第31話 勇者サトシ、アルザマス砦を落とします!
僕の名はサトシ。
今、僕は女神サーシャ様の命を受けてアルザマス地方にある魔王の砦を落とすために仲間たちとともに西へと進んでいる。
リアルではテレビ画面に映るロープレでは感じ取ることのできない過酷さを感じる。まず荷物を自分で持ちながら長距離を歩くというのは本当にしんどい。一応空を飛ぶ某有名漫画のような魔法もあるらしいが、さすがにこれはかなりの練度が必要で、体力の面からも今回の遠征には無理だと思って習得するのをやめた。
道は当然舗装などされていない土の道で、田舎道を国道並みに広くしたような感じだ。馬車の轍の跡があるから人の往来はあるのだろうか?それとも馬車といってもモンスターやエルフの物かもしれない。
こっちの世界に来てから時々現実世界のことを思い返すことがある。
僕の両親はわからず屋だったけど、近所にいたおばあちゃんは唯一僕のことをわかってくれた。よく僕を家に上がらせてくれて、和菓子とお茶を用意してくれていろんな話を聞かせてくれた思い出は、地獄のような僕の人生の中で唯一明るい思い出だ。そのおばあちゃんは信心深い人で、いつも仏壇を拝んでいたのを覚えている。おばあちゃんは今頃どうしているだろうか?こっちの世界に来ることは当然言えなかったし、身寄りのない人だったから僕が話し相手になっていたから、心配をかけてるだろうな・・・・・。新世界の魔王を倒したら真っ先におばあちゃんちに挨拶に行こうっと。
現実世界での未練を考えながらハンフォードの町を出発して歩くこと2日、ようやくアルザマス地方の要所、アルザマス砦の近くに着いた。
時刻は10時。昼間に到着したおかげで砦の全貌が遠くからでもおおよそわかる。
砦は小高い丘陵地帯に建てられている。砦の周囲には丸太が複数並べられて壁になっており、その先端はとがっている。丸太の壁は4~5重になっており、その前には塹壕上の空堀が砦の四方に掘られていて、その前には河川が流れており、天然の要素と人工物を組み合わせた簡素ながら守りに有利な構造になっていて、小規模ながら砦といわれるだけの要素を備えた作りになっていることが窺える。
「あれがアルザマス砦か・・・。よく中世ヨーロッパとか、日本の戦国時代までよくあったような地味な砦だな」
カズオさんが砦を見つめながら言う。
ヒデキさんが続けて言う。
「俺の感では、雑兵は今の俺たちの練度からすると雑魚だから、トップのモンスターのみに注意すればいい。まずはカズオさんの爆発魔法で雑魚が密集しているところを連続で吹き飛ばして雑魚の兵力を一気に削り、混乱に便乗して場内に潜入して一気にトップをしとめるか」
これに対し、カズオさんが異論を唱える。
「それは無理がある。いくら練度ではこちらが上の可能性が高いとはいえ、相手は数百名の兵力に小規模の砦とはいえ完成された要塞。簡単に落とせるとは思えません。ただ、さっきから様子を見ていると城に出入りするエルフを多く見かけます。入り口に検問の兵士は見かけません。エルフは人間にそっくりな外見なので、多少変装すれば中に容易に潜入できるのではないでしょうか。そして、砦内部のボス格を見つけて一気にたたくというのはいかがでしょう。敵兵力を分散させるために、砦の四方に時限式の爆発魔法を唱えておきます。この呪文は現実の時限爆弾と同じで、時間がたつと爆発します。潜入20分後にセットして唱えておきますので敵の注意を引き付けられるかと」
カズオさんの提案にヒデキさんも納得した感じでいう。
「なるほど。さっきからあの砦の様子を見てると警備する奴らもなんか間が抜けた感じもするし、この世界の感じは中世っぽいから城の警備とかも現実世界より緩いかもな。なんせ日本でも戦国時代とかは攻城戦の時に味方が籠城中の敵に食料などを売りに行って稼ぎの場にしていたっていう冗談みたいな史実もあるくらいだし」
僕は女神さまにいただいた剣に手をかけてみんなに言った。
「よし、カズオさんの提案でいこう。敵が昼食をとって緊張感が解けている時間帯に潜入して攻撃しよう。」
「私もサトシさんと同じくカズオさんの案でいいと思います」
アミさんもカズオさんの案に賛同した。
僕たちは敵陣営に昼食の焚火の煙が立ち上る時間帯を待って砦内に潜入し、内部から奇襲攻撃をかけることにした。
まずカズオさんが砦の四方の目立たないところに時限式の爆発魔法を唱える。これは現実世界の爆弾のように、時間が来たら爆発する呪文で、ロープレの全体攻撃系爆発呪文にリアルな味付けをしたような魔法だ。もちろん通常の爆発魔法としても使えるが、こうゆう時限爆弾的な使い方もできる点でつぶしのきく魔法となっている。カズオさんはこの魔法をミーシャ様から授けられて使いこなしている。
四方に時限式爆発魔法を仕掛ける準備が整い、僕たちは顔を隠すローブを付けて砦への侵入を開始する。出入り口の警備は朝見たときにもとても緩い感じだったが、昼飯時になるとさらに警備は手薄になっており、時々警備兵がいなくなる瞬間があった。僕たちはその隙を逃さずに砦内への潜入に成功した。
中には敵兵がたくさんいるものの、昼飯時ということであまり緊張感は感じられない。さらに気づいたことは、砦内の敵兵は見る限りエルフばかりということだ。内部にいた兵士は外見を見る限りみなエルフっぽかった。エルフとモンスターはまた種族が異なり、必ずしも同盟しているとかは聞いていないけど、なんでエルフばっかりなんだ?ここって確か元々エルフの住む土地で魔王に侵略されて奴隷にされてるって聞いてたから、こいつらはたぶん魔王に寝返ったエルフの集団なのだろうか?少なくとも砦内に武装して警備についている事実を見る限り、それ以外にこの状況下で合理的に導き出せる答えはこの場では僕の中で出てこなかった。
しかも僕たちはエルフたちの会話を聞いてさらに困惑した。
「*** ******** ****」
「** ********** ************」
エルフたちの会話が聞き通れない。この世界の言語は日本語とは当然違うが、ミーシャ様から授けられた魔法の力で同時通訳のように僕たちにも日本語として聞こえてきて何不自由なく分かるはずなのだ。もちろんこちらの言ったことも向こうの言語に瞬間的に変換されるので意思疎通は日本語での会話と同じ感覚でできる・・・はずなのに・・・。
エルフたちの言っている言葉が分からない。なぜ?こいつらは女神様でも把握してない言語を持つ種族なのかな?
カズオさんが小声で僕に話しかけてくる。
「サトシさん。私にはこいつらの言っている言葉が分かりません。通訳魔法が適用されないタイプの言語を話しているのでしょうか?」
「僕にも理解できない。アミさんとヒデキさんは?」
「俺にもまるで分らない」
「私にも」
みんな同じのようだ。だが今は言葉のことを気にしている余裕はない。
僕は小声でみんなに言う。
「とりあえず計画通りに行こう。もうすぐ仕掛けた爆発呪文が炸裂する頃だ」
ドゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!
砦の西方向からけたたましい爆発音が響きわたる。
砦内で昼食中のエルフたちは何事かと一瞬放心状態になりしばらく動かなくなった。
何名かの兵士が砦内を出て爆発音のした方向を見に行くのが見えた。
続いてしばらく時間をおいてから今度は北側から巨大な爆発音がした。
エルフたちは相次ぐ砦の外からの爆発音にパニックを起こし始め、敵襲とおそらく叫んでいる怒鳴り声がそこらじゅうでこだましている。敵は大パニックに陥ったようだ
人数で劣るこちら側がこの砦を攻略する方法は大規模な爆発系魔法を使っての奇襲攻撃。これが僕の考えた戦術だ。
「深淵なる水の神よ、悪しきものを打ち滅ぼすべくわれにその力の一端を示せ」
カズオさんが呪文詠唱の後、爆発系魔法ハイドロボンバを砦内の敵が密集している箇所と物見やぐらに連続で放つ。
丸太を組み合わせてできた城壁は瞬く間に木っ端みじんになり、警備していたであろう甲冑を着たエルフたちが大勢吹き飛んだのが見えた。砦の物見やぐらの数々も次々と爆発して倒壊していく。
同時に、僕とヒデキさん、アミさんは脱兎のごとく駆け出し、砦中心部の司令部らしき建物の中へと進んでいく。中には大勢の兵士がいたがすべて走り際に斬り倒していく。やはりエルフ系の外見の兵士が多い気がするが戦いという極限下でそんなことを気にしている余裕はない。砦内部は意外とシンプルな作りで、指揮官がいると考えられる上の階への階段が入ってすぐにあり、それ以外は兵舎などを兼用したような大きな部屋が3~4つくらいあるのみだった。急ごしらえというか、できるだけ簡潔に作った感がする所だ。
「!!!!! !!!!!!!!」
「!! !!!!!!!!・・・・・!!!!!」
相変わらずエルフたちの言っていることはわからないが、奇襲!敵がいるぞ!!的なことを叫んでいるのは容易に推測できる。だんだんと雑兵が建物内に集まりだしてきた。
「サトシ!!ここの雑兵どもは俺が倒す!お前はアミとともにこの砦の指揮官を倒せ!!多分この上の階にいるはずだ!!」
ヒデキさんが僕に叫んだ。カズオさんも目線をこちらに向けてそうしろと目配せで言っている。
「分かりました!!秀樹さん!カズオさん!気を付けて!!」
「サトシさん!!早いところこの砦の指揮官を倒しましょう!いくら人数を多く減らしたとはいっても相手は数でこちらに勝ります!!奇襲の要は早期決着。早急に首級を打ち取るべきです!!」
アミさんは素早く階段を駆け上っていき、途中にいる雑兵エルフを金属製杖による打撃と風属性の攻撃魔法で叩きのめしながら進んでいく。僕も負けじと階段を駆け上がっていく!!アミさん、結構打撃攻撃できるんだなって今更感心した。
階段の上は予想通り幹部クラスっぽい奴がいる雰囲気の部屋だった。簡素だが指揮官役が座るであろう玉座風の椅子に、この世界の地図が広げられた大きめの机、比較的豪華な武器屋防具が飾られたラックなど、幹部っぽい奴の部屋としては平均的なものが置かれていた。
これらの装備は結構な金目になりそう。換金が楽しみだし、自分たちが使う分にも役立つのがありそう。
「!!! !!!!!!!! !!!!!!!!! !!!!!!!!!!」
そこには幹部らしきエルフがいた。そして大声で何かを叫び続けている。
外見は他の雑魚と同様ファンタジー作品に出てくる耳が長くてとがったエルフそのものだった。それ以外は色白で金髪の白人系の外見だ。服装は現実世界の昔のヨーロッパの騎士みたいな服装に剣を携えている。年は不明だが外見は20~30代に見えるくらい若く感じる。服装の豪華さやこの部屋の様子などからしてこいつが多分魔王の幹部なのだろう。
そういえばこの地方は元々エルフたちが住む土地で、それを魔王が支配下に置いてエルフたちは奴隷化されているってミーシャ様が言ってたっけ。
なんでエルフなのに魔王の幹部になっているのか?同族を裏切ったやつらが魔王軍としてここに陣取っていたのか?
ただ、相変わらず他のエルフと同様こいつが何を言っているのかわからない。何かを叫び続けているが、何を言っているのかわからない。やはり女神さまの授けてくれた同時通訳的にこの世界の言語を理解できる魔法であっても例外的にわからない言語もあるのかな?
魔王軍のエルフは何かを叫びながら剣を抜いて切りかかってきた。僕はその初太刀を外し、渾身の袈裟斬りを見舞った。それをエルフは軽々とよける。
よけると同時に奴は間髪入れず火炎系の魔法を左手から僕に向かって放ってきた。僕はそれをよけようとしたが、早くてよけきれなかった。火炎系魔法は直撃は避けられたが右腕上腕付近をかすってやけどを負った。一瞬は何とも思わなかったが、すぐに強烈な痛みが腕に走った。やけどの痛みが瞬間的に広がっていく感じ。その痛みから相手が殺意をもって呪文を放ってきていることが否が応でも感じられた。
ロープレではただのコマンドバトルのイメージしかなかったが、練度を上げていくモンスター狩りを通して僕は戦いというもののリアルを実感していっている。きれいごとは通用しない。引きこもっていたころからは想像もできない。これもミーシャ様から与えられた力と剣のおかげか?
僕は火傷の痛みにひるむことなく斬撃を幹部エルフに何度も加え続ける。だが、幹部というだけあって平然と僕の斬撃を何度も受け止められたりかわされたりした。だが僕は連続の斬撃に火炎系攻撃魔法をフェイントで放った。そして、エルフがひるんだ一瞬のスキをついて僕はエルフに渾身の斬撃を見舞った。斬撃は見事にエルフを袈裟斬りにした。エルフの体から力が抜けて血が噴き出し、弱弱しくその場に倒れた。人間と同じような外見で正直人を殺したのかと思ったが、特徴的な長い耳からこいつが人間ではないことが分かっていたのでそのまま斬った。人間ほどの大きさか、またはそれ以上に体格の大きいモンスターを倒し続けてきたことや、オークなど二足歩行のモンスターも多かったから、自然と人型の敵を攻撃する際に心理的な抵抗感がなくなってきた感じがする。
僕が幹部を倒してしばらくしてヒデキさんとカズオさんが僕とアミさんのいる幹部のフロアに上がってきた。
「サトシ、下の階の敵はあらかた片づけた。他のエルフどもは退散を始めたぞ。俺たちの勝ちだ!」
「サトシさん。腕の火傷!すぐに治療しますね!」
アミさんは回復魔法を僕の腕の火傷にかけてくれる。
やった!僕たちはアルザマス砦を陥落させられたんだ。緊張はしたけど僕たちはやってのけた!
今までの緊張感が解けて強烈な安堵感が広がり、僕たちはエルフのいなくなった砦の中でへたり込んでしまった。しばらく休んだ後、勝利の余韻に浸りながら早速金目の物を回収する。
金目の物をあらかた回収後、外に出て砦周辺の風景を堪能していると、しばらくして突然、遠くから軍勢らしき一団が姿を現した。それほど数は多くないが、新手の魔王の軍勢か!?
いや、違う。遠くではあるが、ミーシャ様の旗が翻っている。ということは味方の軍勢か?
しばらくすると、軍勢は砦の前に到着し、指揮官らしき男性が僕に声をかけてきた。
「勇者サトシ様。大変ご苦労様でした!あなた様がこの砦を陥落されたのをミーシャ様は魔法でご覧になっておられたので、大急ぎで事後処理の部隊を派遣せよと仰せつかってまいりました。」
「事後処理って何をするの?」
「はい、この地域はエルフたちの住処であることはすでにご承知でしょうが、エルフたちの心のケアや荒廃した町の再建などをしなければなりません。そうした勇者様方では手に余る後方支援を担当するのが私たちの役割です」
砦近くにはよく見ると多くのエルフの村が点在しているのが砦の少し高台になった地点から見えた。女神さまの援軍はそれらの村にも分散して向かっていく。大きな馬車や大勢の兵士らしき者たちが向かっていく。ハンフォードの町はそれほど大きくないのにかなりの軍勢を女神さまは従えているんだなあ。それくらいこのアルザマスって場所は重要なのかな・・・。
サトシは新世界の住人たちとは魔法の力で日本語による会話ができるとされているのに、なぜ魔王の幹部や部下のエルフたちの言葉がわからなかったのか、勝利の余韻に浸って疑問を持つことを忘れていた。
そして後方支援として現れた部隊。彼らは一体何をするために派遣されてきたのか・・・・・。




