↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界実録路線 少女は魔の現実に立ち向かう  作者: 幻影摩天楼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/109

第11話 新世界への疑問

三好霞が新世界での合宿に参加するようになってから1か月後。


律子は放課後、途方に暮れていた。


確かに霞先輩の学力は前にも増して向上し、成績は学年トップになって学校の校則などを決める校長先生直轄の諮問委員会にも意見を求められるまでになった。


でも、前とは明らかに違う。あんなにやさしくて穏やかだった先輩が、とたんに冷たくなってしまった。一緒にお茶会を開きながら勉強を教えてくれることもほとんどなくなったし、合理的に人を動かすことばかりを考えて思いやりが無くなってしまった。


霞先輩には本来人を導いてくれるような、細かな気配りと周りを明るくする雰囲気があった。それが今では周りが凍り付くような緊張を強いられる近寄りがたい雰囲気に変わり、私に対しても突き放すような冷たい態度を取るようになった。


何よりも、何か特定の価値観なのか何なのかわからないが、自分の信奉する価値観のような何かを共有する人と、そうでない人の間に目に見えない壁を作ってしまっているように思えるのだ。


茶道部にもあまり顔を出してくれなくなってしまった。元々、半ば自由気ままなクラブだし、学校が勉強優先の体制を取っているから顧問の先生も問題なしとしているけど、前はどんなに忙しくても霞先輩は必ず顔を出してくれていたのに・・・・・。


異世界で何かが先輩にあったに違いない。そもそも異世界って何のために存在するの?

10年以上前に突然出入り口が現れて、みんなそこになにか大きな能力向上のきっかけがあるとかで騒いでいた記憶が昔あったけど、ある時からあまりその話を聞かなくなった。具体的にいつ頃そうなったかまではなぜか思い出せない。


律子は放課後の廊下を霞の事を考えながら何の手がかりもなく行ったり来たりして考えていた。いつの間にか腕時計の針は17時前になっていた。



「あなた、ちょっといいかしら」


突然の呼びかけに律子は我に返った。


自分の思考の世界から、夕日が差し込む現実世界へと引き戻される。


後ろを振り返ると、どこかで見たことのある女性が立っていた。


均整の取れた顔立ちにショートボブの髪型。その表情からは霞先輩に並ぶほどの知性を感じる大人びた眼光をもつ女性。制服に締められている青色のスカーフから高校の方だと分かる。


「突然話しかけてごめんなさい。私、荒木唯といいます。三好霞の同級生なんだ」


思い出した。以前、先輩が図書館でいたときに、横で教科書を片手に先輩と話をしていた人だ。何度か先輩と一緒にいるとこを見たことを見たことあるけど、話すのは初めてだ。


「こちらこそ初めまして、荒木先輩。」


律子は慌てながらも丁寧にお辞儀をしながら言った。


「あっ、こちらこそよろしく。すごく丁寧でよくできた後輩ね。霞がうらやましいわ」


「いえ、そんな。」


荒木唯は律子に神妙な顔をしながら口を開いた。


「実は霞のことで相談があるの」


律子は驚いた。荒木先輩も自分と同じことを考えていたとは。


「霞先輩の事って・・・・・。霞先輩について荒木先輩も何か思うことがあるのですか?」


「その感じだと律子さんも私と同じようね。実は私も霞の様子がおかしいとずっと思っていたのよ」


「彼女、新世界に行くまで周りに気配りして誰とでも分け隔てなく配慮ができるとってもいい子だったのよ。勉強もみんなで教えあうとき苦手な教科を持つ子に積極的に教えてたし、私たちだけじゃなくてほかのクラスからの人望も厚かったの」


「それはわかります。霞先輩がいるといつも場が落ち着くというのか、みんなが安心できる場所になりますよね。先輩にはそういう周りの人を和ませる心がある人です」


荒木唯は律子の応答にうなずきながら続けた。


「でも、新世界に行ってからなにか霞は変わってしまった。一応変わっていないように見えるんだけど、何か人として冷たくなった気がしてならないの。簡単に言うと人を区別するようになったというか・・・・・。もちろん嫌な人とか付き合っちゃいけない人っているものだからそういう意味での区別っていうのは現実を生きていくうえで必要なことだとは思うんだけど・・・・・。なんかそれとも違う感じがするの。自分と同じ地位にある人とか感覚を同じくする人たちには今まで通りよく接してくれるんだけど、それ以外の人に対しては見えない壁を作っちゃっている気がするの」


「だからどうしたものかと悩んでいたら、霞にたしか後輩の子がいたから話をしてみようと思って茶道部の部室に行ったら丁度あなたがいたってわけ」


「私も霞先輩は新世界へ合宿に行ってから変わってしまったと思います。今までは分け隔てなく接する感じだったのに、やたらと自分たちとそれ以外の人を区別するようになった気がして・・・・・。まるで何かの宗教にでも入ったみたいなものを感じます」


律子はそういうと、以前から少し気になっていたことを荒木先輩に尋ねてみることにした。


「荒木先輩。新世界の歴史的背景などについての事で何か知っていることはありませんか?私は以前から新世界のことについて何か不可解な感じがしてネットなどである程度調べてみたんです。でもそこにあるのは世間的に周知の事実であることばかりで、ただ2025年頃に新世界への出入り口が開いたという主旨の記述があるくらいなんです。今回の霞先輩の事でやっぱり何か新世界にあるんじゃないでしょうか?」


「私も以前は新世界なんて一部のエリートの人だけに関係がある事柄だと思ってた。でも今回の霞の一件で新世界の事に関心がでてきて私も実は調べてみたのよ。そうしたら何にもなかった。正確には、政府が公表している公式発表以外の資料が何も見つからなかったの」


「インターネット、図書館、歴史関連の資料館、果ては神田の古書店街に至るまで調べに行ってみたけど、どれもあたり触りのない資料しかなかった。どう考えても不自然だわ」


荒木先輩はこうも続けた。


「私のこれまでの学校生活での感想を言うと、物事を考える人間を意図的に選別して排除していくような傾向が強かったわ。例えば、ある問題を回答するのも公式とかを丸暗記してこれはこう答えるべきとか、歴史の勉強でも年号や人物の名前、その功績、事件の名称とかをひたすら暗記するのみで、なぜそれらが起こったのか、それらが現在の私たちにどのような影響を与えているのかというような物事の本質を学ぶようなことは一度もなかった。かえってそういうことを聞く人は要領の悪い人、物覚えの悪い人とかいう扱いを受けて侮蔑される空気がすでに小学校の時からあったのを私ははっきり覚えてるの」


律子は悩んだ。


一体どうすればいいのか。正直分からない。霞先輩は今の世の中で数少ない事実上の出世コースである流れに乗ることができたのだから本来は祝うべきなのかもしれない。私たちと交流が少なくなっているのも単に忙しくなっているからだけなのかもしれない。


「一つ手がかりになりそうなことを私は知っているの」


荒木唯の不意を突いた発言に律子はキョトンとした。


「手がかりとは?どういうことなのですか?」


「私のお父さんから聞いた話だけれど、私たちの住んでいる町の電車の駅から2駅目、丁度隣町にこの界隈の郷土史を研究していた人がいるのよ。霞が新世界に行った出入り口の場所もまさに隣町に近いところだから、その人に聞けば何か新世界に関連することがわかるかもしれないの」


「荒木先輩のお父さんは歴史研究に興味がおありなのですか?」


「ううん、その郷土史家の人は私のお父さんの取引先の大企業にいた人で、仕事の関係で偶然知り合って、そこから気があっていろんなことを話していたらしいのよ。大体戦前の事が多かったらしいけど、なぜか新世界の関連の事を聞くとあまり詳しい話はしてくれなかったって言っていたわ。でも、何か新世界の事を知っているようなそぶりも見せていたとも父は言っていたの」


「そこで突然で申し訳ないけど律子さん。今週の土曜日に私と一緒にその郷土史家の人の家に行ってほしいの。私はその人から何か新世界の事を聞き出せるかもしれないと思っているの。私が調べた限り、新世界への手がかりは今のところその人しかいない。こういうことはあまり表ざたにしたくないことだし、私の同級生や友人も霞の事をうらやましがるだけで霞の異変に気付いている人は意外といないの。一人で行くのは正直不安だし、無理を承知でお願いするけど一緒に来てくれない?」


律子はしばらく考えた。


荒木先輩の事は多少知っていて霞先輩の知り合いだし、しっかりとした考えの人だから信頼できる人だと思う。それに、現時点で自分だけで霞先輩に関連する情報を入手する方法はほとんどない。新世界の事はお父さんお母さんもあまり詳しくなく相談するのもかえって話がややこしくなりそうだし、ここは荒木先輩の話に乗ったほうが何か手がかりがつかめるかもしれない。


「わかりました。では一緒にその方のところへ話を聞きに行ってみましょう」


「ありがとう、律子さん。いきなりこんな微妙な話を持ち掛けてごめんなさい。でもあなたしか話が分かってもらえそうな人がいなかったから・・・・・。」


「気にしないでください、先輩。私もまさに霞先輩の事を心配していた所ですから」


「うん、それじゃあ土曜の朝9時に最寄りの駅の入り口で待ち合わせしましょう。何かあったら私のスマホにかけてね。電話番号とメルアド教えておくわ」


私は荒木先輩と電話番号とメールアドレスをお互い交換した後、土曜に再び会うことを約束してその場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。