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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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82/105

第80話 救世主の出現!?

現実世界・東京。


格差が広がり一度失敗すると基本的な将来設計すらままならなくなる今日。運よく正社員へ就職できた人間はその地位にしがみつくしか方法がない。


正社員になることで人生設計をすることを前提としている日本社会は、企業や副業が推奨されてきたとはいえ、口では自由にしてよいと世間が言っても肝心の環境整備が全くなく、後から、あれはしてはならないこれもしてはならないという矛盾する言動を旧世代から浴びせられ続けた若者は意欲をなくして失敗に終わった。何でも自由にいてもいいと最初に言いながら後でしてはならないという行為をされると人は認知的不調和に陥り、相手の言いなりになりやすい。そう、すべて最初から人を奴隷化することしか考えない権力の罠だったのだ。


しかし、正社員といっても安寧でいられるわけではない。待遇や人間関係で非正規雇用と同じの名ばかり正社員も数多く存在し、しかも一度そこにはまるとローンや再就職の困難さから逃げられないリスクも存在する。


日本を代表する企業といえども今日、その知名度の割に離職率が高い大企業は多い。雇用の流動性が叫ばれてからかつての年功序列制度は実質なくなったとはいえ、何十年前からその問題点は指摘されてきたにもかかわらず、いまだに新卒一括採用、年功序列制度といった欠陥のある制度のみがしぶとく残っている。要は賃金と地位の安定性のみが“改革”されてなくなったのだ。


さらに、ブラック企業の自己都合退職に追い詰める悪質なテクニックは年を追うごとにその悪質さを増し、職場や自宅への盗聴盗撮や付きまとい、近所への悪評流布などのターゲットの人間関係を破壊しつくして精神疾患に追い込む極悪非道のストーキングテロ犯罪が猖獗を極める世に中になっている。


にもかかわらず、それらの犯罪は悪評は表だって告発されることは少ない。人権問題に敏感なリベラル派ですら、である。それらは証拠を押さえにくく、被害者が訴えるとかえって被害者側が精神疾患、妄想癖として精神病院へ誘導されるようになっているのだ。プロの情報機関が編み出した、大衆における高度な認識のずれを利用した心理工作をベースとするこのテロは企業におけるリストラいじめ工作にも頻繁に用いられ、潜在的被害者は想像以上に多いとされている。


マスコミも労働問題関連の弁護士などもそろって口をつぐみ続けている現在、これらは精神疾患の人間の妄想として片づけられてしまっている。


もはや知名度の高さが職場環境の良し悪しを図るバロメーターでは実質なくなっているが、政財界の徹底した圧力でそれが表ざたになることはないのだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――

「運賀!今日までに企画の修正しとけって言っただろうが!」


「すっ、すみません・・・。あまりにも他の仕事が重なって・・」


「言い訳をするなバカモン!!今日中に済ませろ!!お前ら他の者も全員連帯責任だ!!」


(同僚一同)「はっはい・・・・」


同僚たちの冷たい目が一斉に彼に突き刺さった。誰も彼をフォローする者はいない。


・・・・・・。


僕の名は運賀無蔵(27歳)。

一応大卒だが新卒で入社した大企業の超ブラック部署に放り込まれたせいで精神を患い、人情のかけらもない上司の仕打ちで事実上の不当解雇ながら自己都合退職に追い込まれる。


職安局では失業保険に自己都合退職ということで支給まで半年のペナルティを課されるという理不尽を味わった。被害者がさらに追い打ちをかけられる現在の世の中の異常性を身をもって味わった彼は新たに入った会社でも契約社員に甘じざるを得ず、それも正社員との厳然たる身分の壁にさらされ、キャリアもスキルも向上しない日々。


契約書の控えはもらえなかった・・・。控えは理由があって渡せないという意味不明な理由をつけられた。ただサインをするよう求められた・・・。1か月ほどたって他の人は3年契約なのに僕は2年契約ということをいきなり上司から口頭で知らされた。


正社員のときも事実上名ばかりの劣悪な待遇だった僕は、今務めている契約社員の職場でもパワハラだらけである。



そんな僕にとって数少ない希望はネット上でひそかに騒がれているサイトの噂だ。


ダークウェブと紙一重の形で存在するそのサイトでは、新世界で行われている研修や職業訓練は現実世界で使い物にならないと烙印を押された人たちを洗脳して体よく闇に葬るための制度だと、証拠とされる写真や映像などとともに公開している。それによると、失業者や生産性のないものとみなされた人たちに対し、現政府は2つの策略を仕掛けているという。


一つ目のパターンは、職業安定局で不自然なまでに好待遇の研修を新世界で受けさせてキャリアチェンジをさせてくれるというもの。たしかのこれは職安に行った時、新世界での高度ビジネススキル研修とか言う名称で新世界での研修を募集していたブースを見たことがあるからわかる。ものすごい長蛇の列ですごい人気だったのを覚えている。


2つ目のパターンは、ある日突然新世界へ転生・または転移する不思議な出来事に巻き込まれて、あたかも一昔前から不自然なまでに流行している異世界転生系とか転移系のファンタジーアニメとか小説などの主人公と同じような現象に巻き込まれるらしい。


そして、それらの悪行を社会常識であるかのように装って推進している現政府や、その背後にいるという殿上人とかいう聞きなれない特権階級とされる人たちを告発する記事を配信している。


そのサイトは悪質なフェイクニュースを扇動するとしてすぐにネット民からバッシングされて閉鎖されるが、閉鎖されてはまた復活を繰り返しており、現状に不満を持つ僕のような人種の間では密かなムーヴメントを起こしている。


自由革命者を名乗るそのサイトの運営者は2つ目のパターンでロールプレイングゲームの“勇者”として魔王を倒す使命を与えると嘘を吹き込まれて新世界に送られ、命からがら脱出に成功した人だという。今は新世界のどこかに潜伏して新世界の実態を告発しているらしい。異世界転生とか異世界転移のアニメや漫画、小説はまさにこう言った過酷な現実から大衆の目を背けさせる愚民化政策として意図的に流行が煽られているらしく、そして、新世界への棄民政策を誤魔化して受け入れられやすくする意図があるらしい。


過酷な生活をしてきた僕にとって、そのサイトに書かれていることはとても説得力があった。


高層ビルの林立する中に酒やビールの自販機が密集する場所がある。


ここは多くのネットカフェが並ぶ地区でもあり、低所得者がたむろする場所となっている。


居酒屋で仲間と憂さ晴らし?そんな贅沢ができる層など一握りの“本当の正社員”しかいない。強制飲み会が社会的に批判されるようになったから会社は飲み会をしなくなった、というのが表向きの理由。だが、実際のところ非正規雇用の福利厚生のことを考える気なんぞないというのが真相だ。


給料・待遇は劣悪、正社員が受けられるキャリア研修からも除外、さらにはいい意味での仲間意識を培う機会からも排除されて搾取される一方の契約社員、派遣労働者たち。あとは責任ばかり負わされて“本当の正社員”とは区別されてメンバーズシップから意味不明な理由で除外されている名ばかり正社員が平等にたむろするのがこの自販機コーナーである。


昔ながらのタバコ屋兼酒屋の隣にあるここには安いカップ酒や、僕が飲んでいる“第五”のビールという名の成分調整ビールが格安で販売されている。格差の拡大が冗談では済まされなくなったこのご時世、国民の大多数を占める低所得者層たちはこのような場所で人造アルコールその他(言うべからず!)で出来た安酒をあおることが数少ない楽しみの一つだ。


毎日をどう生きるかで精いっぱいな僕にとって、同じような境遇の人が集まる販機の密集するこの場所は数少ない憩いの場だ。ここで僕はコストパフォーマンスにのみ優れた“第5のビール“・”ヴィクトリービール”を仕事帰りにあおるのが日課となっている。


体に悪い?

そんなの考える余裕はない。その日の嫌なことを瞬間的に忘れさせてくれるアイテムが僕を含めた大多数の会社員には必要なのだ。


スマホの課金用カードの裏を削ってコードを入力し、一生懸命ガチャを回す無精ひげを生やした小太りの若い人が3名ほど自販機の前付近でヤンキー座りしながら指を動かす。彼らにとって自分たちの生活に直接かかわる政治とか社会の在り方などどうでもいいと言わんばかりに見える。それよりも、きわどい服装をした美少女のレアキャラを引き当てることの方が大事なのだ。


競馬新聞やスマホのゲームを無言で眺める疲れ切ったワイシャツや私服姿で自販機前にたむろする者たち。その日暮らし特有のうつろな目をした者たちはみな口をつぐみがちだが、中には酒が入って意味不明な能書きをわめき散らすものも結構いる。


「おーっ、兄ちゃん、どうした?そんな浮かねえ顔して、ヒックッ」


日雇い労働者風の男が一人、無蔵に気安く声をかける。片手に安物のカップ酒、もう片手にスポーツ新聞を手に、耳に付けた片耳イヤホンからラジオ番組の音声が流れてくる。


疲弊しきった無蔵はただ本音をぶちまけるように言う。誰でもいい、自分の憂さを率直に言える人間が必要なのだ。


「どうしたもこうしたもないですよ!俺の職場にいる上司が大卒2年目で管理職になったやつがいるんですよ」


「へえー・・、そんなすげえのがいるのかい」


「確かに仕事の実力はすごいですよ。でも、マジでそいつ性格最悪なんですよ!何でもやっといていいとかこっちの自主性に任すとか言っときながら後からなんでこんな勝手なことした!!とか言って怒鳴るんすよ。自分の言うことを反復継続する従順な奴にはめっちゃ愛想いいんすけど、何か少しでも違う意見を言っただけで殺されるんじゃないかと思うくらいやられるんです。本来清掃員がやる掃除を全部気に入らない社員にやらせたり、全く畑違いの部署に追放して自己都合退職に追い込むよう仕向けたり、まじでおかしいよ」


「おたく、身なりは割としっかりしてるのに・・・。いわゆるホワイトカラーっつうんだろ?このご時世、背広着た奴もやばいって聞いてたけどそんなにえげつねえのかい?今時の奴の中には会社入ってすぐ管理職になるんかい?ヒックッ!」


「それがそいつは特殊なんすよ!そのクソ上司、某有名国立出身なんすけど、大学入る前に新世界の研修をパスしたとかで俺が今務めてる大企業に特別待遇が保障されて入ったんすよ!」


「ところが上司たちの間では高く評価されているんすよ、あいつ。少し新世界で研修パスしたからってマジ図に乗りすぎだよ全く・・・。しかも、そいつは人間らしい感情とかが通用しないんすよ。こっちが自己主張したらわがままって言われるし、黙ってたら舐められるし。まるで人を機械の部品程度にしか思ってない感じで、取り付くシマのないロボットみたいな奴で・・・」


「僕なんか“お前が3人いたら現場が回らない”とか、“お前には徳がない”とか、“相手の気持ちを理解するには自分のことを否定しないといけない”とか言いたい放題言われました」


「おまけにそいつはやたらこちらの弱みを荒さがししてこちらにコンプレックスを植え付けてマウント取ろうとしてくるんすよ!嫌いなものは何かと聞かれてないと言ってら、がっかりするんで何かと思ったら嫌いなものを食わせようと思ってたとか、お前昔いじめられっ子だっただろうとか聞いてくるんすよ。いじめられっ子はお前だろうって!!マジむかつく!!!俺がおとなしくしてやってたら調子乗りやがって!!でも逆らうとすぐクビにされるし・・・。あー!!!もう!!!!」


「・・結構最近ってわけわかんねことだらけだなおい・・ヒックッ!」


「そうなんすよ!!わけわかんないことだらけなんすよ!!そいつはコストカッターの異名を持って、使えないとみなしたやつを次々クビにしていってるんすよ!それも直接脅迫してクビにするだけじゃない。間接的にも質の悪い方法を使うんすよ!こないだも僕の先輩の一人がいつの間にか辞めました。間違いなくあの野郎がやめるよう仕向けたんですよ。それも自分は何も言わない。他の同僚が先輩をあれこれ些細なこととか、無理なマルチタスクを要求して精神的に追い詰めていったんすよ。僕も助けようとしたけどダメだった。僕まで攻撃されそうな空気でマジ地獄だった・・・・」


「大変なんだな兄ちゃん・・・」


「しかも、しかもっすよ!!先輩はその野郎のさらに上の上司からも“俺は口約束を重視する”なんていびられてるところも見たんすよ。日ごろ大変な思いして頑張ってる人になんてひどいことをしてんだよって思った!!多分先輩も契約書の控えもらえなかったからっていう感じだった・・・」


隣のタバコ屋兼酒屋のおばちゃんが見ているテレビから聞こえてくる国会中継のニュースの音声はさらに彼のむしゃくしゃの度合いを増した。


「あのサイトの人みたいな救世主がいてくれればいいのに・・・・。こんなクソ社会知ったこっちゃねえよ!!!!」


無蔵が空き缶を蹴り飛ばしたその瞬間。


ドオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォオォオオオオ!!!!!!!!!!!

バリィィィィィィィンン!!!!!!!!


周囲にいた人間の集中力が一瞬で爆発音があった方向に集まる。


近くのビルから大きな黒煙が立ち上っている。自販機の前にたむろしていた人々はただ茫然としている。だが!


ドオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォオォオオオオ!!!!!!!!!!!


2つ3つ、次々と都内の主要な場所で爆発が連続で起こっていく。時間をややおいて人が集まりそうな場所、大企業や財団などが入居するビルが次々と爆発しているように思われた。


すると、何かが無蔵達の上空を横切って行った気がした。そして、空から大量のビラのようなものがまかれた。


その場にいた人々はそれを拾い上げて読む。


“救世主来る!!国民よ決起せよ!!腐敗した現政府を倒し、自由を獲得するため自由革命家サトシのもとに集うのだ!!”


まるで昔の左翼のアジ文章のようなことが殴り書きされてあり、インターネットサイトの者と思われるURLが明記されていた。


近くのタバコ屋のテレビに臨時ニュースが映し出され、あわただしくキャスターが叫ぶ。


「臨時ニュースを申し上げます!先ほど午後8時13分ごろ、東京都千代田区、港区、文京区、中央区にて謎の爆発が起こり、複数の重軽傷者が出ているということです。また、現場付近で人間ではない2足歩行の生物が複数目撃されたという証言があります。詳しい情報が入り次第お伝えします」


無蔵は思った。

“もしかして、新世界から例のサイトの人か何かが来たって言うのか!?”


この時、彼らにはこれから何が起きようとしているのか予想すらできなかった。



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