第105話 作り話はうまくいくかはわからない・・・
都内屈指の高級ホテル。
気品のあるそのフロアには本来の落ち着いた雰囲気は消え失せていた。
壁には明らかに銃弾によると思われる無数の穴。
床には無数の死体と傷ついて悶える者数名。
しかし、そのいずれもが人間ではない存在。
凡そ釣り合いの取れない光景の中、セーラー服に身を包んだ少女が身の丈ほどもある西洋型の剣を持ち、人外の存在にその刃を突き付けていた時。
その少年はやってきた。
高層ホテルをわざわざ30回以上も非常階段を駆け上がって。
息を切らす少年。
だが、その割に少年から疲労の色は見えない。
それを上回る何かを心に燃やし募らせて少年はナイフを取り出し、偶然目の前にいた人外の種族の女に襲い掛かった。
だが。
何を思ったのか。
ギラつく殺気に満ちた野蛮な牙を白銀のように美しい鋼が古流剣術の見本のような身のこなしで受け止めていた。
セーラー服に身を包んだ可憐な少女はミーシャの目の前に立ちふさがって少年の狩りを邪魔していた。
獲物を仕留める狩りを邪魔された猛獣がそれを邪魔した少女にその憎悪を向けた。
「何なんだよ、お前!!!!邪魔するならお前から殺すぞ!!!!!!」
「君、中学生だよね?年上には敬語を使って話しなさいって家庭でならわなかったのかなあ?」
白銀の剣を手にした少女はすさまじい殺気に満ちた少年の恫喝に身じろぎもしなかった。
「少し指導が必要な見たいねえ~」
「何を言って・・」
ドッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
「ゲッッッッッッ!!!」
粋がっていた少年に容赦のない蹴りが打ち込まれた。
少年は廊下の端の壁まで吹き飛ばされるように飛び、勢いよくその前身は壁に叩きつけられた。
“ぶっ、い・・・今‥何しやがっ・・た!?”
“何も見えなかった・・・。あの女、何者?
「お前・・・!!いつの間に・・・、痛ッッッ!」
「あらあら、少しやりすぎたかしら?力加減って難しくてなかなか慣れないわ」
一瞬で少年の横に回り込んだ少女は、隙の多い彼の脇腹めがけて強烈な回転まわし蹴りを放ったのだ。
回転する際に手にした剣もまるで舞うように周り、美しい光が一瞬雪のように輝いた。
壁に叩きつけられた衝撃でサトシの口から血反吐が出る。
同時に腕のあたりから熱のこもった痛みが走った。
痛みの方を見ると上腕のあたりがやや深く裂けていた。蹴りとほぼ同時にあの剣で切れたのか・・・・!?
“この女・・・・・、あの葦國とかいう奴と一緒にいたのと同じ制服・・・。”
“この妙な戦闘力・・・・、厄介だな・・!”
“小笠原の関係者なのか!?”
「お前!!もしかして小笠原とかいう殿上人の手下か何かか!?」
サトシの怒鳴るような問いに目の前にいるセーラー服の少女はため息をついた。
「私の攻撃を受けてまともに立ちあがるなんて。見た通り普通じゃないね君」
優雅に刃を振り払い、身を正すようなしぐさをすると、彼女は凛とした口調で言い放った。
「如何にも。私は小笠原冥様の忠実なるしもべ、三好霞と申します。君の名前は?」
「でっ?君がなんでこのホテルに来たのかしら?」
「俺はそこにいるミーシャと言うクソ女神に用があるからだ!!!!お前らの飼い主の犬なんだろこの女は!!!!」
「あなた、この女を我が主、小笠原様をはじめとされる殿上人の方々の下の下の使いと知っているのですか?」
「当たり前だ!!オレはお前らの飼い主に破滅させられかけたんだぞ!!」
「もしや・・・、冥様が新世界で使役されていた“勇者”の一人とはあなたの事なのですか?やはり・・・・、何を狂ったのか、新世界で私たちの支配下から離れて行方をくらましたとかいう・・」
「お前、俺のことを知っているのか!?なぜだ!?」
「あなたは我が小笠原財団のしもべだったからですよ。その栄誉ある使命を無視して逃亡を図るとは・・・。非常識にもほどがありますね」
「なら話は速い!お前から先に仕留めるまでだ、女!!!」
「血を吹きながら威勢がいい。先ほどの私の攻撃にもほとんどダメージなし。君、非常識なのは態度だけでないよう。下民風情が分際をわきまえない力を身につけたようね!」
サトシと霞の言い争いの中、床にはいつくばっていたミーシャは緊迫した気持ちでそれを見つめていた。
“霞という人物、間違いなく小笠原様の部下。あのクソガキのことを知っていても当然か”
“今、あのガキと小笠原様の部下の女は対立している!一か八か・・・、これしかない!!”
「おっ、小笠原冥様の部下であらせられる三好霞様!!そっ、そいつが原因なんです!!」
人らしからぬ長い耳を持つ女の叫びに霞は怪訝な表情を向ける。
「原因?この少年が何の原因と言うのですか?」
「このサトシというガキは新世界で私たちに反逆して反乱を起こしたんです!!」
「それで?」
「あろうことか新世界にいるエルフたちを奴隷にして売春目的で現実世界へ売り飛ばしているんです!!私たちはエルフの部族たちから依頼されてさらわれた少女を救出する任務に就いているんです!!!!」
「・・・では聞く。なぜエルフの少女をあのようにカートに隠していたのですか?しかも、手足を縛られていたように見えましたけど。それもこのホテルに来るとは・・・どういうことなのかしら?今一つ話の筋が見えませんね?」
「そっ、それは・・・・・・。そっ、そうなんです!!!!あのガキのアジトからこの子を救出した際、逆襲されて!!!急いで転移魔法を駆使して逃げてきたら偶然こちらに・・!!!!!!!!」
即興の作り話。
殿上人の部下に通用するとは思えない。
だが、状況に合わせた内容故、時間稼ぎにはなるか?
霞はやや考えるふりをしたあと、ミーシャの方を向いた。
「では下郎!この少年を始末しなさい!」
“はあ!?何言ってんだよ、このアマ!!おめえがあのクソガキと戦えってんだよ!!”
「あなたはエルフの少女を救助するためにこの世界にまでご足労されたのでしょう?
ならばこの少年を仕留めるところまで義務を果たしなさい!」
「まっ、待ってください!!私は、その・・・、それが・・・・!!」
「何をブツブツわめいていやがる!!!!」
魔法の袋に手を突っ込み、長曾祢虎徹を取り出したサトシは抜刀した直後、両名に向かって突進する!!




