第42話 最果ての町ナタニエレ
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一体どれくらいの時間が経ったのだろうか・・・・。
サトシがハンフォード郊外の謎の研究所を無我夢中で脱出して約3時間。彼はずっと飛行して遠くに逃げていた。なぜ自分が飛行系の移動魔法をまだ使えたのかはわからない。あの糞女神に剣を取られて何もできなくなっていたはずなのに・・・・・。
しかし、がむしゃらに戦ってきた反動が今出てきた。研究所から遠く離れてきたことで緊張感が取れ、今までアドレナリンでマヒしていた疲れが一気に出てきたのだ。
まずい、このままでは墜落する!どこかに下りないと・・・・・。
サトシは人気がないと判断した森の中にゆっくりと慎重に着陸した。
「グッ、ハア・・・、ハア・・、ハア・・・・・・・、ハア・・・・・・・・・」
自分でも自覚しきれないほどの体と精神の極度の緊張と疲労、自分の意志では全く体が動かなくなるまで動いたのは人生で初めてだ。サトシは仰向けに倒れてその場から動けなくなった。
かなり遠くまで来たはずだからそうそう追手はまだ来ないだろう。でも、もし今の状態で見つかったら間違いなくお陀仏だ。
だが、極度の疲労が思考する意志すら奪い、サトシはその場で眠り込んでしまった。
「ここは・・・、どこだ・・・・・」
サトシは意識が朦朧としていた。
確かさっき森の中で倒れて・・・。
それからの記憶がない。
思い出そうにも頭に激痛が走ってそれどころではない。
だが少し落ち着くとあることに気が付いた。
頭には包帯がまかれ、全身のけがのある個所にも手当てがされている。
「目を覚ましおったか。こんな地域で人間ごときがうろうろしてなにをしにきたのじゃ?」
「ここはどこだ?」
俺はいつの間にか木造の家の中のベッドの上に寝かされていた。家といっても簡素で飾り気は全くなく、テーブルの中心にある皿の上に置かれた小さなろうそくと、口先が少々かけた中型の水差しがこの家は貧しいという事実を無言のうちに伝えてくる。
そして、こちらに向けられた視線にサトシはようやく気付いた。自分を疑うような目で見てくるそれは人間ではなかった。モンスター!?それもゴブリン系の年老いたモンスターがコップに入った液体をあおりながらこちらを注視していた。異様な酒臭さがすることからアルコールを口にしているのだろう。
「痛っ、あの・・・、ここはどこ・・・・」
ぎこちない俺の質問にその老人ゴブリンはけだるそうな口調で答える。
「ここはナタニエレの町。あらゆる種族の流れ者が集まって暮らす最果ての町じゃ。お前みたいな人間がなんの用じゃ?町はずれの森に薪を収集しに行ったらお前が大の字で倒れて負ったからここまでわしが引っ張ってきてやったのじゃ」
「おっさんなのか?俺を助けてくれたのは?」
ダークゴブリンの老人は不機嫌なしかめっ面をしながら吐き捨てるように答える。
「意識が戻ったならサッサと失せろ。わしは好き好んでお前を助けたんじゃない。昔のプライドが無意識にそうしただけじゃ。ヒックッ」
このゴブリン、まだ明らかに昼間の日が差している時間帯なのにかなり飲んでいる様子だ。
だが、ゴブリンのおっさんとの会話で、俺はようやく朦朧としていた思考が回るようになってきた。
目の前にはゴブリン系のモンスターがいる。
それもかなり年を取ったおっさんのゴブリンだ。身長は人間の小学生くらいだが、眼光は鋭い。酔っぱらっていて時々体がふらついている。
ダークゴブリンって言ったら、ゴブリン族系のモンスターの中でもかなり頭のいい種族で、魔法を駆使した攻撃と、知恵を駆使した知略を得意とするとこの世界に来た時に聞いたことがある。
「なあ、おっさん・・・あんたは一体何者・・・・?」
「うるさい!!気まぐれに手当てしてやっただけといったじゃろうが!!くされ人間風情がわしに質問なんぞするな!!!気が付いたならさっさとここから出ていけ!!!」
俺はそう怒鳴られてこのゴブリンの老人の家を追い出された。
何だったんだ・・・・。あのおっさんゴブリン。何で人間の俺を助けたんだ・・・・・?
ゴブリンの家を追い出されてから俺はひたすらこの町をさまよい続けた。行く当てはどこにもない。
この新世界に来たということ自体が俺のような生産性なきとみなされた人間を体よく棄民する場所だったとは・・・・・。おまけにモンスターやエルフを効率よく殺戮してそれらの住んでいる土地の地下資源を奪う先兵にさせられていたとは・・・・・。あの糞女神の憎んでも憎み切れぬゲスな面が頭から離れない・・・・・。
それにしてもこの町は一体なんだ・・・・・。
道はぬかるんで泥だらけ。歩くたびにじゅぽじゅぽと音を立てるほどで足が地面にめり込み、気を付けなければ足を取られて転倒してしまいそうだ。まるで田んぼの中を歩いているのではないかと錯覚するほど道路の状況は劣悪で汚い。
おまけに町にある店の入り口にはでかい痰ツボがあるわ、建物の裏手の壁には用をたした跡がそこら中にあるわで、そこかしこから発生している耐えがたい悪臭が鼻をつく。
見たところ住人はほとんどがモンスターで、人間である俺がいてはまずい感じの町だった。
だが、なぜか人間である俺を見てもモンスターどもはほとんど関心を示そうとしない。モンスターどもはみなうつろな目をしており、自分のことを考えるだけで精一杯という雰囲気を漂わせている。
しかもこの町のモンスターはみな普通の様子ではない。手足のいずれか、またはその両方を欠損しているか、片目がつぶれている者もよく見かける。肢体がそろっている者も体に傷を負っている者が多く、争いで負傷したか、戦争で戦傷したことをうかがわせる者が多い。
あのおっさんゴブリンが最果ての町って言ってたのも十分納得できる光景がそこに広がっていた。
行く当てもなく町をさまよい続けて1時間後、
ガシャーン!!バキッ!!!!ドチャ!!!!!
「またタダ酒のみに来やがったなこの野郎!!!!」
「今日こそはツケ払えコラ!!!!」
町の中心から大きな音がした。同時に複数の怒鳴り声が聞こえてくる。
行く当てもない俺はとりあえず何があったか行ってみることにした。




