第74話 ホワイトエルフ族居住地域に逃れた律子と公子はエルフの騎士たちと再会する
新世界・ホワイトエルフ族居住地域近隣の森。
鬱蒼とした森の中に突然、別次元と繋がるゲートが開かれその中から2名の人間がこの地に降り立った。ブレザー姿で黒髪ロングの少女と、もう一人はセーラー服姿で同じく黒髪ロングの少女。
ブレザー姿の少女、葦國公子は周囲を見回すと困惑した表情を浮かべた。
「嘘でしょう・・・。この感じは・・間違いない!新世界だわ!私が幼稚園の時に見学させられて以来じゃない。律子、あなたいったい何をしたの!?」
公子は状況が一変したことにやや戸惑って大きな声をあげた。が、それでも基本は冷静な姿勢を崩さない。
「ここは新世界!?公子さん!それ本当ですよね!?そういえばこのあたり確か来た記憶が・・・。よかった!!無事脱出できたんだ!!」
律子は周囲を見回して何か知っている場所はないか見回した。すると。
「公子さん!あれは?」
「!何かの砦の様ね。モンスター?それともエルフ?」
律子はその砦の様な建物とそこに掲げられている旗の紋章に身に覚えがあった。あれはまさしく・・・。
「あれは恐らくホワイトエルフさんの関係の建物だと思います」
公子は遠くの旗をじっくりと見つめた。
「・・・確かにあの紋章は知っているわ。ホワイトエルフ族の中心部族カシン氏族のもの。間違いないわ」
「よかった!!このブローチは新世界と現実世界を自由に行き来できるって言ってたから!本当に新世界に来れたんだ!!」
「律子、どういうことなの?私は確かに先ほどまであの暗殺者たちと戦っていて、空間消滅魔法に閉じ込められて危うく殺されそうになった。でもあなたが私の手を取った直後、光に包まれて・・・。気が付いたらここにいたわ。あなた、いったい何をしたの?」
律子は手にしていた翡翠のブローチを公子に見せた。公子は律子の手にしているブローチをじっと凝視すると、すぐにその表情は驚きに変わった。
「律子!!あなたいったいどこでこれを手に入れたの!?これは私たち殿上人の間でも持っている人間は限られている物・・・。なぜあなたがこんな貴重な物を・・・」
「私は以前この地に来たことは公子さんも知っていると思います。その際にホワイトエルフ族の同い年くらいの女の子とビルの中で偶然出会って一種に逃げたんです。それから現実世界に戻ってくる直前にその人からこのブローチをいただいたんです。その人が言うにはこれは現実世界と新世界を自由に行き来することができる物らしいのです。それを思い出して一か八かあの変な空間から脱出できると思って念じてみたんです。そうしたらどうやら本当に新世界に来れたみたいで・・・」
「その少女はこのブローチについて他に何か言っていた?」
「“時の宝玉”と言っていました」
「・・・そう・・」
公子さんは突然押し黙ってしまった。何か深く考えごとをしているようだ。
“ホワイトエルフ族・・・。高度な物質精製魔法を駆使するエルフ族の高位種族で、その技術力だけなら殿上人をも部分的とはいえ超える秘術を持つとさえ言われている種族。同時に知略と駆け引きにも長けている厄介な存在。元々”先の大戦“では戦いに消極的だったから助かったけど、講和を結んでなお戦力の大部分を温存し、数千年にわたり不気味なほど閉鎖的な態度をとり続けている。一応、殿上人とは講和を結んだから表面上敵対はしていない。時には資源関連のビジネスで私たちと取引をすることもあることもある。・・・けれど、そんな慎重な種族がなぜこんな最高位のマジックアイテムを律子に渡したの?これは現実世界と新世界全体でも持っている者は限られている・・・。これだけの貴重なものを単に同族を助けたという恩義だけで渡したりするものではないはず・・・。一体ホワイトエルフ族は何を考えているというの・・・?”
公子は心の中で分析した後、口を開いた。
「あのデーモンが持っていたのは紛れもなく黒水晶。禁断の呪法を封じ込めてあるマジックアイテムに間違いないわ。私たちにかけてきた魔法は発動者の命と引き換えに相手を時空のはざまに引きずり込んで殺す一種の呪いのようなものだった。自分の命の安全至上主義のデーモン族があんな捨て身の魔法を使うなんて・・・。私としたことが飛んだ不覚だったわ・・・」
公子さんの表情と口調から彼女がピンチだったのは本当だったようだ。私が公子さんを見ていると彼女は我に返った表情になってこちらを見た。
「一応言っておくと、あの魔法を私は解除できたことはできたわ。けれど術式が極めて高度だったし、おまけに複雑で時間内に解くのは正直難しかった。あの時、律子のその機転がなかったら・・・」
「公子さんでもピンチになることってあるんですね・・・。殿上人はてっきり無敵の超人かと思っていましたけど・・・」
「殿上人と言えども一応は人間よ。私も親から慢心をするなと言われ続けてきたわ。でも本格的な対超人族用魔法をかけてきた敵は今回が初めてだったわ。」
公子さんが押し黙る。どうしたのだろうか?緊張しすぎてしんどくなったのだろうか?
「公子さ・・・」
私が話しかけた直後、ムギュッとされた!!!公子さんのいいにおいがそのまま私の間近に来て・・・。
「ヒャッ!!!!き、き、公子さん!!!いきなり抱き付かれたら・・・・・・、わ、私・・恥ずかしいです・・・・・・」
「ありがとう!律子!私、人生初めての危機だったわ。でもあなたのおかげでこうして危機を突破できたわ!」
公子さんは私に抱き付いてきたのだ・・・・・・。時折見えるすごくきれいな横顔・・・。まるで麻薬のように私の正常な思考を奪っていくいい香り・・・。そっ、それに華奢で引き締まった体つきからは想像もできないふくよかな感じ・・・。精神の正常値が危険な領域に3秒ほどで達してしまったことがすぐに実感できた!まずい!!このままでは、私は女なのに何かまずい扉が自動で開かれてしまう気がする!!自分でも目がグルグル回っている光景であろうと分かるくらい私は恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまっていた。早く離れないと!!
「これで余計あなたへの興味が深まったわ。あと、今回のことは誰にも内緒ね♬私もあなたを助けてあげたんだからお相子よ♬」
「そっ、そっそれはいいですけどもうこれ以上は!!!」
何とかして私は公子さんの中から脱出した。何か公子さん残念そうなむすっとした顔をしている気がする・・・。
“それはそうと、これからどうしよう・・・。“
律子がこれからどう行動するかと考えていた矢先だった。
「誰だ!!そこにいるのは!!!」
心の中まで響きわたる甲高い男性の叫び声に律子はとても驚いた。
恐る恐る振り返ると、そこには甲冑に身を包み、外見の形状からして両刃の西洋式ソードを腰に佩いたエルフの男性と女性が2名、それぞれ馬に跨ってこちらを見ていた。
男性の方は見るからにたくましい肉体を持ち相当な手練れということがすぐにわかった。もう一人の女性の方も美しい銀色の髪の毛を持ち、それでいてその美貌からは想像もできぬ鋭い眼光は自らを戦士であると主張しているようにさえ見えるほど張り詰めた雰囲気を持っていた。
「いえ・・・、あの・・・、私たちは・・・、ってあれ?」
私は武装した屈強なエルフ2名を見てどこかで見覚えがあった。どこかで・・・。
思い出した!!確かエレーヌさんの故郷にたどり着いたときに迎えてくれたホワイトエルフの戦士長と副戦士長の方たちだ!!名前は確か・・・。
「あの!!もしかしてホワイトエルフ族の戦士長レナードさんと、副戦士長のサラさんではありませんか!?」
律子の発言に両名はいぶかしげな表情を一瞬した。そして、その表情はそのあとすぐに驚きに変わった。
「まさか!?あなたはエレーヌ様を助けていただいたカズサリツコ様ではありませんか!?」
男性の発言に律子が返答する。
「そうです!エレーヌさんと一緒にいた上総律子と申します。よかった!」
律子とわかった女性の方も驚きの表情を浮かべていた。
「カズサリツコ様!なぜこのような場所に!?確かあなたはご自身が住まわれている世界にご帰還されたはずでは!?」
「はっ、はい!それが私の世界の方で怪しげな集団に危うく殺されそうになって・・・。それで万事休すかと思った時に以前エレーヌさんから頂いたブローチのことを思い出して、それに祈ったらここに来たんです」
「どうしてレナードさんもサラさんもここに?」
「先ほどこのあたりから妙な魔力の反応を探知しまして・・・。何者かの襲撃かと思い探索に来たんです。リツコ様、一体どうやってここに?」
律子は手にしていたブローチを両名に見せた。
「エレーヌさんが前に別れの際にくれたこのブローチに祈ったんです。そうして気づいたらここに・・・」
「間違いない。“時の宝玉”だ!どのような事情があったかは存じませんが、よくご無事でおられましたリツコ様」
レナードの言葉に律子に安堵の表情がこぼれる。
・・・だが、一方で律子の後ろにいる公子は先ほどから両名に警戒のまなざしを向けていた。そして、両名もまた公子に疑念の目を向ける。
「リツコ様。大変失礼ながら、先ほどからあなた様の後ろにおられる方はどなたでしょうか?」
レナードの表情から先ほどまで律子に向けていた穏やかさが消えていた。彼が公子を見る視線は明らかに警戒の目つきになっていた。サラの表情も公子を明らかに警戒するものになっていた。
“どっ、どうしよう?エルフの人たちって確か昔、公子さんの属する殿上人と戦っていたんだよね・・・。ホワイトエルフの人たちは今、殿上人のことをどう考えているかわからないけど、もし公子さんが殿上人だと言ったらなんか気まずいことになりそうだし・・・。どうしよう・・・・・・・”
律子が返答に困っているのを尻目に公子が口を開いた。
「私は律子さんの知り合いで、一緒に学校から帰る途中で変な人たちに追いかけまわされたのです。それで追い詰められていたところを間一髪のところで律子さんと一緒にこの世界に飛ばされてきたのです。怪しいものではございません」
いつもの公子さんからは考えられないようなしおらしい口調にやや私は笑いかけたがぐっとこらえる。あくまでも全くこの世界のことを知らないという演技をしているようだ。
「そっ、そうなんです!この人は私の知り合いの方でよく勉強を教えてもらっていて・・。それで今日一緒に帰る途中で事件に巻き込まれて・・・、それでブローチに祈ったら一緒にこの世界に来たんです」
律子の説明にレナードとサラはやや困惑しながらも了解したという雰囲気になった。
「分かりましたリツコ様。そのような事情でしたら問題はありません。そちらの方、ご無礼をお許しくださいませ」
頭を下げたレナードに公子は丁寧に返事をする。
「いいえ騎士様。見ず知らずの人間を疑ってかかるのは当然ですわ。お気になさらないでくださいませ。それに・・・」
「真剣勝負を経験してきた者は力ある者を無意識に警戒して当然ですからね」
公子が後に小声で言った発言にややサラの方が怪訝な表情を浮かべたが、すぐにレナードが律子に申し出る。
「それではリツコ様。こんなところでおられるのもよろしくありません。向こうの世界にお帰りになられる前に少し館で休んでいかれてはいかがでしょうか。エルード族長様もエレーヌ様もともにおられますゆえ」
「本当によろしいのですか?エレーヌさんとも再開できるの?」
「ええ、エレーヌ様はリツコ様のことを大変感謝されておられました。再びお会いできる日を楽しみにしておられるご様子で、リツコ様が来られたとなればさぞお喜びになられることと思われます」
「まあ、1か月しか経っていないけど、エレーヌさんと再び会えるのは私もうれしいな」
「もちろんそちらのお知り合いの方もご一緒にどうぞ」
レナードの申し出に公子も答える。
「ありがとうございます騎士様。それではお言葉に甘えて」
しおらしく礼儀正しい態度でレナードに答える公子。一方、サラは公子をいぶかしげに見つめている。
こうして律子と公子はとりあえずホワイトエルフ族の館へと向かうことになった。
役者はそろった。
舞台は整った。
本当の戦いはこれより開始される。
現実の世界、新世界という名の異世界。
それらの境界すべてがあいまいになり、すべての存在が巻き込まれる戦争を!
抑圧されたすべてが解放される動乱を!
人々の、そしてモンスター、エルフすべての心に潜む魔獣が雄叫びを上げる日が来るのだ!
それが始まりつつあることをまだ誰も知らない・・・・・・・・・・・。




