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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第6話 選別の兆候

「金星予備校新世界強化合宿へ参加の皆さん!全員の予防接種が先ほど終了しました。定刻通り14時に新世界へ出発しますので庁舎前に停車中のバスへ乗り込んで下さい」


庁舎のスピーカーからきびきびした声色の女性の声がロビーに響き渡る。


霞の所属する予備校生達へ新世界出発の時刻が来たことを知らせる放送だ。


「いよいよか・・・・・」


霞は緊張しながらもやる気と希望に満ちた心境になっていた。


先ほどのワクチン接種は正直何か得体のしれない嫌な感じがした。本当は嫌だった。

根拠はない。でも何か自分の大事なものを成功の代わりにこれから差し出しに行くような気がしたのだ。


しかし、自分が現実世界で成功するためには新世界での教育課程は避けて通れない。社会で成功している人はみんななにがしかの形で新世界での洗礼を受けているし、これをクリアすれば私も両親も安心した普通の生活ができる。少なくとも誰からも見下されない、将来を心配する必要のない、かつては多くの人々が享受できたと両親から聞いた憂いのない豊かな毎日が待っているはずなのだ。


私が成功した暁には、律子に対しても今回の事で心配かけたことを帳消しにして宝くじに当たったくらい助けてあげるつもりだ。


私は両親が私の学費を工面するために苦労していく背中を見て、世の中とはどうしてまじめに働いても苦労をし続けなければならないのかと思い、調べていくうちに知ってしまったのだ。


この世は公平なようで徹底して不公平だということを。


一見普通に努力すればいい人生を送れるようで、実のところ極少数の人間しか成功はつかめないという、得体のしれない何か見えない壁のような仕組みが世の中にあるということ。


これまでの日本では漠然と当たり前だとされてて来たごく普通の生活をすることが今ではとてつもなく贅沢で難しくなってしまったということが、たしか中学校の後半期くらいから朧気ながらもわかってきてしまったのだ。


全体から見ればごく一部のエリートのみが、憂いのない生活を享受できる。それが現実なのだ。


それならば、そんな世の中で一般人がエリートとして成功できる可能性のある数少ない方法が最難関大学に合格することだと私は次に考えた。

私の目指す大学は日本全国でトップクラスの大学。そしてそこに入った人間は政財界すべての有力者とのつながりが持てるチャンスが少なくともある。


だが、受験に努力すれば数少ない成功の道があると考えるほど、現実はそう甘くはなかった。


私がそう思うに至ったきっかけは、父が購読している有名ビジネス誌に特集されていた記事を読んだことだった。


“特集 知られざる新世界でのエリート教育課程 日本と世界のエスタブリッシュメントは新世界でどのような教育を子弟に施しているのか”。


それによると現在の難関大学に合格できるのは、遅くとも高校の時には新世界での特別課程をパスして想像できない程の卓越した頭脳を獲得するのに成功した人ばかりだということらしいのだ。そして、それら新世界での教育課程にパスした人材に合わせた入試改革が行われたため、特に難関大学へは新世界での課程をパスしないと到底合格できないほど入試の難易度が上がってしまったということが歴史的経緯と統計調査のグラフを添えて克明に解説されていた。


その難関大学の合格者はほぼすべて中学、中には小学校の段階から誰もが羨望のまなざしを向ける進学校、名門校に属し、その時点から新世界での人間の能力強化に耐える訓練を優先的に受けられる。しかも、一般人では金額的にまず無理な、段階的に無理なく新世界での磁場に耐えられるようなカリキュラムまで受けられるという。それによりエリート層の子弟は現実社会での努力のみで絶対身に付けられない頭脳や能力を手に入れているとその特集には書かれていた。それも肯定的で礼賛する論調で。


さらに絶望的なことを知ってしまった。

難関大学に進学するのはエリート層をはじめ実家に相当の資力のある人間が9割以上であるという点。奨学金を得て入学できる層はほぼ皆無に近いとのことだ。

第一、我が国の大半は奨学金とは名ばかりのローン、つまり借金を背負わされて入学している上、学生から金利まで取るという、奨学金という名称からは考えられない阿漕な搾取の構図となってまでいるという。


私は小学校も中学校も進学校出身ではない。今通っている高校も中堅校の中で上に位置する所だ。


もっとも、異常なまでの格差拡大によって、かつては普通だった学校が悉く底辺に落ちた中、今や絶滅寸前となったごく普通の中堅校といった方が正確なところだ。要は、今の日本には、全体からすると少数の名門校・進学校と、私の属する絶滅危惧種的な中堅校と、大半の底辺校しかないのだ。


教育を管轄する文部進歩省による徹底した学校間競争主義と、学費補助の削減により、不人気校とされたところには予算が下りなくなって不人気な底辺校へと転落していった。

難関大学も国公立ですらかつてと比較してべらぼうに学費が高くなったのは、国立も私立も平等に競争させるという政府全体の方針により、国公立大学もかなりの予算を自前で確保しなければならなくなったからだ。


おまけに前述したように難関大学に入るには新世界での厳しい教育課程をパスすることが事実上前提となったため、到底通常の学校のカリキュラムだけでは太刀打ちできないほどに入試の難易度が上がった。当初、このような改革案には反対論も強かったが、日本も欧米や中国、韓国のような少人数の超エリートを養成しなければ高度にグローバル化した世界で生き残れないという大義名分の元に改革が強行され、現在のようになってしまった。


しかし、そんなエリート街道を進めるのは実際のところ生まれながらのエリート家系ばかり。一般の家庭出身者や底辺層出身者はそうそう参入できない。



そんな絶望の中で唯一私にあるチャンスが学校や予備校での選抜を勝ち抜いて新世界での教育課程に推薦され、それにパスするという狭きルートだ。


難関大学に合格しているのはすべて新世界での厳しい能力向上課程をパスした人ばかりだが、その課程の中でも特に優秀な成績でパスし、かつ家庭の資産状況などを考慮して国に認められた人にのみ、現在の日本では宝くじに当たるに等しい全額給付型の奨学金が得られるコースがあるのだ。このような学費の全額負担をしてくれるのは、これ以外は国防軍の統合士官学校くらいしかない。


私が狙えるのはそれしかない。中堅校だけど勉強は最大限してきた。あとは努力だけでは到底難しい新世界の磁場に順応する課程に耐えてずば抜けた頭脳を手に入れることだけだ。


最もなんの前段階での訓練もなく新世界での課程に進んでパスする確率は極めて低い。


学校や予備校から推薦してもらった優秀者のみ新世界にいけるけど、その厳しさに耐えられる人は極めて少ないと噂されている。

なぜか正確な合格率・脱落率の統計はない。新世界での教育課程の合格者は予備校の掲示板にも掲載されない非公表を原則としているからだ。


それに、新世界での磁場に耐える課程はとてつもなく厳しく、かつよくない噂が本当とも嘘ともわからない形でネット上で飛び交っており、リスクは高い。でも承知の上だ。


もし私がエリートの仲間入りをすれば、一般ではまず入手できないようなコネも得られる。それがあれば律子の事も助けてあげられる。今の世の中、正直正攻法ではお父さんお母さんの世代ではまだ当たり前だったごく普通の生活をすることすら難しい。相当の専門技術なりを身に付けておかなければ誰もが嫌がるような底辺の仕事しかない。いや、それすらAIとロボットに大部分とって変わられているし、女性となるとさらに不利だ。社会問題の雑誌とかを本屋で立ち読みしても、本来は禁止されているはずの売春すら政府は黙認しているというありさまだし、底辺の学校ではそれらが公然化しているとさえ聞くし。


そんな立場に落ちちゃいけない!人間は尊厳が無くなると人間でなくなってしまう。それだけは嫌だ!!


だから私はここに志願した。幸い学校からも予備校からも推薦してもらえたからだ。

予備校の先生には進学校に行けばよいのにとも言われたが、当時の家庭の財政上とても無理だった。


霞は希望と不安と将来への覚悟が複雑に入り混じった心境を内に秘めながら、庁舎前でアイドリングしながら停車中のバスへと乗り込んだ。


バスの中はすでに乗車していた予備校生の活気に満ちていた。


ここに乗っているのは、自ら異世界での合宿を決意した猛者ばかりだからだ。


私のように難関大学に行くためにより向上したいと願う者たちの中で、特に学校や予備校の先生たちに推薦されたずば抜けた優秀者ばかりだ。


先ほど知ったことだが、我が予備校以外の予備校生や、他校の学校からの推薦者たちと合同での合宿になったらしい。毎回推薦してもらえる人数は限られているのでこうなることは多いと見知らぬ男子高校生が知り合いらしき人に言っているのが聞こえた。


プシューッ。ガタ!


バスの乗降口が閉まり、新世界に向けに向けて発車した。


小銃を構えた兵士が厳重に警備する検問を抜けると、いよいよ新世界へのトンネルが見えてきた。


一見すると高速道路にあるような普通のトンネルだ。元々国鉄のトンネルだったらしいが、複線用だったためか幅が広く、舗装整備すればバスも1台分は十分通れるくらいの大きさがあると窓から一瞬見えてすぐにわかった。


でも、トンネル内は完全に真っ暗。明かりが一つもない。バスは自前のヘッドライトのみを頼りに進んでいく。


テレビや雑誌で新世界の特集をしているのを見たけど、実際に行くのは今回が初めて。


約15分くらい進んだだろうか。突然、外の景色が明るくなった。


「うおーっ」


みんな思わず声を挙げた。


日本ではまずないような広大な平原と丘陵。ところどころに小さな森が点在しているのが見える。


日の光は現実世界と同じだとバスの車内からも感じた。


さあ、これから合宿頑張るぞ!

霞がそう思った矢先だった。


ブワッ


あれ・・・・・、なんだろう、この感覚・・・?


あたまがくらくらして・・。こころが表に全部出ちゃう感じ・・・?


私って・・こんなにじぶんのこと・・・誰だか思い出しにくくなったっけ?


意識が朦朧としていく。


なんの自我もない赤ん坊に戻った時のような、素直の極致のような感覚。


「・・・・・たし・・・なさ・・・」


何?誰?誰かの声なの?聞き取れない・・・・・。


何かの声。はっきり聞き取れない。幻聴?いや、それにしてははっきりしているような・・・・・、そうではないような・・・・・。


霞の意識が遠のいていく。遠のくというの厳密には不正確で、意識は残ったままそれを自分で動かすことができなくなるような、自分が自分のまま自分でなくなっていくような感覚である。


なんの声だったのかわからない・・・・・。


はっ!!


霞は意識を取り戻した。


いったい何があったのかと周囲を見回す。


でも何も起きている様子はない。


今のは何だったのか?


緊張や寝不足から幻覚でも見たのだろうか?


気分を切り替えよう。


霞がそう思いながらバスは合宿先の施設へと向かっていった。


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