第63話 汚れた勇者ども
サトシは右手に持ったコールドスチール・タイパン・サヴァイヴァルナイフを手に僧侶風の男、商人風の男と対峙する。
僧侶風の男は右手をこちらに向けて何かを唱えた。ぶつぶつと小声で何かをささやくような詠唱の仕方で聞き取れない。その直後、右手のひらから風が吹き荒れてこちらに向かって襲い掛かってきた。サトシはそれを横にそれてかわす。だが顔と右腕上腕付近にやや深い切り傷を負った。コピー用紙の端で指を切った時の鋭い痛みを強くしたような熱を持った小刻みで嫌な感じの痛みがサトシの神経に走る。
かまいたちの類を発生させる風系の攻撃魔法?古典的なロープレでは僧侶職が使う攻撃魔法の定番だが、今のはよくある広範囲に攻撃するタイプではなく一点に竜巻を集中させて敵1体を攻撃するタイプのようだ。かわせたからよかったものの、もしまともに巻き込まれていればミンチにされかねない切れ味があった。傷口もなかなか血が止まらない厄介な傷ときてる・・・。
さらに僧侶男は商人男とともに襲い掛かってくる。僧侶男は槍を連続で突き、商人男は剣を軽やかに振り回してサトシに攻勢をかけてくる!!魔法で素早さでも強化したのか?人間とは思えぬ動物的な速さで襲ってくる!!選別石を乗り越えた才能を開花させつつあるサトシの動きをもってしても動きを何とか捉えるのがやっと。しかも奴らはいくら動いても疲れる素振りすら見せない。おまけに一貫して奴らの顔は無表情のまま。これは長期戦になれば相手の心理に焦りを生じさせて倍以上のスタミナを消耗させる勢いすら感じるほどだ。
サトシは一度後方に下がった。両者は追撃してくる。サトシは左手に集中して何かを手早く唱え、左手のひらを男2名に向かって開いた。すると一瞬にして強烈な光が発生して両者を照らした。
「うぐっあぁぁぁ!!!!!」
両名はうめき声をあげながら反射的に両目を手で覆って光を遮ろうとしたため武器をうかつにも手放してしまった。その隙をついてサトシは先に僧侶の顔面へ掌底突き、次いで商人の腹部に肘撃ちを見舞った。
「ぶえっ!!!」
「ぐっ!!!」
腹部への肘撃ちが入った商人男はそのままうつぶせに倒れた。しかし、僧侶男はその場で膝をつくが完全には倒れない。掌底突きで鼻をめくられるように強打されたため、ボクシングの試合を思わせるくらい鼻血が大量に出ている。だが、それでもなおこの男は表情一つ変える様子はない。痛みを感じている素振りさえない。
「発光魔法は牽制用に使えると踏んで取得しておいて正解だった。でもこの僧侶、思った通り結構タフだな。」
サトシが用いた強烈な光を出す魔法は、本来洞窟などで自分が進む先を継続的に明るく照らしてくれる魔法をより瞬間的にまぶしい光を出せるよう独自にアレンジしたものだ。対複数人の戦いの際に相手の隙を作る隠し玉として取得していた。意外と簡単に習得が可能だったため、本を読む合間に練習していたのだ。
その直後、サトシの背後から熱い何かが発生している気配がした。
「こ~んのクソやろおおおおお!!!!!!お返しだああああ!!!!!」
振り向くと“勇者”イソノが巨大な火球を頭上に出現させ、それを両手でこちらに投げるそぶりをした瞬間、巨大火球がサトシめがけて飛んでくる!だが、サトシはその場から動こうとしない。
「やっぱりお前はまるで状況判断できない奴なんだな。戦いが楽に進んでいい・・・」
サトシはギリギリまで火球を引き付けて、自身に当たる直前でかわした。火球が進むその先には膝をついておびただしい鼻血を出している僧侶がいた。火球はそのまま僧侶男を直撃し、僧侶男は炎に包まれた。
「負傷している仲間がいる方向にこんな魔法かましたらどうなるかくらい予測できないのか?やっぱお前は何か勘違いして生きてきたんじゃないのか?イソノとやら!」
サトシはタイパン・サヴァイヴァルナイフを構えてイソノに突進する。対するイソノは両刃の剣を構える。そして2人は切り結んだ。刃の長さは圧倒的にイソノの剣の方が長い。しかし、驚異的な集中力を鍛えてきたサトシは短いナイフでイソノの太刀筋を見極めて受け止めていた。
「うるせえんだよぉぉぉぉ!!!さっきから聞いてりゃあうざってえ説教ばっかいいやがって!!!俺は特別なんだあぁぁぁぁ!!他の奴より上にいて当たり前の人間なんだ!!だが誰も俺を認めようとしねえ!!」
「何が言いたい?」
「俺が予備校の新世界研修の特別選抜に落ちたのは何かの陰謀に違いねえ!!俺はホントは特権階級の仲間に入って当たり前なんだ!!それを陥れたのはクソ大魔王に決まってる!!」
「訳が分からねえが相当なコンプレックス持ちだなお前。心の隙をクソ女神に適当なこと吹き込まれてこの世界に来たってわけか」
「だからうるせえんだよ!この落ちこぼれ野郎!!お前も所詮現実の落ち武者のたぐいなんだろうが!!ここでお前を仕留めて大魔王を倒せばミーシャ様が俺を特権ステージの送れる人生に転生させてくれるって約束してくれたんだよ!!だからここでおとなしく死ねよカス!!」
サトシはもう話しても無駄だと確信した表情になり、タイパン・サヴァイヴァルナイフを“勇者”の心臓めがけて突き刺した。“勇者”の口から血反吐を吐き出して力が抜けて倒れた。
「う・・・っそだ・・ろ・・。俺が・・・こんな、奴に・・・こ・・ろ・・」
“勇者”はその場で血反吐を吐きながらうつぶせに倒れこみ、そのまま動かなくなった。
「嘘!イソノやられちゃったの!!マジッ!!信じらんない!!!!この人殺し!!!!お前人間殺して平気なの!!!」
サトシは女魔法使いに正面から大声で怒鳴った。
「黙れ!!ここは戦場だ!!リセットがいくらでもできるゲームの世界かなんかとでも思ってのこのこ来やがったのか馬鹿野郎!!俺を殺しに来た奴のセリフがそれかよ!!いままで命のやり取りを意識すらしないお気楽な戦いしかしてこなかったってのか!?」
「黙りなさいよ、社会不適合者上がり!!この新世界にいるのってモンスターとかエルフとか人外の生物ばっかじゃない!!いわば化け物の集まり!化け物はいくら殺しても罪になんないのよ!!化け物に基本的人権なんか適用されないってことくらいわかんないの!?」
サトシは一息ついてから、右手に火炎魔法を発生させて女魔法使いにその右手を向けた。
「ちょっ!!あんた私まで殺す気なの!!マジ訳わかんないいんですけど!!!!」
「死にたくないんだったら質問に答えろ!!お前らはなぜこの町を襲撃した?」
「はあ!?そんなの決まってんじゃない!女神ミーシャ様から大魔王に寝返った“脱走勇者”のお前の首を打ち取るためよ!!それ以外に何があるってのよ!!」
「お前・・・。ミーシャのことを何も知らないのか?」
「何を言いたいのか知らないけど、私は学校さぼって渋谷でパパ活してたら補導されそうになって逃げてたら車にひかれてー。それから気が付いたらミーシャ様に世界を救って頂戴ってこの世界に転生させられてたまたまイソノと組まされて冒険してて、途中であの僧侶と商人と組みなさいってミーシャ様に言われてここまで来ただけよ!!」
「他に知っていることは?真面目に答えなければこの場でお前を消す!」
「まっまってよ!!私が知ってることってそれくらいよ!!なんでそんなサディスティックに詰問口調するわけ!!もういうことなんて何にもないわよ!!」
品位のないヤンキーじみた女魔法使いはそう捨て台詞を吐くと空に飛びあがり、仲間3人を見捨てて我先に飛んで行ってしまった。
「おい!!逃げやがんのか!!このバカ!!」
「うっさい!!命あってのものだねって言葉知らないの!?こんなとこいつまでもいてられますもんかっての!!!」
サトシは飛行魔法を使って追撃しようとしたが、ダークゴブリンの老人がそれを止めた。
「小僧!!もういい!!あの小娘は放っておけ!!それよりそこの男2名を捕縛しろ。どうもそいつらが詳しい事情を知っていそうじゃ!!」
近くで丸焦げになっていた僧侶風の男がうめき声をあげていた。男はまだ生きているようだ。サトシは全身丸焦げで生き絶え絶えの男に話しかける。
「お前、名前は何だ!答えろ!」
男は答えない。口を堅く閉ざしたままだ。
「町をこんな風にしやがって!!口が付いているなら洗いざらい知っていることを吐きやがれ!!!」
男はようやく口を開いた。しかし・・・。
「すべては全世界を照らす光明家族の下に!!!!!!」
そう男が叫んだ瞬間、男の全身が徐々に輝きだした。やがて光が強烈になっていく!
「まずい!!!小僧!!その場から離れろ!!そやつ自爆する気じゃ!!!おい、三下!!早くお前の主人を担ぐのを手伝え!!!!」
「へっへい!!マジかよもう!!」
サトシはすぐにその場を離れた。その直後、男の体は大爆発を起こし周囲に爆風が広がった。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオ!!!!!!!!
爆発は町中心部の広場一帯が壊滅するほどの爆風を周囲に及ぼし、まだ原型が残っていた酒場などをあらかた吹き飛ばしていった。爆風の後には空中に巻き上げられた大量の土が一斉に大粒の雨が降るかのような音を立てて大量に落ちてきた。まるでりゅう弾が直撃したかのような衝撃だった。その威力は爆発の後、広場だった場所に深いクレーターができるほどであった。
“勇者”の襲撃は終わった。
何とかその場を離れることに成功したサトシたちは唯一捕虜にした商人男から事情を聴きだすことにし、彼をダークゴブリンの老人宅地下別室にある尋問用の部屋へと連行した。
今回の“勇者”の襲撃は外部に対して無関心気味になっていた町のモンスターやエルフたちに改めて認識させた。かつての超人族との戦いのことを、そして近年迫りつつある人間の脅威というものを。それだけではない。サトシの戦いを見ていた町のモンスターやエルフたちの間では彼がこの町に来た経緯がどこからともなく知れ渡り始め、人間の襲撃を退けたことも相成って彼を自分たちの仲間だと認識する感情が芽生えつつあった。同時に、近年酒浸りで軽蔑気味に見ていたダークゴブリンの老人への見方も明らかに、着実に変わりつつあった。




