第73話 欲望の町ロンバートブルクで俺はホワイトエルフ族の魔法技術者と出会い族長の元へと話しをしに行きます
「なあ、ロズブーンさんよお・・・。ほんとにこんなとこにホワイトエルフ族の奴がいるのかよ?」
サトシが愚痴をこぼした理由はこの町のすさまじい派手さにある。
ホワイトエルフ族居住地域と超人族支配地域の国境近くに位置する商業都市ロンバートブルク。
建物こそ中世ヨーロッパ風の建物が並ぶファンタジー世界風の光景だが、問題はそこにいる住民である。昼間だというのに町中そこかしこにきわどい服装をしたエルフの金髪銀髪美女が淫靡な肢体を披露し、通常とはあきらかに違う洗練された高級な服装に身を包むモンスターやエルフがそれらを連れて豪遊している光景がそこらじゅうで見られる。その雰囲気は、まるで歌舞伎町やキタかミナミを思わせる派手な歓楽街そのものである。現実世界の欲望の町をそのまま人間をモンスターやエルフに置き換えただけの光景にサトシはカルチャーショックを受けていた。
「もちろんだとも。奴らは自分たちの資源精製魔法の技術を用いて資源の闇市場を事実上独占している。あいつらがいなきゃいくら鉱物などを採掘してもただの石ころや砂に過ぎんよ」
派手な歓楽街の中を通り過ぎると、本命である鉱物関連の闇市場が見えてきた。闇といっても公然の市場で、屋台のような仮設の取引所がそこかしこに並び立ち、モンスターやエルフがそれらの軒先の袋に入れられた大量の鉱物資源らしきものを鑑定したり、それを持ち運びしたり購入していく光景が広がっている。まるでアフリカかそこいらの第三世界の市場を彷彿とさせる光景だ。取り締まる警察のような存在は今のところ見当たらない。現実の歓楽街の次は第三世界的な何でもあり風の市場からけたたましく聞こえる熱気のこもった取引の掛け声にサトシはさらにショックを受けた。そのたくましさに、したたかに生きるモンスターやエルフの姿勢に。
ゴブリンの老人は市場で取引されている鉱物を見て小声ながら驚愕の声をあげる。
「この市場にある物質は見たところ相当純度の高いものばかりじゃ。小僧の世界、つまり超人族共の世界・地球と呼ばれるところではおそらく垂涎の的ともいうべきものじゃろうな」
ダークゴブリンの老人はさらに解説を加える。
「本来こういった鉱物の数々はわしらの世界では特殊な魔術儀式に使われる物じゃ。資源が偏在している土地ではなぜか呪術が盛んという奇妙な共通点がある。おぬしの世界でもかつて化学は錬金術によって発達したじゃろう。錬金術の本質とは黒魔術、すなわち物質を用いて人間の心を自在に操ることを主眼としておったのじゃ。どことは言わぬが小僧の世界でも資源が多くある地域は紛争地帯であることが多いじゃろう。奇妙なことにそこでは資源が多いと同時に呪術が盛んである場合が圧倒的に多いのじゃよ」
サトシは黙ってダークゴブリンの老人の話を歩きながら聞いていた。
そうこうしているうちに目的地に着いた。
そこは市場の奥にある古びた3階建てのレンガ造りの建物で入り口に看板が掲げてあった。この世界の言語だが、翻訳してみると“鉱物取引所”という意味だった。中ではモンスターやエルフが表の市場と同じように鉱物関連の取引をあわただしくしていた。
ロズブーンはサトシとダークゴブリンの老人を連れて1階の一番奥のカウンターに向かった。そこは昔の銀行の窓口のようなところで、やや年を取ったオークが帳簿か何かを真剣な面持ちで書いていた。
「ロゴス。いつもお勤めご苦労さんだな」
ロズブーンの問いかけにロゴスと呼ばれたオークは丁寧に整えられた顎髭を触りながら返答した。
「なんだロズブーンか・・・。今日は取引の日じゃねえのに何しに来たんだ。・・・最もお前さんの連れを見る限り、まじめな話をしに来たって感じだな」
「その通りだロゴス。ちっと込み入った話がしたい。今時間あるか?」
「分かった。裏の会議室が丁度空いてる。そこにまわんな」
サトシ一行はロゴスというオークの指示通り、窓口横のドアを開けてその奥にある会議室へと入った。中はシンプルな机が一台に長椅子がそれぞれ机を挟んで向かい合わせに2つあるだけだ。
ロゴスは片方の長椅子に座り、サトシ一行はもう片方の長椅子に3人腰かけた。
「突然アポもなしに来て悪かったなロゴス。今日は急な頼みがあってここに来たんだ」
ロズブーンの頼みにロゴスは淡々と口を開く。
「お前とは付き合いが長い。お前がもたらすコルタンはなかなか高値がついてこっちも潤っている立場だ。言ってみろ」
「単刀直入に言うぞ。俺は故あってこのサトシという人間の小僧とホワイトエルフ族の族長を引き合わせたいんだ。それであんたはホワイトエルフ族の魔法技術者と伝手があるだろ。ホワイトエルフ族にそのことを取り次いでほしいんだ」
ロズブーンの発言にロゴスの表情が曇る。
「ロズブーン。なぜ人間などとつるんでいる?おまけになんのいきさつでそこにいるを人間の小僧をホワイトエルフ族に引き合わせるんだ?こいつは俺たちを最近襲撃している種族だぞ!」
「俺の町は先日勇者を名乗る人間ども4人組に襲撃された。その時、俺たちはこのサトシという小僧に助けられた。そして、サトシは人間どもを撃退してくれたんだ」
ロズブーンの説明にロゴスは目を丸くして言った。
「人間が人間を撃退するだと・・・?どういうことだ?超人族との戦争を忘れたわけではあるまいに。そいつも超人族のスパイじゃないのか?」
「こいつはその人間から捨てられたんだ」
「何だと!?どういうことだ?」
「このサトシという小僧は超人族共に騙されて地球という超人族が移住し支配している世界からこの世界に送り込まれた。俺らを駆逐して土地と資源を奪うためにな。だが、こいつはこの世界の磁場を人間でありながら超人族と同様に克服して超人族の支配下から逃げてきたんだ。それで俺の町に流れ着いてさっき言ったようなことになったんだよ」
ロズブーンはロゴスに経緯を簡潔に説明した。
「近頃、超人族とは違う得体の知れん人間どもがこの世界にやってきて我々を襲撃する事件が後を絶たんとは思っていたがそんなことが・・・。分かった、紹介しよう」
「私と付き合いがあるのはホワイトエルフ族の中で中心的な地位にあるカシン氏族所属の技術者じゃからな。そこのエルードという族長はホワイトエルフ族各氏族を束ねる実質的なトップだ。族長との取次は可能だよ」
ロゴスの発言にサトシは喜んだ。
「本当かよ。それならこの話はうまくいきそうだな」
サトシの発言にダークゴブリンの老人が慎重な口調で言う。
「まて小僧。忘れたのか?ホワイトエルフ族とは相当気むずかしく駆け引きを意外と好む相手。そのトップと会えるからと言って油断はならんぞ」
「分かっているさ」
サトシとダークゴブリンの老人のやり取りを尻目にロゴスはロズブーンに話す。
「ロズブーン。お前がどんな意図でその人間の小僧をエルード族長に引き合わせようと考えているかは俺の知ったことではない。だが、紹介料はいただくぞ。文句はないな」
「分かってるさ。俺はこの小僧に借りがあるんだ。金は俺持ちで払うから小僧をエルード族長に紹介するよう手配してやってくれ」
ロズブーンの言葉にロゴスは黙って立ち上がると一行に言った。
「少し待っていろ」
そう言うとロゴスは一人会議室を出た。
5分ほどして彼は会議室に再び戻ってきた。手には分厚いノートを一冊持っていた。彼は先ほどの長椅子に座ってそのノートをめくっていき、ここだと言いながらあるページを開いた。
「今から取引先のホワイトエルフ族に連絡する。お前たちもここでいてくれ」
そう言うとロゴスはそのノートに書かれた相手先の住所と思われる何かを見つめると、何かを唱え始めた。
「遠距離間の通信呪文じゃな。昔仲間との連絡に使っておった。懐かしいわい」
ダークゴブリンの老人が言うように、ロゴスというオークが何かを唱えると、そのノートに書きこまれていたホワイトエルフ族の取引相手の住所と考えられる一文が光だし、目の前に画面のようなものが現れた。そして1分ほどするとそこから若い男のエルフの顔が映し出された。
「どうしたんだロゴスさん。今日は鉱物の鑑定日や取引の日ではないはずだが何か用なのか?」
「急に呼び出してすまなかったなファーゴ。実はお前に私的な頼みがあって連絡したんだ」
「頼みとは?あなたとは商取引でしか関係したことがないのに珍しいですね。それは何なんだ?」
「ある人間の若者がお前のところの族長に会いたいと申し出ている。それを取り次いでほしいんだ。できるか?」
ファーゴと呼ばれた若いエルフの男性は端正な顔立ちでかつ精悍な雰囲気を持ち、高い知性を感じさせる。彼はやや怪訝な顔をして丁寧な口調で言う。
「失礼ながらロゴスさん。あなたが人間と付き合っているのは今回が初耳です。近頃人間が大量にこの世界に侵入して我々の安全を脅かしていることで問題になっていることはご存じのはずです。一体その人間とは何者ですか?超人族のスパイとかだったらシャレになりませんよ」
「俺の知り合いのロズブーンの知り合いさ。何でもこないだ町を人間どもに襲撃されたらしくてさ。それをその人間が撃退してくれたんだとよ。それでこの小僧はあんたのところの族長と何か思うことがあって話がしたいらしいんだ。取り次いではくれないか?」
「人間でありながら人間を撃退した・・・?その男と話を今できるか?」
「ああ」
ロゴスはサトシを魔法の画面の前に呼んだ。
「初めまして。俺はサトシと言います」
「初めまして、私はホワイトエルフ族物質精製術士のファーゴと申します。失礼ながらあなたはなぜ族長様と会いたいと希望されるのですか?」
「そうなんだ」
「なぜ?」
「現実世界に戻って殿上人、あなたたちが言うところの超人族と戦うため」
「何ですと!?超人族と戦うとはどういうことですか?」
「俺は現実世界でひどい目に遭い続けた上にこの世界に騙されて送り込まれ、モンスターやエルフを狩る仕事を強制された。そして危うく殺されそうになって命からがらロズブーンのいる町に逃げてきたんだ。俺が現実世界と戦うにはあなたたちの持つ資源を精製できる技術が必要なんだ。だから族長と話がしたい」
ファーゴはしばらく考え込んだのちに再び口を開いた。
「残念ですがそれはできません。いくらロズブーンさんやロゴスさん経由の依頼とはいえ、出自のはっきりしない、それも人間を族長様に引き合わせるなど・・・」
その時。
「族長に合わせよう」
「魔法の画面から別人の声が聞こえた。」
「しかし精製長殿!?」
ファーゴという若いエルフの横から、ローブで顔を隠した老エルフが出てきた。
「若い人間の少年よ。サトシと申したな。そなた、超人族と戦うとは本当か?」
突然画面に出てきた老エルフにサトシは一瞬困惑したがはっきりとした口調で言った。
「もちろんだ。そのためには資金がいる。そしてそのためにはあなたたちの力が必要なんだ。だから一度でいい。族長さんと話をしてみたい」
サトシの言葉に老エルフは少しだけ頷いた後、口を開いた。
「よろしいでしょう。それでは1時間ほどのち、そちらに空間転移魔法でファーゴを使いによこしますのでしばらくお待ちください」
そう言うと老エルフとの通信は途絶えた。
ロゴスが言う。
「あれはおそらくファーゴの上司、技術魔法を統括する方だ。私も名前は知らないが存在はファーゴから何度か聞いたことがある。よかったなサトシとやら」
「会える手はずが整ったならそれでいいよ」
「よかったなサトシ!一応俺も随行させてもらうぜ」
「フム・・・。ホワイトエルフの連中と生で話すのは何百年ぶりかな。小僧、気を入れておけよ。奴らは見かけによらず老獪じゃ」
「分かってるって」
1時間後、ファーゴが転移魔法でサトシたち一行を迎えに来た。
こうしてサトシたちはエルード族長と話をするべくホワイトエルフ族の本拠地へと向かった。




