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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第60話 みんなが自由気ままに生きられる未来に

「小僧。おぬし現実世界の権力、すなわち超人族共に復讐を仕掛けると言っておったが、いったいどのような計画を立てておるのじゃ?言うまでもなく奴らは強大じゃ。明確な戦略とそれを大衆に納得させられるだけの理論なくしては死に急ぐようなものじゃ」


「それにわしの調べた限り、現実世界の超人族以外の人間というものは無差別な蛮勇を異常者として忌み嫌う。ただ超人族共にテロリズムを仕掛ければ万事うまくいくなどと考えたら奴らの思う壺じゃぞ」


朝、ダークゴブリンの自宅。質素なテーブルの上にこれまた簡素な朝食が並べられていた。

パン、ベーコン付き目玉焼き、トマト入りサラダ、コーンスープ、それにコーヒー。


現実のモーニングと全く同じ朝食にサトシは当初困惑した。まるで現実世界の朝食そのまんまじゃん!?と。サトシにとって、モンスターの食事とはもっと粗野で野蛮なやり方、肉塊とかにそのままかぶりつくイメージしかなかったのだ。


現実の世界からすると新世界と呼ばれるこの異世界の果てにある最果ての町ナタニエレ。

ここに住むのは雑多な種族のモンスターやエルフばかりだが、町中に酒場もあるようにモンスターやエルフたちも意外と人間と同じものを食べる傾向がある。


ダークゴブリンの老人がサトシに語ったところによると、かつてモンスターやエルフは魔法などの超常的能力を持ちながら食に対してはこだわりがなく、せいぜい食材を火であぶる、煮る、葉っぱでくるんで蒸す程度の原始的な調理法しかしなかったらしい。


それが超人族との長年にわたる戦争の結果、超人族が編み出した食材の調理法がモンスター側にも伝わり、モンスターやエルフも食事というものを楽しみとしてとらえる感情が芽生えて人間とほぼ同じ料理の技術が発展していったとのことである。


もっとも、長期間にわたる戦争で心身が極度に疲弊していった結果、食事というものが数少ない楽しみになって嫌が応なしに調理法も超人族並みに発展していったという事情もあるらしい・・・。かつてハードな作風で知られた有名作家は戦中戦後を食うものも食えずに大陸から逃げ延びて、その反動からか作家として成功後にありとあらゆる美食を楽しむようになったということは知る人ぞ知る事実である。精神的にも肉体的にも極限下に置かれたとき、手っ取り早くストレスを解消できる食事にこだわるようになるのは人間もモンスターもエルフも同じのようだ。


もっとも、モンスターやエルフの中にも種族によっては人間の血肉を食べる凶暴な連中もいるらしい。この町にはいないが、そいつらは他にも何かと厄介な部分があるから出くわしても関わらずに逃げろとダークゴブリンの老人はサトシに忠告している。


そんなこんなで習慣になっている朝のトレーニングの後、サトシは老人とともにモーニングをとっていた。ダークゴブリンの老人の作る食事は想像できないほどうまい。長い戦争で自然にうまい作り方を覚えたのと、野菜や卵はできるだけ自給自足しているとのことである。そのほかの食材は半ば気まぐれな配給がされているとゴブリン老人は言う。多少の種族間のいざこざはあってもかつて超人族と戦った仲ということで最低限の食料くらいは共助主義で無料供給されているとのことだ。


ダークゴブリンの老人は朝練の後、今後の方針のことについてサトシと話し合いをしている。サトシはそれに対してパンをかじりながら黙って聞いている。日々の鍛錬によって“常人以上の学習する能力”を超速の勢いで開花させ始めたサトシは、老人の収集した資料を驚異的な速さで読み込むことで、現実世界の問題点や自分がたどってきた不幸の原因を理解し始めたのだ。


「俺は学校に行っている時からなんか違和感ばかりがあったんだ。当時はイデオロギーとかカルト宗教のことなんてわからなかったけど、おっさんの資料を片っ端から読み漁って何となく学校時代に何があったのか分かってきた。変な平等主義みたいなのを押し付けてくる教師もいれば、おかしな宗教がかった理屈をホームルームで押し付けてくる教師もいた。いじめを受けた人に自ら告白させる気味悪いことをさせる教師もいたな」


「おっさんの資料を見てそいつらは共通する点がある。あなたはあなた、私は私という本当の意味でお互いを尊重することを事実上否定してたって点だ。常に一方通行なんだ。口では平和が大事とか言った直後に彼らが今しがた否定したはずの軍隊式絶対服従を強制してきたり、自由を与える的なことを言って放任して俺らが何をしたらいいかわからない状態にして結局こちらから教師に頼らざるを得ないようにしたりしてた」


「学級委員をさせられてた子も自由にやっていいという建前とは裏腹に自由な裁量を一切与えられず、それでいて自主的にやれなんて言われて結局教師にお伺いを立てないといけなくなって自主性のない無能な奴扱いされてた。同じ役員の周りの誰もその人を助けていなかったな。自主的にできない環境で自主性を強制されて、結局教師に自らお伺いを立てないといけなくなるなんて手足を縛られた状態で泳げって言ってるようなもんで、実質的に教師に奴隷的服従をしないといけなくなる。俺はそれを見てきて本気で嫌だったな」


老人はコーヒーを少し口に含むと、顔をしかめて言った。


「まさに奴隷道徳の強要じゃな。人間を奴隷化する方法の典型な一例じゃ。奴隷根性を仕込む者はまずターゲットに何をしてもよいと言って最初は自由にしてもいいかのような発言をする。ターゲットがその通りにすると怒鳴り散らしてそれをするなとしかりつける。するとターゲットは前に言われたことと後に言われたことが矛盾するために頭が混乱し思考停止に陥り、その結果、心理的に仕込む者の言いなりになるという人間の心理を応用した洗脳の手口じゃ。おぬしの世界ではそんな邪悪なことをいまだに、それも同じ人間に対してしておるのか?まったく、超人族共の考えることはいつの時代も変わらんな・・・・・・・」


ダークゴブリンの老人は遠くを見つめるような目で憤りと呆れが混ざった口調で言う。超人族の統治法を現実と理論の両方で見せつけられてきた者特有の説得力ある言い方だとサトシは思った。


サトシはそして、ダークゴブリンの老人に自分のこれからの行動の指針について口を開いた。


「おれはおっさんの集めた本とかを読み込んだ結果、左右のイデオロギーとか宗教とかカルトとかを一切排した自由主義で行こうと考えている。人間に本当に必要なのは選択の自由が実質的に保障されているということ。みんなが自由に自分らしく生きられるようになれば殿上人の支配体制は根本から崩れ去ると思う」


「アメリカの歴史を調べてみて気づいたんだが、アメリカ国民は信じがたいが常備軍を忌み嫌っていたという。常備軍はヨーロッパで専制権力の弾圧装置として機能していたからで、だから民兵を組織して対処するのが本来のアメリカの考え方だという。きれいごとなしで考えたとき、邪悪な権力による弾圧は口で抗議するだけではダメで、こちらが武力を持たないとやられ放題になる。そうならないためにアメリカでは銃の所持が認められているという。銃所持者が立ち上がるだけで専制主義は太刀打ちできないという。やはり人間の世界は暴力が支配している。暴力はなにも生まないなんて言っている奴らは奴隷根性を植え付けようとしている専制権力の手先に過ぎない。きれいごとなしにこちらも武力を持たないとやりたい放題される。話し合いで解決なんてのは日本人の特異な考えで、世界では価値観なんか鼻から分かり合えない奴らの方が圧倒的に多い。だから何とかしてそれぞれが自由気ままに暮らせる、誰からも監視されない国や社会を作りたいと考えている」


「だから俺はこの世界でまず拠点を作り、資源を確保して資金源を作り、そし現実世界を自由主義中心の世界に変える行動をしていこうと思う。どのみち俺は今のままだと現実には帰る場所はない。幸か不幸か現実世界の方がここより過酷な面さえあるからな。銃弾で撃たれるとか日本ではありえないと思ってた経験をした俺には開き直って誰も無理だと思っていることをやってやろうと思う」


「おっさんの言う通り下手なテロなんかしたらタダの犯罪者と変わらない。歴史的にもそういったことをすれば状況の悪化しかない。現実世界へ武力行使をするは最終段階になってからで、それまでは間接的なやり方をしつつこの世界での地盤をまず強固にする必要がある」


「フム・・・。おぬしをここ1か月ほど訓練してきたが、確かにおぬしの学習能力が超越的であるのは疑いようがない。やり方次第では超人族共の支配体制に風穴を開けられるやもしれん」


「だが、戦争に不可欠なものの一つ。軍資金は一体どうするつもりじゃ?言ったようにおぬしとわしだけではとても超人族共には勝てん。大きな組織を作らねば巨大組織暴力たる超人族支配体制はつぶせぬぞ」


「それを俺は考えて資料を漁ってた結果、たぶんおっさんたちが作ったと思われるものを発見したんだ」


そう言うと、サトシはゴブリンの老人が保管していた地図を取り出し、食事をしているテーブルと少し離れたところにある大きな机の上に広げた。その机はかなり年季が入っているが、巨大な地図を広げるのにぴってりの大きさであった。もしかすると昔老人が超人族との戦争で作戦計画の際に使っていた机ではと想像できるほどの重厚な作りの机だ。世界地図によく似た地図には、サトシが現在いる異世界の全体が描かれており、地図上の各地域には詳細なメモが書かれていた。


「おっさん。これ、この世界の資源分布を示しているんだろ」


「いかにも。これはわしがかつて仲間とともに製作した物じゃ。これはこの世界の全体地図で、おぬしの言う通りこの世界の資源の分布がすべて表しておる。おぬしのいた世界では相当な価値のある資源がこの世界では有り余るほどある」


「この地図は全体を大まかに示しているだけで、詳細は他の地図に分割して記載しておる。各地域のより詳細な資源分布、推定埋蔵量を見たければ他の地図を見ればよい。よくこれを見つけてきたな。わしも最近見ておらんかったわい」


「おっさん。俺もおっさんと同じことを考えていたんだが、殿上人の奴らと戦うには軍資金がいる。それで考えたのはこの世界に手つかず鉱物資源とかがたくさん眠ってないかなってこと。それでもしかしたらと、おっさんの資料室を調べていたらこの地図とか関連資料が出てきたってわけ。ほんと、おっさんってすげえな・・・。これがもし現実世界の殿上人どもが知ったら血眼になって分捕りにくるぜ。この世界にはこれだけの価値のある資源が手つかずで残っているんだ。俺がアルザマス砦やトムスク地方でウラン鉱石の産出地をエルフから収奪するよう仕向けられていたからもしやとは思ってたが正解だった。殿上人どもは間違いなくこの世界の埋蔵資源を独占することが目的だ」


「だがこの地図を見る限りこの世界の資源はほとんどモンスターやエルフの居住地域に偏在している。奴らが俺のような存在をこの世界に送り込むのも邪魔なモンスターやエルフを抹殺するためだって糞女神の野郎が行っていたこととも符合するし。つまり俺に回りくどいやり方でこの世界の資源強奪をさせているってことは殿上人どもはまだこの世界の資源をほとんど掌握していないってことだ。それなら俺らにも資源獲得のチャンスはあるし、それにこれだけ詳細な地図があればやり方次第で奴らを出し抜いて資源地帯を確保できるはずだ。もし、これだけの資源を俺らが手中に収めることができたら、現実世界とも十分張り合えるんじゃねえか?」


サトシの発言にダークゴブリンの老人はやや唇をかんで言う。


「確かにわしもおぬしと同じことを考えて、かつて停戦協定後にモンスターやエルフ連中に訴えたことはあった。資源を今のうちに開発して有効活用し、技術を向上させておけば将来超人族共と再び戦いを何らかの形で優位に進める日が来るとな。じゃが、奴らはそれらの資源が超人族共の住む現実世界でどのような価値があるのか実感としてわかない奴らが大多数じゃった。魔法や技術は超人族共に負けないくらいの水準はあるが、超人族共と違ってそれが政治的にどのような価値を秘めているかまでは思考が及ばないかったわけじゃ。なにせ数千年前に超人族共はおぬしの世界にほとんどが移住して技術のみならず政治的な思考を絶えず発展させてきたのに対し、わしらの世界のモンスターやエルフの大半はわしのような少数の例外を除いて原始的な部族・氏族の思考のまま今日まできたからな。それが超人族との戦いで勝てなかった理由かもしれん。超人族共がこちらの絶滅をもくろむ戦争の時は団結できても、分断工作に戦略を切り替えてからわしらが劣勢になったのもそれが原因と分析しておる」


「だがどうやって確保する?わしはまだ仲間が大勢いたときにいずれ何かの役に立つと踏んでこれを作成することができたが、実際に資源を手中に収めることまではできておらん。これらの地域は各モンスターやエルフの居住地域が多いし、仮に確保したところでどうやって採掘するのじゃ?資源を確保してもそれを現金化するのには途方もない労力とコストがかかる」


「何か資源採掘ができる魔法とかを持った種族はいないのか?」


「いることはいるが奴らは気難しい。仲間にするにはかなりの困難が伴う。」


「それはどんな奴らだ?」


「ホワイトエルフ族の者じゃ。奴らは特殊技術に関連する魔法に長けている少数部族じゃ。こやつらは物質を精製して極めて純度の高いものにする特殊な魔法を使いこなす数少ない種族で、この世界にある手段だけで資源を効率的に現金化するレベルまで持っていく方法があるとすればこやつらの特殊な魔法力とそれを応用した技術しかない。だが、・・・・・・」


「だが、ってどうしたんだ?」


「ホワイトエルフ族は表面上穏やかで紳士的な部族じゃが、内心は気難しい気質で本心では何を考えているかつかみにくい上に、超人族に対しても本来は中立の立場じゃ。かつての戦争で超人族側が絶滅政策でモンスターやエルフに戦争を仕掛けてきた際に嫌が応なしにわしらとも組んだ例外はあっても、本来は他の部族やモンスター連中とはなかなか組もうとしない。わしらも資源開発ができる能力を生かせば超人族との戦いも有利に進められそうだったので奴らを味方に引き込む工作活動をしたがダメじゃった」


ダークゴブリンの老人はしかしといった表情になって続ける。


「こいつらはしかし同族を守る意識が他の部族よりも段違いに強い。もし、同胞が虐げられているところを知れば必ず仇討ちをする種族じゃ。近頃はおぬしのような人間の侵略者が向こうの世界から送り込まれてきて小競り合いが頻繁に起きているとも風の噂で聞いておる。以前よりは仲間に引き込みやすくなっていると言えばそうじゃが、奴らは駆け引きも意外と好む。直情的に仇討ちを行うだけの種族ではないだけにやはり仲間にするには困難が伴うぞ」


「上等だ。俺はこのホワイトエルフ族を何かの形で味方につける方法を考えてみる。おっさんも手伝ってくれないか?」


「骨の折れる仕事じゃが、久しぶりに昔の頃に戻ったようじゃ。考えてみよう」


その日から俺はトレーニングを続けつつ、現実世界への魔法を用いたプロパガンダを継続しつつ、いかにしてホワイトエルフ族を味方に引き込むか策を練り始めた。さらに、この町のモンスター連中をも仲間として引き込む方法も並行して考え始めた。


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