第86話 サトシ、現実世界で行動開始。そして、陰謀の影
励みになりますのでよろしければブックマーク、評価、ポイントをよろしくお願いいたします。
東京都心。
久しぶりの現実。
俺にとってこうして街中を出歩くのは久しぶりだ。
もう日は沈んでいるが、すれ違いざまに出会う人の表情や雰囲気を感じ取れるようになった。昔は他人の事なんかまともに見れなかったのに我ながら驚く。
思えばあの糞女神にそそのかされたときにパーティを組んでいた連中との出会った時から少しは他人に心を許せるようになったからか?
引きこもりになったから、外の世界の空気は早く感じる。自分の部屋の中の空気も重かったが、外の世界はより重い。陰鬱な現実の世界の空気もまたうっとうしいものがある。
俺はこの現実から捨てられて新世界に飛ばされた。
世の中をわずかでも信じていた俺の常識は跡形もなく崩れた。
けれど、それでも新世界はまだ空気の流れが現実よりのんびりしていた気がした。
新世界には磁場はあった。
けれど流れている時間の速度は速くなかった。
磁場を偶然ものにできたからそう思うのかもしれない。
けれど、現実に戻ってきてなんとなくわかる。
“この世界の時間は早すぎる”
“考える時間なんか与えない”
“機械のように何も考えるな、命令通りにのみ動け。”
“文句を言うな”
“不平不満を言うな”
“上の人間に口答えをするな、疑問を持つな”
誰かと会話しているわけではない。
周囲に人はいない。
けれど、この世界、現実に戻ってきてからそんな上から目線の罵倒を常に言われている気がする。
新世界はそこは違った。
理由はわからない。だが、俺は新世界の磁場を克服し、あの研究所みたいなところから逃げられた。
それからダークゴブリンの老人と出会ったり、そこで新世界と現実世界の関係を知ることができた。
今まで“心の中”でしか言うことができなかった荒っぽいことも平気で口に出せるようになった。
モンスターがうごめく世界、あの世界には磁場はあっても意味が分からない重圧はなかった。
ダークゴブリンのおっさんがいたナタニエレの町。世紀末みたいな閉塞感はあった。
だが、うつろな目つきのモンスターどもにはそれでもなお現実の人間にないものを持っていた。
戦おうという気概だ。
今の現実にそんな気概のある人間は俺の知る限り今のところ見たことがない。
あの妙な武装集団。その中に宿敵・ミーシャはいた。
そして、ホワイトエルフの族長の娘さんを拉致して現実に逃げた。
それにあの殿上人の女。あいつもなんでホワイトエルフの族長のとこへ来たんだ?さっぱり訳が分からねえ・・・。
あの殿上人の女は確かにミーシャの一味が現実に逃げたと言っていた。
それで俺も現実に戻ってきたのはよかったが、ミーシャの野郎が言っていた依頼主の小笠原ってどこにいるんだ?
殿上人の一人らしいが、それ以外はニュースとかで見た財閥の一族ということくらいしか知らない。
時折、小笠原の系列の会社の看板を見たりはするが、それだけじゃわからない。
これは骨が折れそうだな・・・。
ミーシャの野郎を探し、ホワイトエルフの少女を取り返すためには、まずはなんとしても小笠原という殿上人の居場所を突き止めないと。
俺はその一心で夜の東京をさまよう。
あたりはごみが散乱し、割れた瓶や残飯を猫が漁る光景が広がっている。
家の中ではわからない現実がそこにあった。
ネットではよく今の世の中がおかしいって主張を書きなぐった書き込みやブログを頻繁に見た。でもし同じことを学校とかリアルな場面で見たり聞いたことはほとんどない。リアルではそう言った不平不満を言っちゃいけないっていう無言の圧力が間違いなくあった・
街中を歩くが昔ながらの細い路地が入り組んでいてどこだかわかりにくい。土地勘のないところを歩くのは新世界での冒険で慣れていると言えばそれまでだが、東京独特の新旧入り混じった町は時として並のダンジョンよりも複雑怪奇な様相を呈する。
日が落ちているせいか、俺が今歩いている路地は薄暗い。
古くて小さな寺院が密集しているところもあれば、時間が止まっているような古い民家もある。民家の前には大きな水がめがあり、水が張られた中には何かが動いている気がした。
それにしても人気がない。東京ってこんなに不気味なとこもあったっけ?
薄暗い路地の角を曲がったその時だった。
“!!“
サトシは足を止める。
目の前に黒ずくめのタクティカル装備に身を包んだ者たちが3名、行く手を阻んでいた。
すぐに後ろを振り返る。
いつの間にかそこにはさらに3名。
いずれも特殊部隊が身につけるような格好と覆面をしており、目だけで表情が見えない。
「お巡りさん・・・じゃあなさそうだな!」
ガチャ!
カチャ!
ザザザザザザザザザザザ!!!!!
一人の少年の周囲を一瞬のうちに黒ずくめの集団が2方向から挟み撃ちにする。
敵だ!
一瞬でそうとわかる風貌の者たちが彼に明確な敵意を向ける。
「サトシさん・・・ですね?」
「だったらどうする?」
サトシの質問に男たちは返答しない。
目の前にいる人数は3名。後ろも同じく3名。
全員がレッグタイプのタクティカルホルスターからグロック17と思しき拳銃を抜き、ポーチからサプレッサーを取り出して銃口にねじ込む。サプレッサーをすぐに取り付けられるようなタイプの様だ。特注なのか、彼ら自身でカスタムしたのかはわからない。
彼らのうちの1名が、問答無用に彼に引き金を引いた。
プシュ!!!
サプレッサー付きグロックから1発の銃弾がサトシに向けて放たれた。
だが、グロックから銃弾が放たれる直前に、サトシは上空へと飛ぶ。
同時に腰に付けている愛用のダガーを空中で抜き、一瞬で男たちの背後に着地すると、まず一人の背中をタイパンサヴァイヴァルナイフで突き刺した。屈強な存在がなすすべもなく倒れる。ただ、この存在が果たして人間かどうかはわからない。
新世界を経験したサトシにとって、目の前の存在が必ずしも人間とは限らないという警戒心に似た心情になっていた。
「チッ!!いったん下がるぞ!!!」
残り5名はあっけなく一目散に逃げ始めた。負傷した仲間を置き去りにして。
「おい!!待てよお前ら!!!!だれに頼まれた!!?どこへ行く!!!?」
黒ずくめの集団は仲間が倒れても助けるそぶりすら見せず、狭い路地をほぼ無音でかけていった。
その場に倒れた存在の胸倉をつかみ、尋問口調で話しかける。
「誰に頼まれた!?なぜ俺がここにいると分かった!?」
が、しかし。
「グブッ・・・。ケッケッケ!!お前の行先は地獄よ!!!」
ピッ!!ピッ!!!ピッピ!!!!
男の体から警告音のような音がする。
「こいつマジか!!!」
サトシは急いでその場から全力で走り去る。後ろは振り返らず、細い路地をジグザクにとにかく前に進んでそこから離れた。次の瞬間。
ドヴァアンンンンンンン!!!!!!!
周囲一体に響き渡る轟音とともに男は自爆した。
爆発は狭い路地の両サイドにあるコンクリートの塀をなぎ倒し、周囲の民家をも破壊していった。
日が沈んだばかりの静かな路地は一瞬で非日常の空気に包まれた。
「隊長。被験体番号C5621・“CLOWN”の魔力反応。台東区C地点にて反応を確認しました。時空転移系魔法の反応も観測しましたので、“CLOWN”が東京に戻ってきたことは間違いありません」
街中に止められたライトバンの中、そこはモニターが付いた精密機器が所狭しと並べられ、テレビ局の移動車両のような光景が広がっている。
そこでヘッドフォンとマイクを頭に付けたオペレーター風の男が、モニターに映った少年の姿を捉えていた。
モニターの中にはレーダーのような対象物を補足すると思われる装置も備えつけられ、放送機材のような精密機器の中に奇妙な立体映像装置のようなものがあった。そこから光が上に向かって放射され、そこから魔法陣が立体ホログラムのように映し出されて、その魔法陣の中心からさらに光が放たれている。その光の中心は、機器の映像に映し出されている少年の位置と重なる光の地図のような図を赤色の点で指し示していた。さながら魔法のレーダーとでもいうべきものがそこにあった。
「“ガンマ”。そのまま奴を例の方のいる場所へとうまく誘導せよ。多少の民間人の犠牲は黙認する」
無線機に話しかける指揮官らしき風貌の男は淡々とした口調で無線機に話しかける。無線機から乾いた電子音の入り混じった返事が返ってきた。
「こちら“ガンマ”。作戦は順調。1名犠牲になりましたが、現在“CLOWN”を無事目標地点まで誘導中」
「ご苦労。そのまま計画通りに進めろ。あと、小笠原様の会場付近で投薬済みのP9613・“REINCAR”を実証試験を兼ねて投入する。それまで注意して誘導せよ」
「了解」
「“ベータ”。葦國様の予想進行ルート周囲への警戒は完了したか?」
「こちら“ベータ”。ルート周辺への展開完了。」
「気をつけろ。葦國様を可能な限り足止めをすることのみに集中せよ。できるだけ時間を稼げ」
「こちら“ベータ”。了解した」
ライトバンの中の会話を聞きつける者は誰もいない。
真実を知りたいものは多い。
だが、現実から逃げたい者たちはさらに多い。
東京の闇夜は真実を喰らい続ける。




