第30話 勇者サトシ、アルザマス砦へ出発します!
僕はサトシ。
女神さまの命を受けて新世界に転移した僕は、仲間たちとともにまずはレベルアップをすべく日々ハンフォードの町周辺のモンスターを討伐していた。町周辺のモンスターはおなじみのスライム系モンスターとか、妖精系、小柄なオーク系、サソリとかバッタが大きくなったようなロープレでテンプレとして出てくるようなモンスターばかりで、女神様からもらった剣を軽く振るうだけで割と簡単に倒せる奴らばかりだった。
ただ、リアルに対面するモンスターからはテレビのロープレとは違って、においとか五感で感じるものがある。大体モンスターはどれも独特の変なにおいを発している奴が多く、しかも切りつけたりして攻撃すると赤のほかに青い血を出すやつとかもいて、最初マジで怖かった。でも、モンスターは人間じゃないし、こっちを殺す気満々で向かってくるからあまり倒すのに抵抗感は感じなかった。
モンスターが実際にいるとか、魔法を使うことができるなんて最初信じがたかったけど、新世界にきてリアルにこの目で見て納得せざるを得なかった。現実世界で報道されている新世界の状況はかなり報道管制が敷かれていたんだなって否が応でも実感する。
モンスターは倒すとお金と経験値を得られるっていうのがロープレの基本的な決まりだけど、リアルではちょっと生々しく、倒したモンスターの死体を物色して金目の物を探さないといけない。まあ、リアルでロープレと同じことをするって言うと大体想像はついていたけど・・・・・。ゲームみたいに自動的にお金が自分お手元に来るっていうわけじゃないってことだ。
ただ、ゲームでいうところの経験値可視化されないけれど、女神さまの与えてくれた力で大体はわかるようになっている。ゲーム中でいうところのレベルが数値化されるわけじゃないけど、女神さまの声が自動音声のような感じで頭の中に流れるテレパシーっぽい魔法が自動で作動することで練度が上がると教えてくれるシステムになっている。
音声が頭の中で流れるだけで、レベルとかステータスとかは目視では表示されない。けれど練度が上がったと頭の中でアナウンスがあった後は確かに腕力とか、動くスピードが上がったと実感するし、魔法を使っても疲れにくくなったりするのを実感する。剣での軽い斬撃一つとっても練度が上がるごとにモンスターがすぐ死ぬようになったし、リアルでロープレの世界観を当てはめるとこうなるのかって納得できる設定っぽくなってた。感覚としては外国から日本に上陸して流行っている映画系の遊園地にあるアトラクションの設定をよりリアルにした感じっぽいとも言える。
町周辺のモンスターは僕のレベルでも十分倒せるのばっかりで、疲れたり、けがをしてもすぐに街に戻れば回復できる。
町の人たちはとても親切な人たちばかりで、宿屋を拠点に何不自由ない異世界ライフを楽しんでいた。
中世風の街並みであるこの町は昼間いたるところで野外市場が開かれていて、そこでは僕と同じような日本人風の人もいれば外国人風の人もいる。服装とかもロープレに出てくる町人そのもので、時たま戦士の格好とか魔法使いの格好してる人もいる。
本来新世界に元からいる人って日本語は通じないって思ってたけど、女神さまの力により僕の言ったことはそのまま向こうにはこの世界の言葉に聞こえて、向こうの言ったことは日本語として僕に聞こえるようになっているのだそうだ。差し詰め同時通訳的な魔法を与えてくれたのだ。便利だなあ~、こんな魔法が現実世界にあれば英語の勉強とかしなくて済むのに・・・なんて考えてた。
今日は町の酒場の奥にある個室で、パーティ全員が集合して1週間後に迫ったアルザマス砦の攻略について話し合っていた。
「みんな、いよいよ1週間後にミーシャ様から仰せつかったアルザマス砦の攻略に向かう。ミーシャ様からもらった地図によると、アルザマス砦とはここから西にあるアルザマス地方の要所にある砦で、往復での日数は大体1週間くらいだと思う。みんなの意見はなにかある?」
町周辺でモンスター狩りをして鍛えたせいか、僕はいつの間にか他人との話し合いでも臆することなく話せるようになっていた。
魔法使い兼商人のカズオさんが落ち着いた声で言う。
「私も地図を基にこの砦の攻略を考えていました。ミーシャ様からのお話によると、ここを守備しているのは魔王の下級幹部ペンザという魔物です。こいつはデーモン系モンスターの中級種族らしく、隷下のモンスターは5百ほどとのことです。今の私たちの練度なら手下のモンスターどもは十分蹴散らせることが可能でしょう」
元大企業の営業部長だったというだけあって、穏やかながらも抜け目なく準備を整えている感じ。さすがは元エリートビジネスマンって言った雰囲気を感じさせてくれる。魔法使いだから攻撃魔法を多くマスターしているが、最も得意なのは爆発系の魔法らしい。あと、商人も兼任しているからか、モンスターの死体漁りの時にお金やアイテムを探し出すのがうまく、さらに町に戻ってアイテムを売るときに武器屋や防具屋の店主と交渉して元々の価値以上の値段で売ってくれたり、同じく交渉で装備品を値切ってくれたりするトークスキルがすごい。営業で鍛えたスキルは伊達ではないようだ。
「カズオさん、いつもモンスターから回収したアイテムの売却交渉ありがとう。僕って物の売り買いなんてしたことなかったし、まして交渉でこちらのアイテムを高値で売ったり、相手の品物を値引きさせたりなんてことができるなんて思ってもみなかった」
「いえいえ、私も若い時に営業の仕事でさんざんやらされたことですから。私の先輩には中東に赴任していたかともいまして、その先輩によるとアラブ世界では交渉は日常ということらしく、その方にかなり極意を教えていただいただけですよ」
カズオさんから学ぶことはとても多いなあ、と日々実感する。
次はヒデキさん。
この人は元大学生で、都内でもかなり偏差値の高い有名私立大学に在学していたらしい。ただ、在学中に精神的な悩みを抱えていたらしく、校内で勧誘されたカルト宗教に洗脳されてインチキ商品を老人相手にだまして売りつける犯罪に加担させられて自殺を考えていたところ、ミーシャ様に召喚されたとのことだ。彼は高校まで剣道をしていたらしく、戦士としての適性が見込まれたこと、そして、彼をだましたカルト宗教もまた、魔王が大学生を誘い込むための組織だったらしく、ミーシャ様の説明と願いに応じて2度と自分のような人を出さないために世界を救う決意をしたそうだ。
「サトシ。俺はこのアルザマスって砦の攻略は指揮している奴にさえ気を付ければ割と楽に落とせると踏んでいる。でも油断するな」
「はい、わかっています」
「俺がカルト脱会後に気づかされたが、本当に悪い奴っていうのはいかにもまともであるように装ったり、表面上正論であるかのように聞こえることを言って人を依存させてだましてくる。俺の経験から見ても魔王ってマジでカルト宗教の教祖みたいなところもあるから気をつけろ」
ヒデキさんの言葉には独特の重みがあり、大学生とは思えないものがある。
そしてアミさん。僕と同学年である彼女は僧侶の職を任されていて、回復魔法を中心に使う。パーティ内では回復役を主に務めているが、割と戦闘でも金属製っぽい杖を使った打撃攻撃でモンスターを倒してしまったりするほど妙に攻撃力もある。あと、この子って実は僕はまともに話をするひさしぶりの女の子だったりする。だから結構緊張しちゃったりするが、彼女は僕と正面から話してくれる。ミーシャ様から聞いた説明によると、彼女のみは現実から転移してきたのではない。現実では僕が過ごしていた時間軸か何かとは別の現実世界でいた人で、数年前に交通事故で死んだ元女子中学生らしい。何でも両親と不仲だったらしく、ある日自殺を試みたらしい。それを不憫に思ったミーシャ様が使命を与えてこの世界に転生させたらしい。
「アミさん。大丈夫。練度を上げるために強行軍で町周辺のモンスター狩りしてきたけど、疲れてない?」
僕の質問にアミさんは笑顔で答える。
「大丈夫です、サトシさん。私、元の世界では嫌な人生でしたけど、こうして皆さんと一緒に冒険ができることになってとっても嬉しいです。それに、現実世界と新世界の両方を救う使命を与えられるなんて、まるで漫画みたいで胸が高鳴ります!」
そう言ってアミさんは僕の顔を見ながら頬を赤らめる。僕も正直ドキッとしてしまった。
そんなこんなで一週間後、一定以上練度が上がったことが認められて、いよいよ最初の難関、アルザマス地方の魔王の砦へと向かうことになった。
出発当日の朝7時。宿屋にて。
「みんあ、準備はできた?知っての通り今日からアルザマス地方の砦を攻略に向かうから」
サトシは意気揚々としながら仲間たち3人に問いかける。
「おお、俺は1週間前から今日用の荷造りは完了してたから、準備オッケー!」
戦士職のヒデキが爽やかな笑顔で答える。
「私もいつでも出発できます。勇者さん。営業の時も常に出張とかできるよう入社当時から教育されてきましたから」
カズオさんがビジネスマンらしい言い方で答えた。
「私も準備万端です。回復役や食料、着替えに非常用魔力回復薬も持ちました」
アミさんも元気に答える。
こうして僕たち一行はアルザマス砦を攻め落とすために西へ向かって歩き出した。




