!!!!」
これほどの斬撃は受ければ力負けする。おまけに小型のナイフじゃ受けるのには役不足か!?
渾身の袈裟斬りを俺は寸でのところでかわす。
ズガッッ!!!!!!!
ギイイイイイイィィィ!!!!!
ドンッ!!!!!!!!!!!!!
かわした直後、俺の背後にあった公園の大木が居合道の巻き藁のようにきれいに切られた。
大木が大きな地響きをたてて倒れる音が公園内にこだました。
直後、俺は脱兎のごとく加速し、刀を振り下ろした直後のオークとの間合いを一気に詰める。
狙いは一気に奴の首を突き刺すこと。
だが!
ドゴッッ!!!!
「グッッッ!!!!!」
ズザザザザザッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!
片手で振り下ろされた体勢から元の姿勢に戻る際の腰のひねりを入れた丸太のようなオークの左正拳突きが俺のみぞおちにヒットしてしまった。
俺はそのまま吹っ飛ぶ形で公園の木々に叩きつけられた。
「バカめ!!オレがなぜ片手で持つ剣を選んでいるか見抜けんとはな!!」
俺は血反吐を吐き、それを手の甲で拭いながら立ち上がる。
「べっ!!!その体の使い方。剣だけでなく徒手空拳も使うタイプか!?」
巨体のオークは得意げな顔でゲラゲラ笑う。
「ご名答。本来、武術とは武器術と、肉体のみの体術両方で成立するもの。昔の人間どもはそれをわかっていたが、時代を経るごとに武器術と体術を分けてしまうようになりおった。要は平和ボケして戦いの本質を忘れちまったのさ。“すべての手段を使って戦う”という戦いのごく基本的なことをな。オレたちのように日々戦い続けている立場からすると、人間なんて生物としての生存本能がとめどなく退化し続けて絶滅に向かっている種族でしかないわ!!」
「あらゆる生命体は生き残りをかけて戦う遺伝子が組み込まれている。それを否定すりゃ絶滅するか、永遠の奴隷にされるか2つに1つよ!!オレたちはそんな中で生き続けているのさ、分かったか虚弱な人間小僧!!!」
“予想以上に剣の腕が達つ野郎だ。仕方ない。俺も長物を使うか”
俺はタイパン・サヴァイヴァルナイフを腰の皮シースに収めると、素早く布の袋を取り出して目当てのアイテムを心で念じながら手を突っ込む。
すると、袋から刃渡りの長い日本刀が取り出された。
即座にそれを鞘から抜いて、目の前のデカブツに切っ先を向ける。
「!?ほう?何を取り出してくるかと思ったら、なかなかの得物を持ってんじゃねえか小僧。その刀身からして長巻直しだな。こだわり品を見せつけてくれやがるブッヒッヒ!」
「へえ~、お前なかなか詳しいじゃん」
「人間を解体することを生業にしてきたオレにとってそれくらい知ってて当然。人斬り包丁の性質くらい瞬時に見抜けなきゃこの商売はやってられねえんだよ!!」
「オレ様は長年傭兵としてこの腕一本でのし上がってきた。磁場の力だけでのぼせ上っている連中とは格が違うのよ」
「新世界で多少腕を磨いたようだが、ここで解体させてもらうぜ。粋がった若い人間の生き血はカクテルに混ぜると格別だからなあ!!!」
「おまえこそなんでこの世界にいる?住処は新世界の方じゃないのか?ここは人間の住む世界だぜ!」
「俺は長年、この人間どもの世界と故郷を行き来している身でな。人間どもは間抜けで楽だ。人型に変身してりゃ誰も気づかねえからな!!おかげで仕事がしやすいわ!」
「お前ら、飼い主は誰だ!?誰に雇われた?」
「ンなこと聞かれて口を割るアホは少なくともオレの仲間にはいない。聞きたきゃ力ずくで来な!!!」
問答無用の斬撃が休むことなくオークから繰り出される。
下手に間合いを詰めても今度は拳法による攻撃が来る。
“あらゆる手段を駆使する“
“思いついた。ならやってやる”
俺は長巻直しでオークにオーソドックスな袈裟斬りをかます。
オークはそれを片手だけで保持したカットラスで受け止めた。
休む間もなく連続の斬撃を繰り出す。左右に不規則に移動しつつ斬撃と突きをコンビネーションで繰り出す。
だが、俺の攻撃をオークはすべて受け止めるか、皮一枚切らせてギリギリのところでかわした。
間合いの取り方と言い、不規則な動きに対応するボクサー並みのフットワークと言い、厄介な野郎だ。
「その程度か小僧。そろそろ終わりにさせてもらうぜ!!」
オークはそう叫ぶと、高速で俺の周囲を旋回し始めた。
速度が徐々に上がり、俺の周りに無数のオークの残影が現れる。
その数、約20以上!
「貴様には俺が数十体以上見えるだろう!本物のオレを見分けることはできんぞ!!!」
“今の俺にできるかどうか。こいつに通用するかどうか、一か八か試してみるしかない!”
俺は冷静に自分の周囲にある地面にある魔法をひそかに唱えた。
地面に水を撒くような感じで魔法が俺の周囲にまかれてセットされる。
「死ね!!!!」
オークは俺に向けて四方から同時に切りかかってきた。
どれが本体か見分けることはまず不可能。
そして俺が特定の魔法を仕掛けた地面に足を踏み入れた瞬間。
「おら!!!!!へ!!う!!げ!!足が!!!」
高速で移動していたオークの速度がみるみるうちに鈍くなっていく。
“やった!!”
「少しヒヤッとしが、通じてくれてよかったぜ。こいつは時間鈍化魔法“スロー”を応用したもの。かけられた対象の運動速度を数十分の一にまで下げる」
「スッ、スロー!?時間を操る魔法までてめえは取得していたというのか!!?」
「こいつは結構難しいし疲れるんだよ!!」
俺は長巻直しの柄をしっかり握りしめて、渾身の袈裟斬りをオークに向けて放った。
長巻直しになまくらはないと言われておる通り、抜群の切れ味はオークの体を鎧ごと切り裂き、深手を負わせた。
「ブッ!!ブウゥゥゥッッ!!!!!!!!!こんな手にかかるとは!!!!」
オークの巨体から力が抜けてその場に地響きのような音をたてて仰向けに倒れこんだ。
“厄介な野郎だったな。スローの魔法は時間をいじる高度な魔法だからできるかどうか自信がなかったが何とかできてよかったぜ”
“それにしても、このデカブツ単体だけを俺に差し向けて、他の奴らはさっきから何をしているんだ?”
“虫の息状態のこいつを助けるそぶりすら見せねえ?”
“それにさっきからビデオカメラみたいなのを向けて何かこそこそ話していやがる・・・”
なんかコソコソしている連中の態度に無性にむかっ腹が経ってきた。
「さあ、次はどいつだ?全員まとめてなます切りにしてやってもいいんだぜ!」
通常の日本刀と少し違う長巻直しの鋭い切っ先を向けられた黒ずくめの集団は落ち着き払っていた。
「お見事です勇者様。これであなたは色々役立ってくださることが分かりました」
「何を訳の分からないことを言っている?」
「ここは一旦引かせていただきますね」
指揮官風の野郎がそう言うと他の3名の姿が突然消えた。
転移魔法の一種か?
続いて指揮官風の野郎も消えるそぶりを見せた。
「おい待て!!お前らを差し向けたのは誰だ!?何もんだ?」
「ああ、君の知りたいことはそこにはいつくばっているオークに聞けば分かりますよ。じゃよろしく♬」
そう言うと、指揮官風の奴の姿も消えた。
俺は足元ではいつくばっているオークを尋問する。
「おい!デカブツ!お前らを差し向けたのは誰だ」
「へっ、殺せ!!口を割るほど甘かねえんだよ!!」
「そうかい」
俺は今さっき思いついた魔法の応用技を仕掛けることにした。
指先を伸ばして力を入れ、指をまっすぐにする。
続いて、指先に魔法力を込める。
指先が黄色く光を放ち始める。
そしてそれを、はいつくばっているオークの体めがけて突き刺すように突いた。
オークの体に先ほど指先に集中した魔法力が注入されていく。
「グウッッ!!!てっ、てめえ!!何しやがった!!!」
「解放前の爆発系魔法のエネルギーをお前の体内に注入した」
「あと3分でお前は体内で魔力が暴走を起こし、跡形もなく吹き飛ぶ」
「なっ、なんだと!!この野郎!!汚ねえマネしやがって!!!!」
「死にたくなければ質問に答えろ、豚野郎。答えたら助けてやる」
「何だとこいつ!!今すぐ魔法を解除しやがれ!!!」
俺はオークの顔を足で踏みつける。
「まるで自分の立場が分かっていないようだな。このままだとお前の命はカップ麺の調理時間で終わるんだぞ」
「わっ、分かった!!何でも言う!!!言うから助けてくれ!!!!!」
「お前たちを雇ったのは誰だ?お前はどの組織の所属だ?」
「おっ、オレはさっき逃げたリーダーからお前を襲撃しろって言われただけだ。俺はオムニの町で超人族とかからの依頼を受けてお前たち人間の世界での汚れ仕事を請け負う傭兵ギルドの所属だ!!!リーダーとは新世界のオムニの町の酒場にある傭兵募集所で初めて会って、臨時にオレや他の奴を雇っていやがった!!」
「そのリーダーの正体は?」
「分からない!初めて出会った時からずっと覆面をしていた!!けど、直感的に人間だったと思う!!」
「人間?どんな奴だ?男か?女か?」
「正体は一切明かさなかったから分からんが、かなりの戦闘力と魔法力を持った奴だった。男か女かはわからん。オレの嗅覚でもそいつの性別はわからなかった。理由はわからん!」
「他に知っていることは?」
「そっ、そうだ!!確かリーダーは小笠原とかいう超人族、この世界では殿上人という特権階級の女に雇われたとかほざいてた!」
“やはり小笠原の手の者だったか!?”
「小笠原とかいう殿上人は今どこにいる?」
「丸の内近くのエンペラーホテル!今晩そこで小笠原財閥の記念式典が開かれている!!小笠原のトップが今いるとすればそこだ!!」
「葦國公子とかいう殿上人を知っているか?」
「そっ、そいつは知らねえ!!名前は知っているが詳しいことは何も知らん!!!」
「そうか」
俺はオークの顔面を踏みつけていた片足をあげて後ろを振り返り、その場から歩き始めた。
「ちょっ!!待て!!!魔法を解除してくれる約束だったじゃねえか!!!」
「人間の生き血が好きなんだろお前。今度は自分の生き血をセルフで味わってくれ」
「この人でなし!!!非人道的だぞコラ!!!!!」
「豚に人権なんぞない。人間を狩るお前らと同じ発想だ」
「そっ、そんな!!あんまりだ~!!!!!!!!!!」
「時間だ」
「たっ助けべ!ちっ、チヴァァァァァァ~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドドドゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
すさまじい爆発音と熱気とともに、オークは爆散した。




