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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第55話 殿上人同士の喧嘩

興味あればポイント、評価、ブックマークをよろしくお願いいたします。

椿と名乗る少女は表情を一変させ、周囲を重々しい空気に包んだかと思った瞬間、目にもとまらぬ速さで公子に襲い掛かった。


律子は何もできない。周囲の重力が増したかのように空気が重くなり、体が思うように動かないのだ。


そんな立っていることだけで精一杯になった律子の目の前に飛び込んできたのは、手刀でまっすぐ公子の体を貫こうとしている椿という少女の姿だった。椿という少女と、公子・律子との間は8~9mくらいは離れていた。お互いやや遠めの距離を保って話しをしていたはず。その間合いを少女が一瞬で詰めてきたのだ。時間は1秒も経たなかっただろう。その動きは速度からして人間業でもなければ動物の動きでもない、明らかに超常的な能力のそれだった。


律子を驚かせたのはそれだけではない。


少女は間合いを詰めると同時に、手を手刀の形にして右腕をまっすぐ伸ばし、公子の体を貫こうとしていたのだが、その手先から肘にかけて青白い炎のようなまばゆい光をまとっていたのだ。例えるならロールプレイングゲームなどで剣の刀身に炎の魔法をかけて敵を斬る魔法剣と呼ばれる技があるが、その雰囲気に似たものがあった。少女はその腕で公子のみぞおちを今まさに貫こうとしていたのだ。


だが、公子は全く動じていない。正確にはその場から一歩も動くことなく、その手刀を止めていたのだ。しかも、公子は椿の腕をつかんでいない。公子も右手を目の前に突き出して、その手のひらを前に向けて少女の手刀を受け止めていたのだ。それも何かエネルギー同士が反発しあっているように公子と少女の手は直接触れていない。


律子は目の前で何が起こっているのか、理解しきれずにいた。新世界での一件以来、律子はいわゆる魔法とか超越的な力が現実に存在するという事実は認識できたのだが、今目前で展開されている光景はその想像を超えるものだった。


気が付くと公子の周囲も圧倒的な何かが覆い始めていた。今までも公子からは近寄りがたい威厳のようなものを律子は感じて取ってはいたが、今回みるのは以前までのそれを圧倒的に上回る戦闘的な威圧感だった。


「本気で殺しに来るなんて、ちょっとおいたが過ぎないかしら、椿」


公子の口調は明らかに怒気を帯びている。同時に彼女の全身から戦闘体制に移行した殺気が放たれるようになっていた。


しかし、椿は公子の言葉に返答することもひるむこともなく、体を体操選手のように後方に転回し、着地すると同時に今度は左手のひらを公子に向けた。瞬間、青白い閃光が放たれて公子に向かって襲い掛かった。それもただの閃光ではない。周囲を焼き尽くさんと言わんばかりの危険な熱風が吹き荒れるものだった。


椿という少女の動く速度、手から放たれる炎の閃光。いづれも新世界で見たものをはるかに凌駕する性質のものだとすぐわかった。新世界で遭遇したあの気のおかしい女も同じような魔法を使っていたが、椿という少女のそれはより強大な威力を持つものだ。律子の顔にまであたり一帯に充満するくらいの激しい熱気が来たからだ。焚火の近くで感じる熱さとは比べ物にならないような、本能的に生命の危険をはっきりと感じる炎。あの気のおかしい女の閃光などとは比べ物にならないくらい凶暴な熱風。それが律子に椿という少女が本気で殺し合いを仕掛けてきているということを嫌が応にも理解させた。


「何回目かしら。あんたとこうしてやりあうのって。でもそいつをかばいながら優雅に戦っていられるかしら?」


椿はそう言うと片手で巨大な火球を頭上に発生させてそれを公子に投げつけた。公子はすぐさま近距離から投げつけられた火球を両手で受け止めるが、威力の大きさからか少し後ずさりをした。


「!っ。閃光魔法を濃縮させた火球!無効化に時間がかかるものを・・・!!」


そして公子がひるんだ一瞬のスキをついて、椿は踵を返して律子に襲い掛かってきた!!


「言ったよね!私に従うかどうか?でもあんた連れない態度してるからこの場で人生終わってもらうわ!どのみちあんたは私たちにとって危険な感じがするし。将来の禍根は即座に摘み取るのが基本だし!」


「律子!!危ない!!!図ったわね、椿!!」


椿は先ほどの手刀に魔法をかけて強化したような技でまっすぐ貫手の構えで律子の腹部めがけて突いてくる。


“嘘でしょう!あんな技で貫かれたら間違いなく死んでしまう!!私、ここで死んじゃうの・・・・・・・”


律子は心の中で無意識に身構えていた。瞬間的に圧倒的恐怖が迫ってきた今、それしか瞬時にできることはなかった。空気は重くて自由に動けない。それに椿という少女の速さは明らかに人外のそれだ。公子も火球を消滅させるのに一瞬とはいえ時間がかかり、律子の救援に間に合わない。事実上律子に逃げ場はなかった。


だが、椿の貫手が律子に迫ったその時、椿の右腕を覆っていた青白い光が弱くなり始めた。それも、律子の体に近づくほど見る見るうちにその炎の勢いが弱まってきたのだ。余裕に満ちていた椿の顔に一瞬微妙な焦りの色が浮かんだ。


その様子を見て律子は直感的に受けられると感じ取った。律子は体を横に移動して椿の貫手が体に当たらないようにしながら、外側から円を描くように肘を使って椿の貫手を払った。


「っ!!熱い!!!」


弱まったように見えたとはいえ、椿の手に肘が当たった瞬間、律子の腕に強烈な痛みが走った。熱く焼けた鉄の棒を押し当てられたような、痛みと熱さが同時に腕に走る。だが、何とか耐えきれるくらい青白い炎の勢いは弱まっていた。


自らの攻撃を受けて交わされた椿は、不機嫌な表情を浮かべて律子に言い放つ。


「何?あんた?殿上人の攻撃を受けて平気・・・、というより完全じゃないとはいえ殿上人の能力を無効化した?せいぜい下っ端レベルの能力者の攻撃を無効化できるくらいと思ってたけど、やっぱり洗脳そのものを根本から解除する能力は本物だったようね」


椿から余裕のある雰囲気が消え、やや焦りの表情を浮かべる。


「やっぱりあんたは想像以上に危険よ!!殿上人の力まで無効化する一般人なんてほんと危険!でも、あんたはまだそれを完全に制御できていない。何としてもこの場で始末しておかないとダメね!!」


そう言い放ちながら再び律子に襲い掛かろうとした椿を、強烈な風が吹き飛ばした。華奢な体が人形のように宙を舞い、そのまま近くのビルの壁に叩きつけられた。


見ると、公子が左手の手のひらを椿に向けて、強烈な風を放っていたのだった。公子のそれは暴風というより一点に圧縮されて放出されるような突風ともいうべきものだった。いづれにせよ何か普通の風ではないことは確かだ。


「いい加減にしなさい、椿!!律子に手を出すのは私が許さない!!」


椿が起き上がる。よく見ると彼女の体に無数の切り傷があった。あの風にかまいたち的な切断効果もあったことをうかがわせるものだった。


「っ、なぜ邪魔をするの、公子!そいつを生かしておいたら色々と厄介なことになるのよ!!こいつは間違いなく殿上人の権力を危うくする存在よ!これは私たち全体の問題であってあんた一人のわがままが通るもんじゃないのよ!!」


 椿の叫びに公子は反論する。


「だからこそ重要じゃない。私たちに歯向かうことのできる存在は逆にそれだけ貴重な人材ってことよ。私たちの権力は優れたものはすべて取り入れることで盤石なものになってきた。逆らう力を持つ者をすべて消す最良の方法は、それらをすべて味方に取り込んでしまう度量を示すことよ。あなたにはそれがない。幼稚に力を振り回すだけでは人の上には立てないわよ」


 椿は立ち上がると、何かを唱え始める。すると、見る見るうちに椿の姿が薄くなっていく。


「今日はこちらから引いてあげる。けれど、あんたの見識は甘いわよ公子!私は危険なものはすべて消す主義。いつまでもあんたみたいな夢うつつの理想論は通用しないと思いなさい!!」


 そう言い放つと、椿と名乗る少女はその場から消えてしまった。


 公子が律子に駆け寄る。


「大丈夫、律子!腕を見せて!」


「はっ、はい・・・」


律子の腕は肘を中心にやけどを負っていた。それを確認すると、公子は律子の腕に手を当てた。すると公子の手が光を放ち始め、1分ほどで律子の腕の火傷は跡も残らずに完全に治っていた。


「よかった。それほどひどい火傷ではなかったみたい。ほかにケガはない?」


「大丈夫です。でも、正直怖かったです。いきなりあの人貫手で攻撃してきて・・・・・・。しかも、あの人新世界で見た魔法みたいなものを使っている感じがして。公子さんも魔法みたいなものが使えるみたいですが、分かっている部分もあるとはいえ頭が混乱してしまいます」


「とりあえずここを離れましょう。殿上人の空間支配で一般人には私たちの存在は気づかれにくいとはいえ長居は無用よ!」


 律子は公子とともに速やかにその場を離れた。路地での出来事は、たばこの不始末によるボヤ騒動と翌日のニュースで少し取り上げられただけだった。


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