第71話 新世界への緊急脱出
パラパラパラッッ、キンキンキンキンッッ!!!
人を簡単に殺傷するであろう威力を持っていたはずの9mmパラベラム弾の嵐は公子の目の前で一時停止したかのように止まった後、そのまま地球の重力にひかれるままに力なく落下した。所々甲高くも鈍い金属音が放たれた弾丸に先ほどまで明白な殺意と殺傷力があったことを意識させる。
「けがはない!?律子?」
「公子さん!どうしてここに!?」
「あなたの家の方から不吉な魔力反応があったの。新世界に住む者のやつをね。それで急いであなたの後を追いかけたらここに来たっていうわけ」
謎の集団は公子の姿を見るなり明らかに動揺している。
「おっ、おい!!あれって葦國公子じゃねえか!?いきなり転移魔法の門が開いたかと思ったらとんでもねえのが出てきやがった!!
「バカな!?確かに小娘一匹だけのタイミングだったはずなのに?B班!!葦國はもう遠くに行ったんじゃなかったのかよ!!」
途中で私を待ち伏せていた別のグループはどうやらB班というらしい。その中の男の一人が慌てて答える。
「今も葦國の魔力反応は市街地に向かって歩いています!!」
「ならどういうことだ!!殿上人の気配は全く感じなかったぞ!?」
アロハシャツの男は何やら怒鳴っている。
「人間以外の気の流れを律子の帰り道の方から感じたから、もしやと思って偶然近くにいた宅配業者のトラックに一時的に私の魔力の反応が出るように細工をしといたの。それから気配を一切消して律子の家の近くまで来たら案の定、新世界のゴロツキどもが人間に成り済まして律子を襲撃するとはね!!」
「正体を現しなさい!!!!」
公子さんはそう言うと左手をある人物に向けて何かを唱えた。公子さんの手から光が程走り、10人の集団全員を直撃した。すると、それらの集団各人の体から一斉に煙が発生しだした。
「ケッ、殿上人に変身魔法でごまかしは無理か!!」
体から煙が噴き出した直後、煙の中からこの世界の者ではない異形の者たちが現れた!モンスターたちだ!私はRPGには昔友達の家でプレイしたことがあるので何となくモンスターの種類くらいは推測できる。デーモン系3匹に、小妖精系?1匹、オーク系1匹。さらに多分エルフ系が2名?ゴブリン系が2匹、二足歩行型のドラゴン系?1匹と種族は複数の様子だ。
狭い路地の中で今まさに異形の者たちの戦いが始まった!!!
アロハシャツを着たデーモン系モンスターが刃渡り24センチほどのロングナイフを腰の鞘から引き抜くと、それらを1本は順手、もう1本は逆手で持って目にもとまらぬ速さで間合いを詰め、公子に襲い掛かった。だが、公子はデーモン系モンスターのナイフの突きをすべてかわし、時折混ざる斬撃もすべて空を斬らせた。
そして、デーモン系モンスターに焦りと疲労が出始めたその瞬間に、公子はデーモンを左手から発する衝撃波のようなもので吹き飛ばした。デーモンはそのままコンクリートの塀に叩きつけられ、口から派手に血反吐を吐いた。
「グッッッ・・・!?ゲ・・フ・ッ!!!やっ・・ぱ殿上・・人の・・闘気波は・耐えら・・れね・・え・・・・・・」
だが、デーモンがうつぶせに倒れた直後、間髪入れず背広姿のオークが両手で保持するグロックを手慣れた構え方で公子に向けて連続で撃つ。左足を前にして右手を前に突きだす感じ、左手を手前に引きつける感じで両手で拳銃を保持し、体重のバランスをとって射撃時の安定感を出すウィーバースタンスという構え方だ。
グロックの銃口から公子へ連続で火が放たれる。だが、公子は目にもとまらぬ速さで銃弾をことごとくかわし、オークとの間合いを詰めた。刹那、オークの喉へ手刀を叩き込んで悶絶させた後、肘撃ちを背中に決めた。オークは力なく膝をついてその巨体が地面に突っ伏せた。
「このアマあああ!!殿上人とかぬかして所詮小娘の分際でいいきになるなあああ!!」
チーマー風の服装をしたゴブリン系モンスター2匹が激こうして公子にMP5を乱射する。それに合わせる形で小妖精系1匹とエルフ系2匹も手にした銃を公子に乱射した。が、その弾丸はまたしてもすべて公子に当たる直前で停止した。
「弾を停止させるだけが能じゃないのよ!!」
するとその弾丸の向きを変えて発射した主であるモンスターたちに勢いそのままに襲い掛かった。彼らはあっけなく自ら放った弾丸で射殺されてしまった。
しかし、その中で先ほどまで銃を乱射していたゴブリン系モンスターの内の1匹がいつの間にか公子の背後を取り、その首めがけてナイフを突き立てようとした。だが・・・。
背中に目でもついているかと思わせる動きで公子は背後からのゴブリンの襲撃をかわし、右手のひらをゴブリンの顔面に突き立てた。
「姑息!!」
直後に熱線のような強烈な火炎が右手のひらから放射され、ゴブリンは断末魔の叫びをあげるまでもなく跡形もなく消滅した。しかも、その火炎は一瞬で消えたため、音をほとんど立てなかった。公子さんは一体どれだけ特殊な能力を持っているのか・・・?
だが、さらに二足歩行型のドラゴン系?1匹とデーモン系モンスター1匹がそれぞれ小型のタクティカル系トマホークを持って公子さんに襲い掛かった。
公子さんは攻撃をかわすと同時に器械体操の選手のように軽々と宙に舞い彼らの背後を取ると、背後から左右の手それぞれで小さな竜巻を起こし、それを至近距離から2匹に同時に放った。2匹のモンスターは全身を竜巻に覆われてなすすべなく千切りにされ、屈強な肉体を誇っていた2匹は一瞬で無残な屍へと姿を変えた。
公子は冷静な口調で律子に説明する。
「この異常なまでの素早さ、ほぼ無音で背後を取る身のこなし、こいつら暗殺の訓練を受けた新世界のモンスターたちだわ」
あれよあれよと10名いたモンスターたちはほぼ全員地面に叩き伏せられた。残るはリーダー格と考えられるデーモン系モンスター1匹だけだ。このモンスターだけは1匹だけスナイパーライフルを持っている。
公子は手前に倒れていたオークの禿げた頭をものすごい握力でつかむと尋問口調で叫んだ。
「誰に頼まれて律子を狙った!?答えろ下等種族!!!」
ビクッ!!!
一瞬、私は今までになく公子さんの声に背筋が凍る気がした。明らかに相手を徹底して蔑む冷酷非情な目つき、底知れぬ恐ろしさを秘めた威圧感のある怒鳴り口調。専制君主が奴隷や異人種を見下すかのような“明らかに区別する言葉”に無意識のうちに膝が震える。
「まっ、待ってくれ!!俺たちはそこの小娘を始末するよう依頼されただけなんだ!!」
オークが懸命に命乞いをする。
「誰に依頼された!!答えないならお前の体内の魔法力を暴走させて破裂させるわよ!!」
「ちょっ、ちょっと待った!!言う!!!言うからそれだけはやめてくれ!!!!俺はミーシャという女に・・・」
「ミーシャ!?私たちの仕事を新世界で請け負っている現地請負人のミーシャの事か!?」
直後だった。
タン!!!!
「ブヒッ!!!!グブッッ!!」
オークは背後の脊椎付近にライフル弾を撃ち込まれて血を吐きながら息絶えた。公子は直後に反射的に離れて全く無傷。銃撃したのはリーダー格と思われるデーモン系モンスターだった。その表情には相当の焦りが脂汗とともににじみ出ていた。
「バカ野郎が!!余計なことしゃべりやがって!!ちくしょうめ!!依頼主との契約は絶対!!こうなりゃ・・・、最後の手しかねえ!!!」
デーモンは懐から何かを取り出した。それは黒い色をした細長い正八面体の宝石のようなものだった。
「われらが魔界の主よ!!我の命を糧として契約を果たせ!!!!」
直後、正八面体の黒い宝石は割れた。そしてそこから黒い霧のようなものが噴き出し、たちまち私と公子さんの周りを図形の正六面体上に囲んでしまった。正六面体は遮光ガラスのように薄く黒く、中から外が見えるもののとても嫌な予感がする。公子さんと私はその中に閉じ込められてしまった!!しかもそれはどんどん縮まっていく!!
「こいつは我々が超人族打倒用に開発した空間消滅魔法。こいつにつかまりゃお前らとて逃げられはせん!!あと1分でそのキューブは小さくなってお前らごと消滅する!!2人まとめて死ね!!」
「くっ!!こざかしいものを!!」
公子さんの表情に明らかな焦りの色が出始めた。必死でこの空間を解除しようとしているがキューブ状の空間は一向に解ける様子はなく、ますます私たちに向かって縮まっていく。
「これはなあ!!俺らの故郷の上級魔導士が構築したもんだ!!俺らでもまず解除不能な複雑な術式。いかに殿上人と言えども簡単には解けんぞ!!しかもこの魔法は時空の移動に干渉する性質がある。その中ではお前の転移魔法も使えんぞ!!解ける前にお前らは時空のはざまに引きずり込まれてお陀仏だ!!」
公子さんでも解けない魔法!?私なら解除できるのでは!?
私がキューブ状の内側の壁に触れようとした瞬間、公子さんが大声でそれを止めた。
「ダメよ!!律子!!これに触れてはダメ!!!これは相当高度な術式で作られた魔法!あなたの今の実力では単純に力負けする!この壁に触れた瞬間時空のはざまに引きずり込まれて消滅してしまうわ!!」
「当然よ!!こいつは発動した者の命と引き換えでなきゃ発動できないシロモノだからな!!俺の命をささげてる特攻魔法がそう簡単に破られちゃ困るんだよ!!!!」
公子さんは壁に向かって必死な表情で何かを唱え続けるが焦りの色を隠せない。公子さんがこんなに焦る表情を浮かべるのは初めて見た。
「くっ!!なんて厄介な術式!!無効化が間に合わない!!」
このままでは私も公子さんも死んでしまう!!何か脱出方法は・・・!!考えるんだ!!何かあったはず・・・。そうだ!!確かあれはリュックの中に!!
律子はリュックの中を慌てて探す。中のポケットの中からタオルで丁寧に包んであった翡翠のブローチがあった。確か“時の宝玉”と言ったっけ。ホワイトエルフのエレーヌさんに別れの時に頂いた物だ。
これが効くかどうかわからないけど一か八か・・・!!
「公子さん!!」
私はとっさに左手で公子さんの右手を持つと、右手に持ったブローチに向かって念じた。
「お願い!私たちをここから出して!!」
律子がブローチに念じた瞬間、律子と公子は光に包まれてキューブ状の空間の中から消えた。直後、キューブ状の空間は極限まで小さくなり消滅した。
「なん・・・だと・・・。ありえ・・ね・・え・・。あの術式か・ら抜けら・れるなん・てあり・・えね・え・・・」
そう言った直後、デーモンはうつ伏せの状態で息絶えた・・・・・・。




