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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第28話 殿上人の主張

「律子、私の部下になりなさい」


突然の提案に律子は何を言っているのか理解できなかった。


「え、どうして私があなたの手下にならないといけないのですか?」


公子は余裕を持った声で答える。


「簡単よ。あなたにはそれ以外にこれから生きていくための合理的な選択肢はないからよ」


やはり律子は公子の真意が理解できない。


そんな律子を尻目に公子は続ける。


「世の中はすべて組織と階級によって成り立っている。あなたが自由に生きているように思えても、あなた一人で生存できているわけではない。あなたが自由にしていられるのも国籍とか中産階級という枠組みの中にいて一応保護されているからなのよ。最も、中産階級なんて今は事実上絶滅危惧種になっているけど」


「警察も司法も自衛隊も、みんな私たち殿上人の支配下よ。極論すると犯罪さえももみ消すことができる権限を私たちはとっくの昔に手にしているの。どこに訴えてもあなたに手を差し伸べてくれる者はいない。弁護士もそう。この世は民主主義とか司法が社会正義のためにいざという時は助けてくれるなどと漠然と思っている人は多いけれど、実際は大昔から私たちによる専制主義体制のまま一度として変わったことがないのよ。誰も私たち権力側に盾突くことは不可能よ」


「つまり、あなたを助けてくれる公平中立な組織なんて存在しないということよ」


「そんな!それじゃあ独裁国家と同じじゃないですか!」


「あなたが何をわめいてもこの現実は変わらないの。力をすべて独占している私たちに正面から戦える者は存在しない。もっとも、表面上は三権分立とか学校では教えて権力の暴走を防ぐなんて言っているけど、あれは大嘘よ。実際は私たちの階級がすべてを掌握していて、そこにあなたたち一般国民が介在する余地はない。すべて私たちの手のひらでのみ行動することが許されているだけ」


「こうはいっても私は公平よ。真剣に努力する人に手を貸そうとしているだけ。私たち殿上人という存在は国家や社会にプラスにならない人間、生産性がない人間を嫌う性質があるの。まして害を及ぼすようなのは論外。でも、努力して才能を発揮する人間には素直に敬意を払う用意があるのよ」


公子は少し目をつむった後、目を開いて言った。


「私の提案はまたとないチャンスよ。普通、私たち殿上人からこんな提案をすることなんてないのよ」


公子の提案に律子は抗うように声を出す。


「ただでそんなうまい話があるはずはありません。なぜ私にそこまでこだわるのですか?」


「あなたが新世界で得た力が興味深いから」


「私が得た力・・・?魔法みたいなものを消し去る力ですか?」


「とぼけないで!」


突然声を荒げた公子に律子は一瞬ひるんだ。


「あなたの力は魔法を無効化するとかそんな陳腐なものじゃない。私たちの支配に支障をきたす性質のものよ。ごまかしても無駄よ」


今までにない厳しい口調に律子は本気で恐怖を感じた。

この人は自分のことをかなり詳しく知っている。でも、新世界のビルに監視カメラなんてなかったはずなのに・・・・・。


律子の心を見透かしたように公子は畳みかける。

「律子。この現実世界も新世界も、すでに両方とも監視衛星によってあなたたちのすべては掌握されているのよ。もはや何を隠しても無駄よ。技術的にはあなたの家の中のこと、あなたの私生活、すべてを私たちは見て聞くことができるのよ」


「もっとも衛星を使うほかに、私たちは自力でもそれができるわ」


「それはおかしな話です。なぜ私たちの私生活があなたたちにのぞき見されなければいけないんですか!!」


「あなたたち一般国民にそれを拒否する権利はないの。あなたたちはすべて私たちの管理下の下でのみ生存を許されているのよ。これはとっくの昔に日本を含めた全世界の殿上人が一致して決定した方針なの」


律子は鋭い目つきになって公子を見ながら言う。


「それって全人類を奴隷化するっていうことではないのですか?」


「その質問には答える気はないわ。あなたが知る必要はないことだから」


「・・・・・・・」


律子はしばし黙り込んでしまった。



しばらくお互いが沈黙したのち、公子が口を開く。


「いきなり声を荒げてごめんなさいね。いきなり人様の家に押しかけてきてこのような態度をしてしまった非礼をお詫びします。でも、私が感情的になってしまうくらい、あなたの存在は私たちにとって厄介なの。だから先手をとって私からあなたのところにこうして赴いたわけなの」



葦國公子はさらにかしこまって話始める。


「律子。今からあなたにこの世界と新世界のことについてお話しするわ。これを話すということはあなたのことを信頼しているという私からの明確な意思表示よ」


「私たちのはるか遠い祖先たちは、今この世界から見て新世界と呼ばれている異世界で誕生した。異世界の磁場は人の才能や力を無限に高める可能性を持つ反面、人間の自我というものを奪う性質があるから、誕生当初の祖先たちは異世界の磁場に適用できず自我のない奴隷のような存在としてモンスターやエルフに奴隷として使役される側だった」


「だが、時を経て私たちの祖先の中から新世界の磁場を克服する者たちが現れた。自分は遺志をもって自由に行動し思考するという自我と、超越的な力、たぐいまれな頭脳を手にした祖先たちはそれにより、今まで自分たちを奴隷扱いしてきたモンスターやエルフの勢力に反乱を開始した」


!!!


これってホワイトエルフ族の族長さんが言っていた話とほとんど同じだ。


律子は危うくその話を聞いたことがあるとか、あなたたち殿上人という人たちは超人族というのかと口を滑らしかけたのをこらえた。


「数千年にわたる戦いの末、私たちの祖先たちは異世界の半分以上を完全に征服した。だが、異世界の残りの半分を支配するモンスターやエルフは少なくとも私たちと互角に戦える実力を持っていて、祖先たちは異世界での勢力拡張に限界を感じ始めた」


「そこで私たちの祖先たちは、手にした魔法などの力を使ってどこか別の次元にある新しい世界を探し始めた。そして今から数千年前にこの地球と呼ばれる世界にまとまった数の集団を形成して一部が移住したの。それが現在この世界を支配している私たち殿上人よ」


「祖先たちは地球上の各地にばらばらになって移住し、それぞれの地域・大陸で文明と呼ばれるものを作り上げていった。幸い、この地球という世界には私たちに匹敵するような力を持つ人間やモンスターなどは存在しなかった。特殊な能力のないこの世界の先住の人間たちは実に扱いやすかったと聞いているわ」


「いままでこの世界で神話やオカルト話、超常現象として世界中で語り継がれてきた話の数々は、すべて私たちがこの世界の人間を洗脳して支配する目的で創作したものよ」


「異世界で私たちの祖先がなぜ誕生したのかはわからない。進化の過程で偶然誕生したのか、それともほかの生命体か何かが創造したのかはわからない」


「でも、私たちの祖先は異世界で自我を持ち始めたときに、長年モンスターやエルフに奴隷として使役されていることがどのような意味を持つのかをまず理解した。そしてそれが自分たちの自我とその根源である尊厳を踏みにじる行為であると理解したの。奴隷とは自己の尊厳とか自我が踏みにじられているということ自体が理解できないから、これは魔法の力などを身に付けるよりもはるかに重要な進化だったの」


「この世界で私たちの祖先が創作した存在の中に宗教というものがあるわ。あれはこの世界の人間を体よく奴隷にして支配搾取するためだけに作られたものなの。同時にそれは、私たちの祖先たちが異世界でモンスターやエルフどもに虐げられている時に感じた無念と憤りを基に作られたものよ」


「キリスト教の主という絶対神がいるけど、私たち殿上人はそれに反逆する悪魔を崇拝することが多いの。それは異世界で私たちの祖先たちが理不尽極まりない目にあわされた経験をそのまま宗教という形に焼き直して作ったからなの」


「異世界で自我を持ち始めた祖先たちは、なぜ自分たちがモンスターやエルフに奴隷として扱われなければならないのか考えるようになった。そして自分たちが虐げられている原因は何かと考えた」


「その際に祖先たちは何か自分たちを創造した存在がいるのではないのかとまず考えた。そしてこんなみじめな立場に自分たちを追いやる運命を強要したとしてそれを憎んだ。その憤りはやがて尊厳のある個人としての自我を確立させ、自分の力でこの立場を抜け出して天下を取ろうと行動するに至る原動力になった」


「世界宗教、特にキリスト教はその時の祖先たちの極限下での苦しみ、憤りの心情を物語に焼き直して作ったものなの。主は自分たちを理不尽な目にあわせている存在で打倒すべきもの、悪魔はそれに立ち向かって自ら理不尽を超克するという、当時の祖先たちの心情を表現したものよ」


「そうして、やがて私たち殿上人は主の理不尽な仕打ちに耐えて自我を持つことを勝ち取った存在という信念を持つに至ったの。数千年にわたる理不尽な奴隷生活を自らの進化でもって克服してきたのが我々殿上人だと。だから同時にそれができなかった、できていない人間に自我は必要ないと考えるようにもなった。豚や鳥を食べるのに罪悪感を感じる?私は物心ついた時からそう教わってきた」


「世の中でよく出回っている陰謀論などでは、社会の上級層は悪魔を崇拝するということが書かれてあるけど、あれは事実よ。海外の王族やセレブもみんな元をたどれば異世界から来た私たちと同じ殿上人の一族で、我々が悪魔と呼ばれるものを崇拝する理由にはさきほどから説明してきたような歴史的背景があるの」


今まで考えたことのないスケールの話を今目の前で聞かされて律子の戸惑いは増す。

いきなり殿上人という聞いたことのないこの国と世界の最高位クラスの階級を持つという人が自分の家にたった一人で訪ねてきて、こんな聞いたことのないスケールの話を延々としているのだ。


誇大妄想な頭のおかしい人、詐欺師の類かと一瞬思ったりもした。


でもこの人から感じる雰囲気、そして話の重厚さは詐欺師や誇大妄想狂の類ではないと思わざるを得なかった。


「私は祖先たちのことを心から愛し、心から敬意をもっているわ。そして祖先たちから継承したものは力だけではなく知識、そして知恵よ。そこには人間、モンスター、エルフの戦いの中で得られた不変的な叡智、人間の本質がすべて記されていたわ」


「幼稚園の頃はまだわからなかったけど、小学校の時に私はそれらを理解した」


「律子、あなたはこの世界が本当に平等であるべきだと思う?自分自身の尊厳を否定しにかかってくる相手を受け入れなさいってよく言われているけど、それに納得できる?」


私は言い返せない。この人は尊大なようで言っていることは私が日々感じていることとほとんど同じだ。


人間がみな平等だとか、みんなと仲良くしなさいって言われ続けて一方的不利益を被らされたことは私自身記憶にある。学校で言われたことは所詮きれいごとに過ぎず、現実に出て痛い目にあわされたという人も父や母の話しから多く聞く。


一見恐ろしいが、細部を見ると理解できること、世の中のきれいごとが通用しない現実が垣間見える公子の説明に否定しきれない説得力を感じる。


律子の心は揺れ動いていた。


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