第77話 会談、そして異変
サトシたち3名が案内された応接間。
彼らは部屋の中央にある立派な作りの長テーブルに座ることにした。
彼らが入室後、一度閉められたそのドアからコンコンコンッとノックする音が響いた。そして、ドアが開いたかと思うと、ひときわ威厳のある年を召したエルフが一人と、同じく老齢のエルフ、そしてサトシたちを案内してきたファーゴと3名でそこに入ってきた。
入室してきた中でひと際威厳を持つ人物が部屋に入ると来客を一瞥した。人間の少年が1名、年老いたダークゴブリンが1名、巨漢の中年オークが1名。彼はそれぞれを確認するかのような目つきで彼らを見た後、口を開いた。
「初めまして。私の名はエルード・カシン。このホワイトエルフ族カシン氏族の族長をしている者です」
長いあごひげに威厳のある鋭い眼光に、ローブのような服装はエルードの威厳をさらに引き立てるのに一役買っており、サトシから見て彼の風貌はさながら石油利権で潤沢なオイルマネーをほしいままにする中東湾岸諸国の王族のような印象を与えた。両手両腕には宝石をちりばめたブレスレットや指輪を身につけており、相当高価なものであることが推測できる。それに、それらは恐らくただの宝石ではないことをサトシたちは感じていた。
サトシたちも素早く椅子から立ち上がって一礼し、挨拶をする。
「初めまして、私はサトシと申します。この度は突然のわがままを聞いていただき面会の機会を設けていただいたことを感謝いたします。こちらは私を保護してくれたダークゴブリンとオークの方です」
サトシたちの礼儀正しい対応にエルードは黙って頷き、サトシたちに着席するよう促した。
それぞれ3名、合計6名が会議用の立派なテーブルを前に向かい合う形で座った。
「はるばるロンバートブルクの町から転移魔法を駆使して来られたとのことでご苦労でしたなサトシ殿」
エルード族長の挨拶にサトシが返答する。
「本日は突然このような形で押しかけてきてしまい申し訳ありません。ですがどうしてもあなた方と話をしたいことがありまして」
サトシの返答にエルード族長の横にいた老エルフが口を開いた。
「初めまして、と言っても通信魔法ですでに顔は合わせておりましたなサトシ殿。私はマシル・ハクス。エルード・カシン族長様の下で魔法関連の統括をしておる者です」
“マシル・ハクスって言うんだ、この老人は。見たところかなりの魔力の持ち主って感じだけど・・・”
マシル・ハクスと名乗る老エルフは魔法使い、または修道士が着るような深緑色のローブに身を包み、銀色に輝く杖を持っている。杖の先端には赤い宝石のようなものが埋め込まれており、いかにも魔法使いが使う杖といった感じがする。彼はそれを右手で持ったまま椅子に座っており、何か異変が起こればいつでも攻撃態勢に転じることができるように構えているようにも見える。
「それでは改めましてサトシ殿。私はファーゴ・エスプリオスと申します」
ファーゴが改めてかしこまった社交辞令をすませたのち話は始まった。
マシル・ハクスが口を開く。
「まず、族長様に代わって私が単刀直入に聞こう。サトシ君、君はなぜ我々と話がしたいと申し出たのかね?」
「俺と同盟を結ぶか、そこまではいかなくてもこの世界に眠る資源を精製して軍資金を得るために協力してほしい」
「同盟?それに資源を精製して軍資金を得るとは?君の目的は一体なんなんだ?」
いぶかしい顔をするハクスに対し、サトシは率直に言う。
「自分は・・・、いや、俺はこれから現実世界に復讐戦争を行おうと思っている」
「だから俺はこの地で超人族に反感を持つ者、俺の方針に賛同してくれる者たちを糾合して俺のいた世界へ戦いを挑もうと考えている。そのためには安定した資金源が必要不可欠だ。そのためにはぜひあなた方の力が必要なんだ」
サトシが発言している間、エルード族長はしばし考えごとをしている表情をしていた。そして、サトシの発言の直後、口を開いた。
「実のところ、ファーゴからあなたのことを聞いて、こちらからあなたにお聞きしたいと思ったことが今の君の発言を聞いて疑問に思った点を含めて4つあります」
「まず1つ目、なぜ人間である君がこの世界にいるのかね?理由はわからぬが、見たところ君はかなりの魔法力を備えている。が、しかし君は超人族ではあるまい」
「2つ目、なぜ君がダークゴブリンやオークと一緒に行動しているのかね?」
「3つ目は、なぜ超人族でもないただの人間であるはずの君がそれほどの魔法力を備えているのかね?この世界の磁場はわれらエルフ族の他は超人族やモンスターどもしか克服できていないはず。別世界からやってきた魔力もない人間はたちどころに自我を失い無力な人形のような存在に成り下がってしまうというのに。君ははっきりと自我を保っておる。何があったのじゃ?」
「そして4つ目、君は超人族に対し復讐戦争を挑むと今言った。一体どういうことなのか説明を願おう」
エルード族長の質問に、サトシは口を開く。
「俺は超人族共によって騙されてこの世界に送り込まれてきた。あなたたちエルフやモンスターを狩って土地と資源を奪う汚れ仕事を負わされた。俺は魔王を倒すためとかありもしないおとぎ話のシナリオを吹き込まれて騙されていた。最近あなたたちを含むエルフやモンスターの土地に見知らぬ人間たちが襲撃をかけてきているという話はこのダークゴブリンの老人から聞いている。そいつらは俺と同じように超人族共によってあなたたちを抹殺するためにおくりこまれてきているのさ」
サトシに発言にエルード族長はやや眉をひそめる。
「それはどういうことかね?」
エルード族長の疑問にサトシは続ける。
「殿上人はかつてモンスターやエルフと不可侵の条約を結んで互いの領域を侵犯しないと約束したと聞いている。だが、殿上人はその約束を実質的に破っている可能性があるということだ」
エルード族長はやや考えるような表情をしながら言う。
「確かに10年ほど前、君がいる世界とこの世界の間を結ぶ大きな出入り口が何千年ぶりに開いた。かつて超人族共の大半が別世界に移住して以降そのような大規模な出入り口は我々が知る限り開かれていなかった。それが再び開いてから、超人族とは違う、君のような不可解な人間が我々の居住地を頻繁に攻撃してくるようになった。それらがいったいどこからきているのか最近まで分からなかったが、どうもその出入り口からこちらに送り込まれてきている可能性が高いことはわかっておった。まさかそんなことが・・・」
「俺はある任務の後、俺を操っていた奴に裏切られて体よく殺されかけた。そうしたら偶然変な石、どうもこの世界では選別石とかいうこの世界の磁場の源みたいな石に触れる機会があって、おれは偶然人ならざる力を手にすることができた。そして命からがら超人族共の施設から逃げ出して、このダークゴブリンの老人に助けられた。それからオークの旦那とかとも知り合ったってわけさ」
「要は超人族共はあなた方に事実上宣戦布告無き戦争を仕掛けてきている。あなたたちはかつて超人族と戦った経験があると聞く。どうか俺に協力してほしい」
「・・・確かに我々は超人族と戦ったことがある。だがそれはもう昔の話だ。確かに訳の分からない人間どもがこちらを攻撃してきているとはいえ超人族共と直接ことを構えるなどリスクが大きすぎる。超人族自身が攻撃でもしてこない限り彼らと戦う理由はない」
「いいや、戦う理由はあるさ」
「どうして?」
「これまで説明した通り、俺のような存在がこの世界に続々と送り込まれてきているということはあなたたちにもやがて危険が及ぶというのが理由だ。俺のいた世界を支配する殿上人、つまり超人族は俺のいた世界で役立たずとみなした人間をだますか、洗脳してこの世界に続々と送り込んでいる。それはモンスターやエルフを駆逐してその居住地と地下に眠る資源を奪うためであるがそれだけが目的じゃない。超人族はある種の洗脳実験のためにこの世界を実験場にしている節がある。そして人間を見境なく殺戮マシーンみたいに洗脳できる方法もすでに完成している可能性がある」
「前の戦いであなた方は戦力を温存していると聞く。それに資源を豊富に確保する存在であるあなた方は超人族にとって目障りな可能性がある。間違いなくあなた方を標的に攻撃を激化させてくるだろう」
「超人族、俺の世界では殿上人というが、奴らは自分たちの言うことを忠実に聞くのみの人間を大量に作り出そうとしている。俺の世界の人間はほぼこの世界の磁場に耐性がない。だから、この世界で訓練とか研修を受ければ出世できるとかいう触れ込みでどんどんこの世界に人間を送り込んで自分たちに都合のいいように洗脳している。他方、俺のような不適合とみなされた人間は使い捨ての鉄砲玉としてあなたたちを狩る役割を負わされているのさ。俺はこんなやり方が気に入らない。俺をニートみたいにしたのも結局あいつらのおかしな政治のせいだ。それも俺が復讐戦争を奴らに仕掛ける動機さ」
「それに超人族を倒せばあなたたちにとっても安全保障上好都合だろ。要はあなた方と俺の利害は一致すると思うんだが・・・」
サトシの熱意のこもった訴えにエルード族長はしばし考えたのちに返答した。
「君の目的は大体わかった。だが、君のいた世界、つまり超人族共の世界には我々を超える物質精製の技術があると聞く。君は何とかして元の世界に戻ってそれらの技術を持ち帰る方法はないのかね?」
「それは無理だ。俺は知識をこのダークゴブリンの老人からかなり学んで勉強はしているけど、鉱物資源とかの類を精製して現実に役立てる実務的な知識を俺一人でカバーするのは手に余る。大規模な資源精製をして軍資金を得るにはあなた方の特殊な魔法技術が必要だ」
ダークゴブリンの老人はエルードとサトシの会話を聞きながら、エルードが内心何を考えているか考えていた。
「でっ、君と組んでこちらに何の利益になるのかね?」
「俺に協力してくれたら、超人族に関連する利益をあなたたちに分けてもいい。技術、資源の利権、なんでもいい」
「しかしな、サトシ殿」
エルード族長がやや言いにくそうに言う。
「我々は今のところ資源はそれなりに確保できておるし、特に商売上君と組んで儲かるような案件は今のところない。わしらは平和にこの世界で自分たちの繁栄を謳歌したいだけなのじゃよ。確かに得体の知れない人間が出没してきているが今のところ自力で撃退出来ておるし、いきなり超人族と戦うというのはわしらとしても・・・」
「見え透いた嘘をつくでないエルードよ!」
ダークゴブリンの老人が鋭い眼光特徴でエルードに迫るように言い放った。
「むっ、そなたはもしかして!?確か名前はゼル・ファランクスと申したな?」
「わしのことを思い出したようじゃな。かれこれもう何百年ぶりかの、前回に会ってからもう数百年になるか・・。じゃがおぬしの目つきは昔と全く変わっておらんな」
“ゼル・ファランクス?おっさんってそんな名前だったんだ。これまで聞いても名などないとか言って口を閉ざして教えてくれなかったけど・・・”
「何のことかわからぬが、わしらはおぬしが知っておる通り元来中立的な種族じゃ。そのサトシという人間の少年とどのような理由で一緒にいるのかはわからぬが、わしらは最低限の自衛の事しか考えておらぬぞ」
「とぼけてもわしの目はごまかせんぞ!先の大戦の時からお前たちは不可解な奴らじゃった。お前たちは他の種族が超人族と戦っている最中、豊富な資源が埋蔵されていると推測される地域をまるで狙い定めたかのように支配下に入れておった。しかも、資源を精製する特殊な技術魔法体系を今日に至るまで外部に開示せずに独占し続けておる」
「さらにはここに来る時に見た限り、老若男女関係なく軍事教練を施しておった。おまけに頑丈な地下壕のような物、おぬしの部下は食料倉庫などとうそぶいておったが、間違いなくあれも何らかの軍事用の建造物じゃろう。おまけに町そのものを覆うこれだけの広範囲にわたる要塞。数百年前、わしがおぬしらのところに使いに行ったとき、おぬしらの拠点は粗末な木材を組み合わせた砦の様な存在でしかなかった。それがいつの間にかこれほどの巨大都市をすっぽり覆う巨大要塞のような作りになっておる。おぬしらは明らかに自衛の範囲を超える軍事力を整備しようとしているのではないのか?」
「サトシのような人間がわしらを襲撃してきていることがこの世界で多発しているとはいえ、これだけの軍事力の整備は明らかに別の意図がある。お前たちホワイトエルフ族は一体何を企んでおる?」
マジル・ハクスがゼル・ファランクスことダークゴブリンの老人に向かって皮肉めいた口調で言う。
「先ほどからだんまりを決め込んでいると思ったら、ダークゴブリン軍の英雄ともあろうお方とこのような機会で再開できようとは。なかなか酔狂なものじゃな。せめて名前だけでも最初に名乗ってくれればよいのに」
「わしらとおぬしらは対等の関係じゃ。昔から何を企んでいるかわからぬおぬしらに素直に応対をするほど甘くはない。無礼は承知の上じゃ!」
ロズブーンも加勢して言う。
「俺も同意見だ。お前らホワイトエルフは何考えてんのかわかんねからな。俺らの中でも危険な存在とみなしてる連中は多いんだぜ」
「みなさん落ち着いてください!」
ダークゴブリンの老人ことゼル・ファランクスと、ロズブーンがエルードとマジル・ハクスに詰め寄るように言い、ファーゴが抑えようとした時。
コンコンコンッ!
「失礼します」
扉をノックする音とともに少女
そうこうしているうちに清楚な感じのエルフの少女が使用人と思しき女性エルフ2名を連れて部屋に入って来た。
「族長様、お茶のご用意ができましたのでお持ちいたしました」
「エレーヌか。ご苦労。紹介しよう。わしの娘のエレーヌじゃ」
エルード族長頭を下げながら立ち上がると、部屋の端にいるエレーヌのそばに行き、自分の娘であると紹介する。色白の肌とプラチナブロンドのセミロングに白いドレスのような服装に半透明の羽織を身にまとった少女は一瞬天使かと思うほど美しかった。
「エレーヌ、一体どうしたのじゃ?茶の用意など侍女にやらせればよいものを」
「それがお父様。レナードとサラから先ほど聞いたところ、あの方が再びここに来られたとのことです。ただそれが・・・、見知らぬ方とご一緒とのことで・・・、できればお父様も一緒に会っていただきたいと思いまして」
エレーヌという少女とエルード族長は何やら話している。サトシたちにははっきりと聞き取れなかった。
「それでは皆様、ごゆっくり」
エレーヌが使用人2名とともに部屋を退室しようとした時だった!
突如、部屋に転移魔法の入り口が現れ、その中から細長い金属の塊のようなものが数個サトシたちのいる飛び込んできた!!
直後、その細長い金属の塊はカッと強烈な光を放ち、同時に耳をつんざくようなけたたましい音をたてた!!
バンッォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!
破裂音に続いて耐えがたい不快な金属がこすれる音を何百倍もきつくしたかのような音と光。その場にいた誰もが数十秒間行動不能に陥った。
「お父様!!」
サトシは気が付くと周囲を見回す。すると、エレーヌが黒づくめで覆面姿の数名に捕らえられていた!!あの金属の塊が投げ込まれてきた後に何名かこの部屋に転移魔法で続いて侵入してきたようだ!!
主犯と思しき覆面の人物が叫ぶ!
「この娘はいただいていくよ!!」




