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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第61話 ”正義の勇者一行”の襲撃

俺は昨日、いかにしてこの世界で勢力基盤を築くかゴブリンのおっさんと話をしたのち、今日から朝錬の後、じいさんとともに資料室にこもってホワイトエルフ族とこの世界の埋蔵資源に関する資料を調べることにした。


ほこりをかぶった巨大な本棚には、この新世界と現実世界の両方の秘密が書かれているであろう書籍や資料集が所狭しと並べられており、脚立を使わなければ到底届かない高さまである本棚の威光は、そのまま“公式の歴史”から抹殺された歴史をこちらに語り掛けてきている気配さえ感じるほどである。


「小僧、あれじゃ。棚の一番上の右から3番目の本じゃ」


サトシは脚立に上り、老人から指定された本を取り出した。ほこりをかぶった分厚い革表紙のそれは、いかにも年代物といった感じで、ヨーロッパの大学図書館などに収まっているような格式の高ささえ感じさせる。


「こいつを見るのは久しぶりじゃ。懐かしいのう」


「どういうこと?」


「これはわしが仲間とともに編纂した戦史業書じゃ。超人族との戦いの際の全記録を後世に伝えるためにわしが仲間たちとともに従軍した者たちに聞き取りをしながらわしら自身の記憶も加えて書き上げた物じゃ。こいつを完成させるのは結構手間がかかったぞ」


老人はそう言うと、その本を開いて目次を見る。そしてここだという表情をしてからページをめくり、ある章を開いた。


「ここじゃ。ホワイトエルフ族についての情報が書かれておる」


俺はこの町に来てから異種族であるはずのオークやゴブリンの言葉をなにも勉強していないのに理解できるようになっていた。たしかあの糞女神もこの世界の言語を日本語に変換して理解できる魔法を俺にかけていたが、それもあの剣を没収されて失っていたはずだった。だが、あの石に触れて以来、その言語変換の魔法も完全に身につけたようだ。疲弊の極みで意識していなかったが、おっさんやオークとの会話をごく普通にできていて今更ながら最近気付いた。何で日本語でおっさんたちとやり取りできんだろうと。これも俺の意志がなしたのか・・・。


俺はおっさんの指し示すそのページを読んでみた。


“ホワイトエルフ族。エルフ系統の種族の一派で、高度な知能と特殊な技術系魔法を得意とする。駆け引きにも秀でており、一見政治的な面で資源を有力なカードにできそうな気がするが、元来中立を好み他種族と同盟することはめったにない。”


“本種族は技術に関する専門知識とそれを活用した他の種族にない高度な専門技術に属する魔法を使いこなす。鉱山や土地の地下に眠る地下資源を探知することはもちろん、それらを採掘し精錬する何らかの器具を自らの手で作り上げる。その器具は外見からして魔導装置の類と考えられるが、ホワイトエルフの専門技術者が何らかの呪文を使用するたびごとに吹き込まない限りその装置は作動せず、我々は彼らの目を盗んでその装置を使用することを数度にわたり試みるも、終ぞそれを作動させることも使用することも不可能であった。”


“本種族は他種族はもちろんのこと、同じエルフ族であっても他部族との混血・婚姻関係をまず行わない。他種族との交流も貿易関連に限定して非常に打算的にしか動かない傾向が強い。理由としては前述の自らの持つ高度な技術魔法自部族内のみで独占すべく、それが他種族・他部族に流出することを防止しているからと推測される”


“超人族がわれらモンスターやエルフ族全体に絶滅戦争を仕掛けてきた際、ホワイトエルフ族も渋々同盟をわれらと組むことに同意するも、内心はどこかぎこちなく、我らとの共闘関係よりも常に自分たちの優位性をいかに確保するかに腐心している様子であった。部分的には超人族ともどこか内通しているのではないかと疑う場面もあった”


「じいさん、ホワイトエルフ族って結構つかみどころがない印象を受けるんだが・・・。こいつらの本心って何なんだ?」


「当時わしらが推測した奴らの意図は現状維持。そうとしか思えぬくらい奴らは戦争への協力に消極的じゃった。だが奴らの現状維持はある種野心と紙一重ともいえる場面があった」


「どういうことだ?」


「すでにお前に言ったことだが、わしは奴らに数度にわたって奴らの持つ特殊な魔法力を生かしてこの世界の資源を開発し、それによって将来超人族共との駆け引きに使うカードになると申し入れておったのじゃ。そうすればわしらは超人族共に勝てると」


「奴らはわしらの提案を断った。確かに開発する力はあるが資源など大した役には立たんと。しかし、一方でホワイトエルフの連中は戦争のさなかに超人族共から土地を奪還するとき、なぜか貴重な地下資源が大量に埋蔵されている土地ばかりを即座に自分たちの領土に組み入れていた痕跡がある」


「奴らは何かを企んでいた感じがあった。もしかしたら当時から将来に自らの優位性を確保するために資源の持つ意味をひそかに理解していたのかもしれん。来るべき日に備えて辛抱強く行動している気配もあると言えばある。もしや将来超人族と対等以上の地位を目指しているのやもしれぬな」


「結構複雑なんだな・・・、あんたたちの関係って・・・」


「モンスターもエルフもそれぞれ利害関係が複雑なんじゃよ。超人族共のことは笑えんな・・」


ダークゴブリンの老人が自嘲気味に語ったその時だった。


ドゴォォォォォォォォォォォォン!!!!!


「ギャー!!!!」


外から巨大な爆音が響きわたり地下にあるこの部屋まで地震が起きたかのように大きく揺れた。同時に多くの悲鳴と逃げろという声が外から聞こえてきた。


「いったいなんじゃ!」


ダークゴブリンの老人は緊張した面持ちになって叫ぶ。


「この爆音の感じはおそらくメテオフラッシュ!爆発系の攻撃魔法じゃ!まさか超人族共がここまで侵略してきたというのか!?そんなはずはない・・・!ここは最果ての地ゆえ奴らにもそう簡単に見つからんはずじゃが・・・!?」


ゴブリンのおっさんは久しぶりに聞いたという攻撃魔法の音にやや驚いてはいたが、やはり戦場慣れしているせいか動揺まではしていなかった。


俺はいてもたってもいられず、騒ぎの元凶を探ろうと考えながら階段を駆け上がった!


「おい!小僧!まて!何者が襲撃してきたか分からん状況でいきなり飛び出すとまずい!可能な限り身を隠して行動しろ!」


「分かってる!どうせおっさんもついてくるんだろう!これって外敵が襲ってきた感じか!?おっさん?」


「まず外部の侵入者とみて間違いなかろう!これだけの爆音を引き起こす爆発系魔法を市街地で放つ馬鹿はまずこの町にはおらん。喧嘩と賭博と泥にまみれた町じゃが町の秩序をぶち壊す狼藉だけは厳禁なのが絶対的な掟じゃからな!」


「へー、この町そうゆう決まりってあるんだ。みんな自由気ままに生きてる感じなのに・・・」


「脛に傷を抱える多種族が共存するうえでの唯一の掟じゃよ」


俺の研ぎ澄まされた第六感はこの騒ぎの元凶を不確かではあるが教えていた。


たぶん殿上人どもがプレイするクソRPGの“主人公ども”が来やがった!俺の心の中でそうもう一人の自分が俺に訴えかけている気がした!


そうこうしているうちに地上に出て、ゴブリンのおっさんの家を飛び出た。おっさんの家の周りは特に変わりはないが、少し先の距離にある市街地中心あたりから巨大な黒煙がきのこ雲を形成して立ち上がっていた。同時に火事の現場のような焦げ臭いにおいがすでにこのあたりにまで臭ってきていた。


「あそこは俺が来た時におっさんがタダ酒呑んでオークのマスターに殴られてた酒場のあたりじゃねえのか!?」


「まちがいなくそうじゃ!けちくさいロズブーンの酒場の付近じゃな!」


「あのオークってロズブーンて言うんだ。初めて知ったよ」


「昔はツケで飲ませてくれることも多かったていうのに、長引く戦争で年を追うごとにすさんだ態度になってケチになりおったんじゃよ、奴は。昔はおおらかな奴じゃったのになあ・・・」


俺は走りながらゴブリンのおっさんと酒場の店主のことについて話しながら、爆音が続いて響き渡る酒場付近へ急行した。



「オイオイ?ここのモンスターってこんな貧弱な野郎ばっかりなのか?みんな手足がなかったり片目しか見えないとか目も見えないとか弱っちい奴ばっかじゃん!これまで攻め落としてきたとこの奴らの方がよっぽど強ええよ」


「イソノ。“脱走勇者”ってホントにここにいるのかしら?」


「その可能性はあると思ってここを選んだ。半径200キロ圏内にある集落を探知できるアイテム“導きの水晶”に念じてみたら、水晶の光が指し示す最短の町がここだった。思えばずいぶんと奥地まで来たもんだと思うよ。でもここは女神さまからもらった地図にも記載がないところだし、町に着いたらどこもかしこも汚いスラム街みたいなとこときてる。住んでるのもなんか訳ありっぽいモンスターやエルフばっかだし、こういうシチュの町ってちょうど脱走した流れ者が隠れるにはうってつけって感じじゃん」


「おい!!お前ら!!」


腹の丹田に力を入れたドスのきいた大声に“勇者一行”は4人とも後ろを振り返った。そこには一人の男が立っていた。服装はRPGの主人公の勇者のスタイル。旅をする勇者の服に身を包み、しかしその腰に付けているのは剣ではない。コールドスチール・タイパン・サヴァイヴァルナイフだ。


“勇者一行”の“勇者”は彼を見るなり叫んだ。


「おっ、こんなモンスターまみれの町に人間とは!?しかも、その服装は勇者が身につける服!?もしかしてお前、“天空の女神さま”を裏切って大魔王シルバースタインに寝返った”脱走勇者サトシ“か!?俺の名はイソノ。天空の女神ミーシャさまの命によりお前を討伐しに来た!!」


勇者イソノを名乗るロープレ主人公風の甲冑に身を固めた若い男の尋問口調にサトシはやはり追手か、と言いたげな表情を浮かべる。


脱走勇者?大体予想はしてたが俺はそんなネーミングで呼ばれているのか・・・?おまけにミーシャだと!?あの糞女神のことじゃねえか!?しかも天空の女神様ってまたちんけな嘘をほざいて人をだましてんのか?いや、こいつらも適当にこの世界に使い捨て品として送り込まれた鉄砲玉だから適当なロープレ設定をまた作って吹き込んでるだけか?


「いかにも。俺の名はサトシ!クソ女神ミーシャの裏切りにより殺されかけた“勇者”だ!!」


「ビンゴーォォォォ!!!!!やっぱオレって天才。みんな現実では俺のことを自意識過剰とか目立ちたがりとか言って認めようとしなかったけど女神ミーシャ様はやっぱ見る目があるううう!!オレの感ってすごいっしょ!ねっ!ねっ!」


「こいつがサトシ・・・?なんかダッサイ感じ・・・。女神さまの使命を放棄して大魔王に寝返ったのもわかる~」


魔法使い風の少女はため息をつきながら地面に唾を吐いた。かなり性根の悪い女の感じがする。


どうやらこの“勇者一行様”には自分たちの置かれた“真の立場”がお分かりでないらしい。


メンバーは若い“勇者”と魔法使い風の女、それにさっきから口をつぐむ僧侶風の男と商人風の男。


最果ての町ナタニエレで今、“勇者”同士の戦いが始まろうとしていた。




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