第15話 新世界への潜入
う・・・ん・・・。ここは・・・どこ・・・?
律子は朦朧とする意識の中、目が覚めた。
何か記憶が思い出しにくい。
朦朧とする頭を働かせて記憶を思い出す。
そうだ!私はつい今しがたまで荒木先輩と研究所跡地の地下室にいたはずだ!
では一体ここはどこなの・・・・・?
律子が今いる場所は何か建物の中、でも明らかに先ほどまでいた研究所跡内部と違う。
かなり古い建物であることは共通しているが、こじんまりとして、かつ外からは光が差し込んでいる。妙に明るい感じだ。
律子は立ち上がると、ドアから外へ出た。
すると、律子の眼前にはさきほどまでいたはずの研究所跡内外とは全く違う光景が広がっていた。
律子の目の前には広大な平原が広がり、ちょうど見晴らしのいい小高い丘陵地帯に彼女はいた。
そこから見る限り他には小規模な森林が点在しているのみで、今のところ人の痕跡は見当たらない。
ここが新世界?
私は確かに荒木先輩と一緒にいて、倉富氏が証言した内容をもとに旧陸軍の研究所跡地を探索していた。
そうしたら長いあいだ開かれた跡がなかった地下室への扉を発見して、そこで赤く光る魔法陣のようなものを発見したはず。
それから私がその光に偶然吸い込まれるようになって・・・・・。
そして気が付くとここにいた。
荒木先輩は?どこなの?
荒木先輩らしき人影はない。
どうやら私一人ここに来てしまったようだ。
ここはテレビなどでもよく報道されている新世界なのか、はっきりとは言い切れないが、周りに人工物が見当たらない、よく言われる未開の地という点、風景、植生はよくテレビで見たり政府が公表している新世界の特徴と一致している。
私たちは新世界への出入り口を発見したということなのだろうか?それも公式には存在しないことになっている出入り口を。
でも、私が倒れていた小屋にはあの魔方陣らしきものはなかった。
新世界の出入り口は公式確認されているものについては軍に厳重に管理されていて、大体がトンネルをくぐると新世界に行くというというイメージが強いけど、時折そうではないこともあるのだろうか?
私が荒木先輩と発見した階段を下っていくと、そこにはかすかに赤い光を放つ魔法陣のようなものがあった。その赤い光の中に入ると異世界へと転送される仕組みになっていたのだろうか?
「気候風土は地球のそれとほとんど変わらないってよくテレビとかで言ってたけど、なんか新鮮な感じがする」
律子が新鮮と思ったのは訳がある。この世界は見まわした限り、建築物などがほぼ見当たらないのだ。
現時点で人工物として認められるのは、恐らく現実世界の研究所跡地と魔法陣のようなものでつながっていたであろう監視小屋のようなところ、つまり今しがた私が倒れていた場所だけだ。
人工物がほとんどない分、空気はとても良い。
けど、新世界に何があるのかはわからない。
これまで学校で習ってきたこと、メディアで見てきたこと、家で両親から聞いてきたこと、祖父から聞いてきたことなどを総合してみても、新世界とは何なのかはっきりしたことがわからないのだ。
異世界は正確には新世界と呼ばれていて、約10年前に発見されたこと、ちょうど私が小さいときにテレビで大々的に報道されて騒ぎになっていたことをはっきり覚えている。
ある程度人が生存できる空間であると確認されると、一時期世界中の人がこぞって入り込んで探検したと聞いている。
でも、何か風土病みたいなのに感染して重症になる人が相次いで自由に出入りすることが禁止になり、以後は出入り口に政府の監視所が設けられて、そこで風土病予防のワクチンを接種してからでないと行けなくなったと聞いている。
それ以降は新世界で人間の能力を飛躍的に上げる磁場なる場所が発見されて、それをビジネススキル向上のために利用しようとこぞって研修施設が作られたって聞いた。
テレビのビジネス番組でも現代のビジネススキルを短期間で飛躍的に向上させる理想的な場所だって盛んに賞賛されていた。
よく異世界って剣と魔法の世界とか、超能力が誰か超常的な存在から与えられた人が活躍するって話が定番だけど、どうも現実にはちょっと違うらしい。
新世界の磁場が人間の能力を向上させるといってもファンタジーにあるような魔法が使えるとかの類ではなく、人間の脳機能が向上してより高度な知能を身につけられるなどの領域の物らしく、人間の非常に現実的な能力を向上させる類のもので、だからビジネスへの応用とか大学の研究機関がこぞって注目していたのだろう。
ともあれ、未確認の出入り口があったなんて正直信じられない。
これからどうしよう・・・・・。
もし帰れなくなったら私どうしたら・・・・・。
覚悟して新世界のことを調べにきたつもりの律子だったが、新世界と考えられる場所にいきなり飛ばされたことに動揺を隠せなかった。
先のことを前向きに考えれば考えるほど、とてつもない孤独感が心に広がっていく。
嘆いていても仕方がなく、あてもなく律子は小さい森をさまよった
しばらく丘陵地帯の反対側の小さな林をくぐっていく。特に人気はない。もしかして私、新世界といっても誰もいないところに来てしまったのではないのか?
歩けば歩くほど不安は増幅していった。
もしかしたら私は新世界じゃなくて、別の惑星とかに転送されてしまったとか・・・・・?
不安が一気に律子を襲い、懸命に律子はそれを振り払おうとした。
と、その時。遠くに何か塔のような白い建物が見えた。やや遠いが歩いても何とか行くことができそうだ。
不安につぶされそうになっていた律子に安心感が戻ってきた。
あの建物の感じから見て、誰かいる!
そう確信した律子は建物に向かって歩き始めた。
歩いていくと、だんだんと近づいてくる白い塔のような建物。
だがその輪郭がはっきりしてくると、かえって律子の心に不安が再び生じたのだった。




