第32話 六本木某所某クラブ秘密地下ホール
東京・六本木某所某クラブ秘密地下ホール。
大物芸能人や得体のしれない外国人、さらには闇にうごめくその筋の者たちが夜な夜な欲望の限りを尽くすこの地域は東京のみならず日本全国の中でも屈指の歓楽街として知られている。
その一角にある某会員制クラブ。
ここは超格差社会の現代において数多くの闇のゲームに勝利し、裏社会の暗黒の勲章を勝ち取り、殿上人たちの非公然事業を請け負うことに喜びを感じる魔界の紳士たちが集う社交場である。
本クラブはまた、数多くの黒い疑惑が週刊誌やブラックジャーナリズム上で取り上げられながらも、なぜか警察当局が一度も捜査に入ったことがないことでも知られる。
このクラブの地下にある秘密ホールは高級ホテルのパーティー会場ほどの広さがあり、中央には映画館にも負けない大きさのスクリーンがある。
スクリーンは一面全体に一つの映像を流すことができるほかに、複数に分割された別々の映像を同時に流せるようにもなっており、その分割されたカメラからは異世界を冒険する者たちの光景がリアルタイムで配信されている。
また、来賓者用の各テーブルにも中央のメインモニターと同じ映像が流れる小型モニターが設置されており、来賓はリモコンで任意にその小型モニターで、生中継中の映像を選択してみることができる。
この映像はまた、本クラブの特別会員しか見ることのできないアプリでPC上、またはスマートフォンでも世界中どこからでも見ることができる。
本クラブは会員制のため、当然承認を得た人物以外は立ち入ることを許されていない。
ブラックジャーナリズムの記者による張り込み取材の情報によれば、正体不明の外国人の出入りも確認されているという。
「ちっ、あのクソガキ、たった1ヶ月で死におったわ。強力な氷属性の魔法を授けられていたから3億かけてやったのに。よりによって格上の炎属性モンスターに勝負を挑みおって返り討ちに合うとは。思慮に欠ける根性なしめ!!」
ブランド物の高級スーツに身を包み、しかし腹が少し出たいかにもその筋の中年男が、片手にブランデーを持ち、もう一方の手でハバナ葉の葉巻をくゆらせながらモニターに向かって何やら口汚く罵っている。
画面には戦いに敗れて全滅したロールプレイングゲームの勇者やその仲間らしき恰好をした者たちがデビルタートルの群れの前に屍をさらしている映像が映し出されていた。
デビルタートルは魔界の溶岩を主食に生きる上級モンスターであり、強烈な熱線を浴びせる攻撃を得意とし、並の攻撃魔法や打撃は一切通用しない。RPGでいえば冒険の後半に出てくるレベルの難敵だ。
その男を若い男がなだめる。若い男は同じくブランド物の高級スーツと革靴に身を包み、飄々とした口の利き方と表情とは裏腹に、ところどころ狡猾な策略家とでもいうべき狂気を孕んだ目つきをしている。
「まあまあ、龍二さん。そう癇癪をおこしなさるなって。あなたは他にも賭けてる対象がいるんだし、この勇者様はいいとこまでステージクリアして我々にレアメタルの利権を与えてくれたじゃないですか。トータルではあなたの儲けですよ♪」
得意げな口調で若い男は話す。
「おれ昔からロープレよくやってましてね。時代が進んで今じゃ仮想現実で勇者になってプレイするゲームなんて当たり前ですが、まさかリアルで勇者様の冒険を拝めるようになるなんて想像すらできませんでしたよ。まして我々に素敵なアイテムやボーナスをリアルにもたらしてくれるようになるなんてね」
調子のいい言動をしゃべり続ける若い男に龍二と呼ばれた中年男が口にくわえたハバナ葉の葉巻をふかしながら皮肉交じりに言う。
「ふっ、お気楽でいいな若造。お前も相当なことをやっていると聞いているが、VIP用のおもてなし事業は繁盛しているのかい?」
あきれ顔で質問する中年男に、若い男はにやつきながら答える。
「はいそりゃもう。金髪碧眼のエルフちゃんは日本全国どころか海外からのお客様にも大好評でしてね。特におれが賭けてる勇者様が魔王から奪還して平和にした地域って特上の美人の産地なんすよ。昔のファンタジーアニメに出てくるような超美人ばっかですもん。ちっちゃい子たちも粒ぞろいですし、お偉いさんがたから直々に感謝されちゃいましたもん。彼女たちって素直で従順だからそりゃもう最高ですって。ちょろいのなんのって。おれも毎日お世話になってるっす♪あと、お客様の名簿と映像音声も全部録画済みっす♬僕ちんのご主人様にももちろん永久保存版の高画質仕様でお渡ししております♬」
「おまけにエルフって少年も粒ぞろいの美少年ばっかなんすよ。世界中のそちら方面のお客様からも垂涎の的とのことで大満足の評価をいただいております。おれもそっちのほうに目覚めちゃいそうなくらいの子がいっぱいいて♪」
「あきれるくらい景気のいいことだな。あとでわしにも極上のを回せ。エルフの女を味わうのも楽しみだわい」
「最後は文句一つ言わずゲームオーバーになることが確定しているRPGの主人公何ぞ、それ自体にコッペパンほどの価値もない。変わりはいくらでもいるからまあ死んでも損失は十分取り返せるがな」
中年の男は下品極まりない笑いとげっぷを同時にしながら言った。
つづいてただでさえ醜悪な顔をさらに卑しくしながら中年男は若い男に尋ねた。
「ところで小僧。エルフの小娘どもを例の場所へ配達する手配は整ったか?」
「ええ、俺が賭けている別の勇者様がエルフちゃんの名産地を落としてくれましたので、ピチピチの上玉たちを予定通りお客様に届けられます。おまけにこの勇者様が陥落させた地方ってエルフちゃんたち以外にも殿上人様が大満足されるブツの一大産地なんすよ。なんと向こうのは露天掘りで純度30パーセントくらいあるみたいなんすよ。もうこっちの世界では考えられないっしょ?殿上人様の利権も確保できたし、俺も今回数十億儲けましたし、この勇者様にかけてよかったあ~♬」
中年男はあきれた顔で長くなりすぎたハバナ葉の灰を近くの灰皿に落としながら言った。
「フンッ、まあいい。現実にはRPGとは違ってバッドエンドしかないのだからな、勇者なんて鉄砲玉にはな・・・・・」
人間のドス黒い欲望を凝縮したフロアには、モニターに映し出された勇者だった者たちの屍をよそに、今日も魔界の魑魅魍魎たちが邪悪な笑い声を響きわたらせていた・・・・・。




