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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第67話 願いを叶えるための覚悟・・・

新世界、ハンフォード地区西北80キロ先にある町オムニ。


現実世界の殿上人勢力の支配下にあるにもかかわらずモンスターやエルフが多数居住するこの町のことは多分に漏れず現実世界では一切公表されていない。


この町と住人の起源は数千年前に起きた大戦争の際にさかのぼる。超人族とモンスター・エルフ間で争われた種の存亡をかけた戦いの際、対立する部族・種族と同盟は組めないとして同族を裏切り超人族側に寝返った種族、講和が結ばれた際に難民として移住してきた者、異なる種族間での望まれない出生をして捨てられた者など、雑多なモンスターやエルフが住む町である。この町は各種族ごとに居住区域が分かれており、それぞれの種族が混ざって暮らすことはまずない。だが、各所属が混じりあう場所が例外的に2か所のみある。1つは買い物客でにぎわう市場と繁華街、もう1つは各種族の混血種族が住む最下層地域“アンタッチャブル”である。


この町でも最下層に位置づけられるならず者の巣窟“アンタッチャブル”の中心部にある酒場の目の前に、一人の女がテレポートして降り立った。この世界特有の転移魔法を使ったのだろうその女の表情はどこか険しく、汗ばんだ顔からはやや焦りの表情が見え隠れする。彼女は片手でとても女性が持つものではない重厚なアルミケースの把手を握っており、歩くたびに難儀そうな足取りになるそれにはかなり重量物が入っていることが分かる。その女、“新世界研修主任教官”ミーシャは目の前に建つ5階建ての大きな酒場に自ら足を踏み入れる。見るからにならず者がたむろするガラの悪い店内はまだ午前中にもかかわらず泥酔するモンスターやエルフであふれかえっており、耳をつんざく喧嘩の怒鳴り声が頻繁にフロア全体に響き渡る。喧嘩が絶えないせいか床には割れたビールジョッキやワイングラスがそこら中に散乱し、併せて食べかけの料理もそこら中に散らかっている。店員はたまに大雑把な掃除をしてはいるが、いざこざが絶えないせいでそれら飲食物の残飯やガラスの破片が散乱しており、所々からは悪酔いをしたならず者たちの嘔吐物がまき散らされ、耐えがたい悪臭を放っているフロアさえある。


ミーシャはそんな酒場に足を踏み入れると、周りに目もくれずに階段を上っていく。傷だらけで張りぼてによる補修の後も多い木製板の床は歩くたびにキイ、キイィィという悲鳴に似た耳障りな音をたてる。


「おっ!ミーシャちゃんじゃん!元気してた!?久しぶりに俺とチョネチョネしない~?」


「ミーシャよお~。お前の体はいつ見ても絶品だぜえ~。またここに来るとは俺の息子が恋しくなったのか~。ここに戻って俺の女にまたなれよ~♬グへへへへヘヘ!!!」


直視しがたい下品極まるスケベずらのオークや、片目に眼帯をした筋骨隆々のエルフが下劣な目線をミーシャに向ける。ミーシャはそれらを無視してただ速足で階段を駆け上がっていく。


「おい待てよ~、ヒック!連れねえなあミーシャ?昔のお前はもっと従順でかわいかったのになあ~?ゲエッッッ♬」


げっぷをしながら目の前に立ちふさがったモンスターをミーシャはにらめつけて言い返した。


「失せろ!!このクソモンスター野郎!!私はもう2度とあんたらのとこになんか戻らねえんだよ!!消え失せやがれ!!!」


ミーシャは目の前のモンスターの腹を力いっぱい殴り、そしてうずくまったモンスターをそのまま階段から突き飛ばした。


ガタガタガタガタ!!!ドン!!!


「いじいいいいいい・・・・!!!!!こ・・ん・・のくそアマ~!!少し出世したからってなめやがって~!!」


ミーシャは無視してそのまま最上階へと階段をひたすら上がっていった。


そうこうしてたどり着いたのは最上階5階。着いたそこには大きな両開きの立派なドアがあり、下層階の悪臭にまみれた不潔な空間とはまるで別物の洗練した小綺麗さがある。そのドアの両脇と手前のフロアには革張りの高級そうなソファーと事務机が置かれ、そこでは屈強なオーク系モンスターとデーモン系モンスターが煙草をふかしながら新聞を読んだり帳簿のような分厚いノートに記録のようなものを書いていた。ミーシャが来るなり彼らの鋭い目線が彼女に突き刺さる。その中の一匹、ボディビルダーのような筋肉を持つオークがミーシャに歩み寄って話しかける。


「よお、ミーシャじゃねえか?またボスに用か?」


「そうよ。早く通して頂戴!」


「またいろいろ厄介ごとを請け負ったって顔をしてやがんな。おい!通せ!」


オークが命令すると、両開きドアの両側にいたデーモン系モンスターが一礼をした後でドアを仰々しく開ける。ドアが開くなりミーシャはそそくさと中に入っていく。


中は清潔でヨーロッパの王宮を彷彿とさせる豪華な内装で飾られていたが、悪趣味なモンスターの彫像と絵画が所狭しと飾られているという不気味なコントラストは、ここが魔王の城と説明されても誰もが納得するであろう禍々しい雰囲気を漂わせている。部屋の中央には社長室の机を彷彿とさせる高級材木で作られた立派な机があり、その椅子にはこの部屋の主と思しき年を取ったデーモン系モンスターが満足げに葉巻をふかしながら鎮座していた。部下と思しき屈強なモンスターたちが一列に整列して両わきに並んでいる。その光景はまさにヤクザの組事務所そのものだ。


「こんにちは、ブラッドさん。今日はあなたに相談があってきたの」


ブラッドと呼ばれた高級机に座るデーモン系モンスターは口にくわえた葉巻をゆっくりとくゆらすと、蕩けたような目つきでミーシャを見ながらゆっくりと口を開いた。


「よお~、ミーシャちゃんじゃないか?また私のところにわざわざ来るなんて何か仕事でお困りなのかな?」


「そうよ。今度の金曜から殿上人様の厄介な仕事を2件請け負うことになったの。今回は前より厄介な案件なの。私には部下と呼べるような存在がいない・・・。だから・・・」


「うちの者を借りたいということでしょ。そうゆうことなら大歓迎。金さえもらえればうちは何でもしますから。おまけにミーシャちゃんはお得意様だから色々サービスもしますよ♬」


そう言って灰皿に置いた葉巻を再び口にしたデーモンは、煙で頬を一杯に膨らませると満足げにそれをゆっくり口から吹き出した。葉巻特有の強烈な匂いは香りからして紙たばことは格が違う。同じに見える煙ですら高級品に見えてしまうそれは相当高価なものなのだということをうかがわせる。


「ただし、先に立つ物が当然必要だがね」


そういうとブラッドは右手のひらを上に向けてミーシャに突き出した。


ミーシャはそれに応じて持ってきたアルミ製アタッシュケースをブラッドの広々とした机の上においてゆっくりと開けた。その中には小型の金のインゴットが合計約70個ほど隙間なく入っていた。


「毎度のことながらお見事。世のことわり事をキチンと守る子は好きだよミーシャ。で、今回はどんな奴を派遣したらよいのかね?」


「今回はかなり強力な特殊能力を持つ人間を始末しないといけない。暗殺に秀でたアサシン系の魔法ないし特技を持つ高レベルの奴で、特に現実世界の銃火器の取り扱いに秀でたやつが10名は必要。できれば人間に完全に化けられる奴がいたら理想。無理なら人間に完全に成り済ませる魔法を使える奴を補助で入れてくれてもいい。1件は現実での作戦だからそこでは魔法はできるだけ使うなって上からの命令なの。作戦は2件。合計20名は必要よ。それもあなたのところで相当手錬の奴をお願い」


「結構結構。これだけの額をもらえたらむしろサービスしたいくらいだ。それでどんな計画で誰が依頼主なのかな?」


「ブラッドさん。今回は依頼主から内密に事を運ぶよう仰せつかっているの。詳しいことは話すことができない。分かってくれる?」


「あ~、そういうことか。いいともいいとも。お金様さえ払ってくれたら君の事情なんかどうでもいい。よし、早速手配しよう。おい、メンバーの選抜と準備を!」


ブラッドが部下に傭兵の手配を命じたとき、ミーシャは思った。


もうこんな仕事はしたくないのだと。目の前にいるブラッドというデーモン族モンスターの男はかなり危険。殿上人や現実世界のボウリョクダンとかいう名称の犯罪組織と組んで相当やばいことをやってるって聞くし・・・・・。できれば関わりたくないけど、この界隈で腕の立つモンスター傭兵を雇うには顔役のこいつを通さないといけないし・・・・・。幸い今回は秀樹様が資金援助をしてくれるからもう身を売らずに済むけれど・・・・・・。


この世界を出たい・・・。そして光明家族の一員になってこの身分から解放されて・・・。殿上人様の中に入りたいとは言わない。せめてそれに準ずる身分になって自由を手にしたい。今回、秀樹様は約束してくれた・・・。この作戦が成功に終わったら、私を光明家族の一員として正式に迎えて私を自由の身にしてくれると・・・・。もう現実世界から送り込まれるクズどものお守役やゲスなこの町のモンスターどもを相手にする商売をしなくて済むと・・・・。だから今回は引けない・・・!!!あのガキと上総律子とかいう娘・・・。必ずこの2人を消して見せる!!!!


誰にも聞こえることのない願いをミーシャはその場で一人祈っていた・・・。






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