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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第79話 襲撃者、現実世界へ逃亡する

きらびやかな調度品と装飾に飾られていた第一応接間。


いた、というのは突如現れた集団による襲撃とそれに応戦する者たちの攻防によってそれは見るも無残に破壊されてしまったからだ。


廊下で起きたホワイトエルフの警備兵と黒ずくめの集団の攻撃魔法の打ち合いの影響で地震のような横揺れ振動が生じたことできらびやかな調度品が散乱し、散らかり放題になっている。公子が黒ずくめのメンバーを吹き飛ばして壁に空いた穴からは廊下が見えており、その周囲には銃の薬きょうと思しきものが落ちている。魔法と銃の両方を使っていた痕跡の数々は襲撃者が少なくともこの世界以外との接点がある者たちであることを示していた。



長く美しい黒髪をなびかせて格調のあるブレザーを着こなすたぐいまれな美少女が襲撃者の主犯格と思われる女と正面から対峙していた。


ミーシャは抱えていたエレーヌを仲間のデーモンに渡した。


ミーシャの周囲にいるモンスターたちはナイフなどの隠し持ちやすい武器の他にグロック系ピストルとMP5サブマシンガンを彼女やサトシたちに向けて構えている。


だが、彼女、葦國公子は微動だにしない。精悍な顔つきには余裕すら感じさせるのに十分な覇気がある。その余裕ぶりにエルード族長やサトシたちは襲撃者に対する以上に緊張した面持ちで彼女を見ていた。


サトシはコールドスチール・タイパン・サヴァイヴァルナイフの切っ先をまっすぐ宿敵ミーシャに向けている。が、人質に取られているエレーヌという少女はエルード族長の娘。ホワイトエルフとの関係上彼女が傷つくようなことになればまずいため下手に手が出せず、サトシは今一歩踏み込めずにいた。


そんなサトシの迷いをよそにブレザーの少女。葦國公子はミーシャとモンスター一味の方へゆっくりと歩いていく。一味全員の銃口がすべて公子に向けられていく。だが、公子の足取りからは一切の迷いが感じられない。一瞬の死をもたらす銃口を向けられてもなお歩みを止めようとはしない。


「おい!来るな!!それ以上近づくとこの娘を殺すぞ!!」


「やれるものならやりなさい下等種族。殺す気があるならとっくにしているのではなくて?」


公子の発言は極度の緊張でアドレナリンが出っぱなしのミーシャの神経を逆なでするのに十分だった。

「クソが!!!!殺せ!!!!!」


モンスターたちは一斉に公子に向けて発砲する。銃の種類はグロック17とグロック19、30連弾倉を備えた銃床のないH&KMP5K(クルツ)。迅速に配送


すべての生き物へ平等に死の刹那を授与する9mm×19パラベラムが非情の風を切りながら一瞬で公子に到達する。生身の人間が逃れるすべなどない・・・、はずだった。


だが、そこにいたのは“普通の人間”ではなかった。それらはすべて公子に当たる寸前のところでストップした。頭と心臓付近へ寸分の狂いもなく集中している銃弾のまとまり具合は、皮肉にもこの弾丸を放った者たちが並外れた射撃のプロであることを物語っていた。


そして死を運ぶ無数のパラベラムたちは公子が右手のひらをモンスターに向けた瞬間、その向きを“配送先”へと変え、すべてが一瞬で送り主へと“返送”された。


「ウゲッッ」


「イジッ」


「ひいいッッッ!!!!」


モンスターたちの内2名ほどが銃弾をかわし切れず、返ってきたパラベラムによって頭を撃ち抜かれた。


「なめんな小娘え!!」

デーモンの1体が目にもとまらぬ速さで公子の周囲を高速移動し始めた。残像が影分身のようになり同じデーモンが合計16名ほどいるかのような錯覚を作り出す。同時にデーモンは腰に帯びていたアップルゲート・フェアバーン・ダガーナイフを抜いた。近代軍格闘術の祖の一人、レックス・アップルゲート米陸軍大佐がデザインした生粋のファイティングナイフだ。


「これぞ我がデーモン族に伝わる秘拳・遊撃演舞殺!!全モンスター随一の素早さをもつ我が種族の動き!いかに超人族と言えども見切れまい!!」


デーモンは高速で公子の周囲を回りながら徐々に間合いを詰めていく。そして消えた!


公子はすぐに上を見上げた。上空にはデーモンが今まさに彼女めがけてナイフを突き立てようとしていた。


「馬鹿め!!真上は二足歩行の生物にとって死角!もらったあああ!!!!」


公子は真上に左手の人差し指を指す。

「消えよ!」


彼女が簡潔に叫んだ瞬間、人差し指の先から小さな火球がデーモンに向けて放たれた。


そして。

「ベッッ!!!!!!そ!!べな!!!!!!」


小さな火球はデーモンの手前で巨大化して彼を包むように閉じ込めると、まるで圧縮するかのように彼をその中で焼き尽くした。かかった時間は約3秒。消し炭さえ残らなかった。炎系の魔法で焼き尽くしたというより消滅させたと言った方が正確かもしれない。



「何やってんだよグズ!!」

悪態をつき、公子に気を取られていたミーシャへ突進する影が一人!


キンッッッッ!!!!!


コールドスチール・タイパン・サヴァイヴァルナイフから繰り出された鋭い突きをミーシャの手前にいたミノタウロスが槍で防いだ。


「どけよデカブツ!!!」


「生意気な小僧だガンス!!」


ミノタウロスはけたたましい雄たけびを上げて槍を構える。次の瞬間、サトシに高速で連続突きを繰り出してきた。


「どこにそんな長い得物仕込んでやがった!?牛人野郎!!」


「強度と靭性が抜群の魔界鋼を用いれば伸縮式の槍を作るなど造作もないことガンス!!!!」


ミノタウロスの強靭な腕から繰り出される突きはまるで槍の穂先が7~8本同時に突いてくるような錯覚を覚えるほどのすさまじい速さだ。サトシは巧みにかわして致命傷を避け続けているが、所々穂先による切り傷を負ってしまった。


サトシは横に大きく回り、右手に収束させた冷気魔法をつららの形状にしてミノタウロスの心臓付近めがけて放った。


それはミノタウロスを直撃した。だが、つらら状の冷気魔法はミノタウロスの分厚い胸筋に砕け散った。


「何だその体は!?」


「フン!!我が一族は修行により筋肉を瞬間的に鋼鉄のごとく固くすることができるガンス!!貴様の攻撃など蚊ほども感じぬガンス!!」


「そーかい・・・」

そう言うとサトシはミノタウロスに迷うことなく突進する。


「馬鹿め!!自ら串刺しにされに来たかガンス!!」


ミノタウロスは槍でサトシを突いた、が寸前で彼は槍をかわして間合いを一気に詰める。同時にタイパン・サヴァイヴァルナイフに何かの魔法をかけた。タイパンの刃が青白い光を反ち始める。直後、彼はタイパンでミノタウロスの喉をすれ違いざまに深く切り裂いた。


「バーカめガンス!!俺さまの体をそんなちゃちなナイフで切れ・・ブッッ!!!!」


ミノタウロスの喉は6~7秒経ってからばっくりと裂け、噴水のように血が噴き出した。サトシの斬撃は確かにミノタウロスの喉を捉えていたのだ。


「攻撃力強化魔法と、魔導書にあった対メタル系モンスター用剣技を組み合わせた。ちゃちなナイフと侮ったなデカブツ」


ミノタウロスはその場に大きな音をたてながらうつぶせに倒れた。



サトシの戦いに決着がついたのを見計らって、公子は落ち着き払った口調で女に質問する。


「ところで、あなたに聞きたいことがあ・」


公子が質問しようとした矢先!


パチッッッ!!


律子とサトシ、そしてその場にいた全員が何が起きたか一瞬分からなかった。


女は目にもとまらぬ速さで公子の背後にいた。片手には逆手に保持されたガーバーマーク2サヴァイヴァルナイフが握られていた。サトシたちが見た光景は今まさに公子に背後から公子に襲い掛からんとする女の姿だった。


だが、彼女の手に逆手の状態で保持されたガーバーマーク2サヴァイヴァルナイフは公子に触れる直前に空中で停止していた。女がナイフを振り下ろそうとしても、公子の周囲に何かバリアのようなものでも張られているかのように、ナイフの切っ先が公子の周囲の何かに反発してそれ以上動かなくなっているようだ。


静止画、もしくは録画映像の一時停止場面であるかのような奇怪な光景が5秒ほど続いた後、女は急速に後退した。その直後、女はその場でうずくまってから血反吐を吐いた。


「ブッッ、ベッッ!!!!!!ガブッフ!!?・・・やっ、やはりあなたは・・・殿上人の方・・・・・・・・・!?」


「人が質問しようとしている時に何を考えている無礼者!!」


「あれは闘気弾!一点に集中させたやつか!?」

公子は腕を伸ばして何かを一瞬で女のみぞおち付近めがけて放っていた。魔法?ではない。何らかの闘気、それを圧縮した攻撃!?サトシはゴブリン老人のところで読んだこの世界のスキルのことを思い出しながら必死で分析していた。


ゴブリンの老人のところにあった魔導書やその関連の書物によると、この世界には磁場の影響で様々な特殊能力が存在する。魔法の他に身体機能の驚異的な強化、さらには精神力や戦闘の際に発する気・すなわち闘気を高めて敵を殺傷する特技能力の類があるとのことだ。“この女、すさまじい魔力を感じるが同時に闘気をも自在に操れんのかよ”


“ミーシャの野郎、あの女子高生の背後に回り込んだその体勢から口を塞いで喉を掻き切るか、もしくは心臓を突き刺そうとしていやがったかのどちらかを仕掛けたんだろう。一瞬で回り込んだのは直前にあいつの体がかすかに光ったから、おそらく転移魔法を瞬間移動の要領で使ったみたいだな”


公子は落ち着き払った、それでいて厳しい口調で女に言う。

「そこの少年があなたのことをミーシャと叫んでいて思い出したわ。新世界関連の資料を定期的にチェックするとき、現地で私たちの仕事を請け負う新世界研修主任教官の名簿を見たことがある。その中に“ミーシャ・ポポフシキフ”という教官の資料を見た記憶があるわ。顔写真に写っていた顔つきと言い、私の記憶違いでなければあなたミーシャで間違いないわね?」


女は血を吐きながら必死で叫ぶ。

「あ・・・あな・たに・・答える・・義務はない!」


「とぼけても無駄よ!あなたはこの新世界で殿上人の仕事を請け負う現地請負人のはず。なぜこんなおかしなマネをしているのかしら?」


「だから・・答える・・気はないって・・言ってる・・だろ!!」


「口を慎め!!殿上人全体に奉仕するのがあなたのような下級人種の仕事。こんな勝手なことをしている以上覚悟はできているわね!!」


「黙れっ・・・つてん・・だ・・よ!!!アー!!!!!いつまでも私を言いなりにできるとかおもってんじゃねえ殿上人!!!わたしゃ小笠原冥に命令されてやってるだけだ!!!!」


女は口から血を吐きながら公子に向かって絶叫した。かなり無理をしているのが分かるくらいで、おそらく体の内部、臓器系にダメージを受けたようだとサトシは思った。


「おっ・・、おまえらな・・んかに、ここで構ってる暇はねえんだよ!!おい、ガス!!ゲートを開け!!」


「了解!!」


女は近くにいたガスという名のデーモンに叫ぶと、デーモンは右手を反時計回りに回した。するとその右手の航跡が光を描いて丸い円形の光が出現し、瞬時に魔法陣が現れた。


「まずいぞ小僧!!あれは別次元へ行くための転移魔法!!こやつら逃げるつもりじゃ!!」

ダークゴブリンの老人ことゼル・ファランクスが叫んだ。


「エレーヌさん!!」

叫びと同時に上総律子が魔法陣の中に入ろうとしているミーシャたちのところへ突進する!同時に、エルード族長、マシル・ハクス、ファーゴも魔法陣の手前で動揺するミーシャたちへと突撃する!


「エレーヌさんを返せ!!」


ミーシャのそばにいたオーク系モンスターが慌てて振り返り、律子に向けて両手のひらを向けた。

「この小娘は確か!?くそ!!別動隊の奴らへましやがって!!この場で仕留める!!」


体の細いオーク系のモンスターは律子に向けて雷撃系魔法を唱えた。雷のような雷撃がまっすぐ律子を直撃した!


「やったか!?」


だが、粉塵の中から現れた律子の体には傷一つついていない。彼女は右手を突き出して手のひらを前に向ける形で雷撃系魔法を受け止めていたのだ。


「何!?こいつ超人族ではないはず!?魔法を無効化するとかなんなんだよ!!!!」


オークは一旦ホルスターにしまっていたグロック17を取り出そうとしたが、律子はあっという間に間合いを詰めてきた。抜くのが間に合わないと判断したオークは、律子につかみかかる。だが律子はそれを横に移動してことごとくかわしていく。


焦ったオークが体重の乗った右ストレートを放ってきた。


それを律子は右手のひらで相手の肘内側をはたくように払い、次いで左手でもほぼ同時に内から外へと払いのけた。自分より腕力で勝る相手の突きを払う型の一種だ。


そして律子は右手の甲の付け根付近の固い骨の部分を縦にしてオークの顔面に撃ち込んだ。空手の縦弧拳がオークの鼻っ柱をへし折った。


「ブウウッッウウウウッッツツ!!!!!!!!!!!!」

オークは言葉にもできないほどの悲鳴を上げて地面に倒れこんで悶絶する。鼻の鼻尖が折れたようだ。


だが、一歩遅かった。ミーシャたちは眠っているエレーヌを担いで魔法陣の中へ入ってしまった!


「返してほしけりゃ力づくで奪ってみるんだな!!」


ミーシャはそう言い残すと、転移魔法で仲間とともに消え去った。


律子と公子、サトシ一行、エルード族長たちががれきと化した館の応接間に残された。



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