第39話 こいつの名はたしか勇者サトシ。だが、権力にとっては所詮一匹の駒・・・
女神の手から目にもとまらぬ速さで放たれたエネルギーは、サトシのみぞおち付近を直撃し、サトシはなすすべもなく倒れた。
魔法ではない。どちらかというと気の力を圧縮して放つ闘気弾のような技だった。同時に、倒れたサトシの腰に帯びていた剣がひとりでに空中に浮遊し始め、サトシの手元からミーシャの手元に渡ってしまった。
「お勤めご苦労様、サトシ。そして、今日限りであんたはお役御免よ!!」
優しかったはずの女神の表情は、眉間にしわを寄せた醜悪な悪魔の形相へと変貌を遂げていた。
「ミー・・・シャ・・様、なんでこん・・なことを・・・・」
サトシの問いかけに女神はあきれたような口ぶりで言い放つ。
「はあ?見かけ通りの阿呆ね、あんた?私があんたにタダで力与えて協力してきたなんて今日のこの瞬間まで本気にしてたわけ?ひゃっはっはっはっはっはっは!!!こりゃマジおめでてえわぁ!!!やっぱ引きこもりニートってガチで頭おめでてえぇ!!!」
女神の豹変ぶりにサトシは自体が呑み込めない。
「ちょっ・・・、女神様!何を言っているんですか?僕はあなたに現実世界と新世界を救ってほしいって言われて今日まで頑張ってきたのに・・・。どうしちゃったんですか!?」
血反吐が出て話すのも苦しい中、サトシは叫びにも似た言葉で女神に訴えた。
だが、その発言の返答は残酷極まりないものだった。
「ケッ、まあいいわ。あんたのおかげでウラン鉱石の産出地帯を確保できて、私のお仕えする方は大変満足されておられるし、その功績に免じて冥土の土産に教えてあげる。あんたは今の今まで現実世界を支配されておられる殿上人様たちのゲームの駒だったのよ!そして、この新世界への出入り口はすべて殿上人様方によって開かれたの」
ミーシャは今までの優美な雰囲気から一転、不良のような下品な口調で唾を吐きながらそう言い放った。
何を言っている?殿上人って何?駒?現実世界も新世界も魔王が支配していたんじゃなかったのか?それにウラン鉱石って・・・?まさかアルザマスやトムスクで見た施設って・・・・・。
僕は血反吐にまみれた口を拭い、必死で叫び続ける。
「ど、どうゆうことだ・・・・・。殿上人ってなんだ?それがこの世界と現実世界の出入り口を開いたって?一体何の目的で開いたんだ!?」
元女神は顔を引きつらせて教えてやるという傲慢な顔つきでしゃべり始める。
「殿上人様がこの世界との出入り口を開かれた理由は2つある。1つ目は殿上人様方の権力を維持するため。2つ目は地球上ではもう得られない膨大な資源を確保すること」
「殿上人様方が権力を維持するかなめは大衆をおバカさんに洗脳すること。宗教もイデオロギーもすべてそのために作られたものなの」
「でも現実世界では時代を経るごとに科学技術が発展しすぎてしまった。昔はオカルトとかで宗教的洗脳をすることで大衆をコントロールできたけど、科学技術の発展は電磁波兵器や軍事衛星、AIなどを駆使してより深い洗脳ができるようになってきた半面、それを防ぐ技術をも同時に進化させてしまった。インターネットの発達で知識が容易に手に入るようになったこともそれに拍車をかけた。今までのトリックのみでは大衆を洗脳して従順にすることが難しくなってきたってわけ」
「最も、殿上人様が真に恐れておられるのはお前らのような無知な下層民ではない。お前らは簡単に既存の手口でも洗脳できるしそれは問題じゃない」
「真に厄介なのは中間層とものを考える力を持つ人材。こいつらを洗脳して従順にするのは容易ではない」
「さらに現実世界ではすでに最後のフロンティアといわれたアフリカの開発も先行きが見えてきてしまったし、激増する地球上の人口を養うこと及び支配するうえで地球上のリソースだけでは権力の維持が困難になると殿上人様方は考えられた」
「そこで殿上人様は今までその存在を隠してきた新世界を部分的に開放することで、この問題に対処されることにした。新世界には超越的な力を得ることのできる磁場があるってことくらい馬鹿なお前でもしってんだろ!だがその磁場は確固たるアイデンティティがないと自我を失うという負の要素がある。そして地球上の大半の人間は新世界の磁場に耐えられずに自我を失い洗脳が容易になる。これを利用すれば自らに逆らう可能性のある中間層や、優秀な人材を比較的洗脳することができるってわけよ」
「さらに、この新世界っていうところには現実世界をはるかに上回る地下資源が埋蔵されているの。ところが資源がある土地はモンスターやエルフの支配する地域であるためうかつに手が出せない。しかも、殿上人様は太古の昔、現実の地球にやってくる前に故あってモンスターやエルフと相互不可侵の講和条約を結んでいる関係上、御自らはモンスターやエルフの領土に攻め込むことはできない決まりになっているの」
「だから殿上人様方はあんたのような無駄飯食いたちを資源開発のために邪魔なモンスターやエルフどもを駆除するための先兵として投入するという計画を考案された。異世界へ転生とか転移すればいい思いが出来るという幻想で洗脳してな。これならモンスターやエルフから抗議されてもこちらは知らない、勝手に現実世界の人間がゲリラのように攻め込んでいる、こっちも取り締まっているがなかなか難しいって適当に言い訳をこねればうまく言いくるめられるって算段よ」
「昔から異世界に転生とか転移とか、あるいは異世界で復讐をするとかいう小説とかアニメが流行っているでしょう?あれはきたる新世界への出入り口を殿上人様方が公式に開かれる時に備えて、大衆の感を慣らしておくためにわざとブームをあおっていたのよ。あんたみたいな努力もせずに安易に力とか成功が欲しいとか、女の子にもててイチャイチャしたいっていう馬鹿をあぶりだして将来の“勇者”候補として選抜するためにね!あとは現実世界で無様な生き方しかできないお前らのようなやつに空想の世界で自己満足に淫してろ、権力に文句を言うな!っていう意味もあるがな!」
「慈悲深い殿上人様方は日々現実世界の発展と、そのための生産性向上のためのプログラムの構築に励んでおられるの。そんな殿上人様方の日々の努力をもってしても生産性向上計画に邪魔になる階級的腐敗物が出てきてしまったの。それがお前のような非生産的な人間、いわば無駄飯食いよ!」
「僕がどんな生き方をしようと勝手でしょ!!それを何でこんなひどいことをするんだ!!」
サトシの抗議にミーシャは暴力団のような口調で罵声を浴びせる。
「うっせえぞ!!クソガキ!!そんなこと知ったこっちゃねえんだよ!!」
「あのな!殿上人様方は大変ご寛容なお方ばかりだが、お前みてえな無駄飯食いの存在だけは大変お気に召されねえんだよ!この新世界ってのは元々、殿上人様方の故郷だ。殿上人様はこの新世界の磁場の力を克服して超越的な力を手にされた、いわば進化された人類。御自ら新世界の過酷な磁場を克服され現実世界の支配者となられた殿上人様はあんたみたいなタイプは大嫌いなんだよ。逆境に打ち勝った人間の本能がそうさせているのかもな!」
「いいこと、この計画はどこに訴えても助けなんてこないわよ。世界中の殿上人様方や世界各国政府が共同で一種の秘密作戦として行っている、いわば全世界の政府が一蓮托生でやってることなんだから。それくらい現実世界ではあんたみたいな無駄飯食いが増えすぎてどの国の殿上人様方も頭を抱えているの」
「あんたに今回殿上人様から割り振られた役割はモンスターやエルフどもの領地であるアルザマス地方とトムスク地方に埋蔵が確認されているウランの確保だったのよ。30パーセントもの純度のあるウラン鉱石なんてオーストラリアやカナダでも確保できないからね!あんたを今回この新世界に転移させて私がわざと支援してやっていた理由はそれよ!」
サトシははっとした。もしかしてアルザマスやトムスクにあった変な工場のような設備も・・・・・。
「まさか、トムスクやアルザマスで建てられていた工場って!」
「あらら、案の定見ちゃったか?まあご名答!あんたがアルザマスやトムスクで見た工場はウラン235を生成してイエローケーキを作る工場よ。あんたが落としてくれたアルザマス地方と、トムスク地方は天然ウランの埋蔵量が現実世界をはるかに上回る超重要地域なの。より正確にはトムスクの方が埋蔵量は上だったけど、そこはうちのご主人様と対立する殿上人の飼い犬が先に確保しちまったがな。お前の到着が遅すぎたからトムスク確保に失敗しちまったろうがバカ!!」
「もう分かってっかもしらねえが、おまえがアルザマス地方で攻めたエルフたち。あれらは魔王の軍とかじゃないの。あの地方を守っていたエルフの部族たちよ。あいつらの言ってる言葉はわざとあんたたちにはわからないように通訳魔法に細工をしていたの。なにせあんたは侵略の先兵だったからね。変に感づかれてエルフへの攻撃をやめられたら計画がおじゃんになるところだったわ。まっ、あんたがこれらの地方を攻め落としてくれたおかげで殿上人様が欲しがっていたウランの産地が手に入ったし、あと、エルフの女たちも手に入ったことだし、それだけはあんたの働きぶりを素直に褒めてやるよ!」
「どういうことだ・・・・・?魔王がいるんじゃなかったのか?」
「バーカ!!!魔王なんざ最初からいねーんだよ!!これだからファミコンゲームしかしたことのねえ能無しのおバカちゃんってマジ笑っちゃう!!!あれは全部ウソぴょーん!!」
極悪女神の発言の数々にサトシの心が一瞬で真っ暗になっていく。僕はだまされていたというのか!?サトシは動揺して体が動かない!
「あと、あんたの行動とかは詳細に記録させてもらったわ。何せいつもご一緒だった頼もしいお仲間がいるもんね」
ミーシャはそういうと手を2回たたいた。
館の柱の陰から見慣れた男2名が現れた。
サトシはその姿に驚きを隠せない。それは行方不明になっていたカズオとヒデキだったのだ!カズオが口を開く。
「カズオさん?ヒデキさん?なんでこんなところに!?」
「悪いな小僧、俺は数か月前リストラ候補になって自己都合退職を強制されそうになったんだ。まだローンもあるし子供の学費もあるのにこのご時世でリストラなんざ地獄に突き落とされるのと同じなわけよ。俺はそれに抵抗したところ、あることを条件にリストラ候補から外れて定年まで勤められることになった。それがお前さんの仲間になってその行動を監視記録し、ウラン鉱石の土地を確保するということだった。俺に選択肢はもうなかった。悪く思うな」
「カズオさん!あなたもそんな人だったんですか!それでも大人なんですか!」
「その通り。これが世の中ってもんだ、これも社会勉強と思ってあきらめな。もっとも君はもうまともな人生送れる選択肢は残されていないがな。この世は誰かが犠牲にならなきゃ今度は自分自身が生贄になっちまう。そういう仕組みになってんだ」
「そんな・・、仲間を売って平気なんですか!?」
「ああ、俺は苛烈な競争の中ですでに何人も同期や先輩、さらには後輩も売ってなりあがってきたもんだ。現実ってのは正義を貫くもんは必ずBADENDにしかならんのよ。仲間を裏切るのは当たり前。正義の味方ってのはお金儲けに邪魔なのよ」
カズオは冷酷非情な表情でサトシを小ばかにした態度と顔つきで見ている。そこに依然の優しい人柄はみじんもなかった。
その横にいるヒデキは不気味なアルカイックスマイルを浮かべながら黙ってこちらの様子を見ている。
サトシは政治のことはわからないが、ようやく朧気ながら自分の置かれている状況を理解し始めた。すべては現実世界の延長線上だったのだ。僕はだまされていたのだ。新世界へ行って魔王を倒すということも、現実世界を救うということも、すべては嘘っぱちだったのだ!!
「よくも僕をだましてくれたな!!この人でなし!!」
「あら?私は嘘なんか言っていないわ。魔王が支配していることと魔王がいないということは同時に成立するもの。言葉にどのような意味があるかの解釈権は殿上人様にのみあるの。それが分からないあんたが阿呆なの」
???何を言っているこの女?魔王が存在しないことと、魔王が存在するということは両立する?意味が分からない。
「殿上人様は存在するということと、存在しないということを同時に思考することができるの。世の中に存在するといわれている脅威は実は存在しなかったり、存在したりする。事実とはどこにあるというの?心の中?資料の中?残念ながら客観的事実なんてどこにもないの。事実と思っていることもそれはそれぞれがそう思っているだけで、事実を客観的に存在するなんて誰にもできはしないの。それがあったと決定できる権限を持たれておられるのは殿上人様のみよ」
「黒いカラスは白い。これ、社会常識だからよくお勉強しときなさいね♬地獄でな!!」
どうやらこのクソ女神は本当に頭がおかしいようだ。通常の思考では理解できないことをわめいているとしか思えない。
僕はわずかに残っているであろう魔法力を振り絞って本性を現したクソ女神に火炎系魔法を浴びせかけようとした。ところが、魔法が出ない!まさか!まだ少しではあるが魔法力は残っているはずなのに!?
「あっそうそう。あんたの魔法力とか実力に見えてたのは、全部あんたに貸してた剣の力によるものだから、あんたの実力で身に付いたものじゃないの。モンスターと戦って実力上げたように見えて、それはあんたに貸してた剣に宿る実力向上スキルに寄るものなの。その剣は今ここにありまーす♬だから剣を取り上げられたあんたには平凡以下の力しか残らないんでもうたいそうな魔法は使えませんから。そこんとこよろしゅー♬」
徹底的に人を見下した発言と傲岸不遜極まりない態度を見せる元女神ミーシャは発言と同時に闘気弾をもう一発サトシに放った。
「ウゴエェェェェェェ・・・・・・・!!!!!!!」
闘気弾はサトシのみぞおちを直撃し、サトシはそのまま意識を失った。
同時に極悪女神はアミに対しても催眠系魔法をかけて一瞬で眠らせてしまった。
「ちっ、てこずらせやがって!おい、お前ら!このクソガキどもを車でさっさと研究所に運びな!ぶっ殺したいのは山々だけど、今までの行動に関する脳波データを収集しなきゃ殿上人様にどやされるからね!」
カズオとヒデキはサトシとアミをそれぞれセメント袋を持つかのように肩に担ぎ、町の外に待機していたライトバンの中に乱暴に押し込んだ。そして、車は町のそばにある謎の研究施設へと向かって行った・・・・・。




