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異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


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第25話 帰還後の戸惑い 

月曜日の朝。


鳥のさえずるさわやかな天気の中、多くの学生が登校する中に上総律子の姿はあった。


普段と何も変わらない登校途中の学生たちの姿。だがその中でただ一人、上総律子の心情は内心穏やかではなかった。


・・・・・・

一昨日のあれは一体何だったんだろう?


私は確かに新世界に行っていた。それも誰にも口外できないイレギュラーな形で。


しかも、そこには魔法や人間と異なる異種族がいた。確かに私はこの目で見た!そして交流したのだ!人間を殺傷する性質の、まるでアニメやゲームに出てくる魔法のようなもので私は確かに攻撃された。さらには人間と変わらない外見と知識を持つホワイトエルフという種族と交流し、その方たちのおかげでここに戻って来れたのだ。その証となるブローチも私は今持っている。


こちらの世界では存在しないと常に報道され続けていたことを私は確かに現実に見たのだ。


私はそこで偶然、異種族の同い年くらいの少女を助けて、そこからなんやかんやで現実世界に戻っては来れた。


私が見た光景とは何だったのだ!素直な心、安寧な毎日、ささやかな望みに過ぎないものを守ることを望んだだけで、なぜ覗いてはならぬ深淵の淵を直視しなければならぬ立場に置かれてしまったのだ!


私の心の中に自然に紡ぎだされていく叫びは、どこにも誰にも打ち明けられないものを抱える者の叫び声のようなものだった。


いつもと同じ平穏を装おうと思っても、私の心の疑念、本能的な混乱の衝動は隠しきれない。これがもし他の人に見抜かれたらどうなってしまうのだろう?


自分の心の中に隠しておかねばならぬ事実、新世界への疑念、そして今目の前にある日々を生き続けなければならないという現実への対処。


嘘をつくことを嫌いありのまま素直に生きることを信条としてきた私は、突如としてこの矛盾と欺瞞に満ちた難題を突き付けられたのだ。


荒木先輩とはこちらに帰ってきてすぐ再会できたのはよかったが、魔法とか異種族のことはあえて伏せておいた。一応、あたり触りのない説明はしておいたが、本当のことをどう説明すればいいのだろう。少なくとも今はとてもできない。


“新世界にはメディアや政府が公表していない魔法とか人間とは違う種族がいます。得体のしれない施設があって、そこで何かカルト宗教か自己啓発セミナーのようなことが頭のおかしい人によって行われています。そして、その人に魔法で攻撃されました。など・・・・・”


こんなこと誰にも言えるわけがない・・・・・。正直、今の私には説明する自信がないよ・・・・・。


私はあの新世界で、見てはいけないことを見て、知ってはいけないことを知ってしまったのだと思う。


帰ってきた当日は安堵感と疲労から帰ってすぐ寝てしまったが、今朝から心の中に切迫した緊張感が目覚めてからずっと続いているのだ。


・・・・・・・


「おはよう!律子ちゃん」


後ろから私の名を呼ぶ声がして、内面の世界から現実に引き戻された。


後ろを振り返ると、そこにいたのは見慣れた顔。


友人の小畑紗月ちゃんだ。


「律っちゃん、どうしたの?月曜の朝からさえない顔をして?たしか土日に霞先輩の知り合いの荒木唯先輩という方と勉強するからって言ってたけど、勉強しすぎでブルーマンデー状態になったとか?」


紗月は心配そうな表情で律子を見つめる。


「ううん。そんなことないよ。勉強は荒木先輩に教えてもらって助かったし。ただ疲れただけだから」


「そうなの・・・・・?もし私にできることがあったら何でも言ってね」


紗月ちゃんの屈託のない気遣いを見ていると、余計につらい。


私は人に嘘をつくのが嫌いだ。生理的に受け付けられないのだ。それは一時の利益を優先するあまり、取り返しのつかない災いを招くような、人とのつながりがやがて断たれてしまうような、危うさを感じるからなのだ。


紗月ちゃんは私が見た新世界の実態、それは新世界の全体像ではないかもしれないし、すべてが事実かどうかはわからないけど、私たちの世界では知らされていない新世界のことを知らない。いうなれば紗月ちゃんは数日前までの私がいた世界のままなのだ。


だが今の私は紗月ちゃんと違う世界にいる気がする。彼女とこうして同じ現実世界に一緒にいるのに、私と彼女の間に目に見えない壁のようなものができてしまった気がするのだ。


もし、紗月ちゃんや荒木先輩にこのことを打ち明けたとしよう。


彼女たちはそれにどう反応するのか?


もしかしたら私の心情を理解してくれるかもしれない。


だがそれは紗月ちゃんや荒木先輩を私と同じ境遇にしてしまう可能性がある。


新世界のビルでの出来事、エルフという種族に出会ったこと、魔法が存在すること。


これら私が遭遇した出来事はとっくに政府などにバレているのではないか?


この推理に明確な根拠はない。


だが、現実世界において徹底した監視社会と揶揄されるほど個人の内面まで覗かれるようになった現在、政府が新世界の施設になんの監視装置も設置していないなどとは考えられないのだ。


それならあのビルに潜入しなければよかったといえるかもしれない。


でもあの時、私にできる選択肢はそれしかなかったのだ。


たとえ他に道があったとしても、私の現時点での思考では、それ以外に現実世界へ戻る、または霞先輩の件に関することを調べるという目的を達成する方法は思いつかなかった。


遅かれ早かれ政府に私が新世界に潜入したという事実はバレるのではないか?


そんな恐怖心が今になって一気に出てきた。


そんなことに紗月ちゃんや荒木先輩を巻き込むわけにはいかない。


だから、黙っていなければならない。



紗月ちゃんと一緒に歩いていると、途中で見回りの近所の男性が所々で立っている。


彼らは引退した近所のサラリーマンや公務員の人が多い。いずれもボランティアでされていると聞いている。


貧富の差が目に見える形で表面化している現在、世間の表面上の風潮とは真逆に、マスコミが報道しない犯罪が多発するようになってしまった。


ネットや父から聞く話によると、特に女性や子供、年寄りを狙った犯罪は想像より増えているらしい。


だから小学生の登下校時間だけでなく、中高生の行きかう通学路でも近所の大人の人が警備をするようになったのだ。


今日このまま霞先輩と会って、霞先輩の正気を取り戻すべきか?


でも、エルードさんが言っていた洗脳を解除する力って正直まだ私には具体的にどんなことなのかわからない部分も多い。


あのビルの頭のおかしい女との戦いでは魔法みたいなのを無効にできたみたいだけど、それを発動する方法とかはわからないし、エルードさんもエレーヌさんも言っていなかった。


ピンチの時だけ発動するとかいうことなのかな?


そうこう考えていた内に学校に着いた。


すると、校門付近に荒木先輩がいた。


「おはよう、律子」


「おはようございます。荒木先輩」


「ええと、そちらの方は律子の知り合いの方ね」


荒木先輩が一瞬慌てたようなしぐさを見せた。


どうやら私と新世界関連のことを話す予定だったようだ。


「おはようございます。荒木唯先輩。私、小畑紗月と申します」


何気のない会話だったが、紗月ちゃんには新世界の調査のことは言っていない。ただ、霞先輩の友人の荒木先輩と知り合って勉強を教えてもらっていると言ってあるだけだ。


「紗月ちゃん。私、荒木先輩と勉強のことで話すことがあるか先に教室に行っていて」


私と荒木先輩は、紗月ちゃんが先に校舎に入っていくところを見計らって話し始めた。


荒木先輩は真剣な面持ちでいる。


「荒木先輩、何かあったのですか?」


「霞のことなんだけど、なぜか今日は学校に来ないらしいのよ」


「どうゆうことですか?」


「霞は毎週土日に新世界での研修に行っているけど、なぜかこっちの世界に帰ってくるのが遅れているみたいで、今日の学校は公欠扱いって先生方が話しているのが聞こえたの。もしかして、律子が新世界に行ったのが関係していないかなって心配になって・・・・・。あっ、いや律子のことを疑うわけとかじゃないんだけどなんか気になったの。律子、心当たりある?」


まさか私のあのビルでのことがばれて!もしかしたら霞先輩もあのビルにいたんじゃ!


「わかりません。新世界では平原が広がっていて、私が見た限り何もありませんでした」


「そう、まあこういう日もあるからか。ごめんね律子。一昨日と昨日のことがあった後だったからついあなたが新世界でなにかに巻き込まれたんじゃないかって思っちゃったから。新世界の件は私たちだけの秘密にして、また込み入った話は今度しましょう」


荒木先輩は前向きな態度と話し方だったが、先日のことを気にしている様子が感じられた。


荒木先輩も私と同じような心情なのかもしれない。


とうとう今日は終日、霞先輩には出会えなかった。


・・・・・


放課後、律子は徒歩で紗月と帰宅の途に就いた。


その後ろから謎の集団が付いてきていることに、彼女はまだ気づいていない。



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