第7話 律子にとっての陽炎のような安寧
霞先輩が新世界への土日合宿を開始する約1ヶ月前のある日の出来事。
私、上総律子はいつもの何気のない学校生活、それらがもたらしてくれる安寧をかけがえのないものと感じている。
午前中の授業が終わるチャイムが鳴り、生徒たちは一斉に昼食時間になった。
私は天気のいいときは外に出て昼食をとることにしている。
もちろん一人ではなく、友人や先輩と一緒にだ。
「ねえ、律っちゃん!一緒にご飯食べようよ!」
親友の紗月ちゃんが話しかけてきた。
「うん、いいよ。」
紗月と会話しながら歩いていると、前方から見慣れた顔が。
霞先輩だ。
「私も一緒にいいかな?律子?」
手にお弁当と水筒を抱えた先輩がこちらに歩み寄ってくる。
私たち3人は昼休みに一緒にご飯を食べながらお話をするのが定番になっている。
学校の中庭の一角にある、3~4人がちょうど腰掛けられる余裕のあるベンチが私たちの指定席だ。
何気のない昼休みの、先輩と友人との昼食。そこには広がるのは、一般的にイメージされる日本の学校風景の光景。
だが、そこに広がっているのは、誰もがそうでありたいと願いながら、誰も届かない光景。
こんな光景は、エリートか、底辺かのどちらかにほぼ二分されつつある現代日本ではもう絶滅寸前らしいのだ。
「律っちゃん。今日放課後時間ある?部活休みの日だから近所にできたばかりのクレープ屋行かない?」
「うん、いいよ。私も今日時間あるし。それにしても紗月はおいしそうな店を見つけるのが得意ね。食べすぎは良くないよ」
「心配ご無用。私こう見えても結構運動する方なんだよ」
「私も行きたいな~。でも予備校の勉強も忙しいし、また今度になるかな~。そういえば最近は土日も予備校とかだし、私、前に休み取ったのいつだったっけ?」
「霞先輩って勉強しすぎじゃ・・・・・。体壊しちゃだめですよ」
「律子は進路の事とか考えてる?今の時代、中学から真剣に考えておかないとだめよ」
何気のない会話の数々。でも、誰も互いの個性を尊重してくれるという点で共通している。
あなたはあなた、私は私。それでいいじゃない。
ごく当たり前のようにあるような言葉。それでいて、現実にはまず成立しない言葉。
より正確には、その言葉は建前だけに存在して、実際には存在しないのだ。
お話をしながらの昼食が終わった後、霞は律子に言った。
「律子。いつ見ても髪の毛きれいよね。私、正直あこがれるわ」
「えっ、先輩!」
霞は律子の背後に回ると、律子の髪を丁寧に触った。
紗月もそうだが、霞先輩もよく私の髪を触ってくる。見ているときれいとのことでとてもうれしいのだが、なぜかとても恥ずかしい。
ものすごく緊張してしまうのだ・・・・・。
「霞先輩ばっかりずるい。私も律っちゃんに触りたい」
「ちょっ、紗月!?」
紗月も霞先輩も私の事を大事にしてくれる。この平穏な日々はとても贅沢なのかもしれない。このごく普通の安寧を守っていきたいものだ。
「律子」
「はい」
「スカーフの結び方が変よ。直してあげる」
霞先輩が私のスカーフを結びなおす。妙にはずかしいよ。
こんな感じで休みの時間はいつも過ぎていきます




