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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第57話 律子の分析

キーン~コーン~カーン~コーン~、キーン~コーン~カーン~コーン。


学校全体に今日の授業が終了したチャイムの音が響きわたる。少し間の抜けた定番の音は平穏な学校生活の象徴のようであり、夕日の光と重なってどこかもの悲しさを感じさせる。


夕日が差し込む教室に私、上総律子はいた。他のみんなは放課後の部活や塾に行く予定のことなどを各々話し合ったり、教室を足早に出ていく人がいたりと様々だ。


一か月前、私は葦國公子さんと2人で外出した。その際、私は御船椿という少女と出会い、その人にいきなり殺されそうになった。得体のしれない炎を手にまとって私を手にかけようとしたとき、炎の勢いがなぜか弱って私は間一髪攻撃をかわすことができた。


それでも肘のあたりにかなりの火傷をした。本来なら火傷の跡が残るくらいのものだった・・・はず。それを公子さんは何かを唱えてほぼ瞬時に治してくれた。火傷の跡は全くない。あの事件のことはテレビで取り上げられることはなく、ネットでも単なるボヤ騒ぎとしてわずかに報道されただけだった。新世界で魔法というものがあることを実感させられた私だが、あの日の出来事は現実世界で改めてそのことを認識させられた形になった。


あの日、公子さんと別れ際にした会話が忘れられない。


“危険な目に遭わせてしまってごめんなさい、律子。でも、世の中はこれが普通よ。力あるものがすべてを支配し、そうでないものはどこまでも惨め。”


“この世に絶対的な善も悪も存在しない。あるのはそれぞれのアイデンティティをめぐる戦いがあるだけよ”


“律子、あなたの力は椿が言うようにまだ完全になっていない。でもそれを自在につかえるようになったらちょっと・・・ね”


あの日の別れの最後に公子さんが言っていた3つの言葉。私の心の中にずっと残っている。私の力ということについては、それ以来公子さんに聞いても話をはぐらかされて何も答えてくれない。それほど私の力は危険だというのだろうか・・・?


新世界でエルードさんが言っていた私の持つ“洗脳を解く力”が殿上人という人たちにとって危険な能力であることは朧気ながらもわかる気がする。


エルードさんの話を基に分析すると、殿上人と呼ばれる人たちが超越的な力を持っているということ。それは新世界の磁場を起源として磁場の副作用を克服しながら超越的能力を身につける際にある種の強烈な自己洗脳的なことをする必要があるということ。私の能力はまさにその力の根源そのものを無効にしてしまうということだ。殿上人と呼ばれる人々が血眼になる理由もわからなくもない。


自意識過剰という意味ではない。実際、新世界での気のおかしい女の閃光のような魔法や、先日の椿という人の青白い炎を帯びた手刀による攻撃が私に当たりそうになる瞬間にそれらが消えたり、あるいは大幅に威力が弱くなったりしたのだ。殿上人の人たちが脅威とみなすのも無理からぬものがあると自己分析する。


でも、椿という人の攻撃は弱まったとはいってもなお十分人を殺せる威力を持っていた。私もなんとか受け流せたからよかったけど彼女の燃える手刀に当たった肘のあたりにやけどをした。公子さんがすぐに治してくれたからあまり実感がわかなかったけど、今から考えると間違いなくかなりの火傷だったと思う。弱まってなおかなりの殺傷力だったと、思い返すだけでもあんな恐ろしい人が同い年くらいにいて、しかもその人と私は戦ったんだと思うと背筋が凍る思いがする。


要は公子さんの話と合わせると、私の力も殿上人の人たちに十分通用する段階には至っていないということらしいのだ。詳しいことは公子さんもそれ以上は教えてくれなかった。


あの椿という女の子は一体何だったのか・・・。ネットなどで調べても相変わらず御船財団というのはよくわからない所だ。慈善事業を主にする財団という点くらいしかHPにも書かれておらず、すべてあたり触りのないものばかりだ。相変わらず何もわからない。だが、世間一般に公表されていることとは真逆のような事実を私は無理やり突き付けられた。


世の中の裏の真実とでもいえばいいのか。相手は世の中を支配している側で、私たち一般人の倫理などとはまるで異なる価値観を持っている。そして、世の中で公表されている常識というものが根底から破壊されていく事実を見てきた私にとって、メディアで報道されている常識とされていることの一つ一つが却って恐怖と不安を心に呼び起こした。誰にも相談できないのだ!新世界から何とか帰還したときもそうだったが、現実世界でもあんな超能力者みたいな人が目の前でいた。その人に火傷まで負わされて、それを公子さんがこれまた何かの力みたいなので一瞬で治してしまった・・・。


こんな常識と非常識の境界がなくなった世界に突如投げ込まれてから、私は精神の安定を保つのでかなり苦労している。表面上はおとなしくしているが、本当はパニックになりそうなのだ。


まだ漫画の世界のほうがましなんじゃないかとさえ思う。現実の世界では、異能者同士の戦闘シーンは出てきてもすべてを丸く収めてくれる正義のヒーローは登場しないのだ。


公子さんは?確かにあの人は私によくしてくれている。でも、決して正義のヒーローという感じではない。悪人とか低俗な人では断じてないことは分かる。けれど、あの人はとても恐ろしい何かを隠している感じがする。一般人の私たちの感覚が通用しそうで通じないのだ。たぶん口外できないような冷酷非情な命令を迷うことなく部下に下すことができるような・・・、そんな気がするのだ。


そんな人が私にやたら執着する理由は私の洗脳を解除する力を脅威と見ているからなのだろう。取り込んでしまえば万事解決するとでもいうのだろうか・・・。


公子さんは私の身が危ういと心配してくれて、それからも何度か会っている。でも、外を自由に散歩することはなくなり、朝か帰りの登下校時間帯か、塾の帰り道に会うことが多い。彼女なりに私のことを心配してくれている。


確かに公子さんはすごくいい人。でも、私はあの人の言った言葉“あなたの心の一番大事なものを私に渡しなさい”という発言がどうしても受け入れられない。それって自我を渡しちゃう、あるいは自我ではなくてもそれを渡すことと同じくらい大切なものをあの人に渡しちゃうっていうことじゃない・・・。それは無理だ・・・。何か、何か人としての大切なものを失ってしまう気がしてならないのだ・・・・・・。



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