第43話 喧嘩の仲裁
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サトシは騒ぎになっている方向へ当てもなく歩を進めていた。何かそこへ行くことに意味があるわけではない。声の感じからただの喧嘩だろう。野次馬根性で見ても何も得るものはない。
だが、自分の身に降りかかってきたことを冷静に整理していくうちに、サトシは言いようのない虚無感を感じていた。それをそのままにしておくと、自殺という道を選ぶのではないか?自分で自分をそう分析したサトシは少しでも人のいるところへ、騒ぎでもいい、喧騒のある所へ行かないといけないと考えた。すると無意識のうちに喧嘩の騒ぎがする方向へ歩いていたのだった。
俺にはもう帰る場所がない。現実世界に帰還する手段もなければ、帰れたとしても家には帰れない。俺のことを唯一大事にしてくれた近所のおばあちゃんも行方不明状態になっているであろう俺が転がり込むなんてまず無理だし。
許せねえ!!俺をこんな目にあわせたやつらすべてが許せねえ!!
罪を憎んで人を憎まずだと?ふざけんな!!俺は人間そのものが憎い!!絶対に復讐してやる!!俺をこんな目にあわせたやつら全員をなぶり殺しにして生きたまま頭の皮をひん剥いてやる!!!
サトシの心に不都合な真実という言葉が出てきた。世の中で常識とされていることには重大な嘘と欠陥、そして実態を知らない者を何重にも騙す邪悪なトリックがあるのではないかと?何か本を読んだり勉強して出てきた考えではない。だが、こんな目にあわされた俺の心の中にはすべての常識とされることを疑う思考が出来上がっていた。
現実世界への帰還をあきらめこれからどうするか?そして、自分をこのような目にあわせた権力筋にどう復讐するか?サトシの心の中では2つの考えが交差する。
現実世界の権力へ憎悪の念を燃やし募らせながら歩いていたら、喧嘩の怒鳴り声の震源地である町の酒場にたどり着いた。
「この糞ジジイ!!金も払わず一人前に酒飲んでじゃねえ!!!」
ガラスが割れる派手な音とともに大きな怒鳴り声が再びこだまする。
次の瞬間、一匹のゴブリンが酒場の中から勢いよく外へと投げ出された。ゴブリンは酒場の前の泥だらけの道に叩き伏せられ、全身を泥だらけにしながら転がってうつぶせになって止まった。
建物の陰から様子を見ていると、それは先ほど俺を助けたダークゴブリンだった。店内から店員と思われる服装をした大柄のモンスターが出てきた。外見からしておそらくオーク系のモンスターだろう。そして酒場の前でそのゴブリンを袋叩きにし始めた。
「すまねえ、金はまた今度・・・、今度に払うから・・・、少しくらいのませてくれええ・・・」
さっき見たゴブリンの老人は弱弱しい口調でオークの店員に懇願する、が、オークは容赦しようとしない。
「んだとコラでめえ!!ツケがもう4回分もたまってんだぞ!昔クソ超人族どもと戦った功績に免じて今の今まで黙ってきてやったが今日は許さねえ!今までの代金雁首揃えて持ってきやがれ!でなきゃここでぶっ殺すぞ!!」
酒場の店主と思しきオークがすさまじい剣幕で先ほどのゴブリンを怒鳴りつける。
「おやっさん!今日こそこいつ締めましょうよ?いくら昔俺らのために戦ったと言ってもすでに戦う意志も能力も失せた酒を買う金もろくにないただの老いぼれジジイですよ?」
店員と思われる若いオークも店主にゴブリンを殴り飛ばすよう催促している。
「近頃は超人族とは別の変な人間どもに襲われて連れ去られる種族も多いせいで商売する奴らが町にほとんど来てくれないんすよ。おかげで物流は滞りがち。故に食料も嗜好品も貴重ときてるのに、こいつにこれ以上タダ酒なんか飲ませてたら俺らの方がつぶれちゃいますよ?」
どうする?あのおっさんゴブリンには助けられたが、いかんせん感じの悪い飲んだくれのジジイだ。話を聞いてたら飲みのツケを払い損ねてるだけみたいだし、俺には関係ないか・・・・・。
サトシはふと自分のポケットに何かが入っているのに気が付いた。右手をポケットに突っ込むと、中から金貨が5枚ほど出てきた。思い出した。これはあの糞女神に最初与えられた軍資金の残りだ!確かハンフォードの町でいろいろ装備を買いそろえるときに予備のお金としておっておいてたやつだ。モンスターに通用するかな・・・・?
サトシはオークとダークゴブリンの間に割って入った。
「おい、止めろ!」
突然現れた人間の少年に、オークの店主は目を見開いて驚きとともに憎悪に満ちた声を荒げた。
「何だ小僧!?人間のガキがなんでこの町をほっつき歩いてやがるんだ!?さては最近モンスターやエルフを狩ってさらう人間どものスパイだな!!このジジイをかばうとは何を考えてやがる!!」
サトシは落ち着いてポケットから先ほどの金貨5枚を取り出してオークに差し出す。
「このおっさんツケを払ってねえんだろ?俺が代わりに払うからここは見逃してやってくれ」
サトシの申し出にオーク2名はキョトンとする。
若い方のオークはサトシの手から素早く金貨を取り上げると、歯でかんだりして偽物ではないか調べる。
「おやっさん!これ本物の金貨ですぜ!こいつはめったにない収入ですよ!!」
「うっ・・・、ちったあ世の中の決まり事をわかっているじゃねえか小僧。今日のとこはお前の誠意に免じて見逃してやるよ。おい!ジジイ!二度とタダ酒飲みに来んじゃねえぞ!!せいぜいこのガキに感謝するんだな!」
「全くかつて超人族と戦った御仁ともあろう者が、まさか人間のガキに情けをかけられるとは・・・・。あんたも落ちるとこまで落ちたねえー」
オークの店主と店員は嘲笑の声をあげながら酒場へと引き上げていった。
「おっさん、大丈夫か?ずいぶん派手に殴られたじゃねえか?」
ダークゴブリンの老人の体は殴られていたるところ内出血を起こしている。
老人は弱弱しい声で、しかしはっきりという。
「誰が助けてくれといった!これはわしの問題じゃ!人間風情に助けられるなど屈辱以外の何物でもない!ううっ、痛い!」
一応俺のことを助けてくれた奴だ。ほっとく気になれない。
俺は老人に肩を貸して家まで送ることにした。




