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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第26話 招かれざる黒い華

「それじゃあね、紗月ちゃん」


「うん、また明日、律っちゃん。帰ったらまたメールで連絡するよ」


月曜の夕方、私は紗月ちゃんにいつものように挨拶をして別れた。


紗月ちゃんには新世界のこと自体言わなかった。


紗月ちゃんとは平穏な関係のままでいたい。


何も知らない状態だった時のままの関係を維持したい。


そんな希望を胸にあえて黙っていることにした。



帰り道にも大人の方数名が立っている。


学生を守るためとはいえ、世の中も物騒になったものだ。


そうだろう。学生たちを犯罪から守るための防犯係を担う大人たちは大体企業を務めあげて引退した方が多く、現実世界の常識の中でしか生きてきたことがない人たちだ。この人たちに新世界での出来事を言ったらどのような答えが返ってくるだろう?


“漫画の見過ぎじゃないのかお嬢さん?”。“気がおかしいのかい?


そんな返事が返ってくることは目に見えている。下手に言えばこちらが精神疾患の人と勘違いされかねないし。


現実世界の常識とされることだけで会話ができたらどんなに楽だろう。


それができなくなってしまったのだ・・・・・。


この孤独感はこの立場に立った人間しかわからないだろう。


いや、新世界での出来事を見ると、もしかしたら私たちは現実世界のことすら本当のことを知らないのかもしれないと思えてくる。


私はそう考えながら自宅に着いた。




帰宅後、手を洗って着替えてから勉強にまず取り掛かる。


何せ霞先輩の例にもあるように、毎日の積み重ねは最低限やっておかねばならず、そうしないと試験に通用するレベルになることすらできないのだ。


憂鬱ではあるが、毎日続けているとかえってやりがいがあるし、何よりついていけているという妙な安堵感があるのだ。


本日、父は仕事で帰りは遅い日、母は急な親戚の用事で外出中、家には私一人だけだ。


律子は両親に守られているが、それでも小学生時代から両親にいざという時の対処の仕方も同時に教え込まれており、自分の身は自分で守るという意識、警戒心を人並み以上に強く身に付けさせられた。戸締りにも特に神経を使っている。


だから、一人でいるときは、チャイムが鳴ってもよほどのことがない限りは出ないようにしている。


変な人が来ても絶対に家に入れないこと、インターホンが鳴ってもできるだけ居留守を使うこと。年頃の娘を持つ親ならだれでも言うであろう忠告を律子は守っている。




ピンポーン!


突然、玄関のチャイムが1回だけ、鳴り響いた。


何の変哲もない、ただのインターホンの音。


「誰だろう」


今日は宅急便などが届く日とは聞いていない。ならば居留守を使おう。

何か来ても、配達の類なら伝票を入れて行ってくれるし、後日両親がいるときに届けてもらえばいいだけだ。


そう楽観的に考え、居留守を使いながら勉強に集中を戻そうとしていた矢先。


ガチャ、ガチャ、ガチャ、バッッ!!!


本来聞こえてはならない音。自宅の玄関ドアが開く音。その音を聞いた律子の心に緊張が走った。


お父さん? 違う。今は午後4時、まだ早すぎる。


お母さん? 違う。母方実家の用事は今晩10時くらいまでかかるから帰ってくるのは夜の11時くらいのはず。


いったい誰が、それも、なんで私の家の鍵を簡単に開けられるの?


警察に電話を!


律子は自分のスマホから110番をしようとした。


が、電話が通じない!!


家の電話も試してみたが同様だ。


何が起きているのかわからないが、電話を不通にされている。


私が今いるのは家の2階。1階の玄関に人がいる!?


律子は張り詰めた表情でイスから1階に気配を気づかれぬようゆっくり、しかし素早く立ち上がり、床の間の刀掛けにかけてある祖父から受け継いだ太刀を握りしめ、自室の部屋のドアをゆっくりと音をたてないように慎重に開けてまた静かに閉め、1階へと降りる階段をこれまた音をたてないようにゆっくり降りて行った。


すごく嫌な感じがする。


我が家の玄関ドアは防犯用に、ピッキング防止用のカギが3錠もついたステンレス製の強靭な物。専門の鍵屋でも現時点では開けられないとさえ言われている特注品だ。


それなのに、それを簡単に開けるというのはどうゆうことなの?


泥棒?暴行犯?考えたくない最悪の光景が律子の脳裏に無意識のうちに思い浮かぶ。


極度の緊張の中、慎重に階段を降りていき、二階から一階への踊り場に息を殺しながら到達した。


階段の踊り場から少しかがめば、1階が見えるようになっている。


律子は慎重に身をかがめながら頭を横にして1階を恐る恐る見た。


誰かいる!!遠目にもかすかに玄関の鍵が開いていることが視認できた。自分の空耳ではなかったのだ。


律子のもう一方の手が無意識に太刀の柄を握りしめる。可能な限りすぐ抜けるよう、壁に太刀がぶつかって音をたてたりしないよう、身を低くしながら音をたてないように降りていく。


「こんばんは。上総律子さんはいらっしゃいますか」


!!!


聞きなれない声。しかし、私の名前を知っている。


玄関に見知らぬ女子高生らしき人が立っている。


見たことのある名門校の制服を着て、髪の毛の長い少女。


同性である私から見てもたぐいまれな美貌の持ち主だと分かるその人は、同時に一目見て一般の人ではない雰囲気を醸し出していた。


遠めに見てもその人から漂うのは凍り付くような独特の緊張感。例えるならば、テレビで見る政財界の要人を身近で見ると近寄りがたい張り詰めた空気を感じることがあるのに似ている。それを何十倍も大きくしたような、下手なことを口走ると殺されてしまうのではないかという本能的恐怖を感じる性質のものだ。


私は何とか階段を下りていく。もう彼女の視野に私の姿は捕らえられているだろう。


そう思った時。


「こんばんは。初めまして、上総律子さん。私、葦國公子と申します。今回はこのような無礼な形であなたの家に入ってしまったことをお詫びいたします。でも、あなたが居留守をお使いになると感じましたので無礼を承知で鍵を開けさせていただきました」


淡々と彼女は話す。


だが、私はその話を黙って聞くしかなかった。


一見普通の話をしているようだが、一切の隙が見当たらない。


本当なら不法侵入者は出ていけと怒鳴っているところだが、なぜかそれを言うことができない。


空間をこの人が支配して異論を述べることができぬような、非常識なことでさえ圧倒的説得力を持っていると納得せざるを得ないような、この人の言うことを聞かざるを得ないような感じがするのだ。


さらにこの人の口から出てきた言葉が決定的に私の思考を動けなくしてしまった。


「君、あの世界に一人で行ったでしょ?」


!!!


なぜこの人は、私が異世界に行ってきたことを知っているの?


そのことはこっちの世界ではおそらく荒木先輩しか知らないはずなのに?


「こっちの世界では先輩しか知らないはずの事を、なんであなたは知っているの?て考えているのかしら?」


「新世界の研修センターでのあなたの活躍は見事だったわよ。あれは普通の人間にできることではないわ。あなた、地下6階の選別石に触れたでしょう?あれに触れてしっかりと自我を持ち続けているのもすごいわ」


あの白いビルのことを知っている!!


やっぱり監視カメラがあったの?


それとも心を読まれている!?


読心術?いいや、何か違う。


私の思考は恐れていたことを簡単に指摘されたことで動揺した。


それも、霞先輩や荒木先輩とほぼ同年代であろう女子高生が淡々と述べているのだ。


警察とかならまだしも、いったいこの人は何者なの・・・・・?


「なぜ私の行動を詳しく知っているのかって思っている?でしょ?」


やはりこの人、私の新世界での行動を知っている!


あの施設にやっぱり監視カメラか何かが仕掛けてあって、それに写されていたから?


「それよりもここで話をするのは窮屈だから、大変ご無礼ですがお邪魔させていただいてもよろしいですか?もちろんお礼の品もご用意しましたわ」


「あと、その太刀、なかなかかっこいいわね。凛々しい女の子が刀を持ってお迎えしてくれるなんて嬉しいわ」


私が祖父の太刀を持っているのを指摘して、それを余裕をもって楽しんでいる素振り。


刀を前にしても全く動揺するそぶりすら見せないこの人に改めて底知れぬ恐ろしさを感じた。


彼女は見るからに高級そうな和菓子の菓子折りを持っている。


逆らえるような雰囲気ではなかったこと、この人一人だけのようだったので私は仕方なく応接間に案内することにした。


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