第20話 エルフの少女エレーヌとの会話
律子が先ほどまでヒステリック女と戦っていた疑惑まみれのビルから数十キロ離れた森の中。
夜明けが近い時間帯。
律子とエルフの少女は周囲に人気のないことを確認してから上空からの監視も届きにくい鬱蒼とした木々の下でしばしの休憩をとっていた。
「ふーっ、さっきはどうなることかと思った。怖かったよ~・・・・・」
律子はアドレナリンが引いたため、緊張感が取れてこらえていた恐怖心が一気に出てきていた。事実上徹夜に近い出来事だったが、緊張感のせいで今も眠気が全くない。
そんな律子にエルフの少女エレーヌが労わる様に言う。
「先ほどは本当にありがとうございました。ええと、カズサリツコ。本当にありがとう」
エレーヌという名の少女は律子に改めて深々と頭を下げた。
「ああっ!いや、そんな、あの場の成り行きでそうなっただけだし。それに鉄格子とか手錠みたいなのが外れたのって全くの偶然で私がやったことじゃないし」
「いいえ、リツコには魔法を解除する何かがあります。まだ私は未熟だから詳しいことは分かりませんが、私の父に会えばおそらく分かります」
エレーヌは確信した顔をして言った。
「失礼ながら、あなたのお父さんはどのような方なのですか?」
「私の父は我がカシン氏族の族長。この世界のことはよく知っている存在。だからリツコのこともよくわかるはずです」
律子は続ける。
「あともう一つお聞きしたいのですが、どうしてあなたはあの牢屋の中に囚われていたのですか?」
律子の問いにエレーヌはやや困惑した表情をして答えた。
「それがどうしてなのか・・・、私にもはっきりとしたことが分かりません。気がついたらあそこに囚われていたのです」
「今から約10年前から突然、私たちの世界に人間がたくさん現れるようになりました。それもなにかおかしな格好をした人間たちです。元々私たちの世界にも超人族という人間はいましたが、父から聞くと何千年も昔にお互いに干渉しない約束をして以来、戦うことも交流することもなかったにもかかわらず、最近になっていきなり大挙して私たちを攻撃するようになってきたのです。ただ、その人間たちはどうも超人族とは似ているようで出自が違う感じで、その人たちが私たちやモンスターの土地を荒らしまわるようになったんです。そしてその人たちが土地を自分たちの物にした後、その人達の仲間らしき人達が入れ代わりでやってきて土地を掘り返したりして何かを調べるようになったんです」
超人族?人間のこと?聞いたこともない名称だ。
「私は3日ほど前、仲間20名ほどと私の町の近くまで迫ってきていたその人間たちを偵察していたのです。ところが、おかしな格好をした人間たちのことに気を取られていた隙に、かなり後方にいたはずの仲間らしき人間たちに見つかってしまったんです」
「気づいた時には仲間が数名殺されました。多分遠くから即死性の魔法か何かを放たれたんだと思います。殺された仲間に気を取られていたら、近くまで距離を詰めてきていたそいつらの仲間に襲撃されました。私は頭の後ろを何かで強打されて意識を失い、それからのことは覚えていません。気がついたらあの巨大な塔のようなところの牢屋に入れられていたのです」
律子の心に再び疑問が生じた。
新世界にはエルフやモンスター、さらには魔法などが存在するなどとは聞いたことがなかった。私の世界のメディアではそれはファンタジーの世界のことで、現実の新世界にはありませんよとしか報道していなかったし、ネット上でもいわゆる陰謀論的な文脈の話しか載っていなかったので信用していなかったのに・・・・・。
だが現実にこうしてエルフと名乗る少女がいて、耳は長くそれも本物のようだ。映画の特殊メイクか何かとも疑ったが、先ほどの頭のおかしな女の魔法のような攻撃を現実に受けている。ファンタジーと思っていたことが目の前の現実として突き付けられているのだ。
もはや理屈ではなく感覚がこれらの現実を事実であると教えてくれていた。
エレーヌが今度は律子に質問する。
「リツコ。私も聞こうと思っていたのですが、あなたもどうしてあの白い塔の中にいたのですか?私は捕まってから意識を失っていた関係で、まさか自分があんな巨大な塔の中にいたなんて気が付きませんでした。牢屋には窓も何もなかったから外のことは全く分からなかったし、あなたと脱出して遠くまで来てから、遠くにあの白い塔が見えて初めて私はそこに囚われていたと分かりました」
「あれほどの城のような建物なら侵入するのは簡単ではないはず。おまけに警備する兵士などがいたはずです。どう対処されたのですか?」
律子は返答に困ってしまった。
まさか夜にこっそり裏口から警備員っぽい人がゴミ捨てをする隙に入れて、非常階段やエレベーターで地下や上の階まで行きましたなんて、この世界の人にどう説明したらいいんだろう?説明するだけで相当な時間がかかりそう。
とりあえずかみ砕いた言い方で説明をする。
「そうね、一応警備の隙を見計らったら運よく潜入できて、それから地下で変な岩みたいなのに触れて、それからあなたの囚われていたところの上の階でものすごく速い火炎か何かの魔法のようなもので攻撃してくる変な女性がいたの。そいつに全身丸焦げにされそうになったら、なぜか私の目の前でその魔法みたいなのが消えちゃったの。向こうは逆切れして何発も同じものを放ってきたけど、全部私の手前で消えちゃったの。そうこうしていたらその女はその魔法自体がなぜか使えなくなってうろたえている様子だったから、こっちは間合いを詰めて掌底突きと肘撃ち、それからアッパーの要領で拳を顎に決めてその女を倒したの。いきなり気がふれたように暴言を吐いてきて攻撃してきたからこれは正当防衛よ」
律子の説明にエレーヌは驚いていた。
「それは間違いなくこの世界の攻撃魔法の一種です。魔界の炎を呼び出して一点に集中させ、高速で相手を焼き尽くすタイプの魔法です。とてつもない高速で飛んでくるから回避することは極めて難しく、しかもエネルギーが一転に集中していて燃やすというよりも標的を一瞬で消滅させるほどの威力があります。でもそれは本来ダークエルフか、一定以上の知能のあるデーモン系のモンスターくらいしか使えないかなり高度な技のはず・・・・・。それが使える人間がいるとすれば例外的に超人族くらいですが、私が見た限りあの建物にいた人間からは超人族らしき気配は感じませんでした」
「おそらくあなたは魔法を無効化できる何かを身につけているんだと思います。それもそのような高度な魔法を無効化できる、相当の防御魔法か何かをです」
エレーヌの解説に律子の心にますます疑問と困惑が湧いてきた。
私は魔法なんか当然今の今までおとぎ話のことだと思っていたし、当然使えるわけがない。でもエレーヌさんが言うことを信じると、あの女の攻撃は相当高度だったという。それを私が無効化したとか自分でも理解できない。
「ともあれ私の父は物知りです。父に相談すればたぶんそのおかしな女の魔法の件も、あの塔に関することも何かわかると思います。あと数十キロ先まで飛べば私の町に着きます。さあ、私につかまってください」
「うん、分かった」
緊張感が取れてきて、眠気がどっと押し寄せてくる。
律子は考え事をしながら眠気を振り払い、エレーヌの腕を再びとった。




