第83話 少年は現実世界へエルフの少女を奪還に向かう
励みになりますのでよろしければブックマーク、評価、ポイントをよろしくお願いいたします。
「もうよせ小僧!!超人族の女は次元転移して奴らの世界へ戻った」
サトシはただただ拳で何度も床を叩きつけた。
「どうしろってんだよ!!あの女、少し年上ってだけでなんだよあの態度はよ!!!」
ゼルはサトシを必死でなだめる。
「よさんか小僧!!あやつは超人族の、それも相当の実力者。今のおぬしどころかこの場にいる全員が消し飛ばされていてもおかしくはなかった相手じゃぞ!!少し頭を冷やさんか!!」
エルード族長は狼狽するサトシを見て、先ほどまでの狼狽ぶりが落ち着いたのか、打って変わって淡々とした口調で彼に語り掛ける。
「サトシ殿。先ほどの相手はゼル殿の申す通りまごうかたなき超人族の実力者。おぬしと奴らの間で問題があったことは理解しているが、今は抑えなされ」
少し落ち着きを取り戻した後、サトシは右手を右側頭部に当てて頭を掻いた。それからしばらく考え込んだのち、ゴブリンの老人に問いかけた。
「おっさん。いや、ゼル・ファランクスって言うんだな。確かに相手のことをよく見なかった俺のミスだった。だが、このままではホワイトエルフとの話が無駄になる」
サトシは意を決した表情になっていた。
「俺は現実世界へ戻ってあのホワイトエルフの少女を取り返しに行く」
「しかし小僧!!おぬしどうやって奴らを追うつもりじゃ?」
「さっきいた律子って言う子。あの子が翡翠みたいな色のブローチを持ってた。あれに彼女が念じたら時空の出入り口が開いたのを見たよな。あれみたいなアイテムはないのかよ」
ゼルはサトシの問いに10秒ほど考えたのちに口を開いた。
「わしのみたところ、先ほどの小娘の持っておったあのブローチは相当レアなマジックアイテムじゃった。おそらく時空を自在に行き来できるタイプの魔力が込められたものじゃ。あれはそうそう手に入るものではない」
「現在のわしらにできる範囲で小僧のいた世界へ戻る方法は2つ。この世界で人間どもが支配する地域にある巨大な出入り口を強行突破して行くか、もしくは相当高度な時空転移魔法を使うか・・・。いずれにせよ容易なことではないぞ」
ゼルの質問にサトシはエルード族長の方を向いて族長へと質問した。
「エルード族長。大変失礼ですが、あなたは現実世界に行ける魔法とか手段を持っていないのですか?」
エルード族長はサトシの質問に対し、先ほどと同じように淡々とした口調で話す。
「一応、サトシ殿がいた世界へ戻る時空の扉なら私が開くことができる。じゃが、時空を超える転移魔法は私といえども一人分しか発生させることができぬ。もしあなたの世界へ戻られるというのなら一名しか転移させられませんぞ」
サトシはエルード族長の返答に見る見るうちに目に闘争心が甦っていく。
「十分だ。俺一人で現実へ戻ってあのクソ女神をぶちのめす。そして、あのホワイトエルフの少女を取り返せば晴れてあなたたちとも手が組めるってわけだ」
サトシは続きざまに話す。
「族長。取引しましょう。俺は現実に戻ってあの集団からあなたの娘さんを取り返す。そうしたらさっき話したみたいに俺と組んでくれないか?」
エルードは淡々とした表情のまま話す。
「・・・もし私の娘を無事奪還していただけたのならその話に乗りましょう」
マジル・ハクスが心配した顔をしてエルードに話しかける。
「族長様。失礼ながらこのような人間を信用してよろしいのですか?リツコ様ならまだしも、この人物はまだ本当に信頼できるか測りかねる部分があります」
エルードはマジルに返答する。
「娘を攫った相手は背後関係がはっきりとは分からない。ならば救出の可能性は多ければ多いほど良い。カズサリツコ殿とその知り合いの超人族が救出に向かってくれたのは不幸中の幸い。だが、向こうの世界では何があるかわからぬ。その点、彼は超人族には及ばぬかもしれぬがそれなりの実力はある。現地に詳しい彼にもリスクヘッジの観点から賭けてみるのは現時点で得策であるとわしは思う」
「わしらが直接乗り出すと超人族共がどのような言いがかりをつけてくるか予想できぬ。選択の一つとして彼にも頼んでみることにしようではないか」
エルード族長は目の前で何やら念じ始め、両手を広げると青白い光とともに光を床に向けて放った。すると、第一応接間の床に魔法陣が現れ、その中心の宙に入り口が現れた。
サトシが魔法陣の中央に現れた出入り口に入ろうと足を進めようとした直前、ゼルは彼を呼び止める。
「小僧。おぬしがもっと練度をあげてから渡そうと思っておったが、この緊急時ゆえにそうも行ってはおられん。これを持っていけ」
「おっさんこれは?」
「これは“冥界の炎”という特殊アイテム。その昔、わしらダークゴブリンの魔導軍事技術者が超人族と正面から戦える能力を獲得する研究の過程で偶然精製に成功した試作品の一つで、一定以上の魔法力を身につけた者のみが使えるマジックアイテムの一種じゃ」
「これをどうするんだ」
「もし超人族と遭遇したら、これに念じると一定時間のみ、超人族に匹敵する力を得られる」
「おっさん!!そんなのがあるなら早くいってくれよ!!さっき言ってくれてりゃあんなことになんなかったってのに!!!!」
「最後まで話を聞け!!このアイテムの効力は一度使用するにつき3分間が限界じゃ。そして、一度使用すると3時間経たなければ再使用できん。おまけにこのアイテムは急激に魔法力を消耗する」
「一度につき3分間?それって3分経ったら効力が自動的になくなるとか?」
「いいや、3分経ったら自動で効力がなくなることはない。3分以内に自分で再び念じて解除する必要がある」
「微妙に面倒だな・・・。でも、てことは1度につき3分を超えて使うこともできるってことじゃないのか?」
「厳密にはそうじゃ」
「もし3分超えると?」
「3分で魔法力をすべて消耗する。それ以上使い続けると今度は生命力そのものを消耗するがゆえに寿命が縮む。それを無視して使えば確実に死ぬ」
「何だよそれ!かなりマズイアイテムじゃん!?」
「その通り。こいつはある程度魔法力のある者しか使えない上に、一度に魔法力を全消耗する使い勝手が悪すぎる代物じゃ。いわば半ば欠陥品に近い。故に試作品の段階で終わり実戦には投入できなかった」
「もしさっき使っておったらおぬしは戦いを長引かせて寿命をいたずらに縮めておった。今一度冷静になって相手の実力を考えろ。安易に喧嘩を売ってはならん奴もこの世には多いのじゃぞ。いいか、今のお前に超人族を倒す実力はない。これはあくまで非常用の物と心得ておけ」
「このアイテムは3分フルに使えば魔法力をすべて消耗する上、それ以上の使用は命に係わる。下手に使えば圧倒的不利になる。考えて使え」
「あと戦闘ばかりに気を取られるなよ。そのアイテムを使えばおそらくおぬしは超人族クラスしか使えぬ時空転移の魔法も一時的に使えるようになるはずじゃ。向こうに行ってこちらに帰ってくるにはこのアイテムが必要となる。じゃが、こちらへ脱出の際にこれが使えなければおぬしはそれが使えるようになるまでこちらへの脱出が不可能になる。頭を使って行動しろ」
「サトシ殿!早くしてくだされ!時空を開けるのは長時間は無理じゃ!」
エルードの叫び声にゼルはサトシに行くよう促しながら彼に言った。
「わしらは一旦ナタニエレへ戻っていざという時の準備を始めておく。ホワイトエルフとの交渉も引き続きしておくから気をつけていくのじゃぞ!」
サトシは気を引き締め、ゼルやロズブーンに行ってくると手を振り、かつ、エルード族長やマジル・ハクス、ファーゴに一礼をしてから時空の出入り口に入っていった。




