第72話 俺は現実世界の権力者どもと戦うために戦力を整えるための資金を手に入れるべく行動を開始します
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ダークゴブリン老人自宅地下3階。
ここには使われていない部屋がいくつかある。そこでサトシたちは先日捕虜にした商人男を尋問していた。
こないだの僧侶男のように自爆されると困るので、自己犠牲系魔法をふくむすべての魔法を封じてある。だがこの男、まるで何もしゃべらない。殴る蹴る怒鳴るいずれもまるで効果がない。時間が達ごとに徐々に体の内側から耐えがたい電撃の痛みが走る拷問魔法をかけてもやや苦痛の表情は浮かべるがまるで口を割らない。
拷問魔法とはダークゴブリンの老人の資料室にあった秘伝書の中にあったものだ。普通のRPGでは攻撃魔法は単純に敵を攻撃するとか状態異常を引き起こして敵を不利な状態にさせるパターンが多いが、この秘伝書にはそれらをさらに応用する魔法体系がびっしりと書きこまれていた。サトシは短期間でその書全体を読み込み、まずは使えそうな魔法、すぐに身につけやすい魔法から順に習得していったのだ。拷問魔法もその中の一つで、攻撃魔法を敵の体内に送り込み、時間をかけてダメージが徐々に全身に広がるようにするものだ。
サトシはやや疲れた表情を浮かべながら近くにいたダークゴブリンの老人に語った。
「おっさん。こいついくら痛めつけても何にもしゃべりやがらねえ。いったいどうなってんだ?」
ダークゴブリンの老人は近くの小さな机に置いてあったカップに入った紅茶を一口飲んだ。そして、苦虫をかみつぶしたような表情をしながら口を開いた。
「こやつ、おそらく相当特殊な精神操作を受けておる。わしの見立てではおぬしの尋問も何の苦痛も感じておらん。痛みは多少感じている可能性はあるが、おそらく別の理由付けをして耐え抜いておる。有り体に言えば深層心理に至るまでの深い洗脳をされておるということじゃ」
サトシは椅子に座ると同じく部屋の隅にある小さい机の上に置いてあったガラスコップの水を一気に飲んだ。乾いた喉を潤した満足感が先ほどまでの尋問を多少は解消したように感じたのか、はーっと息を吐いた。
「深層心理までって・・・、なんか昔大事件を起こしたカルト宗教団体みたいだな。要は俺がこいつを叩きのめしていてもこいつは別の理屈をつけて耐えているって・・・。拷問されてもそれに耐えられる洗脳をされているってことか?」
「まあそうゆうことじゃ。拷問されればされるほど自らの正しさが証明されるとでも思っているのじゃろう。まるで宗教的洗脳そのものじゃ。一体こやつの背後にいるのは何者じゃ?もう少しわしも昔の資料を探して調べてみるが、現時点ではわからんことだらけじゃわい」
2人が部屋で商人男について分析していると、酒場の若いオークが部屋に入ってきた。
「失礼します。おやっさんが回復しました」
彼はそう言うと、彼の後ろからロズブーンがあらわれた。町の中心地にある酒場の店主で種族はオーク族。身長は190センチはある巨漢。筋肉質で横幅のあるガタイからアクション映画の主演も張れそうな肉体派である。ロープレでよくある粗末な布製の服とブーツをはいた、ドイツあたりの中世の酒場で出てきそうな格好をしている。
「その~・・・。ありがとよジジイ。今回はお前に感謝してやるよ。それと小僧。サトシとか言ったな。一応俺たちの町を守ってくれたことに感謝するぜ」
ロズブーンという酒場のオーク店主はサトシに頭を下げた。ぎこちない部分はあるものの、意外と素直な部分はあるようだ。以前はかなり気が荒れていたが、どうやら先日の自称勇者の襲来と言い、ゴブリンのおっさんが言ってたようにモンスター狩りをする人間が増えている、つまり現実世界から送り込まれてくる人間が多いのは確かなようだ。
サトシはロズブーンに前から気になっていたことを質問するために部屋を変えることにした。尋問している部屋から離れたところにある小さな会議室の中でサトシはダークゴブリンの老人、ロズブーンの3名で話をすることになった。
「なあ、ロズブーンさん。せっかくに機会だから俺がここに来た経緯を説明しておこうと思う」
「すでに知っていると思うが、俺はあんたたちが言う超人族の住む現実の世界からこの世界に来た。来たというより騙されて送り込まれたというのがより正確だな」
「俺は現実の世界で家に引きこもる落ちこぼれで学校にもほとんど行っていなかった。そんなある日に女神を名乗る女が現実世界とこの新世界を支配している魔王を倒してほしいと俺をそそのかしてこの世界に送り込みやがった。だが、本当はこの世界の資源を強奪するためにその産出地帯にすむモンスターやエルフを掃討する汚れ仕事を負わされるための嘘だった・・・」
「これまでの俺自身の知りえたことと、このダークゴブリンの老人から聞いた話と、そしてこの老人所蔵の資料を読み込む中で分析した結果、これは現実世界の政府とそれを牛耳る殿上人、あんたたちの世界では超人族っていうらしいが、どうも現実世界で俺のように社会不適合者とみなされた人間はそれらの政策でこの新世界に使い捨て品の鉄砲玉のような形で送り込まれているらしい」
「この世界に送り込まれる俺のような人間はその前に俺がされたようなファンタジー風の嘘話を吹き込まれる。俺のいた世界では一昔前にこの新世界のようなモンスターやエルフが住む中世風の異世界に転生、または転移するファンタジー物の本とかが流行したことがあって、今も根強い人気がある。俺はあたかもその分野の物語の設定によく似た経緯でこの世界に転移してきた」
ロズブーンはサトシの説明に答える。
「おい、小僧。まさかそれじゃあ俺らを最近襲っているのは・・・」
「そう。俺のように魔王を倒せとか適当な嘘のシナリオを吹き込まれてこの世界に送り込まれた現実世界の落伍者があんたたちを襲っている可能性が極めて高い。それも、それらはすべてあんたたちが言う超人族があんたたちの土地と資源を強奪するための先兵として。おそらくこの町を襲撃した先日の自称勇者とか、あんたたちを頻繁に襲っているがそれだ」
「待ってくれ。確か数千年前に超人族と俺らの先祖は講和を結んで未来永劫お互いの領域を侵犯しないと約束したとこれらは親から伝え聞いている。もしお前の言うことが本当なら超人族共は俺らとの約束を破りやがったってことじゃねえか!?」
サトシは確信づいた顔つきでロズブーンに返答する。
「そうだ。現時点で理由は不明だが、あんたたちが言う超人族はモンスターやエルフとの講和を事実上反故にしているとしか考えられない」
「なぜ?それになんでお前らの世界の落ちこぼれの人間どもをだまして俺らの掃討をするために送り込むとかそんな回りくどいことをするんだ?」
「俺が推測する奴らの狙いは2つ。一つは現実世界で超人族が好ましからぬと一方的に決めつけた人間を体よく始末するため。もう一つは可能な限り超人族が関与していることを誤魔化ながらこの世界の資源を根こそぎ連中の物にするためだ」
「ゴブリンのおっさんの歴史書を読んだり、現実の世界の超人族の歴史的経緯を調べてみて俺なりに分析してみたが、超人族と言えども力のあるモンスターやエルフと再び全面戦争をするのは難しいのだと思う。超人族と講和を結んだモンスターやエルフはそれなりに強いだろうし、もし再び全面戦争になれば超人族も戦力を消耗して肝心の現実世界の権力基盤が危うくなりかねない。なにせ超人族が地球という俺の住んでいた世界へ来た数千年前とは違い、今俺の住んでいた世界は科学技術が進歩して何でも情報がすぐに全世界にバレるようになっている。都合の悪い情報は陰謀論をレッテルを張るか通信網を検閲することでごまかしているが、今、新世界へ大規模な戦力を送り込んで大規模な戦争を始めればいづれ俺の住んでいた現実の世界の住人に大々的にバレてごまかせなくなるから政治的リスクが大きい。それにこの新世界は磁場がある関係で普通の人間はたちどころに自我を失うし、それはそれで一見使い捨ての鉄砲玉として使えそうだが、大規模に送り込めばやがて疑惑がもたれるし、プロの兵士からなる軍隊を送り込むのは確実にバレるから難しい」
「だからそれらを誤魔化すために超人族は時間をかけて土地資源を強奪することを思いついたのだろう。そしてそのために現実の落ちこぼれをこの世界に半ば洗脳してあんたらを狩らせているんだろうと俺は推測している。現実世界には今や格差が拡大して見捨てられた人間が数多くいる。特に俺のいた日本社会というところは冷酷非情で個人救済が一切なく、何でも自己責任で片付けられる風潮がまかり通っているから、そういった落ちこぼれのレッテルを張られた人間が失踪しても日本社会では誰も気にしないから足が付きにくい。超人族、俺の世界では殿上人というらしいが、そいつらは日本特有のそういった冷淡な社会の構図につけ込んでそうしている可能性がある。引きこもりとかは現実逃避のために異世界への転生とか転移といったことにあこがれてその手の話に乗りやすいという心理状態にあることも要因の一つだ」
「というより、異世界転生ものとか転移ものが以前から流行っているのも社会不適合者をうまくだまして新世界へ送り込む際に新世界へ行くことの抵抗感を薄くしてだましやすくするための布石だったのかもな」
サトシの説明にロズブーンは軽く頷いた。
「サトシ。もしかしたらあんたの言う通りかもしれん。最近のおれらへの襲撃事件の激増、それも超人族ではない人間が突如この世界で俺らを攻撃し始めたこと。確かにあんたの推理と符合する。しかし、超人族共はなんでそんなことを・・・。奴らはもう十分に力も資源もあるはずなのに」
「それはおそらく俺の住んでいた世界の事情が原因だ」
「俺の住んでいた世界は科学技術の進歩で、かつてのように宗教や超常現象、オカルトの類で大衆を洗脳支配することができにくくなってきた。それに人口の激増と資源の枯渇でかつてのような大規模な経済成長ができない情勢になってきたのさ。おそらく超人族共はこのままでは自分たちの権力を維持することが困難になると踏んだんだろう」
「だから奴らは新世界全体をわが物とせんと考えたんだろう。そうすれば、新世界の磁場で人をより強力に洗脳できてより多くの人間を奴隷にできるし、現実世界の不適合者を使って未開発の資源が豊富に眠るモンスターやエルフ居住地を強奪できるし、しかもそれら不適合者たちに勇者としてのチートスキルを与えられたとか適当な自己満足のカタルシスを与えて体よく使い捨ての鉄砲玉として処分できるし、まさに一石三鳥だ」
ロズブーンは続けてサトシに質問する。
「サトシ。あんたはこれからどうするんだ。あのおかしな連中を退けたのはいいが、遅かれ早かれまた新手が来るぞ。どっちにせよこの町の存在も向こうにバレたみたいだし、どのみち奴らとの戦いは避けられんが、こっちは戦傷を負った者がほとんど・・。どうする?」
「俺は超人族共と戦う」
「戦うってどうやって?あいつらは人間上がりのくせに想像以上に強大だぜ」
「モンスターやエルフ、種族は何でもいい。軍勢を整えて現実世界を攻略する。そのために俺は今ゴブリンのおっさんの本に書いてあった回復魔法の最高位の一つを習得すべく練習している。それがあればこの町の連中の傷とかも治せるはずだ」
「それと軍隊を組織するには何よりも資金がいる。それで俺はこの世界の資源を確保してやろうと思っている」
サトシの決意にダークゴブリンの老人が言う。
「どうするんだ小僧。おぬし、やはり本気でホワイトエルフの奴らを味方に引き込むというのか?」
「当然だ。一応この町の連中は俺のことを支持してくれるようになってきた。だがそれでも戦力の強化には金が要るし、俺がさらに強くなるにはやはり実力のある味方も増やさないとダメだ」
「だが、問題はどうやってホワイトエルフに接触するかだ。おっさんには何か伝手とかないのかよ?」
「残念ながらわしにもない。もう何百年も前に仕事で会ったことがあるだけでな。伝手とまで言えるほどの関係はない」
「一応、俺には伝手があることはあるんだ」
ロズブーンの発言にサトシとダークゴブリンの老人がともに反応した。
「なんだと!?それは本当か!?」
「伝手があることはある・・が・・・」
「が・・・とは何だ?」
「ここから先は町の他の連中に話すなよ!コネのある俺の同族の一部だけで秘密裏にやってることだし、他の種族の連中にバレていろいろもめるのはゴメンだからな」
「分かっておる。もったいぶらずに話せ」
ダークゴブリンの老人がけしかけると、オークのロズブーンはやや渋りながら話し始めた。
「実はこのナタニエレの南10キロに小高い摺鉢山があって、その地下にはコルタンという鉱物が大量に埋蔵されているんだ。それは俺らの間では元々上級魔導士職のオークが魔力を増幅させるための秘密儀式に使う特殊な鉱物で、一般のオークにはなじみのないものだった。ところが、仲間から聞いた話ではどうもそれは地球という超人族共の移住先、つまりサトシがいた世界だ、そこで使われている何らかの小型の通信手段を作動させるのに必要不可欠な物資で、結構いい値段で買い取ってくれるらしいことが分かった」
「それってスマホの原材料だな。やっぱりレアメタルも出るんだこの世界」
サトシの発言にロズブーンは頷きながら続ける。
「だから俺は数年前から周りには内緒で鉱物を高値で買い取ってくれるロンバートブルクの町の闇市場に採掘したコルタンを持ち込んで取引をしているんだ。週1回、他の町の同族とも極秘裏に協力しあって山の地下からコルタンを採掘してロンバートブルクへ売りに行ってるんだよ」
「採掘は簡単なのか?」
「おうよ。半ば露天掘りに近い量ある。少し掘り返すだけでたくさん出てくるからあとはそれを袋詰めするだけで事足りる。力仕事できついが俺らは力自慢が多いし見返りも大きいから平気よ」
「それでそのロンバートブルクで仲買をやってる知り合いのオークがいてよ。そいつにホワイトエルフ族の知り合いがいるんだよ。何でも買い付けた鉱物を精製するにはホワイトエルフ族の魔法技術なしにはできねえって言ってたな。そいつから聞いた話ではホワイトエルフ族ってのはどうも極秘裏にこの世界の資源を現実世界の不特定多数の勢力に売りつけて多額の利益を得ているって噂だぜ」
サトシは腕組をしながら考えた。
“これまで聞いてきた各種の情報や資料を統合すると、この世界には現実世界をはるかに上回る資源が眠っていることは事実のようだ。何せ俺自身、その資源が豊富にあるモンスターやエルフの居住地を侵略して奪うためにこの世界に体よくおだてられて送り込まれたんだからな。この酒場のオークの店主が資源の闇取引に関与してるところを見ても、俺が分析した通り、この世界にそれを利用した儲けの可能性は無限にあるってことだ。これは殿上人と言われる特権階級が独占したがる理由として十分成り立つ。やはり殿上人と戦うにはホワイトエルフ族の鉱物精製に関する技術が絶対にいるな。だが、どうすればそいつらを味方に引き込めるか・・・?“
サトシが考えていると、ダークゴブリンの老人が怪訝な顔をしてロズブーンに問いかけた。
「ロンバートブルク・・・。超人族支配地域とホワイトエルフ族支配地域それぞれの国境に近い商業都市じゃ。あそこは相手がだれであろうと儲かればそれでいい現金の町。表ざたにできんブツが公然と売られる闇市場も発展していると聞く。お前、いつの間にあんないわくつきの欲望至上主義の町に足を踏み入れるようになった?」
「仕方ねえだろ・・・。何せ酒場の経営だけじゃきついんだよ!こんな戦病者が多い最果ての町じゃそうでもしなきゃ食えねえ。おまけにさっきの話の通り得体の知れねえ人間どもがサトシのいた世界からわんさか押し寄せてきて俺らの居住地域を攻撃してきている。他の町の親戚や同族もそいつらに殺されるか住処を追われたのがたくさんいるんだ。そのせいで他の町との貿易もリスクが増す一方で利益は大幅減。だったら同じ危険なら一回の運搬で莫大なリターンが見込める鉱物取引をするのはあたりめえよ」
「まあおまえが何の取引をしていようと知ったことではないが、その知り合いのオークがホワイトエルフ族とコネがあるというのは確かなんじゃろうな?」
「ああ、俺もそいつと取引している時にホワイトエルフの連中と丁度同席したことが何回かあった。奴らは淡々と鉱物の精製に関する値段交渉をその知り合いと言い合っていた。そいつに頼めばホワイトエルフ族に合えるはずだぜ」
ダークゴブリンの老人は少しうつむいて考えた後、サトシに向かって言った。
「小僧。おぬし本気でホワイトエルフ族を味方に付けたいというならまずは話し合いをするきっかけを作る必要がある。ロズブーンの伝手をとりあえず頼ってみるか?」
「そうするぜ。善は急げだ。今から早速その町へ行ってみよう」
「ロズブーン。案内はできるのか?」
「ああ、俺が使っている商売用の転移魔法を駆使すれば2時間ほどで着くぜ」
「よし、ではあの商人男は“シュラーフェン”で眠らせておこう。2週間はまず起きることができん催眠魔法の上位じゃからな」
ダークゴブリンの老人は尋問室へ戻ると、商人男に強力な催眠魔法をかけて眠らせて手足を特殊なロープで縛り、ベッドに縛り付けて部屋に魔法で鍵をかけた。さらにこのゴブリンの老人宅全体に外部から商人男の気配を探知されることを妨害するジャミング魔法をかけておいた。
サトシはダークゴブリンの老人、そして案内役のロズブーンとともに、欲望が渦巻く町ロンバートブルクへと向かった。




