第81話 相容れぬ者同士の一戦
ホワイトエルフ族の族長の館・第一応接間。
先ほどまでの激しい戦闘のため、内部の調度品は散乱し、床には9mmパラベラム弾の薬きょうが数多く散らばっていた。先ほどまでの戦闘の熱気はまだ館の中に充満しており、外では負傷者を運ぶ兵士や使用人たちが大声をあげて指示をしているのが分かる。
「おい!!衛生班!!担架!!」
「今行きます!!!」
ファーゴはあわただしく負傷者を救助する衛生兵を指揮している。
「何ということじゃ!!我がエルード一生の不覚!!!あのようなゴロツキ集団ごときにこの館への侵入を許した上にわが娘まで拉致されてしまうとは!!!」
エルード族長はかなり狼狽していた。それをマシル・ハクスが必死でなだめている。
その光景を見ていた葦國公子はエルード族長に向かって落ち着いた口調で話しかける。
「気休めで言うつもりはございませんが、あなたの一方的な不覚ではありませんよ。エルード族長」
「おぬし・・・・!?先ほどのあのすさまじい戦いぶりはまさに超人族!?魔力を見事に隠し通してわしも途中までわからなかったが、間違いなくあれは超人族の力・・・。まさかおぬしは超人族なのか!?」
公子は一息ついてから、軽くお辞儀をした後、とても礼儀正しい丁寧な口調でエルード族長に自己紹介した。
「初めまして。わたくし、上総律子さんの友人の葦國公子と申します。」
「お察しの通り、私はあなたたちが言うところの超人族、向こうの世界では殿上人と呼ばれている一族の者です」
「やはり・・・。して、一体なぜおぬしがこの世界にいるのじゃ・・。別世界に移住した超人族がこの世界に戻ってくるなど聞いたことがない・・・。それもなぜカズサリツコ殿と一緒にいる?」
エルード族長の質問に公子は淡々とした口調で答える。
「私は現実世界で律子さんと一緒に歩いていたところ、武装した集団に襲撃されました。その時、律子さんが持っておられたブローチのおかげでそれら変質者から逃れることができました。そして、気が付いたらこの世界に来ていたのです」
エルード族長は目線を数回、公子から外した。白いひげを右手の親指と人差し指、中指の3本でつまみながら考えごとをするように15秒ほど黙ってから口を開いた。
「おぬしがカズサリツコ殿の友人ということは理解した」
「失礼ながら、エルード族長と私の親友である上総律子はどのような関係なのでしょうか?」
エルード族長へ公子が質問するとエルードは苦い表情をして黙ってしまった。
それを察した律子が口を開く。
「あのっ!公子さん。私がこの世界に来たってことはすでにご存じですよね?」
「ええ、あなたがこの部族の方たちと接触したところまでは把握しているわ」
「さっき攫われたホワイトエルフの方、あの方はエレーヌさんと言って、エルード族長さんのご息女なんです。そして、エレーヌさんが私にこのブローチをくれたのです」
「ここに来る前にあなたが言っていたブローチをあなたに渡した少女。それがあの少女だったというわけね。そうだったの・・・」
エルード族長が公子に不安げな表情で話しかける。
「これからおぬしらはどうするつもりじゃ?わしは娘がさらわれた以上、あの不届き者どもを追跡して娘を取り返す。いかなる手段で持っても!!」
「だが、わしは部族を束ねる長ゆえ、直接超人族の世界に行くことは難しい。それにわしの力をもってしても人間一人分くらいしかおぬしらの世界へ転移することはできん。だから部下を派遣するにも限界がある・・・。どうしたものか・・・・・・」
「エルード族長。お気持ちは察して余りあります」
「先ほどこの館を襲撃してきた賊は魔力の反応具合からおそらく私たちを襲ったのと同一のグループ。故に、私とあなた方は現在、利害を共有する関係にあります。私たちもあの者たちを追うつもりです。幸い律子があなたのご息女から授与されたブローチがあれば現実世界へ帰還することはたやすいですし、族長のご息女と私の親友律子は友人の間柄と聞いておりますゆえ、私の立場からもご息女の救出に協力いたしますわ」
「超人族の側からそのような申し出をするとは・・。それはかたじけないが、一体何がお望みじゃ?」
「対価などいりませんわ。彼女が律子の友人というなら私も助太刀をする理由になりますから」
「それとこの世界に来ることができるブローチ。それを律子さんにお渡しになったのはあなた様方とお聞きしております。律子さんにあれほど貴重なアイテムをお渡しになるとはさぞ律子さんがあなた方に貢献されたのでしょうね」
「いや、あれは大したことではなく、単に娘を助けていただいたお礼に娘から渡したいと申し出た。わしはそれを許可したにすぎぬよ」
“ごまかしたわね”
2人のやり取りを律子は途中からただ黙って見つめていた。
“公子さんの顔が一瞬、不機嫌な感じになった気がしたが、すぐに元の穏やかな表情に戻った。私の見間違いかな。”
公子は気難しい表情になって右手の親指を顎に当てた。
“律子の持っているブローチは現実世界と新世界を確実に行き来できる最上級のマジックアイテムの一種。あの時、暗殺者グループのデーモンが捨て身で放ってきた空間消滅魔法。あれはその中に閉じ込めた者をほぼ確実に葬ることができる禁断の魔法。一旦閉じ込められたらいかなる脱出手段もないし、転移魔法もすべて強力な時空干渉効果によりすべて無効化されてしまう恐ろしいものだった。一応私には解除ができるとはいえ、時間がかかりすぎて律子がいてくれなかったら本気で危なかった・・・。そんな禁断系の魔法をも破れるマジックアイテムを渡すなんてこの族長、絶対何か企んでいるわ”
さらに公子にとってもう一つ懸念があった。
ここに自分たちが来る前からすでに族長たちと接触していたあそこにいる少年とモンスターの一行のことだ。あれは恐らく例の研究所から脱走して行方不明になっている少年ではないかと・・・。公子は直感的にそう確信していた。
サトシたちは先ほどから公子とエルード族長のやり取りを見聞きしていた。少し前に目を覚ましたロズブーンが言う。
「うーっ、結構派手な戦闘になったんだな」
「当たり前じゃ!!おぬしが気絶しておる間にかなり危なかったんじゃぞ!」
「それはそうとして、あそこにいる若い人間の女2人。さっきから族長とのやり取りを聞いてると、あいつらサトシがいた世界から来たんだな。あの紺色の布が首の後ろから背中にかけて垂れた変な服を着ている小娘が持ってる何かのアイテムでこの世界に来たみたいだぜ」
「相変わらず地獄耳じゃなおぬし。まあわしにもそう聞こえたが」
「おっさん・・・、あの葦國公子とかいう奴・・・。間違いなく殿上人の野郎だ」
ダークゴブリンの老人ことゼル・ファランクスの方をサトシは見た。すると、老人の足元が震えているのが見えた。
「小僧の言う通り。間違いない。あの女、超人族じゃ。本物をこうも直に近くで見るのは何百年ぶりかわからんが、すぐに思い出したわ!あの恐るべき殺気と冷酷な態度は忘れたくても忘れられん!相変わらず恐ろしい化け物じゃ!!正直わしは逃げたい気分じゃ・・・・」
「先ほどの戦闘を見てもあの女、相当の戦闘力・魔法力の持ち主。今のわしらが敵う相手ではない・・。今はおとなしく引くのが得策・・、って小僧!!」
サトシはゼル・ファランクスの忠告を聞く前に足を前に進めていた。葦國公子の前に約1.
5メートルほどの距離で向かい合った。眉間に憎悪の深いしわを寄せながら。
公子の方はサトシを前にして全く動じない。
「あなた・・・、先ほどから聞いていたけどサトシと言ったわよね。小笠原財閥管轄の“勇者パーティ”から脱走したというのはあなたでしょう?」
サトシは答えない。無言が数秒。そして・・・。
ヒュンッ!!!ブンッ!!!フォンッ!!!!ヒュン!!!!!
彼は無言で間合いを詰めた。そして、彼の手に握りしめられたコールドスチール・タイパン・サヴァイヴァルナイフから鋭い斬撃と突きが予告なしに公子めがけて繰り出される。高速での連続技、その動きに一切の迷いはなく、細かいすべてに明白な殺意が込められていることが傍から見ても感じられる。
「挨拶なしでいきなり切りかかってくるなんて・・・。礼儀作法がまるでなっていない・・・。所詮現実の不適合者上がりは磁場を克服したところでこの程度か・・・」
「うるせえんだよクソ殿上人!!!!!!!てめえのせいで俺の人生は無茶苦茶になっちまったじゃねえか!!!!元をたどると全部てめえらのせいだ!!!!!!!!」
「飛んで火にいる何とかはこのことよ!!!現実へ攻め入る前にまずてめえの首をもらい受ける!!!」
「やめて!!君も何があったのか知らないけど今喧嘩している時じゃないよ!!」
律子が2人に近づいて止めに入る。
だが、怒り心頭なサトシにとって、彼女の純粋な表情と問いかけはかえって神経を逆なでするものだった。
「なんだこいつ!?殿上人の仲間か?なら容赦しねえ!!!!」
サトシはタイパン・サヴァイヴァルナイフを一旦鞘にしまうと、両手に魔力を込めた。彼の手のひらの前方に火球が出現すると、それは見る見るうちに巨大化していった。
「馬鹿者!!!その娘は超人族ではないぞ!!!そんな無防備な小娘にメガフレイムを放つなど正気か!!?やめんか!!!」
ゼル・ファランクスが叫ぶも、サトシは怒りに任せて魔法を放つ。
「メガフレイム!!!」
巨大な火球が律子に正面から迫る。だが、律子はひるまない。そのまま右手のひらを前に突き出して、火球を受け止めた。瞬間、火球全体が光り輝いたかと思ったら、細かいチリのような光に分散して消滅した。
「ううっ!!少しは慣れてきたけど怖かった・・・。君!!何をするんですか!!人に向かって火球を発射してくるなんて気がふれているのではないですか!?」
「俺のメガフレイムを消滅させた!??何だよお前!?さっきのオーク野郎の電撃魔法を食らっても全くダメージを受けてなかった件といい、お前ただの女子じゃ・・・・」
バゴギッッッッッ!!!!!!!!
「バゲッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
ズザザザッッッッッッドンンンンッッッッ!!!!!!
ガシャーン!!!!バリンッ!!!
次の瞬間、サトシの顔面に回し蹴りが撃ち込まれた。蹴りはサトシの顎を直撃し、館の壁へと派手に吹き飛ばされてぶつかった。その衝撃で天井のシャンデリアの一部が落ちてしまった。公子が仁王のような形相で彼にカンフー映画化と思わせるほどの見事な飛びまわし蹴りを放ったのだ。
「一体何を考えている不適合者風情!!!!律子!?けがはない!?」
「わっ、私は大丈夫です。相変わらずびっくりしちゃったけど気のせいか少し魔法が飛んできても打ち消すやり方が何となくわかってきたというか・・・」
公子は憎悪に満ちた声でサトシを罵倒する。
「少しは人外の力を手にしたみたいだけど、それ以上に勘違いが増長しているようね・・・。この場で無に帰せしめてくれるわ!!!!!!!!」
サトシは壁に叩きつけられるもすぐに立ち上がり、公子の怒号にひるむこともなく壁を蹴って間髪入れず公子との間合いを再び詰める!
そして、公子との距離2メートルくらいのところで立ち止まると、右手を手刀にして念じた。すると、手刀状にした右手から右腕全体が順に赤い光を帯び始め、それはやがてまっすぐになり光の剣が形成された・・・。




