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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第62話 ナタニエレ市街戦

ズガァッッッッッッ!!!!!!!


“勇者イソノ”は“脱走勇者サトシ”を見るなり問答無用に間合いを一気に詰め、渾身の袈裟斬りをサトシに見舞った。サトシはギリギリまでイソノを引き付け、斬られる直前にかわした。腰の回転が乗って勢いが増した斬撃が斬られる対象を失ってそのまま地面にめり込む。剣の刀身が地面にめり込んだ瞬間、地面がまるで大地震が起きたかのように地割れが起こった。明らかに人間の力を超えた何かがプラスされた威力の斬撃だ。


サトシは間髪入れずにイソノの頭の側面めがけてひねりを入れた右正拳突きを叩き込んだ。


両手で剣を保持していたイソノはガードができずにもろにテンプルに突きを食らい、そのまま近くの建物内部まで木製の壁を突き破って吹き飛んだ。派手に木製の壁板がへし折れてイソノの体で建物内の家財道具が派手に壊れるアクション映画のワンシーンのような光景が展開されている。


「ちょ!!イソノ!!大丈夫!!何こいつ!??女神さまの力なくしてほとんど木偶の棒状態じゃなかったわけ!?話違うんですけど!?」


性根の悪そうな女魔法使いは動揺を隠せない。どうせすぐに片づけられる相手としか思っていなかったのだろうが、当てが外れて狼狽するその口元は強がる表情とは逆に震えていた。サトシからするとそれだけでこのパーティは今までそれほど強敵を相手にしてこなかったのだとすぐに分かった。


ガラガラと家財道具やガラスが割れる音を立てながら、派手にテンプル撃ちを食らった“勇者”が足をふらつかせながら再びサトシの前に出てきた。かなりダメージを負ったのか、剣を杖代わりにして先ほどまでの勢いが全くなくなっている。


「ガホッ!ブヘッェ・・・!なっ、な・・んだよこい・・・つ!?こんなに強いとか聞いてねえぞ!さては大魔王に何か力を与えられたとかそんなんだろ!お前!!」


“勇者御一行”は見通しがまるでなっていないことをわめき散らしている。聞く限りこいつらは俺に関する詳細を伝えられていないようだ。それに敵のいる可能性のある街中でいきなり派手な爆発系攻撃魔法をぶっ放すなどまるで戦い方がなっていない。一般住民を巻き込めば敵を自ら大幅に増やすことになり、俺の方が段違いに有利になっていくという戦争の際に絶対必要な住民への対策をまるで分っていない。ロープレゲームと現実の戦いの違いが理解できていないようだ。いや、名作ロープレの方がより凝った演出や設定をしているからこいつらはそれにすら及ばない。まあ当然か・・・。使い捨ての駒としてこの世界に送り込まれ、まして選別石のことなど教えるわけにはいかないだろうから、大方魔王に俺がだまされたとか女神を裏切って魔王側に付いたとかのバカシナリオを捏造して吹き込んでいることは薄々想像していたが・・・・・・・。


むしろ不気味なのはこのイソノという奴と程度の悪い女魔法使いの後ろでさっきから無言で控えている僧侶と商人らしき男たち。こいつらは結構手ごわいと直感的に感じる。


酒場の付近は市街地の目抜き通りにあり、町の中心部ということでモンスターやエルフの通りが多いが、先ほどの爆発で避難した者が多いせいかいつもほど彼らの影はない。しかし、

逃げ遅れたり負傷して助けを求めるモンスターやエルフの叫び声がこだましている。その中には例の酒場の店主とその部下もいた。


「おやっさん!気をしっかりしてください!!」


「ち・・く・しょう・・。腐れ人間風情め。特大の爆発魔法を街中でぶっ放しやがって・・・」


オークの主人は片足を負傷したようで仰向けになって動けないようだ。それを懸命に部下の若いオークが手当てしようとしている。だが出血がひどい。そこにダークゴブリンの老人が駆け付けた。


「わしが回復魔法で何とかする!お前は包帯と医薬品を持ってこい!」


「あっ、あんたはタダ酒飲みのゴブ公じゃねえか!?なんでこんなところに?」


「つべこべ言わず早くもってこい!!」


「わっ、わかったよ!」


下っ端オークは慌てて酒場の中へと走っていった。酒場はまだ倒壊するほどのダメージは受けていないようだがかなり店内は荒れている様子だ。爆風が吹き込んだのだろう。


ダークゴブリンの老人をはじめ、この世界のモンスターやエルフは一応回復魔法の類を使うことはできる。だが、回復系魔法は生命を復元する関係上、使う術者側の生命力そのものを削るリスクがあるうえ、負傷したり病気になった側が年を取るなどして生命力そのものが衰えているとそれだけ回復しずらいという欠点がある。壊すことは簡単だが、それを元に戻すことは難しいのが世の道理である。そのためRPGの世界とは異なり、回復系魔法などの“治す”魔法は“壊す”攻撃魔法よりも高度とされている。よって欠損した肢体を復元したり、対象を若返らせる、あるいは死者を蘇生させるレベルの魔法が使える術者は極めて限られているのである。だから大抵は回復魔法と既存の薬などでの治療を合わせて行うことが多い。サトシの時も包帯で手当てしていた理由はそのような事情があったのである。


「この糞野郎!!どうせあんたもニートかなんかの落ちこぼれ上がりなんだろ!!多少魔王の力かなんかで強くなったのか知らないけどうざいわよ!!!」


品位のない女魔法使いは両手のひらを胸元で間をあけて合わせた。すると彼女の両手の間から稲光のような光が現れ始め見る見るうちに球状の雷のボールのような大きな電撃の塊と化していった。


「まずいぞ小僧!!こやつまたメテオフラッシュを使うつもりじゃ!!メテオフラッシュは電撃を圧縮して大爆発を引き起こす魔法!!あの小娘はなかなかの使い手じゃぞ!!」


「甘いんだよ!脱走勇者!こいつを食らって跡形もなく吹きと・・・」


女魔法使いの表情がより焦りを帯びた顔色に変わっていくのがダークゴブリンの老人にもわかった。


だが、ダークゴブリンの老人がサトシに叫んだ時にはサトシのいる位置は大きく変わっていた。女魔法使いが魔法を詠唱する際に一瞬目をつむったそのわずかな隙にサトシは彼女との間合いを一気に詰めていたのだ。彼と彼女の距離はほぼ1メートルくらい。異様な速さでいきなり自分の眼前に現れた彼に女魔法使いは何が起きたのか分かっていない様子であった。まるで瞬間移動のような速さだったのだ。サトシは余裕を持った顔つきで女魔法使いに忠告する口調で言う。


「おい、女。俺にさっきの爆発魔法をぶっ放そうって考えてんのか知らねえが、この間合いでそいつを放ったらどうなるか常識的に考えたらわかるだろ?」


「しっしまっ・・。何であんたこんな速さで・・・」


「グレネードランチャーとかロケットランチャーみたいに爆発物を発射する武器は自分が爆発に巻き込まれないようにある程度距離を取らなきゃいけないって糞女神に習わなかったのか?現実はロープレと違ってコマンドバトルとかじゃないんだぜ、バカ女!さっさと魔法を仕舞え!!」


サトシは腰に帯びていた革製シースからコールドスチール・タイパン・サヴァイヴァルナイフを抜くと、女魔法使いの喉元に突き付けた。女魔法使いの両手の間の雷の球が見る見るうちに小さくなって消えた。


「お前ら何が目的だ!多分俺の命だとは思うが、いったい誰に依頼された?知っていることを全部吐け!」


しかし、サトシが女魔法使いを尋問しようとした直後、これまで後ろで何食わぬ顔で控えていた僧侶と商人風の男2人が無言でサトシに襲い掛かってきた!


僧侶風の男は金属製と思われる槍にロープレの世界の神父っぽい服装をしていた。その動きは早く、武闘家か盗賊並みに素早い。サトシは槍による鋭い連続突きをかわすと、やや後ろにバック転で飛んで間合いを少し開けた。


直後、間髪入れずにこんどは商人風の男が間合いを詰めて両刃の剣で切りかかってきた。サトシはその細かく速い斬撃をできるだけ横に移動しながらかわしていく。真後ろに逃げるのは追撃をされやすく、格闘技でもNGな動きだ。できるだけ変幻自在に横に移動しながら相手に空を切らせ、スタミナを消耗させていくべきなのだ。商人風の男の斬撃はイソノとかいう自称勇者に比べるとパワーは低く感じるがその分早く、サトシも致命傷はかわすもわずかなかすり傷を数か所負った。


それにしてもこの2名は不気味だ・・・。さっきからほぼ言葉を発さず、無表情で視線がほとんど動かない。まるでロボットかサイボーグの類を連想させる態度をしている。


町の周囲に火と煙が立ち込める中、サトシと謎の男2名は数メートルの間を開けて相対していた。


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