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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第40話 自我の覚醒

ハンフォードの町の郊外。あたり一面の平原地帯の中に不釣り合いなほど無機質な外見のそれは建っていた。


“ハンフォード行動心理科学人間関係研究所”。


門柱に埋め込まれたやや錆が浮いた金属製のプレートにそう書かれているこの施設は新世界の真っただ中にあり、公式に現実世界から新世界に研修にやってくる民間人はまず立ち入ることのできない場所にある。そもそもハンフォードという町が新世界にあるということ自体が公表されていない。現実世界で公開されている新世界の情報では研修施設の名称のみ公開されているが、その建物リストの中にも当然この研究所の名前はない。


政府の限られた人間しか名称も知らないこの施設で何が行われているのかは誰も知る由がない。


そのような施設に今、1台の日本メーカー製のライトバンが入ろうとしていた。


門前ではバラクラバで顔を隠した警備兵が小銃を片手に厳格な審査をしており、緊張感に満ちたその様子は冷戦時代の東西の国境付近を彷彿とさせる。おまけに顔を隠してはいるが、警備兵からはおおよそ人間的な雰囲気が感じられない。一応種族は人間なのだろうが、まるでプログラムされたことをこなすしか眼中にないAIロボットのような振る舞いはこの新世界の異様性をさらに引き立てている。


最も、それを目撃できる人間の中にそれを異様と認識できる者はいないが・・・・・。



ライトバンを運転している中年男は身分証明書らしきものを警備兵に見せる。助手席に座っている若い男も同様に。


「御船慈愛財団嘱託研究員:真木和夫様 宗教法人光明家族西東京支部長:鳩崎秀樹様 了解いたしました。積み荷は何でしょうか?」


「行動心理研究の被験体2名。能力向上の限界とこれ以上の任務遂行不可との判断により脳波測定と選別石による最終選別実験を行う」


運転手の中年男がそういうと、警備兵は敬礼した。


「通せ!」


警備兵は詰所にいる同僚にそう言うと、詰所内にいた警備兵は門の扉を開けるスイッチを押した。重い鉄格子の扉が耳障りな鉄の軋みを鳴り響かせながら開いていく。


扉が開き切ると同時に、ライトバンは研究所内の最奥にある中心施設へと向かった。



ドサッ!!


「うげっ!!」


何かに高いところから地面に叩き落されたような衝撃が全身を駆け巡る。同時に強烈な頭痛を引き起こすほどの不快な痛みが神経に直接響いた。耐えがたい頭痛と朦朧とした意識に何者かの怒号が鼓膜に直接飛び込んできた。


「おい!!立てクソガキ!!さっさと歩くんだ!!」


かすんだ目が少しははっきりしてきた。


ここはどこだ!?あたり一面真っ白で人工的な建物?ハンフォードの町ではない・・・。アルザマスやトムスクで見た無機質な施設に近い場所・・・・・。確か僕はハンフォードの町であのミーシャという女神が豹変して攻撃されて・・・・、僕らは裏切られたんだった・・・・。

それから意識を失って・・・・・・・・。


「もたもたすんな、コラ!!歩け!!」


後ろからアサルトライフルを持った見慣れぬ兵士が僕に罵声を浴びせてくる。よく見ると僕の前には担架にアミさんが載せられて先に兵士によって運ばれて、先に施設の中のエレベーターに入っていくのが見えた。


選択の自由はない。僕は渋々兵士の言う通り歩くことにした。それにしてもなぜだろう?頭がくらくらして自意識を保ちにくくなってる気がする・・・・・。あの糞女神や兵士に暴力を振るわれたからか・・・・。それもあるだろうけど、なんか自分が自分でなくなってくような・・・・。糞女神に剣を取られてからかな‥‥こんな感じ・・・・。


サトシは意識が朦朧とする中で立って歩くのが精いっぱいだった。抵抗するにも魔法力などの力が出ない。それ以上に抵抗しようという意識が急速になくなっていくような気がしてきた。それもこの施設の奥に入れば入るほどだ。訳が分からない。


前方には兵士2名、後ろにも2名。僕は前後を武装した兵士に囲まれて施設の中に入ることを強制された。そして、アミさんが連れていかれたのと同様に、エレベーターに乗せられ、地下へと連れていかれた。


エレベーターは地下6階で停止した。ドアが開くとそこは異様な空間が広がっていた。建物内部は何かの研究施設のような雰囲気だったのに、僕が連れてこられた地下6階は一転して洞窟のような場所だったのだ。壁は岩がむき出しであり、あたりは薄暗く、そしてその奇妙なまでにだだっ広い空間の中央に、青白く輝く奇怪な岩のようなものがあったのだ。それは直感的に何かの宗教の祭壇を感じさせる、それでいて危ない何かがあると感じずにはいられない場所だった。


そこには研究員らしき人物が5名ほど、兵士の格好をしたものが同じく5名いた。


サトシを連行してきた兵士が初老の研究員らしき人物に話しかける。


「被験体を連れてまいりました。そこの女の被験体と同様、選別石で適性検査を終え次第、6階の脳波測定所に移します」


初老の研究員らしき男が口を開く。


「ご苦労。一応この2名はそこそこ特殊生物駆除の任務を行えたようなので、その行動パターンや思考のデータを脳波測定で解析し、AIに学習させる一応のサンプリングになる。その前に本来は不必要じゃが選別石の検査をして自我を保てるかのチェックを行う。こんなのは本来チェックせずとも人形確定なのじゃが、一応自我を保てるかのチェックをするよう殿上人様に義務付けられているからのう」



訳の分からないことを研究員が言っているが、頭がくらくらするのと相まって何がなんやらさっぱりわからない。


そうこうしているうちにアミさんが研究員2名に両脇を抱えられながらあの不気味な青白い岩のような物体の前に引き出されていく。アミさんはまるで夢遊病者のように意識がなく、うつろな目と表情をしている。目を開いているが意識がないとしか言いようのない状態だった。


そしてアミさんの両脇を抱える2名の研究員風の男の内、片方がアミさんの左手を取ってそのアミさんの左手を青白い岩に触れさせた。アミさんは一瞬ビクッと反応したかと思うと頭がガクンとうなだれてピクリとも動かなくなった。


僕は止めろ!!と言おうとした、が声が出ない。このフロアにきて頭が真っ白になり、思考はしても思考できない、思考が強制的に停止させられるような感覚になっている。


「やっぱりダメだったか。どうせ選別石の磁場に耐えられないとは思っていたが、所詮こんなもんか。これは脳波測定に回せ。次!」


アミさんは両脇を抱えられながらエレベーターに乗せられていった。


直後に、僕の両脇を研究員が抱えながらアミさんと同じようにあの不気味な岩の前に引きずっていく。僕もまた、アミさんと同じようにあの岩に手を触れるように強制されるのか・・・・・?


抵抗したくてもできない。第一力が全くでない。声も出ない。意識はあるけど全く自我がなくなっていくような、夢遊病者ってこうなるのかと想像したくなるような異常な感覚に陥っていた。


そして僕の腕を研究員の男がつかんで強制的に岩に触らせた。


「所長、こいつも同じです。まるで物になりません」


「じゃろうな。大体選別石の磁場に耐えられる者はこんな意識をもうろうとさせたりせんからな。わしらは特性の磁場制御装置を持っとるから何とか自我を維持できるが、電源が切れるとわしらまでこいつらみたいになっちまうからな。いくら念のためとはいえこんな素質のない奴らをいちいちチェックせんでも良いものを・・・・。殿上人様の戯れはわしらでも理解できんとこがある・・・・」


「さあ、ぐずぐずせんとこいつも測定所へ運べ!ここは磁場が強いから制御装置への負荷が強い。故障したらわしらもこいつらみたいになるぞ!」


僕はこのまま得体のしれない所に連れていかれるのか・・・・・・。僕の人生はこれで終わっちゃうのか・・・・・。


いやだ!!僕はまだ青春を謳歌もしていない!!それでいて自分らしく生きたいという気持ちがなぜか空回りさせられることばっかりだった!!今回のことからして、もしかして僕がこうなったのは世の中がおかしすぎるからじゃないのか!!


力が欲しい!!!


僕は使い捨て品なんかじゃない!!!!


アミさんは僕に心を開いてくれた人だった!


今回のことは間違いなく黒い何か、とてつもない邪悪が裏に潜んでいる!!!!


そいつらを殺すまで僕は死ねない!!!!!


殺れ、殺るんだサトシ!!!!!世の中には殺さないといけない人間がいるんだ!!!!!!そいつらに死の制裁をかますまで死ねるか!!!!!!


ドゴォォォォォォォォォォォォッォォォォォォォォ!!!!!!!!!


サトシの中で何かがはじけた瞬間、サトシの周りにいた研究員や兵士が一斉に吹き飛んだ。

丁度サトシを中心に何らの爆発が起こったかのような衝撃波が360度全体に吹き荒れ、彼の周りの人間はすべて岩が剥ぎだしの壁に叩き伏せられたのだった。


自分の周りに何が起こったのか、サトシは理解できなかった。だが、周囲の目障りな奴らは一人残らず気絶している。脱出するなら今だ!!


「何だ!?この力は?俺にはこんなことができたのか!?」


自分が何をしたのかわからない。魔法なのか?それとも闘気系の力なのか?


だが今はそんなことどうでもいい。ここから脱出してアミさんを連れて逃げないと!!


倒れていた初老の研究員が床に突っ伏したまま驚きの表情でサトシを見ている。


「なっ、なんということだ。彼は自我を取り戻したというのか!?そんなことがあるはずはない!!大体あの石に触れて自我を維持できる者は殿上人様くらいしかいないはず・・・」


研究員の動揺を尻目に、サトシは燃え上がる怒りを叫びながら非常階段の扉をぶち破り、そのフロアから脱出した。


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォ!!!!!!!!!!!」


何も考えない!ただ怒りの本能のままに階段を突き進んでいく。途中、アサルトライフルを構えた兵士が5~6人立ちふさがったが、俺は素早く奴らを殴り倒して突破した。


考えてできたんじゃなかった。怒りに任せてがむしゃらにやったらいつの間にか全員叩きのめしていた。考えてる余裕はない。敵を倒せりゃそれでいい。


研究所全体に非常警報が鳴り響いた。


「緊急事態発生!!!緊急事態発生!!被験体が地下6階より非常階段を用いて逃走中!!被験体は何らかの攻撃手段を持つ模様。発見次第射殺せよ!!繰り返す!!発見次第射殺せよ!!」


俺は警備兵の持っていたHK416アサルトライフルをマガジンごと奪い、次々と現れる警備兵どもにフルオート射撃を加えた。ダダダッッ!!ダダッッッ!!


エアガンとは比べようもない質量があるような銃声が耳を直撃し、銃床ごしに肩にリコイルが来る。だが、ゲームで慣れてたのか不思議と違和感は感じない。案外簡単に撃てた。


兵士がバッタバッタと倒れていく。ある者はその場に倒れ、ある者は非常階段を勢いよく倒れながら転がり落ちていった。


銃を撃った経験はない。でも、今、俺は撃てた。それも生きた人間相手にだ。殺人?関係ない!生き抜こうとする俺の意志の前に立ちふさがる者はだれであろうと倒すのみ!!!



サトシの心の中に潜んでいた魔獣が今、目を覚ましたのだった!


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