第36話 勇者サトシ、勇者一行と戦う!?
アルザマス攻略後から1週間後の月曜日午前9時。
今度はこないだのアルザマスよりかなり遠出になる。
女神さまにもらった魔法の袋は重要な補給物資を詰めるのに役立つので前回でも荷運びは楽だった。魔法の袋の中には水、食料、医療品、魔力を回復させる特殊な水、原始的な回復薬である薬草一式などを入れてある。ただ、何でもかんでも入れすぎると袋の寿命が縮まるらしいので、僕もみんなも自分の荷物はできるだけ自分のリックサックで持つようにしている。
けど、砦攻略したばっかりなのになんでまたより遠いところに行くようにミーシャ様は要請してきたんだろう。
魔王がそんなに焦っているのだろうか?
「カズオさん。今回のトムスク地方って強力なモンスターが集結してるってミーシャ様は言ってたけど、何かこの地方に関することは知っていますか?」
「私にも詳しいことはわかりません。こないだのアルザマス砦を攻略したことで魔王も私たちを倒すのに本腰を入れ始めたのでしょう。現時点ではそうとしか考えられません」
カズオさんに聞いても僕が考えていることと同じだった。僕から見てミーシャ様はなぜか妙に焦っているというか、初めて何か違和感を感じた。気のせいだといいけど・・・・・。
みんなで話しながら徒歩で3日かけて、僕らはトムスク地方に到達した。
そこは平原と森林地帯からなる地形で、見たところ周囲に人工物は皆無。一見するとどこにモンスターの軍団が集結しているのかわからない所だった。
「ヒデキさん、本当にここがトムスクって場所なの?何にもないしモンスターらしき影も見えないんだけど?」
「地図によるとここに間違いはない。モンスターの軍団はもしかして森の中に陣を敷いているのかもしれないし、油断は禁物だぞ、サトシ」
森の手前でリュックを下ろし、しばし休憩しながらどこから敵拠点を探していくかみんなで相談していた時、突然、僕たちに対して弓矢が放たれてきた!
「危ない!!!」
僕はアミさんの手を引いてすんでのところで彼女に弓矢が命中するのを防いだ。
「みんな散開!固いものの陰に隠れろ!」
僕らは一斉に散り散りになって各自周囲の物陰に隠れた。リュックはやむを得ず置き去りにした。弓はほとんど音がしないから飛んでくるのを予測しにくい。早く射手を見つけないと!
周囲にはあまり人の気配がない。いや、わずかにあるがわかりにくい。敵は少人数か?奇襲ならもっと大勢出来てもおかしくないはずだがそれだけの人の数は感じない。
「誰だ!出てこい!」
僕の声に反応したのか、人影が森の中から姿を現した。
そこから出てきたのは・・・・・・、勇者の一行!?それも僕らと同じようなロープレ風の格好をした4人組だった。勇者、狩人風の服装をした剣士、男の僧侶、オーソドックスな魔女の帽子をかぶった女魔法使い。まるで鏡を見ているように目の前に僕らと服装から格好まで似ている一行だった。
だが、話をする間もなく彼らは僕らに襲い掛かってきた。勇者風の格好をした僕と同年代位の男が両刃の剣を僕に向かって振りかざしてきた。僕は斬撃を剣で受け止めずにかわし、カウンターでそいつに切りつけた。
ザシュッ!
勇者風の格好をした男の体が切れた、が浅かったようで男は平然としている。
そうこうしているうちに次は女魔法使いが攻撃魔法を仕掛けてきた。炎系魔法!?それもかなり強力な部類のやつだ!!
炎系の魔法はこれまで見たことのないような強烈な閃光を放ちながら、僕が隠れていた木々をすべて黒焦げに焼き尽くした。これをまともに食らえば一発アウトだろう。
それに対し、アミさんは数少ない真空系の攻撃魔法で反撃した。あたり一帯を切り裂く風が女魔法使いに向かって行く。が、それは手前で避けられた。女魔法使いはさらに何かをアミさんに向かって唱えた。何を唱えてきたのかはわからない。
アミさんは再び攻撃呪文を唱える。が、呪文が出ない!どうやら魔法を封じ込める魔法をかけられたようだ。
「サトシさん、呪文が出ません!」
女魔法使いは追撃してきたが、僕は隠し持っていた煙幕の出る球を取り出してそれに呪文で火をつけ、相手方に投げつけた。
煙幕が辺り一面を真っ白い霧のように覆っていく。
相手がひるんでいる隙に僕はアミさんの手を取って走り出す。
「アミさん、一旦引くんだ!ついてきて!」
弓を持った狩人みたいなやつは弓を放ってくるが、煙幕のおかげで的が絞れておらず、次々と外れていく。そのすきに僕とアミさんは森の中へジグザグに蛇行しながら駆けていった。
蛇行しながらなら弓も魔法も当たりにくい。
そもそもこの4名、人としての感情が感じられないのだ。呪文を唱えていても、小声で何を言っているのか聞き取れないし、少し聞こえたと思ったら何か機械音声のような感情のない声で人らしからぬ不気味なものを感じる。
僕はアミさんとともに必死で森の中を走り続ける。
「アミさん!今はとにかく走るんだ!こいつらかなり強力な魔法を使うし、平野での戦闘は不利だ!森の中でとにかく体制を立て直そう!」
「分かりました!でもヒデキさんとカズオさんは?」
「あの人たちも森に逃げ込んでいるはずだから必ずどこかで合流できる!まずはこの場を離れるんだ!」
追手がこちらに向かって走ってきている感じがする。でも後は振り返らない。今は全力で離れるんだ!
サトシとアミが森の中をひたすら走っていると突然開けた場所にたどり着いた。そこにはおおよそ場違いとしか言いようのない近代的な工場のような施設が複数建っていた。
「何・・・?こんな建物ってこの世界にあったの・・・・?」
僕とアミさんは目の前の光景が理解できなかった。しばらく現実世界のことは忘れていたが、突然中世RPG風の世界に現実の化学工場のような建物が現れたのだ。おおよそ場の雰囲気に合っていない。
だが今は追手がいる。考えている時間はない。とりあえず僕たちはその建物の中に逃げ込むことにした。
そして、サトシとアミがこの建物に入っていくのを遠くからヒデキとカズオが見ていた。
カズオとヒデキは木の陰に隠れて何やら小声で話をしていた。
「ちっ、ここには他の飼い犬どもが先に進出していたか。しかもプラントまで一部完成させていたとは・・・・・。遅かったようだな・・・・・。ヒデキ、サトシとアミは建物内に入ってしまったのを見たよな。あの建物の中を見られた以上、予定を変更してプランCに移行するぞ」
「了解、どのみちあいつらはこれ以上成長の見込みはないと判定されてたところだ。そろそろお払い箱の時期だしデータ収集のために丁度いい」




